相続が発生したら何をすればいい?必要な手続きと期限を解説

ご家族が亡くなられた際、深い悲しみの中で、さまざまな手続きを進めなければならない状況は、多くの方にとって初めての経験で、戸惑うことも多いでしょう。
特に、相続に関する手続きには期限が設けられているものも多く、後回しにすると不利益を被る可能性もあります。
本記事では、相続が発生した際に必要となる手続きとその期限について、初めての方にもわかりやすく解説します。
記事内では、手続きをスムーズに進めるためのポイントや注意点、さらに専門家への相談が必要なケースについても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
「相続が発生する」とは
「相続が発生する」とは、人が亡くなった時(被相続人の死亡時)に、その方(被相続人)が所有していた財産(土地、建物、預貯金、株式など)や負債(借金、未払金など)が、配偶者や子などの法定相続人に引き継がれることをいいます。
相続は、被相続人の死亡と同時に自動的に発生し、遺産分割や税金の申告など、多くの手続きが必要になります。
相続開始時に発生する主な手続きの例
- 遺言書の有無の確認
- 相続人の調査・確定
- 相続財産の調査
- 相続放棄・限定承認の検討(相続開始を知った日から3ヶ月以内)
- 遺産分割協議
- 相続税の申告・納付(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)
これらの手続きの中には、期限が定められているものもあります。
期限を過ぎてしまうと、相続放棄ができなくなったり、相続税の申告で特例が利用できなくなったりするなど、不利益を被ることもあります。そのため、相続が発生したら、できるだけ早く、必要な手続きについて確認し、早めに準備を進めることが大切です。
相続が発生したらすぐに行う手続き
相続が発生したら、まずは故人とお別れをするために、7日以内に死亡届を提出して葬儀・火葬の許可をとらなければなりません。そのほかにも、亡くなってから14日以内と比較的早期に行うべき手続きがあります。
死亡届の提出と火葬許可申請【原則7日以内】
人が亡くなったら、原則として、死亡の事実を知った日から7日以内に、市区町村役場に「死亡届」を提出しなければなりません。これは戸籍法で定められた義務であり、死亡の事実を公的に証明するための手続きです。
死亡届は、死亡地、死亡者の本籍地、または届出人の所在地のいずれかの市区町村役場に提出します。届出人は、親族、同居者、家主、地主、家屋管理人、土地管理人など、戸籍法で定められた順位に従います。
提出には医師による「死亡診断書(または死体検案書)」と一対になった死亡届書、届出人の印鑑(認印可)が必要です。なお、届出人の本人確認書類が必要な場合もあります。
また、国外で死亡した場合は、死亡届の期限がその事実を知った日から3ヶ月以内となります。死亡届を提出しないと、火葬許可証が交付されず、火葬を行うことができません。
また、その後の相続手続き(預貯金の払い戻し、不動産の名義変更など)にも支障が生じます。
死亡診断書は生命保険金の請求など後々の手続きで死亡を証明する書類として使えるため、多めにコピーを取っておくことをおすすめします。
死亡届を提出すると「火葬証明願」の用紙を渡されます。その場で記入して窓口に提出することで、火葬許可証が交付されます。火葬許可証は火葬場で必要になるため、葬儀の日程が決まったらすぐに手続きをしておきましょう。
世帯主変更届の提出【14日以内】
亡くなった方が世帯主だった場合、残された世帯員の構成によっては、新しい世帯主を届け出るため「世帯主変更届」を市区町村役場の窓口に提出する必要があります。届出人は、新しい世帯主となる方、または世帯員です。死亡届の提出と同時に手続きを届出を済ませるのが一般的です。
手続きには、世帯主変更届(市区町村役場の窓口にあります)、届出人の本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)が必要です。なお、国民健康保険に加入している場合は、国民健康保険証も持参しましょう。
ただし、亡くなった方が一人暮らしだった場合や、残された世帯員が1人だけの場合、残された世帯員が2人以上でも、新しい世帯主が明らかな場合(例:夫婦と15歳未満の子どもの世帯で夫が亡くなった場合、妻が世帯主となる)には、世帯主変更届の提出は不要です。
年金や保険の手続き【14日以内】
年金や保険の手続きは、市区町村役場の窓口で済ませられるものが多いですが、種類や加入状況によって、手続きの窓口や期限、必要書類が異なります。
自治体によっては「おくやみ窓口」などで、役場内で行う手続きを全て案内してもらえる場合もあります。事前に問い合わせて必要書類などを確認しておき、一度に複数の手続きを終えられると理想的です。
