死後事務委任契約の効力は?できることやできないこと、費用まで徹底解説!

「死後事務委任契約」とは、自分の死後に必要な手続きを信頼できる人に託すための契約です。
死亡届の提出、葬儀の手配、遺品整理などは、通常は家族がおこなうものとされていますが、身寄りのない方や家族と疎遠な方にとっては、それが難しい現実もあります。そんなとき、自分の希望どおりに死後の対応をしてもらうために、死後事務委任契約を利用します。
しかし、死後事務委任契約は「どのようなことができるの?」「遺言と何が違う?」「費用や注意点は?」など、気になる疑問も多いはず。
本記事では、死後事務委任契約の基本から、できること・できないこと、費用の目安やトラブル回避のポイントまで、わかりやすく解説します。
将来への備えとして自分の希望をきちんと形にしたい方は、ぜひ最後までお読みください。
死後事務委任契約の効力は?
死後事務委任契約は、本人の死後に発生する事務的な手続きを特定の相手に任せるための契約です。
たとえば、死亡届の提出や葬儀の手配、遺品整理、公共料金の解約など、遺族が本来おこなう業務を、受任者に代行してもらうことができます。
この契約を通じて、身寄りのない方や家族と疎遠な方でも、自分の死後の対応について事前に準備しておくことができます。
ただし死後事務委任契約は、あくまで財産の分配や相続といった権利行使ではなく、事務処理を委任するものであるため、遺言とは別に、補完的な役割をもつしくみとして活用されます。
近年は、終活の一環として関心が高まっている制度のひとつです。
法的根拠はあるの?
死後事務委任契約は、委任者(本人)と受任者との間の合意によって成立する「委任契約」の一種です。
通常の委任契約では、民法第653条に基づき、委任者または受任者が死亡すると契約は終了しますが、「委任者の死亡後も契約が継続することを合意していた場合には、契約が終了しない」との考えが認められているため、死後事務をおこなう目的での委任契約として法的にも有効であると考えられています。
効力の発生時期
死後事務委任契約の効力が実際に発生するのは、契約者である本人が死亡した時点で、それまでは契約の準備段階に過ぎず、生前には一切の効力を持ちません。
そのため、契約内容が本人の意思であることを証明するためにも、元気なうちに契約を交わしておくことが重要です。
また、契約書には「死亡後に発効する」旨を明確に記載しておく必要があります。
さらに死亡の事実を誰が受任者に通知するかといった実務上の段取りも事前に考えておかないと、実行が遅れてしまう可能性があるため注意してください。
確実に契約が履行されるためにも、発効のタイミングとそのあとの手続きの流れをしっかり整えておきましょう。
死後事務委任契約の効力を確実にする方法
死後事務委任契約の効力を確実にする方法として、以下が挙げられます。
- 公正証書で契約を作成する
- 契約内容を具体的かつ詳細に記載する
- 信頼できる受任者を選定する
- 親族に契約の存在を事前に伝える
それぞれ詳しく見ていきましょう。
公正証書で契約を作成する
死後事務委任の契約書は、公正証書として作成しておくことで、契約内容の証明力と法的信頼性が格段に高まります。
公正証書とは、公証役場で公証人が内容を確認・記録して作成する公式な文書であり、万一のトラブル時にも強い証拠力を持ちます。
作成には、公証人と事前に打ち合わせを行い、契約内容を整理する必要があります。
必要書類としては、本人と受任者の身分証明書、契約内容の原案などが挙げられます。
契約書は本人の意思確認を経て公証人が読み上げたうえで作成され、原本は公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの心配もありません。
契約内容を具体的かつ詳細に記載する
契約を確実に実行に移すためには、記載する内容を明確かつ具体的にするのが大切です。
