個人事業主でも建設業許可は取得できる!申請条件や必要書類、費用まで徹底解説

「個人事業主でも建設業許可は取れるの?」
そう疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。
結論、建設業許可は法人だけでなく個人事業主でも取得可能であり、500万円以上の工事や公共工事の受注、金融機関や取引先からの信頼性向上といった大きなメリットがあります。
しかし、取得には経営業務管理責任者や専任技術者の要件、資金面での基準などを満たす必要があり、手続きには多くの書類と時間がかかります。また、取得後も更新や変更届といった継続的な管理が欠かせません。
そこで本記事では、個人事業主が建設業許可を取得する際のメリットや注意点、必要条件、必要書類、費用、そして申請から取得後の流れまでを詳しく解説します。
これを読めば、許可取得の全体像を理解し、スムーズに準備を進められるはずです。ぜひ参考にしてください。
【結論】個人事業主でも建設業許可は取得できる
結論、個人事業主でも建設業許可は取得可能です。
建設業許可は法人だけのものと思われがちですが、一定の条件を満たせば個人事業主でも問題なく申請できます。
例えば、過去に建設業の経営経験がある「経営業務管理責任者」を置くこと、または一定の資格や実務経験を持つ「専任技術者」を配置することが必要です。さらに、財産的基盤として500万円以上の自己資金や資産を有していること、欠格事由に該当しないことも要件に含まれます。
これらを満たすことで、個人事業主でも公共工事や500万円以上の工事を正式に請け負えるようになり、事業拡大や取引先からの信頼向上につながります。
個人事業主で建設業許可を取得するメリット
個人事業主が建設業許可を取得すると、これまで受注できなかった規模の工事や公共工事に参入できるだけでなく、取引先や金融機関からの信頼度も大きく高まります。
ここでは代表的なメリットを具体的に見ていきましょう。
500万円以上の工事・公共工事が受注できる
建設業許可を取得する最大のメリットは、500万円以上の工事や公共工事を正式に請け負えるようになる点です。
建設業法では、500万円以上の建築一式工事や専門工事を請け負う場合、必ず建設業許可が必要と定められています。
つまり、許可を持たないまま高額工事を引き受けてしまうと、法律違反となり、契約自体が無効になるリスクもあるのです。
さらに、公共工事は発注者が自治体や国であるため、必ず建設業許可をもつ業者しか入札に参加できません。今後、地域の公共施設やインフラ整備といった大規模案件に挑戦したいと考えるなら、個人事業主であっても許可取得は必須です。
これまで小規模な工事しか扱っていなかった人でも、建設業許可を取得すれば仕事の幅が一気に広がり、売上アップや事業の安定化につながります。
信用力が向上する
建設業許可は、行政による「事業者としての基盤が整っている」といった証明でもあります。
許可を得るためには、一定の経営経験や専任技術者の配置、財産的基盤などの条件を満たさなければなりません。
そのため、許可をもっているだけで「きちんと要件をクリアしている信頼できる業者」と取引先や元請から見てもらいやすくなるのです。
特に個人事業主の場合、法人と比べると「規模が小さい」「資金力に不安があるのでは」と疑念を持たれることもあります。
しかし、建設業許可をもっていれば、見積もり段階から安心感を与えることができ、元請や施主との契約がスムーズに進みます。
また、金融機関からの融資審査でもプラスに働くケースが多く、事業資金を調達しやすくなるのも大きなメリットと言えるでしょう。
建設業許可は、単なる資格ではなく、事業の信頼性を高める「信用の証」として機能するため、まずは個人事業主として許可を取得するのがおすすめです。
申請手続きが簡単
「建設業許可をとるのはたいへんそう…」と感じている方も多いかもしれませんが、実は個人事業主の場合、法人に比べて申請手続きがシンプルです。
法人であれば登記簿謄本や定款、役員全員の経歴書などが必要ですが、個人事業主は事業主本人の経歴や住民票、納税証明書など、必要書類が比較的少なくて済みます。
もちろん、専任技術者や財務基盤などの要件は共通ですが、申請書類の数や準備の手間は法人より軽いのが特徴です。
さらに、更新や業種追加といった手続きでも、法人の場合は役員変更や決算内容の反映などが煩雑になりがちですが、個人事業主なら比較的シンプルに進められます。
建設業許可をとること自体は決してハードルが高いものではなく、行政書士に依頼すればスムーズに進められるため、「今のうちに取得しておこう」と考えるにはよいタイミングと言えるでしょう。
