縁を切った親が死んだら連絡がくる?葬儀・相続・借金の対処法

事情があって親と縁を切り、葬儀にも顔を出さないと覚悟を決めている方もいるでしょう。血のつながった親子でも、関係がうまくいかないことはあるものです。
しかし相続の場面では「縁を切っているから無関係」が通用しません。どんなに仲が悪くても疎遠でも、子は親の相続人となります。相続する場合も関わりたくない場合も手続きが必要で、放置すると思わぬトラブルの原因となります。
本記事では、縁を切った親が死んだら連絡がくるのか、何をすればよいのかを解説します。
縁を切った親が亡くなった後、誰から連絡がくる?
親が亡くなった場合、通常は何らかの形で連絡が届きます。縁を切って長年音信不通だったのに、突然死亡の連絡がくる場合もあります。ここでは、親が亡くなったあと連絡がくるパターンを紹介します。
役所(市区町村)から連絡が来る場合
音信不通だった親が亡くなった際、市区町村の役所から連絡が来るケースは稀です。通常、死亡届が提出されて戸籍に反映されるだけで、役所は相続人全員に連絡する義務を負いません。
ただし、亡くなった方が生活保護受給者であったり、身寄りがなく遺体の引き取り手が見つからなかったりといった特殊な状況では、役所が連絡を試みることがあります。
警察から連絡が来る場合
親が事故や事件に巻き込まれて亡くなった場合や、一人暮らしで孤独死した場合、警察から連絡が来る可能性があります。警察は戸籍や住民票を確認して親族を探すため、縁を切っていても子であるあなたに遺体の身元確認や引き取りの協力を求めることはあり得るでしょう。
親の生前の手帳や携帯電話にあなたの連絡先が残っている場合も、手がかりとして使われることがあります。警察からの連絡では、冷静に状況を確認することが重要です。親が亡くなった場所や状況、遺品の確認方法などについて詳しく聞くことになります。
親族や知人から連絡が来る場合
ほかの親族や親の友人・知人から親の死亡を伝えられる場合もあります。特に、遺産分割協議を進めるためには相続人全員の同意が必要なため、ほかの相続人があなたを探して連絡をとる可能性は高いでしょう。
普段は連絡をとりあっていなくても、葬儀の案内や相続手続きのために最低限の連絡は必要です。相続手続きについて直接やりとりするのが難しい場合は、専門家に間に入ってもらうことも可能です。
家庭裁判所から連絡が来る場合
家庭裁判所から連絡が来るのは、相続に関して法的手続きが開始された場合です。相続人同士で遺産分割の話し合いがまとまらず、遺産分割調停が申し立てられた場合も、家庭裁判所から通知が届きます。裁判所からの連絡は無視してはいけません。放置すると、法的な問題に発展し、意図せず借金を背負うことにもなりかねません。
連絡が来ない可能性もある
親が亡くなっても、誰からも連絡が来ない可能性も十分にあります。親が一人暮らしで交友関係が狭かったり、あなたの連絡先が周囲の誰にも知られていなかったりする場合です。
特に、親が賃貸住宅に住んでいて身元不明のまま亡くなった場合などは、行政が手続きを代行し、最終的に故人の財産は国庫に帰属することもあります。
ただし、連絡がないからといって相続の権利や義務が消滅することはありません。親の死を知った時点からすぐに相続手続きを始めなければならないことは覚えておきましょう。
親の死亡を知らせる連絡を無視するリスク
縁を切った親の死亡を知らせる連絡を無視してしまうと、後々さまざまなリスクが生じます。長期間放置するほど不利な状況に追い込まれることがあるため、注意が必要です。
相続放棄の機会を失い借金を背負うリスク
親が亡くなったことを知ってから3ヵ月以内であれば、相続人としての権利義務を放棄できます。これを相続放棄といい、家庭裁判所での手続きが必要です。
親が多額の借金を抱えている可能性がある場合や、感情面で相続に関わりたくないと感じる場合は、連絡を無視するのではなく相続放棄しましょう。
何もせずに3ヵ月がすぎてしまうと、亡くなった親の権利も義務も全て承継することになります。財産を受けとれる可能性がある一方で、借金を背負うリスクもあるため、財産調査をしたうえで判断することをおすすめします。
