遺産相続で揉める人と揉めない人の差とは?揉めないための対策も紹介!

親族が亡くなり、遺産相続の話が始まったものの、思わぬトラブルに発展してしまったなどの話は少なくありません。
実は、遺産相続で揉める人には共通点があり、逆に揉めない人たちはさまざまな準備や対策をとっていることが多いです。
本記事では、「財産の内容」や「家族関係」、「生前の準備状況」などさまざまな視点から、遺産相続で揉める人と揉めない人の違いを徹底解説します。
さらに、相続トラブルを未然に防ぐための具体的な対策や、実際に揉めてしまったときの解決方法についても紹介します。
本記事を読むことで、あなたやあなたのご家族が、円満な相続を実現するためにできることがきっと見えてくるはずです。ぜひ参考にしてください。
【財産内容にリスクがあるケース】遺産相続で揉める人と揉めない人の差
ここでは遺産相続で揉める人と揉めない人の差を財産内容にリスクがあるケース別に見ていきましょう。
- 遺産に不動産がある場合
- 有価証券がある場合
- 遺産に負債がある場合
それぞれ詳しく解説していきます。
遺産に不動産がある場合
遺産に不動産が含まれると、現金のように単純に分けられないため、相続人同士でのトラブルが起きやすいです。
ここでは、よくある不動産相続のトラブルと、それに対して「揉める人」と「揉めない人」でどのような差があるのかを見ていきましょう。
不動産の評価額で揉める
遺産に不動産がある場合、不動産の価値をどう評価するかで、相続人同士が揉めてしまうケースも少なくありません。
一方、揉めないケースでは、不動産鑑定士などの専門家に評価を依頼し、公平で客観的な金額をもとに全員が納得できる形で進めます。評価の基準を統一し、事前に争いが起きないようにしているのです。
共有相続後の利用・管理で揉める
不動産を相続人全員で共有した場合、「誰が住むのか」「誰が管理費を払うのか」といった問題が発生しやすいです。住んでいる方とそうでない方との間に不公平感が生じ、感情的な対立に発展する場合もあります。
揉めないケースでは、共有を避けて売却や代償分割をおこなうなど、後の管理負担や使用トラブルが起こらない方法を取ります。誰がどのように不動産を引き継ぐのかを明確にして、問題を未然に防いでいます。
売却の可否・時期で揉める
「不動産を売却するかどうか」「売るならいつか」といった判断は相続人同士でわかれがちです。思い出が詰まっていて売却に抵抗を示す人がいたり、市場状況に対する意見の違いがあったりして、揉めてしまうのです。
一方揉めない人たちは、事前に売却の方針を家族で話し合ったり、遺言で売却を前提とした内容を明記するなど、意思統一を図っています。また、判断を任せる代表者を決めておき、意思決定を円滑にする仕組みを用意する場合もあります。。
有価証券がある場合
遺産に株式や投資信託といった有価証券が含まれている場合、その評価方法や分割方法が複雑になりやすく、相続トラブルにつながるケースがあります。
以下では、有価証券にまつわる相続トラブルについて、よくあるパターンと、「揉める人」「揉めない人」の違いを見ていきましょう。
有価証券の評価額をめぐるトラブル
株式や投資信託などは、時価が常に変動するため、「相続時点の金額が正しい評価かどうか」で相続人同士が対立する場合があります。
たとえば、評価額が高いタイミングで受け取った相続人が、後に大きく下落した場合、「実質的に損をした」と感じることもあり、不満が生まれやすいです。
揉めるケースでは、こうしたリスクを考慮せずに単純な金額ベースで分けたり、評価時期や方法を相続人任せにしてしまう傾向があります。
一方、揉めないケースでは、専門家(税理士や金融機関)に時価評価を依頼し、評価日を統一してトラブルを回避しています。また、評価額に基づいてほかの財産と組み合わせて調整するなど、全体バランスを重視します。
分割方法で揉める
有価証券は「現物分割(そのまま銘柄を分ける)」「換価分割(売却して現金で分ける)」「代償分割(代表者が取得し、ほかの相続人に現金補填)」など複数の分け方がありますが、どの方法にするかで揉めることがあります。
揉める人たちは、それぞれが気に入っている銘柄を主張したり、「現金でほしい」「売らずに残したい」など価値観がバラバラで合意形成が難しいです。
揉めないケースでは、事前に分割方法についてのルールを決めておいたり、話し合いの場にファイナンシャルプランナーなどの第三者を入れることで、冷静かつ合理的に決定する場合が多いです。