特に将来的に法人化を検討している場合も、まずは個人事業主で許可を取得しておくと、スムーズに法人に引き継ぐことが可能です。
同業他社と差別化になる
建設業界では、まだまだ無許可で小規模工事を請け負っている業者も少なくありません。
そうした中で、建設業許可をもっているだけで「安心して仕事を任せられる業者」として差別化ができます。
特に下請けとして活動している個人事業主にとっては、元請からの評価が上がりやすく、安定的に案件を紹介してもらえる可能性も上がります。
さらに、最近は施主側もインターネットで業者を比較・検討するケースが増えています。
許可の有無が信頼性の基準になりやすいため、Webサイトや名刺に「建設業許可業者」と記載できること自体が大きなアピールポイントと言えるでしょう。
個人事業主で建設業許可を取得する際の注意点
一方で、建設業許可は「取得して終わり」ではありません。
申請準備には時間がかかりますし、許可取得後も更新や変更届といった事務手続きが欠かせません。
ここからは、個人事業主が見落としがちな注意点について解説します。
取得には手間と時間がかかる
建設業許可を取得する際にまず知っておくべきなのは、想像以上に手間と時間がかかるといった点です。
個人事業主の場合、法人に比べて必要書類は少ないものの、それでも住民票や納税証明書、経営経験を証明する資料、専任技術者の資格証明など、多岐にわたる資料をそろえる必要があります。
さらに、書類は一部でも不備があると差し戻され、再提出を求められるケースも多いため、準備に慣れていない人ほど申請完了までに時間を要してしまうのです。
審査自体も、知事許可であれば通常1〜2か月、大臣許可の場合は3か月以上かかることもあります。
つまり「すぐに許可が欲しい」と思っても、短期間では取得できません。
もし元請から「次の現場からは許可が必要」と言われた場合、申請準備が間に合わずに仕事を逃してしまうこともあるでしょう。
そのため、実際に大きな工事を請け負う予定がまだ先であっても、早めに準備を始めるのが得策です。
取得後にも手続きが必要
建設業許可は、一度取って終わりではありません。
取得後も定期的な手続きが義務付けられており、この点を軽視するとせっかくの許可が失効してしまう可能性があります。
具体的には、許可は5年ごとに更新が必要で、そのたびに直近の決算内容や納税状況を提出しなければなりません。
さらに、事業の状況に応じて「決算変更届」や「変更届」の提出が求められます。
たとえば、専任技術者が退職した場合や、住所や営業所が変わった場合には速やかに届け出なければならず、怠ると罰則の対象となることもあります。
個人事業主にとっては、日々の現場作業に加えて事務手続きまでこなすのは負担に感じやすいでしょう。
しかし、これらの届け出を怠ると「形式上は無許可と同じ状態」と見なされ、元請や取引先からの信頼を一気に失うリスクがあります。
せっかく信用力を高めるために取得した許可も、維持できなければ意味がありません。更新や変更のタイミングを忘れないよう、カレンダーやリマインダーで管理する、または行政書士に顧問的に依頼して継続的にサポートしてもらうことが重要です。
個人事業主が建設業許可なしで営業するとどうなる?
個人事業主で「小規模だから大丈夫」と思って無許可で工事を請け負うと、契約無効や事故発生時の責任問題、資金調達面での不利益など、想像以上に大きなリスクを背負うことになってしまいます。
ここでは、無許可営業の具体的なリスクを確認していきましょう。
元請との「契約不成立」や「契約解除」の可能性がある
建設業許可がないまま500万円以上の工事を請け負うと、法律上は契約自体が無効になる恐れがあります。
特に元請からの依頼で大きな現場を任される場合、「契約書にサインしたのに、あとから無許可が発覚して契約解除」といったケースも実際にあり得ます。
契約が無効と判断されれば、請け負った仕事に対する報酬が支払われないどころか、元請から損害賠償を請求される可能性すらあります。
さらに、公共工事に関しては、そもそも許可業者しか入札できないため、無許可では入り口にすら立てません。
元請や取引先は「トラブルの種」を避けたいと考えるため、無許可業者を使うリスクを負うことはほとんどありません。
そのため「次は大きな現場をお願いしたい」と声をかけてもらえても、許可がないだけでチャンスを逃してしまうのです。許可をもっているかどうかは、元請との信頼関係を築くうえで最重要の条件と言えるでしょう。
労災事故発生時の行政調査や賠償が重くなる可能性も
建設現場では常に労災リスクが伴います。