抽象的な表現では、後の対応で混乱が起きてしまう可能性があるため、たとえば「遺体の引き取り」「葬儀の手配」「死亡届の提出」など、受任者に依頼する行為を細かく記しておく必要があります。
また記載時には、業務の範囲や方法、時期などを細部まで定めておくことで、受任者が迷わず対応できます。
さらに、必要に応じて連絡先や参考書類の情報も併記しておくと、さらに実効性が高まります。
信頼できる受任者を選定する
死後の各種手続きを安心して任せられるようにするためには、適任の受任者を慎重に選ぶ必要がありす。
実務を遂行する相手には、誠実で責任感があり、必要な連絡や判断が的確にできる人物を選びましょう。
たとえば親族や知人に限らず、法律の専門職に委任する選択肢もあります。
いずれの場合も、必ず本人の了承を得て、契約内容や期待する役割を丁寧に伝え、納得のうえで契約を結ぶようにしましょう。
親族に契約の存在を事前に伝える
死後事務委任契約を結んだ際には、それについて親族や関係者にあらかじめ知らせておきましょう。
なぜなら、契約内容を知らずに親族が独自に動いてしまうと、受任者との間で意見が食い違ったり、不要な対立が起きてしまう可能性があるからです。
そのため、契約を締結した時点で、信頼する家族にその旨を説明し、受任者と連携をとる体制を整えておくことが重要です。
また、遺言書やエンディングノートに契約の有無や詳細を記しておくと、死後の意思を正確に伝えることができるでしょう。
死後事務委任契約でできること
死後事務委任契約でできることは、以下のとおりです。
- 葬儀・火葬・埋葬に関する手続き
- 行政手続き
- 未払い費用の精算・契約の解約
- 住居の明け渡し・遺品整理
- デジタル遺品の整理
- ペットの世話・引き渡し
それぞれ詳しく解説していきます。
葬儀・火葬・埋葬に関する手続き
死後事務委任契約を結んでおくと、自分が亡くなったあとの葬儀や火葬、埋葬について、信頼できる人にしっかりと任せることができます。
手続きを任せる際は、どのようなお葬式をしてほしいか、宗教の形式、火葬後の納骨や散骨の場所などを具体的に決めておくとよいでしょう。
死後事務委任契約は、特に身寄りが少ない方や家族と疎遠な方にとって、自分の「最後の時間」を安心して託せるしくみだと言えるでしょう。
行政手続き
人が亡くなると、下記のような役所に提出すべき書類や保険・年金などの手続きが次々に出てきます。
- 死亡届の提出
- 健康保険証の返却および資格喪失手続き
- 国民年金・厚生年金の受給停止手続き
- 介護保険証の返却および資格喪失の届出
- 住民票の除票申請
- マイナンバーカードの返納手続き
- 遺族給付や葬祭費の申請手続き
- 所得税や住民税の準確定申告・納税手続き
これらの手続きには期限が設けられているものが多く、放置すると給付金の受け取り漏れや、税務上のトラブルにつながることもあります。
死後事務委任契約を通じて、信頼できる人に任せておけば、こうした面倒な行政手続きを安心して託すことができます。
未払い費用の精算・契約の解約
死後事務委任契約では、下記のような未払費用の精算や解約などもお願いできます。
- 医療機関への未払費用の清算
- 公共料金(電気・ガス・水道)の支払い
- 携帯電話やインターネットなどの契約解除など
これらの支払いは通常、相続財産の範囲で処理されますが、誰が手続きするのか明確でないと、督促状が届いたり、延滞が発生するなどの混乱につながります。
死後事務委任契約でこれらを委任しておけば、受任者が速やかに対応でき、故人の信用や財産を守ることにもつながります。
住居の明け渡し・遺品整理
本人が亡くなったあと、住んでいた住居の解約手続きや明け渡し、室内の片付けや遺品の整理も必要です。
遺品整理では、家財道具の処分、形見分け、重要書類の発見などが含まれ、場合によっては専門の業者に依頼する場合もあります。
これらの作業は家族にとって精神的にも肉体的にも負担が大きいため、信頼できる受任者に委任しておくことで、適切かつ迅速に対応できるでしょう。
