相続した農地を無償譲渡する方法と放置するリスクをわかりやすく解説

「相続した農地、どうすればいいかわからない…」と悩んでいませんか? 耕作する予定もないのに、毎年かかる固定資産税や維持管理の負担は重く、誰かに引き取ってもらいたいと考える方は多いでしょう。しかし、農地は宅地のように簡単には手放せません。
本記事では、相続した農地を無償譲渡する具体的な方法や税金、放置した場合のリスクまでわかりやすく解説します。無償譲渡以外の選択肢も確認し、あなたの悩みを解決するヒントにしてください。
そもそも農地を無償譲渡できるのか?
農地の所有権を他人に移すことは可能ですが、宅地のように自由に売買や譲渡ができるわけではありません。農地法という法律による規制があり、原則として農業に従事する人でなければ農地を取得できないのです。
農地の管理は農業委員会の管轄であり、譲渡する際は有償・無償にかかわらず農業委員会の許可が必要です。許可がなければ、売買や贈与の契約自体が無効になるリスクがあります。相続した農地を第三者に譲渡するには、農地特有のルールを正しく理解することが重要です。
農地を放置するリスク
農地をただ所有しているだけでも、固定資産税の負担や管理責任がつきものです。何もせずに放置すると、次世代に大きな負担を残したり、近隣トラブルに発展したりするおそれがあります。ここでは、特に注意すべき3つのリスクを解説します。
固定資産税がかかる
固定資産税は、毎年1月1日時点の土地所有者に課税されます。農地の固定資産税は宅地よりは安い傾向にあるものの、所有している限り毎年支払い続けなければなりません。長期的には無視できない負担となります。
近隣トラブルの原因となる
農地を放置すると、雑草や害虫が発生します。草木が伸び放題になると、隣接する農地に害虫が広がるなど農業被害につながり、近隣住民から苦情や損害賠償請求を受ける原因となりかねません。
草が生い茂りすぎて土地の境界線が不明確になり、隣地との境界争いとなったケースもあります。
遠方に住んでいて管理が難しい場合は、トラブルを避けるためにも、早めに手放すことを検討するのが賢明です。
次世代の手間が増える
自分の代で農地の問題を解決しないまま放置すると、その処理は次の世代に引き継がれてしまいます。相続人が複数いる場合、農地の処分方針を巡って協議が難航することも珍しくありません。
農地は売却や譲渡に制限があるため、処理に時間がかかり、手続き費用も余計にかかる可能性があります。家族の負担を軽減するためにも、放置せずに自分の代で譲渡や転用の方針を決めておくことが大切です。
農地を無償譲渡する方法
農地を無償で譲渡するには、適切な譲渡先を見つけ、農業委員会の許可を得る必要があります。主な譲渡先候補とそれぞれの注意点を見ていきましょう。
近隣の農家に譲渡する
スムーズに進みやすいのは、近隣の農業を営んでいる人に譲渡する方法です。すでに農業者であるため、農業委員会の許可も比較的得やすく、実際に農地を活用してもらえる可能性が高いでしょう。
地域の農業組合に相談したり、地元の農家へ直接声をかけたりして、貰い手を探しましょう。
無償で譲ることで管理の手間をなくし、地域の農業にも貢献できます。ただし、無償譲渡は法律上贈与として扱われるため、農地をもらう方の贈与税などの負担に注意が必要です。
SNSやWebサイトで買い手を探す
最近では、農地マッチングサイトやSNSを通じて受け手を探す方法も増えています。新規就農希望者や農業に関心のある個人にとって、無償譲渡は魅力的な選択肢となり得ます。
ただし、譲渡相手が農業従事者でなければ、農業委員会の許可は下りません。また、個人間の気軽なやり取りでは、贈与契約書の作成や登記などの法的手続きが不十分になりがちです。
後々のトラブルを予防するため、司法書士や行政書士などの専門家に手続きのサポートを依頼しましょう。
相続土地国庫帰属制度を利用する
2023年から始まった「相続土地国庫帰属制度」を利用すると、相続した土地を国に引き渡すことができます。農地も対象となりますが、条件が非常に厳しく、荒廃していたり境界が不明確だったりすると対象外になる場合があります。