もし無許可の状態で工事を行っていると、労災事故が起きた際に行政の調査が厳しくなる可能性があります。
本来であれば、建設業許可をもつ業者として適正な契約・安全管理を行っていれば一定の信用が保たれますが、無許可の場合は「違法営業」といった立場からスタートしてしまうため、責任が重く問われやすいのです。
さらに、事故で被害者が出た場合の損害賠償も大きな問題になってしまいます。
元請や施主から「無許可業者に任せた」と責任を追及されるケースも考えられ、最悪の場合は事業の継続自体が困難になることもあります。
小規模な工事だからと油断していても、事故は予期せぬタイミングで発生します。
万が一のときに「許可がなかったために補償問題が複雑化した」といった事態を避けるためにも、事業を守る観点から建設業許可の取得は欠かせないものと言えます。
補助金・助成金・融資の対象から外れる可能性がある
無許可のまま営業していると、国や自治体が用意している補助金や助成金、さらには金融機関からの融資の対象外となるリスクがあります。
たとえば設備投資や人材育成のための補助金、事業承継や経営改善に使える助成制度など、多くは「許可業者であること」を前提にしています。
金融機関も同様で、融資審査の際に「建設業許可をもっていない」と判断されれば、事業の信用力が不足していると見なされ、資金調達が難しくなってしまいます。
特に個人事業主は法人に比べて融資審査が厳しい傾向があるため、許可がない状態ではさらに不利です。
結果として、事業拡大のための資金調達の機会を逃し、ライバルとの差が広がってしまいます。
逆に、許可を取得していれば、事業の信頼性が増すだけでなく、補助金や融資を活用して安定的な経営基盤を築くことも可能です。資金面のチャンスを確実につかむためにも、無許可営業は避けるべきと言えるでしょう。
個人事業主で建設業許可を取得するための条件
建設業許可は、誰でも申請できるわけではなく、法律で定められた要件を満たす必要があります。
ここではどのような条件を満たす必要があるのか、詳しく解説していきます。
経営業務の管理責任者(経管)の要件を満たすこと
建設業許可を取得するには、まず「経営業務の管理責任者(通称:経管)」を置くことが必須条件です。
経管とは、建設業の経営業務を総合的に管理できる経験をもつ人物のことを指します。
具体的には、申請しようとする建設業に関して5年以上の経営経験があること、またはほかの建設業で7年以上の経験が必要です。
個人事業主の場合は、自分自身が経管になるケースがほとんどなので、過去に請け負ってきた工事の実績や経営経験を証明できるかどうかが重要なポイントです。
もし経験が不足している場合は、経験を満たす人を共同経営者や役員に迎えるといった対応が必要になることもあります。
つまり「腕のよい職人」であることだけでは不十分で、経営者としての視点や経験が求められるのです。
今後法人化を検討している人にとっても、この「経管要件」は大きなハードルとなるため、事前に自分のキャリアを整理し、条件を満たしているかを確認しておく必要があります。
専任技術者の要件を満たすこと
次に必要となるのが「専任技術者」の設置です。専任技術者とは、営業所ごとに常勤で配置する必要があり、建設工事を適正に遂行するための知識と経験をもった技術者のことです。
要件としては、建設関連の国家資格(建築士、施工管理技士など)を保有しているか、もしくは一定年数の実務経験を有していることが必要です。
たとえば、建築一式工事であれば一級建築士や一級施工管理技士が該当しますが、資格がなくても10年以上の実務経験を証明できれば要件を満たせる場合もあります。
個人事業主の場合は、自分自身が専任技術者となるケースが多いため、資格や経験をきちんと証明できる資料を準備しておくことが大切です。
専任技術者が不在になると許可が失効する恐れもあるため、後継者や補佐人材をどう確保するかも事業継続の視点で考えておく必要があります。
財産的基礎・金銭的信用があること
建設業許可では、健全な財務基盤をもっていることも求められます。
具体的には、自己資本額が500万円以上あること、もしくは500万円以上の資金調達能力を証明できることが条件となっています。
これは「資金繰りに余裕がある=工事を最後まで責任をもって完成させられる」と判断するための基準です。
個人事業主にとっては、資本金といった概念が法人と異なりますが、預金残高証明書や融資可能な金融機関からの残高証明書を提出すれば証明可能です。
逆に資金面に不安があると、「工事途中で資金ショートして工事が止まるのでは」といったリスクを発注者に感じさせてしまいます。
許可申請の段階で財産的基盤を整えておくことは、事業の信頼性を高めることにもつながると言えるでしょう。