デジタル遺品の整理
近年増加しているのが「デジタル遺品」の整理です。
死後事務委任契約では、たとえばスマートフォンやパソコンに保存された写真、SNSアカウント、クラウド上のデータ、ネット銀行や証券口座など、いわゆる「デジタル遺品」についても対応をお願いできます。
死後事務委任契約を通じて、パスワードやログイン情報の管理、アカウントの削除依頼、サブスクリプションの停止などを受任者に委ねておけば、デジタル上の整理もスムーズにおこなえます。
ペットの世話・引き渡し
独居高齢者などでペットを飼っている場合、飼い主の死後にペットの世話や引き渡しを誰がおこなうかも大きな問題となる場合が多いです。
死後事務委任契約では、ペットのお世話や、新しい飼い主への引き渡しについても、あらかじめ決めておくことができます。
信頼できる知人や団体に引き渡す内容を契約書に明示すれば、大切な命を安心して託すことができます。
家族同様に大切にされてきたペットの命を守るためにも、こうした取り決めを必ずおこないましょう。
死後事務委任契約でできないこと
死後事務委任契約でできないことは、以下のとおりです。
- 財産の分配や相続に関すること
- 生前の財産管理や医療・介護に関すること
- 身分行為に関すること
それぞれ詳しく解説していきます。
財産の分配や相続に関すること
死後事務委任契約では、本人の死後に必要となる事務手続きを第三者に委任できますが、「財産の分配」や「遺産相続」に関することは対象外です。
これは、相続に関する法律上の権利関係が法定相続人や遺言書の内容によって決まるためで、たとえ契約で「この方に財産を渡してほしい」と記載しても、法的効力は持ちません。
遺産を特定の人に渡したい場合には、公正証書による遺言書の作成が必要です。
死後事務委任契約はあくまで死後の事務処理に限定された制度であり、財産に関する配分や決定権は持たないことをしっかり理解しておくことが大切です。
生前の財産管理や医療・介護に関すること
死後事務委任契約は、契約者が亡くなったあとの事務処理について委任するものであり、生きている間の財産管理や医療・介護の手続きは対象外です。
たとえば、「入院の手続き」や「施設への入居契約」、「銀行口座の管理」といったことを他人に任せたい場合には、別途「任意後見契約」や「財産管理委任契約」などが必要になり、死後事務委任契約を結んでいても、本人が元気で生活している間は一切効力を持ちません。
もし将来に備えるには、死後だけでなく生前の支援体制も同時に考えておくことが重要です。
身分行為に関すること
死後事務委任契約では、「身分行為」と呼ばれるような本人の人格や法律上の地位に関わる行為を代行できません。
たとえば、結婚や離婚の手続き、養子縁組の届け出、認知の手続きなどは本人にしかできない行為であり、たとえ契約で受任者に任せたとしても無効です。
また、死亡後の遺言の書き換えや、子どもの認知に関する申し立てなども同様に契約で委任できません。
これらは民法上「本人にしかできない」とされる行為であり、死後事務委任契約の範囲を超えています。
つまり、身分に関する手続きは法的に強く制限されているため、死後の希望を反映させたい場合は、遺言書や信託など、別の法的手段を検討しましょう。
死後事務委任契約とほかの制度の違い
ここでは、死後事務委任契約とほかの制度の違いをみていきましょう。
遺言書
遺言書は、自分の財産を誰にどう分けるかといった「相続」に関する意思を残すための法的文書です。
一方、死後事務委任契約は、死亡後の事務手続き(葬儀や住居の明け渡し、デジタル遺品の整理など)を第三者に依頼するための契約です。
遺言書は財産分配の指定に特化しており、法律で厳格な形式が定められていますが、死後事務委任契約は事務的な手続きに特化しており、形式は比較的自由です。
相続の意思を明確にしたいなら遺言書が、死後の具体的な処理を任せたいなら死後事務委任契約が最適です。
どちらも役割が異なるため、併用すればより自分の意思を幅広く反映できます。