遺産を受け取れないリスク
相続放棄しない場合は、相続人として亡くなった親の遺産を受けとる権利があります。本来であれば、遺産分割の話し合いは相続人全員でおこなわなければなりません。
しかし、あなたが死亡連絡を無視することで、ほかの相続人があなた抜きで遺産分割をしてしまう可能性があります。親に資産があったとしても、ほかの相続人ときちんと連絡をとりあわなければ遺産を受けとれません。
あなた抜きで行われた遺産分割協議は無効ですが、すでに処分してしまった遺産を取り戻すことは非常に困難です。無用なトラブルを防ぐため、連絡には応じましょう。
遺体の引き取りや葬儀がおこなわれないリスク
遺体の引き取り手がいない場合、遺体が自治体の委託を受けた葬儀場で長期間保管されたり、葬儀がおこなわれずに地方自治体によって荼毘に付されたりする可能性があります。
親の遺体を引き取る義務はないとはいえ、親族の中に「親が亡くなったのだから子が遺体を引き取って葬儀をおこなうべき」という考え方の人がいる場合は、連絡を無視し続けることが争いの火種となりかねません。無視するのではなく、自分の考えをきちんと伝えましょう。
対応しなかったことを後悔するリスク
縁を切っていた親の死を知って動揺したり感情的になったりして、その時は無視を決め込んでも、時間が経過してから後悔するかもしれません。
親との和解のチャンスを失ったことや、最期のやりとりがないこと、葬儀に参列しなかったことを後悔する場合もあります。相続については、相続放棄しなかったために借金を背負ってしまった、遺産分割に参加できず遺産を受け取れなかったなど、財産についての後悔が生じる可能性があります。
死亡連絡を受けたらきちんと今後のことを考え、法的な面と感情的な面のバランスを取りながら判断することが重要です。

縁を切っていても相続権はなくならない
親と縁を切っていたとしても、子の相続権が消えることはありません。親が亡くなったら誰が相続人となるのか、どのような手続きが必要なのか、概要を押さえておきましょう。
法定相続人と相続順位
民法で定められた相続人を法定相続人といいます。法定相続人は亡くなった方との戸籍上の関係によって決まり、縁を切っていたという事情は考慮されません。
法定相続人となるのは亡くなった方の配偶者のほか、子・直系尊属(親など)・兄弟姉妹です。配偶者がいる場合は必ず相続人となります。子はもっとも優先順位の高い第一順位の相続人です。
子がいる場合の相続人は配偶者と子、または子どもたちのみです。つまり、縁を切った親が亡くなった場合は、あなたのもう片方の親と兄弟姉妹が相続人となります。死別や離別により、親が亡くなった時点で配偶者がいない場合は、あなたとあなたの兄弟姉妹が相続人です。
相続手続きの流れ
親が亡くなった際に必要な手続きは多くありますが、ここでは特に相続に焦点をあてて手続きの流れを確認します。一般的に、相続手続きに着手するのは葬儀のあとです。
遺言書の有無の確認
まずは遺言書が遺されていないか確認しましょう。遺言書がある場合は、遺言書の内容にしたがって遺産分割をおこなうのが原則です。
親の自宅や職場で見つからない場合は、公証役場や法務局で遺言書の原本を保管していないか照会するとよいでしょう。封がされた遺言書を発見した場合は、家庭裁判所で内容を確認する検認手続きが必要です。勝手に開封せず、専門家に相談しましょう。
相続財産の調査
親の財産の全容を調べる必要があります。調査の対象は資産だけではなく負債も含まれます。詳しくは後述します。
相続放棄の申述(死亡を知ってから3ヵ月以内)
相続放棄をする場合は、家庭裁判所に申し立てを行い、放棄手続きを完了させます。相続放棄をした旨は親族に伝えておくとトラブル防止になります。

遺産分割協議
遺言書がない場合、遺言書で分割方法が指定されていない財産がある場合は、相続人全員の話し合いによって分割方法を決めます。合意内容は遺産分割協議書にまとめ、全員が署名押印します。