誠実性があること
建設業許可では、事業者としての「誠実性」も重要な条件のひとつです。
ここでいう誠実性とは、契約を適正に履行し、取引先や発注者に損害を与えるような行為をしないことを意味します。
たとえば過去に請負契約を不正に履行したり、重大な契約違反を繰り返している場合には、許可が下りないこともあります。
また、下請けへの不当な代金未払いといった行為も「誠実性を欠く」と判断される可能性があります。
個人事業主は特に、元請や施主との信頼関係が仕事の継続につながるため、契約や支払いにおいて誠実な対応を続けていくことが不可欠です。
許可取得にあたっては、これまでの実績が「誠実に事業を行ってきた証拠」として見られるため、日ごろの取引態度や契約管理を丁寧に行っておくことが重要です。
欠格要件に該当しないこと
最後に確認すべきなのが「欠格要件」に該当しないことです。
欠格要件とは、一定の条件に当てはまる人は建設業許可を取得できないと定められている規定です。
具体的には、過去に建設業法違反で処分を受けたことがある人、暴力団関係者、禁錮以上の刑を受けて一定期間を経過していない人、破産して復権していない人などが該当します。
これらに該当すると、どんなに技術や経験があっても許可は下りません。
個人事業主の場合、自分自身や専任技術者が欠格要件に当てはまらないかの確認が不可欠です。
特に「昔の軽微な違反は大丈夫だろう」と軽く考えてしまうと、申請の段階で不許可になるリスクがあります。
欠格要件は許可取得の大前提であり、事業を健全に続けていくための信頼性の裏付けでもあるため、必ず確認しておきましょう。
個人事業主で建設業許可を取得するための必要書類
建設業許可の条件を満たしていることを証明するためには、多くの書類を揃えなければなりません。
申請書だけでなく、経営経験や技術者資格、資金力を示す資料など、多岐にわたる書類が必要です。次から、代表的な書類を見ていきましょう。
建設業許可申請書
建設業許可を取得するうえで最も基本となるのが「建設業許可申請書」です。
これは、工事をおこなう事業者としての情報を詳細に記載し、行政に提出する正式な申請書です。内容に不備があると差し戻しになるため、丁寧な作成が求められます。
主な記載内容は以下のとおりです。
- 個人事業主の氏名・住所・生年月日
- 営業所の所在地・連絡先
- 申請する業種の区分(一般建設業/特定建設業)
- 経営業務の管理責任者や専任技術者に関する情報
- 財務状況の概要
申請書は役所のホームページから様式をダウンロードできますが、細かい記載ルールがあるため、初めての人には難しい部分も多いのが実情です。
行政書士に依頼すれば、書き方の誤りや漏れを防げるため、早期に許可取得したい人はプロのサポートを受けるのもおすすめです。
経営業務の管理責任者の証明書類
「経営業務の管理責任者(経管)」の要件を満たすためには、その経験を証明する資料を提出する必要があります。
必要となる証明資料の例は以下のとおりです。
- 工事請負契約書や注文書(過去の取引を証明するもの)
- 工事の請求書や領収書
- 登記事項証明書(法人経験がある場合)
- 役員在任証明(法人役員としての経験がある場合)
個人事業主が自分自身を経管として申請するケースが多いため、過去の工事実績をきちんと証明できる資料をそろえることが重要です。
曖昧な証拠では認められないため、契約書や請求書を保管していない場合は準備に時間がかかることもあります。
専任技術者の証明書類
営業所ごとに配置が必要な専任技術者の要件を証明するため、資格証や実務経験を示す資料を提出します。これは、現場で工事を適切に管理する能力を証明するために必須の書類です。
必要となる証明資料は次のとおりです。
- 国家資格証明書(例:一級建築士、一級施工管理技士など)
- 実務経験証明書(10年以上の経験を証明できるもの)
- 卒業証明書(学歴で条件を満たす場合)
- 雇用証明書や在職証明書
個人事業主自身が専任技術者になるケースが多いですが、要件を満たせない場合は外部から資格者を雇用する方法もあります。
いずれにしても、証明書類は審査で非常に厳しく見られるため、事前に確認を徹底しましょう。
財産的基礎の証明書
建設業許可を取得するには、一定の財務基盤をもっていることを証明しなければなりません。工事を途中で投げ出さずに遂行できるかを判断するための書類です。
代表的な証明方法は以下のとおりです。
- 預金残高証明書(500万円以上)
- 金融機関の融資証明書
- 直近の決算書や貸借対照表
個人事業主の場合、法人のように「資本金」の概念がないため、現金預金や融資枠での証明が一般的です。