任意後見契約
任意後見契約は、自分の判断能力が低下したときに備え、信頼できる人に財産管理や生活支援などの後見を任せる契約です。
任意後見契約は「生前」における支援制度であり、判断能力があるうちに結んでおき、実際の効力は家庭裁判所の監督のもと、後見人が選任されたあとに発生します。
一方、死後事務委任契約は、本人の死後に発効し、死亡届や葬儀手配など「死後の事務処理」を任せるものです。
つまり、任意後見は生きている間の備え、死後事務委任は亡くなったあとの備えです。
判断能力の低下に備えるなら任意後見契約、死後の不安を解消したいなら死後事務委任契約が適しています。
財産管理委任契約
財産管理委任契約は、本人の判断能力があるうちに、預金の管理や支払い代行、契約手続きなど、日常的な財産管理を他人に任せる契約です。
こちらも「生前」に効力をもつ制度であり、高齢や病気により自分で手続きが困難になった場合に役立ちます。
一方、死後事務委任契約は、本人の死亡後に始まる業務に限定されており、財産分配は含まれません。
財産管理委任契約は「今の生活を支えてもらうため」の制度、死後事務委任契約は「亡くなったあとを安心して任せるため」の制度と言えます。
両者を使い分けることで、生前から死後まで切れ目なく備えることができるでしょう。
死後事務委任契約はどのような方に必要?
死後事務委任契約は、以下のような方に利用されることが多いです。
- おひとりさま(独身・子どもがいない方)
- 家族や親族と疎遠な方
- 終活を進めている方
- 高齢者施設・有料老人ホームに入居している方
詳しく解説していきます
おひとりさま(独身・子どもがいない方)
死後事務委任契約は、独身で子どもがおらず身寄りの少ない方にとって、欠かせない制度と言えるでしょう。
親族がいない、あるいは関わりが薄い方の場合、自分が亡くなったあとに誰が手続きをおこなうのかなどの問題がおきてしまいます。
人が亡くなったあとには、死亡届の提出や葬儀の手配、住まいの片付けまで、対応すべきことは多岐にわたり、もし誰にも頼んでいなければ、行政が対応するまで放置されるケースも0ではありません。
こうしたリスクを避けるためにも、信頼できる第三者に手続きを委ねる契約を結んでおけば、死後の対応を安心して託せます。
家族や親族と疎遠な方
死後事務委任契約は、親族と連絡を取っていない、もしくは関係が断絶している方にとっても重要な制度と言えるでしょう。
血縁者がいても、関係が希薄であれば、死後の手続きをお願いするのは現実的に難しいこともあります。
また、親族同士の意思の食い違いが原因で、手続きが進まなかったり、葬儀の方法を巡って争いになるケースもありますが、信頼できる他人と事前に契約を交わしておくことで、自分の意向をしっかりと反映しながら、確実に手続きを進めてもらうことができます。
終活を進めている方
死後事務委任契約は、人生の終わりに向けた準備を進めている方にとって、備えておくべき制度のひとつと言えます。
エンディングノートの作成や遺言書の準備と並行して、葬儀の方法、部屋の片付け、未払い費用の精算、デジタル遺品の整理など、自分の死後に発生する事務作業を信頼できる人に委任しておけば、残された人への負担も減ります。
自分らしい最期を迎えるために、元気なうちに準備を進めておくことが大切です。
高齢者施設・有料老人ホームに入居している方
死後事務委任契約は、介護施設や老人ホームに入っている方にとっても、死後の安心につながる重要な制度です。
施設での生活は快適でも、万が一亡くなった際に、部屋の退去手続きや荷物の整理など、すぐに対応しなければならないことが多数あります。
近くに頼れる家族がいなければ、施設側も困ってしまうのが現実ですが、死後事務委任契約を締結しておくことで、受任者が速やかにこれらの対応をおこなってくれます。
結果的に、施設職員にも迷惑をかけず、自分の死後もきちんと整理された形で物事が進んでいきます。
死後事務委任契約は誰に頼める?