名義変更などの手続き
遺産分割協議書や遺言書を根拠として、不動産の名義変更や預貯金の解約などの手続きを進めます。手続きが多岐にわたる場合もあるため、専門家に依頼するのも有効な手段です。
相続税の申告
相続税の基礎控除額を超える遺産がある場合、死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内に申告・納付する必要があります。税理士に相談して正確に申告しましょう。
相続手続きを正確かつ円滑におこなうには多岐にわたる専門知識が必要です。必要に応じて専門家のアドバイスを受けたり、手続きを代行してもらったりしながら進めると時間と手間の節約にもなります。
親の借金を相続しないための相続放棄の手続き
親の相続に一切かかわらない方法が「相続放棄」です。相続放棄のメリットとデメリットを理解し、期限内に判断することが非常に重要です。ここでは相続放棄の基本を整理します。
相続放棄とは?メリットとデメリット
相続放棄とは、相続人が遺産を相続しないことを選択する手続きです。相続放棄にはメリットとデメリットがあります。
代表的なメリットは、借金を引き継がないことです。親が多額の借金を抱えていた場合、相続してしまうと親の借金を代わりに返済しなければなりません。相続放棄することで借金を背負うリスクはなくなり、自分の財産を守れます。
また、疎遠な親族とのやりとりや相続に伴う手続き自体が負担に感じる場合、相続放棄によって相続に関する一切の責任から解放されるのもメリットのひとつです。
一方、相続放棄すると遺産を一切受け取れません。親に資産がある場合は、相続放棄すると受け取れるはずだった多額の財産を逃す可能性があります。メリットとデメリットを天秤にかけながら、慎重に判断しましょう。
相続放棄の期限と手続き方法
相続放棄の期限は、親の死亡を知った日から3ヵ月以内です。期限を過ぎてからの相続放棄は原則として認められません。3ヵ月の間に財産調査、相続放棄の判断、家庭裁判所での手続きまでを終わらせましょう。
相続放棄する場合は、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に相続放棄申述書を提出します。「疎遠だったから」「縁を切っていたから」という理由での放棄も認められます。必要書類や申述書の書き方で悩む場合は、家庭裁判所や専門家に相談するとよいでしょう。
親の葬儀の参列義務と費用負担
相続手続き以前に、縁を切った親の葬儀に参列する義務や、葬儀費用を負担する義務があるのかが気になる方も多いでしょう。結論、いずれも義務ではありません。ただし、親族との関係性や伝え方によってはトラブルになり相続の場面まで尾を引くリスクがあります。以下で詳しく見ていきましょう。
葬儀への参列は義務ではない
葬儀をおこなうか、または葬儀に参列するかは、あくまで個人の自由です。親と縁を切っていた場合、心情的に葬儀へ参列するのが難しい場合もあるでしょう。親と不仲だったため絶対に行きたくないという方や、自分が今さら顔を出したらトラブルの火種になると考える方もいます。
親の葬儀に参列しなかったからといって、法的責任を問われることはありません。ただし、社会的慣習の面から、親族や親の知人から「なぜ来なかったのか」「実の親の葬儀に参列しないなんて」と問題視される可能性もあります。
葬儀に参列しない場合でも、香典や弔電を送るといった最低限の配慮をしておくことで、親族との摩擦を避けられます。葬儀に参列しなくても、相続手続きで親族とやりとりが生じる可能性もあることを念頭に置きつつ、自身の気持ちと状況を踏まえて柔軟に判断するとよいでしょう。
葬儀費用の負担も義務ではない
葬儀費用を相続人が必ず負担しなければならないというルールもありません。喪主や近しい親族が中心となって費用を負担、あとから相続財産から補填するのが一般的です。しかし、相続財産で葬儀費用を賄えない場合、結果的に費用を負担した親族が自腹を切らざるを得なくなるケースもあります。