資金的な裏付けをきちんと示すことで「この事業者なら安心して任せられる」と行政に判断してもらえるのです。
誓約書・身分証明書
建設業許可を受けるには、法令を遵守し、誠実に事業をおこなうことを誓う「誓約書」と、欠格要件に該当しないことを証明する「身分証明書」の提出が必要です。
必要書類の例は次のとおりです。
- 誓約書(定められた様式に署名・押印)
- 本籍地の市区町村が発行する身分証明書
- 住民票(本人確認用)
- 登記されていないことの証明書(破産していない証明)
これらの書類は「誠実性」と「欠格要件の有無」を確認するための重要なものです。
個人事業主の場合、事業主本人が全ての責任を負うため、必ず自分名義での取得が求められます。
営業所の写真・平面図など
建設業許可では、実際に事業を行っている営業所が存在していることを証明する必要があります。そのため、営業所の外観や内部の写真、平面図などを提出します。
提出が求められる資料の例は以下のとおりです。
- 営業所の外観写真(看板が写っているもの)
- 事務所内部の写真(机・電話・パソコンなど業務環境がわかるもの)
- 平面図(営業所のレイアウト図)
- 賃貸借契約書や登記簿(所在地の確認用)
形式だけの住所や自宅兼用で形だけの事務所では認められない場合があるため、実体的な営業所であることを証明するのがポイントです。
事業開始届の写し
建設業許可の申請では、個人事業主が税務署に提出している「個人事業の開業届出書(事業開始届)」の写しも必要です。これは事業が正式に始まっていることを証明するための書類です。
提出対象となるのは以下のようなものです。
- 税務署に提出した開業届の控え
- 税務署印が押されたもの(写しでも可)
もし紛失してしまった場合は、税務署に再交付を依頼できます。建設業許可は「事業を継続しておこなう意思と体制」があることが前提となるため、開業届の提出は必須です。
確定申告書の写し
最後に、直近の確定申告書の写しも提出します。これは、収入や経費を正しく申告しているかを確認し、経営の安定性を判断するための資料です。
必要な提出書類は以下のとおりです。
- 所得税の確定申告書(直近1〜2年分)
- 青色申告決算書(該当する場合)
- 税務署の受付印があるもの
適切に納税しているかどうかは「信用力」に直結します。税務申告を怠っていると許可は下りません。
日ごろから確定申告をきちんと行い、帳簿を整備しておくことが、建設業許可取得への第一歩になるでしょう。
個人事業主で建設業許可を取得するための費用
建設業許可申請には、法定で定められた手数料のほか、行政書士に依頼する場合の報酬、さらに証明書発行費用など細かなコストも発生します。
ここからは、それぞれの費用の目安を具体的に解説します。
申請手数料
建設業許可の申請に必要な手数料は、全国一律で定められています。個人事業主の場合も法人と同じ費用です。新規申請か更新申請か、また知事許可か大臣許可かによって変わります。
区分 | 費用 |
新規申請(知事・一般) | 90,000円 |
新規申請(知事・特定) | 150,000円 |
新規申請(大臣・一般) | 150,000円 |
新規申請(大臣・特定) | 150,000円 |
更新申請(知事) | 50,000円 |
更新申請(大臣) | 50,000円 |
手数料は収入証紙や収入印紙での納付が基本ですが、近年は一部の都道府県でキャッシュレス決済が導入されつつあります。
行政書士など専門家への報酬
建設業許可申請は、個人事業主が自力で手続きを進めることも可能ですが、要件確認や膨大な書類準備の負担を考えると、行政書士に依頼するケースが多いです。
専門家への報酬額は事務所や案件内容により幅がありますが、相場費用は下記のとおりです。
区分 | 報酬の目安 |
新規申請(知事・一般) | 100,000~200,000円 |
新規申請(知事・特定) | 150,000~250,000円 |
新規申請(大臣) | 150,000~300,000円 |
更新申請 | 70,000~150,000円 |
経験豊富な行政書士であれば、申請がスムーズに進むだけでなく、不許可リスクを減らせる点も大きなメリットです。
その他の費用
建設業許可の取得には、手数料や報酬以外にも細かい費用が発生する場合があります。
- 書類取得費用(登記簿謄本、納税証明書、住民票などで数百円~数千円)
- 交通費・郵送費(申請窓口への移動や書類郵送にかかる実費)
- 証明書関連費用(資格証明書、実務経験証明書の発行など)
これらはケースによって異なりますが、1万円前後を見込んでおくと安心です。