死後事務委任契約は、以下のような方に頼むことができます。
- 家族・親族
- 友人・知人
- 弁護士・司法書士・行政書士などの士業
- NPO法人・一般社団法人・死後事務支援サービス提供団体
それぞれ詳しく解説していきます。
家族・親族
死後事務委任契約は、まず家族や親族に頼むのが一般的です。
親しい家族であれば、本人の考えや価値観をよく理解しているため、希望に沿った対応をしてくれる可能性が高いでしょう。
ただし、親族間の関係性や距離の問題があると、実際にスムーズな対応ができないこともあります。
また、財産や相続に関わる場面で利害が生じると、後々トラブルに発展する場合もあるため、契約内容はなるべく詳細かつ客観的に明記し、双方で理解を深めておくことが大切です。
友人・知人
死後事務委任契約は、信頼できる友人や長年付き合いのある知人にも依頼できます。
ただし、いくら親しい友人でも法的には他人であるため、契約書をしっかり作成し、業務内容や責任の範囲を明確にしておくことが不可欠です。
また、万一のときに実務を遂行できる環境にあるか(体力・時間・経済的余裕など)も事前に確認しておくべきポイントです。
弁護士・司法書士・行政書士などの士業
死後事務委任契約は、弁護士や司法書士、行政書士などの事業の方にも依頼可能です。
これらの士業は、法律知識をもとに契約書の作成から実務まで対応してくれるため、形式的にも内容的にも確実性が高く、特に他人に迷惑をかけたくないと考える方には適しています。
また、相続や遺言との連携もスムーズにおこなえる点が大きなメリットです。
一方で、費用がかかることや、士業によって対応範囲に違いがある点には注意が必要です。
契約前に見積もりや業務範囲、実績などをよく確認し、自分の希望する対応が可能かどうかをしっかり打ち合わせしておきましょう。
NPO法人・一般社団法人・死後事務支援サービス提供団体
死後事務委任契約は、近年ではNPO法人や一般社団法人、死後事務を専門に扱う団体にも依頼できるようになってきました。
これらの団体は、単身者や高齢者の支援を目的としており、死後の各種手続きをパッケージとして提供している場合もあります。
定型的な業務に強く、全国対応が可能な団体もあるため、家族がいない方や遠方の知人に頼りづらい方には心強い存在です。
ただし、団体によってはサービスの内容や質に差があるため、事前に評判や契約実績、費用体系などをしっかり調べる必要があります。
また、契約内容は必ず書面で交わし、具体的な業務の範囲や緊急時の対応についても明確にしておくことが重要です。
死後事務委任契約にかかる費用
死後事務委任契約にかかる費用は、以下のとおりです。
- 契約書の作成費用
- 入会金・年会費(団体利用の場合)
- 死後に発生する費用
次からはそれぞれ大体どのくらいの費用がかかるのかを詳しく見ていきましょう。
契約書の作成費用
死後事務委任契約を締結するには、まず契約書を作成する必要があり、その際にも費用が発生します。
自分での作成も可能ですが、法的効力を確実にするためには、専門家のアドバイスを受けて正確な内容で作成するほうがよいでしょう。
専門家に依頼した場合の費用は、書面の作成のみであれば数万円〜10万円程度、加えて契約内容の相談やサポートを含めた場合は、全体で10〜30万円程度になることもあります。
公正証書として作成する場合は、これに加えて公証人手数料も必要です。契約書の不備は将来的なトラブルに直結するため、必要な費用として見込んでおくことが大切です。
入会金・年会費
死後事務支援を提供するNPO法人や一般社団法人などの団体を利用する場合、会員制度が採用されていることが一般的で、入会金や年会費がかかります。
入会金は1〜5万円、年会費は1万円前後が相場とされています。
これらの費用には、事務対応の基本料金や相談料などが含まれていることもあり、サービスの範囲や内容によって費用に差が出ます。