また、引き渡しの際には負担金の納付が必要です。制度の利用には複雑な手続きが伴うため、まずは法務局や農業委員会などに相談して適用条件を確認しましょう。
農地を無償譲渡する際の税金
農地を無償で譲渡する場合、譲渡する側ではなく、譲り受ける側に税金がかかるケースがほとんどです。特に、贈与とみなされる場合は多額の税金が発生する可能性があるため、事前に税金の種類としくみを理解しておくことが大切です。
贈与税
農地を無償で受け取った方には贈与税が課税される可能性があります。贈与税には年間110万円の基礎控除があり、超えた分が課税対象になります。
たとえば、評価額1,000万円の農地の場合、110万円の基礎控除後の課税対象額は890万円となり、贈与税率は40%です。控除額を引くと、贈与税は890万円 × 40% – 125万円=約231万円となります。
農地の譲渡先が子や孫の場合は、相続時精算課税制度を利用すると2,500万円までの贈与について贈与税が非課税になります。一度選択すると暦年課税に戻れない点や、将来の相続税額が増える可能性がある点に注意が必要です。
不動産取得税
不動産取得税は、不動産の取得者に対して一度だけ課税される地方税です。農地の場合の税額は、固定資産税評価額の3%です。無償で譲り受けた場合でも、贈与を受けた人が取得者とみなされ、納税義務が生じます。
たとえば、評価額1,000万円の農地の場合は30万円の不動産取得税がかかります。不動産の登記が完了してから数ヶ月後に納税通知書が届くのが一般的です。
登録免許税
登録免許税は、農地の所有権移転登記の際に課される国税です。贈与や売買の場合、固定資産税評価額の2%の税率が適用されます。評価額1,000万円の農地の場合は20万円です。
登記申請の際に現金で納付するか、収入印紙を貼付して納めるのが一般的で、手続きと同時に支払う必要があります。
登記手続きは司法書士に依頼する場合が多いです。司法書士への報酬を含めた登記費用を確認し、費用負担について事前に合意しておくことが大切です。
農地を無償譲渡する以外の方法
農地を手放す方法は、無償譲渡だけではありません。売却、農地転用、相続放棄という3つの代表的な方法があります。それぞれの特徴を理解し、あなたの状況に適した選択肢を見つけましょう。
売却する
農地を第三者に売って現金化する方法です。固定資産税や維持管理の負担から解放されます。しかし、買主が農業に従事する人に限られ、農業委員会の許可も必要なため、買い手を見つけるのが難しい場合があります。
地域の農業者や不動産会社に相談する、農地マッチングサイトなどでみずから情報発信して買い手を募るなど、まずは自分からアクションを起こすことが重要です。
農地転用する
農地を住宅や駐車場など、農業以外の用途に変更する方法もあります。土地の利用価値が高まり、売却や活用の選択肢が大きく広がる点がメリットです。
一方、農地転用には農地法に基づく許可または届出が必要で、立地条件や都市計画によっては認められない場合もあります。転用許可申請には時間と費用がかかり、申請手続きも複雑です。
失敗しないためには行政書士などの専門家に依頼して進めるのが望ましいでしょう。
相続しない
まだ農地を相続するか迷っている段階であれば、相続しないという選択もあり得るでしょう。
そもそも相続に関わりたくない、農地だけでなく何もいらないという場合は、相続放棄をおすすめします。相続放棄は相続開始から3ヵ月以内に家庭裁判所で手続きをする必要があるため、早めの判断が重要です。
相続放棄は考えていないものの、相続人同士で農地の押し付け合いになり、遺産分割協議が進まないケースもあります。もし買い手が見つかれば、遺産分割の段階で売却して現金で分けることも可能です。当事者同士で解決できない場合は、弁護士などの専門家に間に入ってもらったり、家庭裁判所の調停を利用したりする方法もあります。

農地を無償譲渡する手続き