個人事業主で建設業許可を自分で取得する流れ
ここではご自身で建設業許可の取得をする方向けに、申請の流れを見ていきましょう。
自分が要件を満たしているか確認する
建設業許可を取得するためには、まず「自分がそもそも要件を満たしているのか」を確認しましょう。
許可は誰でも簡単に取れるわけではなく、建設業法で定められた下記の条件をクリアしていることが前提です。
- 経営業務管理責任者としての経験があること(建設業の経営に関わった実務経験)
- 営業所ごとに専任技術者を置けること(資格や実務経験が必要)
- 建設工事の請負契約を誠実におこなえる体制があること
- 一定の資金や金融機関からの信用を有していること
- 欠格要件に該当しないこと(過去に法令違反がないなど)
「自分は経験が十分なのか?」「今の資金状況でクリアできるのか?」を整理し、場合によっては専門家に事前相談するとスムーズです。
ここで基準を満たしていないと、書類を集めても不許可になってしまうため、最初の確認が非常に重要です。
必要書類をそろえる
要件をクリアしていることを確認できたら、次は必要書類を準備します。建設業許可の申請には、数十種類に及ぶ書類が必要になるケースもあり、最も時間がかかるステップと言えるでしょう。個人事業主の場合でも、住民票や確定申告書の写しなど、個人ならではの書類も含まれます。
主に求められる書類は次のとおりです。
- 建設業許可申請書(基本となる申請書類)
- 経営業務の管理責任者であることを証明する書類(経歴証明など)
- 専任技術者を証明する資格証や実務経験証明書
- 財務基盤を示す書類(残高証明書、納税証明書など)
- 住民票や身分証明書(個人事業主用)
- 登記事項証明書(法人の場合)
これらは自治体や申請区分(知事許可/大臣許可、一般/特定)によって必要なものが微妙に異なるため、事前に「どの許可をとるのか」を明確にしておくことが重要です。
書類の不備や不足は申請差し戻しの大きな原因となるため、丁寧に準備しましょう。
申請書類の提出
必要書類がそろったら、いよいよ申請です。
個人事業主が建設業許可を新規で申請する場合、基本的には営業所所在地を管轄する都道府県知事の窓口に申請を行います(ただし複数都道府県で営業所をもつ場合は国土交通大臣許可)。
提出は窓口に直接持参するのが一般的ですが、自治体によっては事前予約制や郵送対応を受け付けているところもあります。
提出時のポイントは以下のとおりです。
- 書類に記入漏れや不整合がないかを再確認する
- 収入証紙(または手数料の支払い方法)を準備しておく
- 担当者から補正や追加提出を求められるケースもある
また、提出後に審査が始まりますが、書類の不備が見つかると「補正指示」があり、その分だけ審査が遅れてしまいます。
建設業許可は公共工事の入札や500万円以上の工事を受注するために必須ですから、予定工期や取引先との契約に支障が出ないよう、早めの準備と提出を心掛けることが大切です。
審査がおこなわれる
申請書を提出すると、自治体側で審査が行われます。
一般的には知事許可の場合で30日~45日程度、大臣許可の場合で3か月前後かかるといわれています。審査では、提出した書類に基づいて「要件を満たしているか」「虚偽がないか」が細かくチェックされ、必要に応じて追加資料を求められることもあります。
この期間中、特に申請者側がやることは多くありませんが、補正依頼や追加資料の要請があった場合はすぐに対応する必要があります。放置すると審査が長引き、最悪の場合は不許可になることもあるため注意しましょう。
審査が完了すると「建設業許可通知書」が交付され、晴れて許可業者として営業できます。
個人事業主の建設業許可取得後に必要な手続きについて
建設業許可は取得して終わりではなく、毎年の決算報告や5年ごとの更新、状況が変わった際の変更届など、継続的な手続きが求められます。
これを怠ると、許可の失効や信用低下につながるため注意が必要です。次から詳しい内容を見ていきましょう。
決算変更届(毎年提出)
建設業許可を取得したあと、最も重要かつ定期的に必要となるのが「決算変更届」です。
これは事業年度が終了するごとに、決算内容を所轄の行政庁に報告する手続きで、毎年必ず提出しなければなりません。
個人事業主であっても、法人と同様に義務が課されています。もし提出を怠れば、将来的な更新申請時に不利になるだけでなく、許可の取り消しや公共工事への参加制限といったリスクにつながる可能性もあるのです。
提出時に必要となる主な書類は以下のとおりです。
- 決算変更届出書(様式第22号の2)
- 工事経歴書
- 直前3年の各事業年度における工事施工費用の内訳書