継続的に年会費を支払う必要があるため、長期的な利用を見据えて費用を検討するのが重要です。
また、団体によっては無料で利用できるプランもあるため、複数のサービスを比較検討し、自分に合った支援内容を選ぶことがポイントです。
死後に発生する費用
契約時点の費用とは別に、実際に本人が亡くなったあとに発生する実費も考慮しておく必要があります。
葬儀費用、火葬・納骨にかかる費用、遺品整理、役所への手続き費、公共料金や通信契約の精算など、さまざまな支払いが生じます。
これらの費用は委任内容によって大きく異なりますが、総額で数十万円〜100万円以上になるケースもあるため、あらかじめ必要な費用を預託金として用意しておくか、支払い方法を契約で明確にしておく必要があります。
死後の円滑な対応を実現するために、実費の見積もりも忘れずに行いましょう。
死後事務委任契約の流れ
死後事務委任契約の流れは、以下のとおりです。
- 希望・目的の整理
- 受任者の選定
- 契約内容の決定
- 契約書の作成
- 費用の準備
- 関係者への通知・共有
- 死亡後、受任者が業務を実行
次から順を追って見ていきましょう。
1. 希望・目的の整理
死後事務委任契約を始めるにあたって、最初に自分が死後にどのような手続きを誰にお願いしたいのか、目的や希望を整理しましょう。
たとえば、「無宗教で簡素な葬儀にしたい」「ペットの世話を引き継いでほしい」「住まいの片付けを頼みたい」など、細かい希望を明確にしておくことで、具体的な自分の要望を叶えることができます。
この段階でエンディングノートを使ったり、終活セミナーに参加して情報を集めるのもよいでしょう。
自分の死後に残された方たちが困らないよう、まずは自分自身の意志を整理しておくことが大切です。
2. 受任者の選定
次に重要なのが、死後の事務を任せる「受任者」を選ぶことです。
信頼できる家族や友人を選ぶのが一般的ですが、身近に頼れる方がいない場合は、弁護士や司法書士などの専門家、あるいはNPO法人などの団体にも依頼可能です。
受任者には、契約内容の理解はもちろん、実際に行動できる体力や時間、責任感も必要です。
誰に依頼する場合でも、事前にしっかり話し合い、了承を得たうえで選定するのが重要です。
また、受任者が複数の場合は、役割分担も明確にしておくとトラブル防止につながります。
3. 契約内容の決定
受任者が決まったら、次はどのような事務を任せるのか、具体的な内容を決めていきます。
委任できる業務には、葬儀や納骨、役所手続き、遺品整理、デジタル遺品の管理、契約の解約などがあり、希望する内容をひとつひとつ明確化しておく必要があります。
曖昧な表現では誤解を生むため、できるだけ具体的に書くことがポイントです。
もし記載内容に不安がある場合は、士業のアドバイスを受けながら作成すると安心です。
4. 契約書の作成
契約内容が決まったら、実際に契約書として書面に残します。
法律的な効力を確実にするためには、公証役場で「公正証書」として作成するのが一般的です。
公証人に内容を確認してもらうことで、契約の正当性が高まり、後のトラブルを防ぐ効果もあります。
自分で私文書を作成するのもよいですが、公正証書の方が証明力が強く、受任者が手続きをおこなう際にも安心です。
書類の作成には公証人との事前相談が必要で、費用や手続き方法も事前に確認しておきましょう。
5. 費用の準備
契約をスムーズに進め、死後の手続きを実行してもらうためには、必要となる費用の準備も欠かせません。
たとえば、契約書の作成費、公証人手数料、士業への報酬、団体利用時の入会金・年会費などを用意しておきましょう。
また、死後にかかる実費(葬儀代、遺品整理費用、交通費など)や受任者への報酬も考慮し、事前に資金を用意しておくことが重要です。
費用を支払う手段は、信託契約や預託制度を利用するケースもあります。支払い方法や費用は契約書に明記し、トラブル防止に努めましょう。