健康保険の資格喪失手続き
亡くなった方が加入していた健康保険の種類によって、手続きが異なります。
亡くなった方が国民健康保険に加入していた場合、市区町村役場に資格喪失の届出を行い、国民健康保険証を返却します。。世帯主が亡くなった場合は、同じ世帯で国民健康保険に加入している全員分の保険証を一旦返却し、新しい世帯主の情報が記載された保険証の交付を受ける必要があります。
また、亡くなった方が会社の健康保険(社会保険)に加入していた場合は、勤務先の会社が手続きをするため、亡くなったことをすぐに会社に伝えましょう。扶養家族がいる場合は、ほかの家族の社会保険に加入するか、国民健康保険に加入することになります。
後期高齢者医療制度の場合は、市区町村役場(後期高齢者医療担当窓口)に資格喪失届を提出し、被保険者証を返却します。
介護保険の資格喪失手続き
要介護認定や要支援認定を受けていた方が亡くなった場合、市区町村役場に介護保険の資格喪失届を提出し、介護保険証を返却します。
死亡により介護保険料を納め過ぎている場合は、相続人に還付されることもあります。還付手続きには振込先の口座情報が必要になるため、事前に確認しておきましょう。
国民年金の資格喪失手続き
国民年金を受給していた方が亡くなった場合、年金受給権者死亡届(報告書)を提出します。。
手続きの期限や窓口は、受給していた年金の種類によって異なります。老齢年金の場合は死亡日から14日以内、老齢年金と厚生年金を併せて受給している場合は10日以内に、年金事務所または年金相談センターへ提出します。障害基礎年金や遺族基礎年金のみを受給していた場合は、市区町村役場に提出します。
手続きを怠ると、年金の振り込みが継続され、後から返還を求められることがあります。
特に、金融機関が被相続人の口座を凍結する前に振り込まれた年金は、そのまま引き出してしまうと後で問題になる可能性があるため、注意が必要です。
相続が発生したら随時行う手続き
公共料金やクレジットカード、各種契約など、故人の名義になっている契約は、残された家族の生活に直結するものが多いため、忘れずに手続きを行いましょう。
これらの手続きには、厳密な期限が定められていない場合が多いですが、放置すると未払いが発生したり、不要な料金を払い続けることになったりする可能性があるため、早めに手続きを済ませておくことをおすすめします。
公共料金の名義変更手続き
亡くなった方の名義で契約していた電気、ガス、水道などの公共料金は、各契約先の会社に連絡して解約または名義変更の手続きをしましょう。
引き続き同じ住居に住む人がいる場合は、契約の名義と支払い方法を変更します。誰も住まなくなる場合は、解約手続きを行い、未払い料金がある場合は精算します。
手続きをせずに放置すると、料金の引き落としができなくなり、ライフラインが停止してしまう可能性があります。名義変更の手続きには、一般的に以下の書類などが必要になります。
- 契約者の死亡を証明する書類(死亡診断書(死体検案書)のコピー、除籍謄本など)
- 相続人の本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- 新しい契約者(名義人)の情報
- (口座振替に変更する場合)新しい口座の情報
具体的な手続き方法や必要書類は、各契約会社によって異なります。
まずは、各社のウェブサイトで確認するか、カスタマーセンターに電話で問い合わせて、詳細を確認しましょう。
また、忘れがちな以下のような契約も、故人名義になっていないか確認し、必要に応じて名義変更や解約の手続きを行いましょう。
- 通信サービス:携帯電話、固定電話、インターネット回線、有料放送サービスなど
- 各種会員サービス:スポーツクラブ、クレジットカード、有料動画配信サービス、定期購入サービスなど
- その他:新聞、NHK受信料、家賃、駐車場など
これらの契約は、自動更新されるものや、解約しない限り料金が発生し続けるものもあるため、注意が必要です。
不要な契約は、早めに解約手続きを行いましょう。
住民税や固定資産税の手続き
被相続人が納めていた住民税や固定資産税の支払い義務は相続人に引き継がれ、期限までに納付しなければなりません。
住民税の手続き
住民税は、亡くなった年の分は1年分課税されるため、相続人が代わりに納める必要があります。例外的に、1月1日に亡くなった方は、亡くなった年の住民税が課税されません。
納付書が手元にない場合や、住民税が課税されているかどうかがわからない場合は、亡くなった方が1月1日時点で住民票を置いていた市区町村の住民税担当課の窓口で確認しましょう。
固定資産税の手続き
固定資産税は、1月1日時点で被相続人が所有していた不動産に対して課され、年の途中で亡くなっても月割にはなりません。相続人が誰になるのかが確定するまでの間は、相続人の代表者が支払います。遺産分割協議が終わり、不動産の名義変更の登記(相続登記)をすると、法務局から自治体へ連絡が行き、翌年からは新しい所有権者に固定資産税が課税されます。