証券会社ごとの手続きで混乱する
有価証券が複数の証券会社で管理されていた場合、それぞれで相続手続きをおこなう必要があり、煩雑な作業が発生します。
その手続きの負担をめぐって「誰がやるのか」「手数料はどうするか」といった小さな不満が積もり、トラブルに発展する場合もあります。
揉めやすいケースでは、役割分担が曖昧なまま手続きを押し付け合ったり、情報が共有されていないために混乱が生じます。
一方、揉めない人たちは、代表者を決めて手続きを一括で任せたり、生前にどの証券会社で何を保有しているのかをリスト化しておくなど、準備を怠りません。
遺産に負債がある場合
相続は「プラスの財産」だけでなく、「マイナスの財産=負債」も対象です。
被相続人が借金やローンを残していた場合、相続人はそれを引き継ぐ必要があるため、慎重な判断が求められます。
以下に、代表的なトラブルと、それに対する「揉める人」と「揉めない人」の違いをまとめました。
負債の存在を知らずに相続してしまう
相続開始後、借金やローンの存在を知らないまま遺産分割協議を進めたり、不動産を相続登記してしまうことで、あとから負債の請求が来てトラブルになることがあります。
揉めるケースでは、財産調査を十分に行わず、「相続放棄の期限(3か月)」を過ぎてしまうことが多く、負債も含めて相続せざるを得ない状況に追い込まれます。
一方、揉めないケースでは、相続開始後すぐに財産と負債の全体像を調査し、必要に応じて「限定承認」や「相続放棄」の手続きを検討します。
相続放棄・限定承認の手続きがうまくいかない
相続放棄や限定承認には期限やルールがあり、それを知らずに対応を誤ることで、相続人全体に不利益が及ぶことがあります。
たとえば、ひとりが放棄したことで、次順位の相続人(兄弟姉妹など)に負債が移り、混乱を招くことも。
揉めるケースでは、家族間での連絡不足や「誰が放棄するか」が曖昧なまま対応するため、相続人同士に責任の押し付け合いが起こります。
揉めないケースでは、家族で早い段階から「放棄」や「限定承認」について協議し、全員で足並みを揃えた手続きをおこなうことが多く、結果的にスムーズな処理が可能です。
連帯保証債務など見落としやすい負債でトラブルになる
被相続人が誰かの連帯保証人になっていた場合、その保証債務も相続対象です。
しかし、その存在に気づかないまま相続してしまうと、後日突然多額の請求が来るといったリスクもあります。
揉めやすい人たちは、負債の洗い出しを十分に行わず、保証債務などの見落としによって問題が発覚した際に、責任の所在で揉めがちです。
一方、揉めない人たちは、信用情報の開示請求(CICやJICCなど)や金融機関への問い合わせを通じて、負債の調査を徹底しています。リスクを事前に洗い出す姿勢が、トラブル回避につながります。
【家族関係が複雑なケース】遺産相続で揉める人と揉めない人の差
ここでは遺産相続で揉める人と揉めない人の差を家族関係が複雑なケース別に見ていきましょう。
- 相続人が不仲な場合
- 隠し子・認知された子がいる場合
- 相続人のひとりが認知症の場合
それぞれ詳しく解説していきます。
相続人が不仲な場合
相続人同士の関係がもともと悪い場合、遺産の内容に関係なく相続がトラブルに発展しやすいです。子ども同士の確執、親族間の誤解、過去の介護負担など、感情面のこじれが遺産分割協議の妨げになる典型的なケースです。
以下では、相続人が不仲なときに起こりやすいトラブルと、それに対して「揉める人」と「揉めない人」の対応の違いをみていきましょう。
話し合いがそもそも成立しない
相続人同士が不仲な場合、連絡すら取りたくない、顔を合わせたくないといった感情が先立ち、遺産分割協議が始まらないことがあります。
その結果、相続手続きが遅れ、不動産の名義変更や預貯金の凍結解除ができないなど、相続全体に支障が出ます。
揉めるケースでは、「自分が正しい」「相手の主張は聞く必要がない」といった姿勢をもってしまい、感情のぶつけ合いで建設的な話し合いができません。
一方、揉めないケースでは、司法書士や弁護士、第三者の専門家を間に立てることで、直接対立を避けながら冷静に協議を進める工夫をします。
過去のわだかまりが表面化する
「親の介護は自分だけがやった」「昔から親に可愛がられていた」など、相続とは直接関係ない家族の過去や感情は、金額の問題以上に対立を深めてしまいます。