前述のとおり、農地を無償譲渡するには、特別な手続きが必要です。必要なステップを省略すると、後々トラブルに発展したり、譲渡自体が無効になったりするおそれがあるため、必要に応じて専門家に相談しながら慎重に進めましょう。
農地区分の確認
農地の区分は、その土地の優良性や周辺の土地利用状況に応じて、農地法によって定められています。区分によって、農地転用(農地を宅地などに変えること)の許可基準が大きく変わるため、譲渡や活用を考える上で最初に確認すべき重要な情報です。
転用が許可されやすい農地
第3種農地: 市街地の内部にある農地。原則として転用が許可される。
第2種農地: 将来的に市街地になる可能性がある農地。公共施設などへの転用が許可される場合がある。
転用が原則として難しい農地
甲種農地・第1種農地: 農業生産力が高い、または大規模な農地。
もっとも確実な方法は、市町村の農業委員会に問い合わせることです。対象の農地の地番を伝えると、どの区分に該当するかを教えてもらえます。また、市町村によっては、Webサイト上で農業用地図情報システム(GIS)を公開しており、地番や住所から農地区分を自分で確認できる場合もあります。
たとえ転用が許可されやすい区分に該当していても、必ずしも許可が下りるわけではありません。転用計画の妥当性や、申請者の資金力なども厳しく審査されます。
農業委員会への許可申請
譲渡先が決まったら、農業委員会に許可を申請します。許可が下りなければ契約は法的に無効となるため、重要な手続きです。
申請書のほかに、譲渡人の印鑑証明書、譲受人の住民票、営農計画書などを提出します。審査には時間がかかるため、余裕をもって準備を始めましょう。
贈与契約書の作成
口約束はトラブルの元です。無償譲渡はに贈与にあたるため、贈与契約書を必ず作成しましょう。契約書には、譲渡する土地の特定や譲渡条件を明確に記載し、双方が署名・押印します。
行政書士などの専門家に確認してもらいながら、確実に作成することをおすすめします。契約にあたり、税金などの費用負担についても確認しておくとトラブルの予防になります。
所有権移転登記
法務局で所有権移転登記をおこなうことで、法的に所有者が変わります。登記には、贈与契約書や農業委員会の許可書などが必要となり、書類に不備があると受理されません。
登記が完了して初めて、農地を譲り受ける方が第三者に所有権を主張できるようになります。
登記は自分でおこなうことも可能ですが、申請書の作成や添付書類の準備に専門知識が必要なため、司法書士に依頼するのが一般的です。
困ったらに専門家に相談
農地の無償譲渡や売却、転用、相続放棄といった手続きは、法律や規制が複雑に絡み合うため、個人で全てを正確に進めるには大きな負担が伴います。特に、農地法や税制に関する専門的な知識がなければ、契約が無効になったり、思わぬ税金が発生したりするリスクがあります。
こうした状況で頼りになるのが、行政書士や司法書士です。契約書の作成や農業委員会への申請サポートなど、あなたの状況に合わせて幅広く対応してくれます。
専門家に相談することで、無償譲渡が良いのか、それとも売却や転用の方が有利なのかといった客観的なアドバイスも受けられます。
トラブルを未然に防ぎ、時間と労力を節約するためにも、ひとりで悩みを抱え込まず、まずは専門家へ相談してみることをおすすめします。
まとめ
農地を手放す方法には、無償譲渡のほかにも売却、農地転用、相続放棄といった選択肢があり、それぞれにメリットと注意点があります。売却や無償譲渡によって他人に譲りわたす場合、農地区分の確認や農業委員会への許可申請などの手続きを正しく踏むことが重要です。
農地は独特のルールがあり、手続きの不備によって思わぬトラブルに発展するリスクがあるため、早めに専門家へ相談して備えることが安心につながります。
当事務所(行政書士佐藤秀樹事務所)では、農地の無償譲渡についての相談を受け付けています。契約書作成や農業委員会での手続きはもちろん、司法書士とも連携して登記までワンストップで対応可能です。農地の扱いにお困りの方はご相談ください。