課税や納税の状況がわからない場合は、不動産がある市区町村役場の固定資産税担当課に未払いの税金がないかどうかを確認しましょう。住所地以外の市区町村にも不動産を所有している場合、自治体ごとに問い合わせが必要な点に注意が必要です。固定資産台帳(名寄帳)を取得すると、同一市区町村内で所有している不動産の内訳がわかります。原則として電話では具体的な税額や財産の情報は教えてもらえないため、相続人であることがわかる書類を持参して窓口に行きましょう。
金融機関への連絡
被相続人名義の銀行口座などがある場合、金融機関は死亡の事実を知った時点で被相続人の口座を凍結します。口座が凍結されると、相続手続きが終わるまで預金の引き出しや振込などの取引ができなくなります。
不動産の賃料が振り込まれる場合や、公共料金の引き落とし口座になっている場合は、口座が凍結されてしまうと入出金が滞ってしまう可能性があります。そのため、名義変更などの手続きが済むまでは口座をそのままにしておいた方が手間がかからないこともあります。
ただし、葬儀代金が足りないからといって、故人の口座から勝手に資金を引き出すのは絶対に辞めましょう。金融機関の規約に違反する可能性があるほか、被相続人の財産に手をつけたことになり、相続放棄ができなくなるリスクがあります。
相続発生後に行う遺産分割の準備
「相続人は妻と子だけ、相続財産は自宅とわずかな預金だけ」といったケースでは、「特に手続きはいらないのでは?」と考える方も少なくありません。
しかし、実は多額の負債を抱えていて相続放棄の期限を過ぎてしまった、相続税がかからないと思い込んでいたら税務署から申告漏れを指摘されたなど、安易な考えが後々のトラブルにつながるケースもあります。遺産分割はしっかり手順を踏んで慎重に行いましょう。
遺言書の有無の確認
相続手続きを進めるうえで、最初に行うべきことは遺言書の有無の確認です。遺言書があるかどうかで遺産の分割方法が大きく変わる場合があるので、必ず確認しましょう。
遺言書には大きく分けて「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。いずれも法的要件を満たして書いてあれば遺言としての効力は同じですが、それぞれ異なる特徴があります。
ここでは、利用されることの多い「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」について解説します。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証役場で公証人という法律の専門家が作成した遺言書のため、誤りや改ざんのリスクがほとんどありません。
公正証書遺言を作成すると、原本は公証役場に保管され、正本(原本と同じ効力がある原本の写し)が遺言者自身に交付されます。そのため、自宅で遺言書が見つからない場合は、公証役場で検索できます。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、被相続人が自分で書いた遺言書です。被相続人が遺言書を残したはずなのに保管場所を誰にも話していなかった場合、探すのは大変です。自宅の金庫や仏壇の引き出しなどにしまっているケースが多いため、家の中もよく探しましょう。
また、2020年からは遺言書の原本を法務局で保管できる制度が導入されています。見つからない場合は法務局に問い合わせてみましょう。
自宅などで遺言書を発見した場合、勝手に開封せず、家庭裁判所に検認を申し立てましょう。検認は、後から遺言書が偽造されたり書き替えられたりすることを防ぐ目的で行われ、検認を経てはじめて遺言が相続手続きに使えるようになります。
なお、検認は遺言の有効・無効を判断する手続きではありません。自筆証書遺言は署名や日付の記入漏れ、内容の不明確さなどの理由で無効になる可能性があります。遺言の内容について疑問がある場合は、行政書士や司法書士といった相続の専門家に相談することをおすすめします。
遺言がある場合の遺産分割
法的に有効な遺言がある場合の遺産分割は、原則として遺言書に書いてあるとおりに行います。特定の相続人が遺産のほとんどを取得するなど、内容に納得できない場合は、遺言書の内容とは異なる分割ができる場合もあります。
相続人同士のトラブルに発展しそうな場合も、行政書士や弁護士といった専門家に相談しましょう。
相続人の調査
相続の手続きを進めるには、誰が相続人になるのかを正確に把握することが重要です。法定相続人を調査しないまま遺産分割を進めると、本来相続権を持つ人が遺産分割協議から抜けていたことが後から判明し、遺産分割協議自体が無効になる可能性があります。
法定相続人とは