揉めやすい人たちは、過去の不満をぶつけ合い、感情的になって話がすすまないことが多いです。
揉めない人たちは、感情と財産の話を切り分け、事実と法的ルールをもとに判断する意識をもっています。必要に応じて専門家に間に入ってもらい遺産分割の手助けをしてもらいます。
勝手に遺産を処分してしまう
家族が不仲だと、「信頼できないから早く現金化したい」「自分の取り分を先に確保したい」といった理由から、相続人の一人が遺産を勝手に使ってしまうケースがあります。これが発覚すると、ほかの相続人から不信感を買い、法的な紛争に発展する場合もあります。
揉めない人たちは、相続財産の管理や処分について必ず合意を取り、全員の署名や押印を伴った正式な手続きを踏むよう徹底しています。
隠し子・認知された子がいる場合
被相続人に「認知された子」や、いわゆる「隠し子」がいる場合、相続人同士の間で感情的な衝突が起きやすく、相続手続きも一層複雑になる傾向があります。
法律上は、婚外子であっても認知されていれば実子と同じ相続権をもつため、法的な権利と心情とのズレがトラブルの原因になることが多いです。
ここでは、具体的なトラブルパターンと、「揉める人」「揉めない人」の違いを見ていきましょう。
認知された子の存在が相続の場面で初めて明らかになる
相続人たちにとって「認知された子」の存在が寝耳に水であるケースでは、驚きやショック、怒りが感情的な対立を引き起こします。
「親に裏切られた」と感じたり、「いまさら出てきて相続を主張するのか」といった不信感が拭えない状況になってしまいます。
揉めるケースでは、感情的な拒否反応が強く、法的に認められた相続権を受け入れようとせず、協議が平行線をたどります。
一方で揉めないケースでは、法律上の権利を冷静に受け止め、第三者(弁護士・専門家)を通じて手続きを進めることで感情的な対立を避けて対応する場合が多いです。
相手との接触に抵抗があり協議が進まない
隠し子や認知された子に対して「連絡も取りたくない」「存在を認めたくない」といった気持ちが強いと、そもそも遺産分割協議が進められないことがあります。
揉めるケースでは、当事者同士の対話が完全に断絶し、調停や裁判に頼る以外に手段がなくなってしまいます。
一方、揉めないケースでは、直接のやりとりを避け、弁護士や第三者を代理人として立てることで感情的な衝突を回避しています。
相続分に対して不公平感が強くなる
「家族として一緒に過ごしてきた自分たちと、関係のなかった子が同じだけ相続するのは納得できない」といった感情が表に出やすく、分割協議が感情論に流れやすくなってしまいます。
揉める人たちは、「故人への貢献度」や「家族の過去」を基準に分けるべきと主張して法定相続分を受け入れず、遺産分割が長期化しやすい傾向があります。
一方、揉めない人たちは、法定相続分をベースに考えつつ、代償分割や調整案など現実的な選択肢を交えながら柔軟に協議を進めます。
相続人のひとりが認知症の場合
相続人の中に認知症の方がいると、遺産分割協議を進めるうえで法的・手続き的なハードルが一気にあがります。
判断能力が不十分な状態では、その方の有効な同意とは認められず、遺産分割がスムーズに進められなくなるからです。
ここでは、認知症の相続人がいるケースで起こりやすいトラブルと、揉める人と揉めない人の差を見ていきましょう。
本人の同意が得られず遺産分割協議が進まない
認知症の相続人が法的な判断能力を欠いている場合、その人を含めた遺産分割協議が成立しません。
全員の合意が必要なため、認知症の相続人の同意が得られないことで手続きが止まってしまうことがあります。
揉めるケースでは、認知症の程度や意思表示の可否を曖昧に扱い、「これくらいなら大丈夫」として強引に署名・押印を進めたり、あとで無効になるリスクを抱えたまま処理されることがあります。
一方で揉めないケースでは、後見人の選任申し立て(認知症などで判断能力が不十分な人に代わって法律行為をおこなう「成年後見人」を家庭裁判所に申し立てて選んでもらう手続きのこと)を行い、法的に有効な手続きとして進める体制を早い段階で整えることで、混乱を避けています。
本人の利益をどう守るかで方向性がわかれる
認知症の相続人のために「どのような財産配分が適切か」をめぐって、ほかの相続人の間で意見が対立する場合もあります。