- 財務諸表(個人事業主の場合は損益計算書や貸借対照表など)
- 付属明細書
提出期限は事業年度終了後4か月以内と定められているため、毎年必ずカレンダーに記入しておくことをおすすめします。
継続して提出すれば、行政庁からの信用を維持し、次の更新や融資審査でも有利に働きます。
許可の更新(5年ごと)
建設業許可には有効期限があり、5年ごとに更新手続きが必要です。
更新申請をしなければ、自動的に許可が失効してしまい、500万円以上の工事や公共工事を受注できなくなってしまいます。
失効した場合、再度「新規申請」として一からやり直さなければならず、時間も費用も余分にかかるため注意が必要です。
更新時に必要となる主な書類は以下のとおりです。
- 建設業許可申請書(更新用)
- 経営業務管理責任者や専任技術者に変更がないことを証明する書類
- 決算変更届を毎年提出していることの確認書類
- 財務諸表、納税証明書など
特に重要なのは「決算変更届を毎年きちんと提出しているか」といった点です。
これを怠っていると、更新が認められないケースがあります。更新申請は有効期限の満了日の30日前までに提出するのが一般的ですが、余裕をもって2〜3か月前から準備を始めると安心です。
許可の維持は事業継続の信用につながりますから、忘れずに計画的に進めましょう。
変更届(必要に応じて随時)
建設業を営む中で、事業の体制や状況が変わった場合には「変更届」を提出する義務があります。
これは「必要に応じて随時」行う手続きであり、届け出を怠ると虚偽申請や不備とみなされ、許可取消の対象になる場合もあるため要注意です。
変更届が必要となる主なケースは以下のとおりです。
- 商号や屋号の変更
- 営業所の所在地変更
- 経営業務管理責任者や専任技術者の交代
- 個人事業主から法人化への移行
- 代表者や役員の変更
- 定款変更(法人の場合)
提出期限は変更があった日から30日以内と定められているものが多く、比較的短いので注意が必要です。
たとえば、専任技術者が退職した場合、そのままにしておくと「無資格状態」となり、許可要件を満たさない状況に陥ってしまいます。そうなると新たな工事を受注できなくなるため、速やかに新しい技術者を確保し、変更届を提出するのが重要です。
日常業務に追われて見落としがちな手続きですが、信頼維持のためには欠かせません。
廃業届(任意だが重要)
最後に、事業をやめる場合に提出する「廃業届」について説明します。
これは任意の手続きですが、実際には非常に重要です。建設業許可をもったまま廃業してしまうと、行政庁側のデータベース上では「許可業者」として残り続け、後々トラブルや誤解を生む可能性があります。
廃業届を提出すれば、正式に「建設業許可を返上した」といった記録が残り、不要な行政からの問い合わせや通知を防ぐことができます。また、廃業後に法人を立ち上げて再度許可を申請する場合にもスムーズに進めやすいです。
提出先は許可を受けた行政庁で、廃業の日から30日以内の提出が推奨されています。
事業の終わりをきちんと手続きで締めくくることは、取引先や金融機関への信用にもつながります。「任意だから」と軽視せず、計画的に対応しましょう。
建設業許可を個人事業主から法人に変更するには?
個人と法人では別事業者として扱われるため、単純に「引き継ぐ」ことはできません。では、法人化の際にはどうすればよいのでしょうか。次から詳しく解説していきます。
法人で新たに建設業許可を申請する
個人事業主として建設業許可をもっていても、法人化した時点でそのまま引き継ぐことはできません。建設業許可は「事業者単位」で与えられるため、個人と法人は別の存在とみなされるからです。
そのため、法人化後も許可を維持したい場合は、新たに法人としての建設業許可を申請する必要があります。
申請の際には、個人時代の実績や資格を経営業務管理責任者や専任技術者の要件に活かすことが可能ですが、契約書や請求書、資格証明書など、経験を裏付ける資料の提出が求められます。
また法人の場合は、登記事項証明書や定款、決算書といった法人特有の書類も必要です。資本金や財務基盤が基準を満たしているかの確認も欠かせません。
法人での新規申請は信用力向上や事業拡大に有利ですが、審査は一から行われるため、手続きや審査期間中に「空白期間」が生じるリスクもあります。
工事契約に影響を与えないよう、法人化のタイミングを見据えた早めの準備が重要です。
事業承継による「建設業許可の承継制度」を利用する
もうひとつの方法として「建設業許可の承継制度」を利用する方法があります。
これは、相続や合併、事業譲渡などの事業承継が発生した場合に、旧事業者(個人)から新事業者(法人)へ許可を引き継ぐことができる制度です。