法定相続人とは、民法で定められた相続の権利をもつ人のことを指します。相続順位は以下のとおりです。
順位 | 相続人 | 備考 |
---|---|---|
第1順位 | 被相続人の子(直系卑属) | 子がすでに亡くなっている場合は、孫やひ孫が代襲相続する。 |
第2順位 | 被相続人の親(直系尊属) | 子がいない場合、父母(または祖父母)が相続人となる。 |
第3順位 | 被相続人の兄弟姉妹 | 子も親もいない場合に相続人となる。兄弟姉妹が亡くなっている場合、その子(甥・姪)が代襲相続する。 |
なお、被相続人に配偶者がいる場合は、必ず相続人になります。ただし、配偶者単独で相続するのではなく、上記の順位の相続人とともに相続します。
法定相続人の調査方法
法定相続人を確定するために、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本を含む)を収集します。まず、被相続人の本籍地のある市区町村役場で、最新の戸籍謄本を取得しましょう。
婚姻や転籍により、現在の戸籍だけでは出生まで遡れない場合は、過去の戸籍も取り寄せて確認します。相続人がすでに亡くなっている場合、代襲相続人の戸籍も確認します。
古い戸籍は現在のものとは様式が異なり、手書きで判読が難しい場合もありますが、出生までの全ての戸籍謄本を収集し、親族関係を明らかにしましょう。
相続財産の調査
相続手続きを適切に進めるためには、被相続人にどのような財産がどれくらいあるのか、どこにあるのかを明確にする必要があります。相続財産には、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれるため、徹底した調査が求められます。
相続財産の例
相続財産には、以下のようなものがあります。
分類 | 財産の種類 |
---|---|
プラスの財産(資産) | 預貯金(銀行・信用金庫など) |
不動産(土地・建物) | |
有価証券(株式・投資信託・国債など) | |
自動車・貴金属・骨董品などの動産 | |
マイナスの財産(負債・債務) | 住宅ローン・カードローン・借入金 |
未払いの税金(住民税・固定資産税など) | |
医療費の未払い分 | |
みなし相続財産 | 死亡退職金や生命保険の死亡保険金は、相続財産とは別に扱われることが多いが、相続税の計算には含めるため把握しておく必要がある。 |
相続財産の調査方法
相続財産を正確に把握するためには、関連資料や証明書を収集し、漏れなく確認することが大切です。
預貯金については、被相続人の通帳やネットバンキングの情報などを確認します。金融機関名が不明な場合は、取引のあった金融機関に問い合わせて、残高証明書を取得しましょう。証券会社の取引明細や株式の保有状況も確認が必要です。
被相続人が所有していた不動産は、固定資産税の納税通知書についている明細書で確認できます。市区町村役場で固定資産台帳(名寄帳)を取得する方法もあります。
ただし、いずれもその市区町村内の不動産しか載っていないことに注意が必要です。特定の不動産の所有者名義を確認したい場合は、法務局で「登記事項証明書」を取得します。
負債の確認も欠かせません。クレジットカードの明細、ローン契約書を確認しましょう。家族が知らない借入がある可能性があれば、信用情報機関に開示請求をすることも検討しましょう。未払いの税金や医療費もマイナスの財産に含まれます。
相続財産調査の段階で全ての財産を洗い出しておくと、マイナスの財産がプラスの財産を上回る場合には相続放棄や限定承認を検討できます。
相続放棄や限定承認の申し立て【3ヵ月以内】
相続が発生すると、相続人は「単純承認」「相続放棄」「限定承認」のいずれかを選択することになります。単純承認はプラスの財産もマイナスの財産(負債)もすべて相続することを意味し、特段の手続きをしなければ自動的に単純承認となります。マイナスの財産(負債)が多い場合は、相続放棄や限定承認を検討するケースが多いです。
相続放棄や限定承認は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヵ月以内に家庭裁判所へ申し立てを行わなければなりません。この期間を過ぎると単純承認したものとみなされ、全ての負債も全て相続することになります。
相続放棄とは
相続放棄とは、相続人が一切の財産や負債を相続しない旨の意思表示をする手続きです。相続放棄により、借金を背負うことを回避できます。ただし、一度相続放棄をすると、その相続分に関する権利を完全に失うため、プラスの財産も相続できません。
相続放棄をするには、家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出し、受理される必要があります。受理されると、最初から相続人でなかったものとみなされます。相続放棄は、各相続人が単独で行えますが、相続放棄によって次の順位の人が相続人となる可能性もあるため、親族間で事前に話し合っておくことが重要です。