6. 関係者への通知・共有
死後事務委任契約の手続きは、契約を結んだら、それで終わりではありません。
家族や近しい親族、施設の職員など、関係者に契約の存在と内容をあらかじめ伝えておくことも大切です。
死後事務委任契約は法律上有効でも、周囲が知らなければ受任者がスムーズに動けないこともあります。
また、契約のコピーを受任者本人や信頼できる第三者に保管してもらうことも忘れずに行いましょう。
関係者との共有は、万が一のときの混乱や誤解を防ぎ、本人の希望を確実に実現するうえで欠かせないステップです。
7. 死亡後、受任者が業務を実行
契約者が亡くなると、受任者が契約に基づいて具体的な死後事務を行います。
受任者は契約書にしたがって行動するため、あらかじめ詳細に取り決めておくことで、実行時の混乱を防げるでしょう。
また、業務の中には支払いが発生するものもあるため、費用面の準備や遺産の扱いについても明確にしておく必要があります。
受任者が負担なくスムーズに動けるよう、事前準備をしっかりおこないましょう。
死後事務委任契約に関するよくあるトラブル事例
ここでは死後事務委任契約に関するよくあるトラブル事例を3つ見ていきましょう。
トラブル事例①:家族・親族に契約内容を知らせていなかった
Aさんは、信頼できる知人と死後事務委任契約を結び、自分の希望どおりの葬儀を任せていました。
しかし、亡くなったあとに家族がその契約の存在を知らず、親族が別途葬儀を進めてしまいました。
結果として、Aさんの希望は反映されず、受任者と家族との間でトラブルになってしまいました。
どうするべきだったのか?
死後事務委任契約を結んだら、必ず家族や関係者にその内容や存在を伝える必要がありました。
契約書のコピーを家族にも渡し、内容を共有しておけば、死後に混乱が生じるのを防げたでしょう。
また、エンディングノートや遺言書に記載しておくという選択肢もあったと言えるでしょう。
トラブル事例②:受任者が業務を遂行せず放置
Bさんは、長年の友人と死後事務委任契約を交わして安心していましたが、自分の死後、その友人は手続きを怠り、何もせず放置。役所から家族に連絡がきて、急きょ親族が対応しなければならず、大きな混乱を招きました。
どうするべきだったのか?
受任者には事前に契約内容をしっかり説明し、同意を得ておくことが必要でした。
また、責任感をもって遂行できる人物かどうか、冷静に見極めることも重要でした。不安がある場合は、士業や専門団体に依頼するのも選択肢のひとつです。
トラブル事例③:費用の準備が不十分で手続きが止まった
Cさんは、死後事務委任契約を専門家と結びましたが、葬儀や遺品整理などに必要な資金を十分に準備していませんでした。
亡くなったあと、受任者が手続きを進めようとしても、費用が足りずに実行できない状況に陥りました。
どうするべきだったのか?
死後事務にかかる費用(葬儀費用、整理業務、交通費など)は契約時に見積もりを立て、あらかじめ準備しておく必要がありました。
信託や預託制度、専用口座の活用などで確実に資金が使える状態を整えておくと、受任者もスムーズに行動できます。
費用負担の明記と受任者との確認も忘れずに行いましょう。
まとめ
死後事務委任契約は、本人の死後に必要な手続きを信頼できる相手に任せる契約で、おひとりさまや家族と疎遠な方、終活を進めている方にとって、自分の意思を形にするための有効な手段です。
契約で死後依頼できる手続きは、葬儀の手配、死亡届の提出、遺品整理、契約の解約などが対象で、相続や財産分配は含まれません。
死後事務委任契約を確実にするには、契約書を公正証書で作成し、内容を具体的に記し、信頼できる受任者を選ぶことが重要です。また、家族や関係者に契約の存在を伝えておくことでトラブルを防げます。
費用は契約書作成、公証人手数料、支援団体の会費、死後の実費などが必要となるため、事前に見積もりをだして準備をしっかりおこないましょう。