承継制度を使うことで、法人設立後も個人時代の許可を実質的に引き継ぐことができるため、許可の「空白期間」が生じないのが大きなメリットです。
特に公共工事や大規模工事の契約を控えている場合、途切れなく許可を維持できる点は事業にとって大きな安心材料と言えます。
ただし承継制度を利用するためには、下記の必要条件を満たす必要があるため注意しましょう。
- 個人から法人へ事業を実質的に承継していること
- 合併契約書や事業譲渡契約書など承継の証明書類が必要
- 法人側でも経営業務管理責任者・専任技術者・財務要件を満たすこと
個人事業主で建設業許可の取得に失敗してしまった例と対策
建設業許可の取得の際に 「経験はあるのに不許可だった」「資金証明でつまずいた」といった失敗事例は少なくありません。しかし裏を返せば、事前に準備しておけば防げるものばかりです。
ここからは、実際の失敗例を取り上げ、その原因と対策を解説します。
例1:実務経験が足りているつもりだったが「証明できなかった」
個人で建設業を営んでいるAさんは、職人として長年現場で腕を磨いてきました。「これだけの経験があれば許可も問題ないだろう」と考えて申請しましたが、審査では「証明できる書類が不足している」とされ、不許可に。
実は工事契約書や請求書、社会保険の加入記録など、第三者が確認できる証拠が必要だったのです。
どうすればよかったのか?
この場合は、日常的に工事契約書や請求書を保管し、必要に応じて元請会社から在籍証明書を発行してもらうことが大切でした。
また、施工管理技士や技能士といった資格を取得していれば、経験に加えて専門性を裏付ける証拠にもなります。建設業許可の審査は「証明できるかどうか」が全てです。
経験が豊富でも、それを裏づける資料を整えていなければ意味がないことを意識して準備しておく必要があります。
例2:開業届を出していなかった(経営経験の証明にならなかった)
個人で建設業を営んでいるAさんは、独立後に税務署へ「開業届」を出さずに仕事を続けていました。そのため許可申請時に「経営者としての経験を証明できない」とされ、不許可に。
どんなに仕事をしていても、公式に「経営していた」と証明できなければ認められないのです。
どうすればよかったのか?
この場合は、独立した時点で必ず開業届を提出し、確定申告書を毎年きちんと保管しておく必要がありました。
「働いていた」と「経営していた」は異なる概念であり、経営者としての裏付けを残すことが建設業許可申請に直結するポイントだったのです。
例3:預金残高が足りず、資産証明でつまずいた
個人で建設業を営んでいるAさんは、要件を満たしているつもりで申請しましたが、資金要件で不許可に。
一般建設業許可では500万円以上の資産や預金が必要ですが、通帳残高が基準を下回っていたため認められませんでした。
どうすればよかったのか?
この場合は、申請の数か月前から預金残高を基準額以上に維持しておくことが必要でした。
加えて、税理士に相談して決算内容を改善しておけば、資産の安定性を示すことも可能です。さらに、金融機関の融資枠や保証協会の証明書を活用すれば、資金面での信用を補強できました。
資産要件は抜け道がないため、早めに資金計画を立て、証明できる状態を整えておくことが重要だったのです。
例4:営業所の実態が認められなかった
個人で建設業を営んでいるAさんは、自宅の一室を営業所として申請しました。
しかし固定電話や机、帳簿などがそろっておらず、形式だけの「住所」にすぎなかったため「営業所の実態がない」と判断されてしまいました。
どうすればよかったのか?
この場合は、固定電話や机、パソコン、帳簿などをそろえて「営業拠点として実態がある」と示す必要がありました。
契約書や請求書を保管できる体制を整えておけば、審査側にも事務所として機能していることが伝わります。バーチャルオフィスや名義貸しでは許可は下りません。
営業所は「事業を管理する場所」としての実態を伴うことが必須であり、そこを整備していればスムーズに認められたでしょう。
まとめ
個人事業主であっても建設業の許可を得ることで500万円以上の工事や公共工事を請け負うことが可能になり、信用力や融資審査でも有利です。
申請手続きは法人より簡単で、必要書類の準備や費用も明確です。
ただし、取得には一定の経験や技術者の配置、財務基盤が必要で、取得後も定期的な更新や届出が求められます。
無許可営業は契約無効や信用失墜など大きなリスクがあるため、早めの取得がおすすめです。
ご自身で申請手続きをするのが難しいといった場合は、行政書士などの専門家に相談しましょう。