限定承認とは
限定承認は、相続によって得た財産の範囲内でのみ負債を相続する制度です。つまり、借金が相続財産を上回る場合でも、超過分についての返済義務は生じません。相続放棄とは異なり、自宅や形見の品など、どうしても手放したくない財産がある場合に有効な選択肢となります。
ただし、限定承認は相続人全員が共同で申し立てをする必要があるため、相続人の中に一人でも単純承認を希望する人がいると手続きを進められません。また、手続きが複雑であるため、実際に選択する人は少ないのが現状です。
もし限定承認をしたい場合も、相続の専門家である行政書士に相談するのをおすすめします。
所得税の準確定申告【4ヵ月以内】
所得税の確定申告が必要な方が亡くなった場合、相続人が代わりに申告・納税の手続きを行います。この申告を準確定申告といいます。
たとえば、自営業を営んでいた場合や、不動産所得、あるいは株取引などで利益がある場合などなど、所得が48万円を超える場合は準確定申告が必要です。
また、通常は確定申告が不要な会社員などであっても、医療費控除や生命保険料控除などを適用することで所得税の還付が受けられる場合があります。
準確定申告は、被相続人の死亡後4ヵ月以内に所轄の税務署へ申告を行わなければなりません。申告書と添付書類を揃え、相続人全員の連署をもって、税務署へ申告書を提出しましょう。所得税の納付義務が生じる場合は、相続人がその義務を負います。準確定申告を怠ると、延滞税が発生する可能性があるため、忘れずに手続きを行いましょう。
【参考元】国税庁「確定申告が必要な方」
遺産分割と相続税の手続き
相続財産が確定したら、次に行うのが遺産分割と相続税に関する手続きです。遺産分割とは、相続人同士で財産の分け方を決めることを指します。遺産分割が完了したあと、各財産の名義変更や相続税の申告・納税を行います。相続税の申告は、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に行わなければならず、申告が遅れると加算税や延滞税が発生するため注意が必要です。
遺産分割協議
遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分け方を決める話し合いのことです。遺言書がある場合は、基本的にその内容に従って分割されますが、遺言書がない場合や、相続人全員の同意があれば遺言の内容とは異なる分割をしたい場合は協議して決めます。
協議の結果は「遺産分割協議書」にまとめ、相続人全員の署名と実印による押印が必要です。協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立て、調停委員を介して話し合うことになります。
相続関係説明図の作成
相続関係説明図とは、被相続人と相続人の関係を図で示したものです。被相続人の亡くなったときの住所・本籍地・生年月日・死亡年月日・氏名とともに、家系図のように相続人の情報を記載します。
金融機関や法務局での手続きの際に相続関係説明図を提出すると、手続きのために提出した戸籍謄本の原本を返してもらえます。そのため、手続きのたびに戸籍謄本のコピーを取ったり、再度請求したりする手間が省けます。作成は義務ではありませんが、作成しておくとその後の手続きがスムーズになります。
相続財産の名義変更
遺産分割協議が完了したら、各財産の名義変更を行います。
不動産の名義変更は、不動産の所在地を管轄する法務局で相続登記を行います。登記申請書に、遺産分割協議書、被相続人の戸籍・除籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、相続人全員の印鑑証明書、固定資産評価証明書などの必要書類を添付して提出します。2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。相続人が正当な理由なく登記を怠ると過料が科される可能性があるため、忘れずに手続きを行いましょう。司法書士に手続きを依頼することも可能です。
銀行口座は、通常、金融機関が被相続人の死亡を知った時点で凍結されています。遺産分割が終わったら、相続人全員の合意のもと、指定の相続人の名義に変更します。被相続人の預金は相続人の口座に移し、被相続人の口座は解約する手続きをとるのが一般的です。必要書類は各金融機関に確認しましょう。
相続税申告と納税【10ヵ月以内】
相続税は、課税対象となる財産の総額が基礎控除額を超える場合に課税されます。基礎控除額は以下の計算式で求められます。
基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
たとえば、相続人が配偶者と子二人(計三人)なら、基礎控除額は 3,000万円+(600万円×3)= 4,800万円 です。相続財産の総額が4,800万円を超える場合、相続税の申告・納税が必要になります。