縁を切った親であっても「自分の親の葬儀代なのだから出してほしい」と親族から費用負担を求められる可能性があります。トラブルを避けたい場合は、相続放棄とあわせて対応を検討し、必要に応じて専門家に相談すると安心です。
遺産から葬儀費用を出す場合の注意点
遺産から支出できる葬儀費用は「社会通念上相当な範囲」に限られます。過度な会葬返礼品や法要費、墓石代などは対象外と判断されやすく、費用負担をめぐるトラブルの原因になります。
遺産からの支出は原則として相続人全員の同意を得ておこないましょう。亡くなった方の預貯金は死亡後に凍結されるため、金融機関の仮払い制度を活用するか、いったん喪主等が立替えて領収書・見積書・契約書を保管し、後日精算する方法が現実的です。
相続放棄を予定する人がいる場合は、その人に費用負担を求めないよう配慮しましょう。相続税申告に向けて、相続税計算上の葬儀費用控除の範囲も確認しておくと安心です。

縁を切った親の相続手続きのポイント
親との関係が断絶していても、法的な親子関係は消えません。重要なのは、死亡を知った日から3ヵ月の間に相続するかどうかの決断をすることです。方針を決めるまでの間はむやみに親の財産を消費せず、財産調査をおこないましょう。ひとりで抱え込まずに早期に専門家へ相談することが安全策となります。
財産調査を早期に・徹底的におこなう
まずはなるべく早く、親の財産として何がどのくらいあるかを網羅的に把握しましょう。確認したいのは、現預金や不動産などの資産(プラスの財産)と、借金や未払い金などの負債(マイナスの財産)です。
プラスの財産は、通帳、保険証券、年金・給付通知、固定資産税の課税明細や名寄帳、登記済証などを確認します。マイナスの財産は、クレジットカード明細、賃貸借契約書、督促状、租税公課や公共料金の支払い状況などを洗い出します。
連帯保証や借金は見つけにくい場合もあるため、信用情報機関への照会も有効です。

親の遺産に手をつけない
財産を処分したり持ち出したりすると、「相続を承認した」と評価され、相続放棄ができなくなるおそれがあります。親の預金を勝手に引き出す、形見分けと称して貴金属を持ち出す、親名義の不動産賃貸を解約するなどの行為が典型例です。
親の財産に触れる場合は、資産価値や権利の維持のための「保存行為」にとどめることが大切です。親の財産から支出した場合は必ず領収書を保管し、誰が・何のために・いくら支出したかを明確にしましょう。不安があれば、親の財産に手をつける前に専門家に確認すると安心です。
専門家に相談する
相続しないと決めた場合は、親の死亡を知ってから3ヵ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をする必要があります。相続する場合は、遺産分割協議や不動産の名義変更、預貯金の解約、相続税申告など必要な手続きが多くあります。遠方の相続人と連絡をとりあうのが難しい場合や、トラブルになりそうな場合は、無理に自分で解決しようとせずに専門家に相談しましょう。
依頼する際には費用がかかりますが、手戻りやトラブルを防ぎ、スムーズで円満な手続きを実現する近道です。相続人同士のトラブルや交渉は弁護士、相続税申告は税理士、登記は司法書士、財産調査や遺産分割協議書の作成は行政書士に相談するとよいでしょう。

まとめ
縁を切った親が亡くなった場合、あなたは法律上の相続人です。死亡の連絡を無視すると、予想外の借金を背負ったり、トラブルを招いたりするリスクがあります。また、葬儀への参列や費用負担は法的義務ではありませんが、ほかの親族との関係性や慣習を踏まえて判断することが大切です。
不安を感じた場合は、相続問題に強い専門家に早めに相談し、自分にとって最適な選択をとることが、心身の負担を軽減する大きな一歩となるでしょう。
当事務所(行政書士佐藤秀樹事務所)では、相続に関する相談を受け付けています。弁護士、税理士、司法書士と連携して、あらゆる相続手続きに対応可能です。縁を切って長年疎遠にしていた親御さんの相続についてお困りの際は、お気軽にご相談ください。