相続税は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に被相続人の住所地を管轄する税務署に申告し、原則として現金で一括納付します。納税額が高額になることが見込まれる場合、税理士に相談しながら計画的に準備を進めるとよいでしょう。
遺留分侵害額請求【1年以内】
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に対し、法律上保障されている最低限の相続分のことです。たとえば、遺言書で「財産の全てを第三者に譲る」と書かれていても、遺留分を侵害された法定相続人は遺留分侵害額請求をすることで自身の遺留分に相当する金銭を取り戻せます。
遺留分の権利を持つのは、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人です。遺留分を侵害されていると知った日から1年以内、または遺留分の侵害を知らない場合は相続開始から10年以内に請求できます。遺留分侵害額請求は、相続人どうしのトラブルに発展することが多いので、弁護士を交えて話し合うことが望ましいです。
相続発生後2~5年後までに行う手続き
葬祭費や埋葬費の申請、高額療養費の申請、生命保険の死亡保険金請求、遺族年金や未支給年金の申請などは期限が比較的長いため後回しにされがちです。しかし、申請を忘れると支給や還付が受けられなくなる可能性もあるため、早めに対応しましょう。
葬祭費や埋葬費の申請
亡くなった方が国民健康保険に加入していた場合や、75歳以上で後期高齢者医療制度に加入していた場合、申請により葬祭費が支給されます。金額は自治体によって異なり、1~7万円程度です。申請の期限は葬祭を行った日の翌日から2年以内ですが、忘れないように、国民健康保険の資格喪失手続きのタイミングで併せて申請するのがおすすめです。
協会けんぽの場合、埋葬を行った人に5万円の埋葬料が支給されます。こちらも申請期限は被相続人が亡くなってから2年以内です。会葬礼状や葬儀費用の領収書など、葬儀を実施したことを証明できるものを保管しておきましょう。
高額療養費の申請
被相続人が生前に高額な医療費を支払っていた場合、高額療養費の払い戻しを受けられる可能性があります。これは、1ヵ月あたりの自己負担限度額を超えた医療費について、申請により一定額が健康保険から還付される制度です。
申請期限は診療を受けた月の翌月1日から2年以内です。特に、被相続人が長期間入院していた場合や、終末期医療を受けていた場合は、医療費が高額になることが多いため、申請を忘れないようにしましょう。
生命保険の死亡保険金請求【3年以内】
被相続人が生命保険に加入していた場合、死亡保険金の請求手続きを行う必要があります。保険会社によっては、被相続人が亡くなってから3年を過ぎると請求権が消滅し、保険金を受け取れなくなるため注意が必要です。必要書類や手続きの方法は契約している保険会社に問い合わせましょう。
遺族年金や未支給年金の申請【5年以内】
被相続人が国民年金や厚生年金を受給していた場合、または受給資格を満たしていた場合、未支給年金を請求できます。未支給年金とは、被相続人が亡くなった時点で受給する権利が発生したものの、まだ支給されていなかった年金(亡くなった月までの分など)です。被相続人が亡くなったときに生計を同じくしていた方(遺族)が受給できます。申請期限は、本来の年金の支給月の翌月1日から5年以内です。
また、被相続人と生計を同じくしていた配偶者などが遺族年金を受け取れる可能性があります。遺族年金は、被相続人が一定期間厚生年金や国民年金に加入していた場合に遺族(配偶者や18歳未満の子)が受給できる年金です。申請期限は被相続人が亡くなってから5年間です。遺族年金は継続的な収入源となるため、対象となる場合は早めに申請しておきましょう。
相続の手続きが大変だと感じたら
ここまで紹介したように、相続手続きには多くのステップがあり、それぞれに期限が定められているものも多いため、ご自分で対応するのは負担が大きいと感じるかもしれません。
遺産分割協議や相続税申告などは専門的な知識が必要になり、不慣れな方が正確に手続きを行うのは困難です。
特に、相続人が複数いる場合や相続財産が高額な場合は、専門家のサポートを受けることで手続きがスムーズになり、後々のトラブルを回避しやすくなります。無料相談を行っている場合も多いので、相続の手続きに不安を感じている場合は気軽に専門家に相談することをおすすめします。
当事務所(行政書士佐藤秀樹事務所)では、弁護士・司法書士・税理士などと提携し、相続に関する手続きをワンストップで完結できます。初回相談は無料ですので、誰に相談してよいかわからなくてお困りの方も、ぜひお気軽にご相談ください。