「多く渡したい」「平等にすべき」「施設費用を考慮すべき」など、意見がバラバラになることで協議が進まないケースがあります。
揉める人たちは、それぞれの立場から主張をぶつけ合い、結果として話し合いが感情的・非合理的になりがちです。
一方、揉めない人たちは、専門家(後見人や福祉関係者など)の意見を交えながら、本人の生活や福祉を最優先とした現実的な分割案を模索します。
【被相続人が特殊なケース】遺産相続で揉める人と揉めない人の差
ここでは遺産相続で揉める人と揉めない人の差を被相続人が特殊なケース別に見ていきましょう。
- 被相続人が認知症の場合
- 被相続人が介護を受けていた場合
- 被相続人が会社を経営している場合
それぞれ詳しく解説していきます。
被相続人が認知症の場合
被相続人が認知症だった場合、生前の財産管理や意思表示の信頼性が問われることが多く、相続時に「その遺言や贈与は有効だったのか?」といった根本的な問題が持ちあがることがあります。遺言書の有効性、口座の出金、名義変更などをめぐって、相続人同士の対立が生じやすいです。
以下では、被相続人が認知症だった場合に起こりやすいトラブルと、それに対する「揉める人」と「揉めない人」の違いを見ていきましょう。
遺言書の有効性をめぐって揉める
認知症の進行中に作成された遺言書は、「本人に遺言能力があったのか?」が争点になりやすいです。
重度の認知症だった場合、遺言そのものが無効とされる可能性もあり、相続人同士の主張が対立する原因になってしまいます。
揉めるケースでは、遺言内容の偏りに対して感情的に反発し、法的根拠よりも感情論で無効を訴えることが多く、トラブルが長期化してしまいます。
一方、揉めないケースでは、遺言作成時の状況を医師の診断書や専門家の立ち会い記録で証明しておくなど、事前に法的な備えをしておくことでトラブルを防止しています。
生前の財産管理をめぐる疑念が生じる
認知症の被相続人の口座から、特定の相続人が定期的に出金していたような場合、「使い込みではないか?」といった疑念がほかの相続人から生じ、相続時の関係悪化につながります。
揉める人たちは、仮に介護費用として出金していたとしても、事前の合意や記録、使途の説明もないまま「介護費用だった」と主張するため、信頼関係が壊れがちです。
一方、揉めない人たちは、通帳記録を保管し、出金の目的や使途を明確に記録しておくことで、疑念を生みにくい管理を心がけています。
成年後見制度を導入していなかったことで混乱する
認知症が進行していたにもかかわらず、後見人を選任していない場合、被相続人名義の財産をどう管理・利用すべきかが曖昧になり、相続開始後にトラブルになることがあります。
揉めるケースでは、「誰が管理していたのか」「管理のしかたが適切だったのか」といった点で相続人同士の対立が深まります。
揉めないケースでは、認知症の進行にあわせて早い段階で後見人選任を申し立て、財産管理を法的に明確な形で行っているため、争点が生まれにくいです。
被相続人が介護を受けていた場合
被相続人が介護を受けていた場合、「誰がどのくらい介護したか」が相続人同士の対立の火種となることがよくあります。
介護を担った相続人が、「ほかの人より多くの労力と時間をかけたのだから、多く相続したい」と主張する一方で、ほかの相続人がそれに納得せず、遺産分割がもつれることがあります。
揉めるケースでは、介護の実態があいまいなまま主張が対立し、感情的な言い争いに発展します。
揉めないケースでは、介護の内容や頻度、金額などをあらかじめ記録しておき、相続人同士で情報を共有しているため、話し合いが比較的スムーズに進みます。
被相続人が会社を経営している場合
被相続人が会社経営者だった場合、相続は「事業承継」と「財産の分配」といった2つの側面を同時に考える必要があるため、非常に複雑です。
経営を引き継ぐ人とそうでない人の間で利害が衝突しやすく、遺産の分け方だけでなく、会社の存続や社員の将来にも大きな影響があります。
以下では、会社経営者が亡くなった場合に起こりやすいトラブルと、それに対して「揉める人」と「揉めない人」の違いを見ていきましょう。
誰が会社を継ぐかで揉める
後継者が明確でない場合、「自分が継ぎたい」「あの人には任せられない」といった主張がぶつかり、経営権をめぐる争いが発生します。特に複数の子がいる場合、経営能力や貢献度、本人の希望が食い違うことでトラブルに発展してしまいます。
揉めるケースでは、被相続人が誰に事業を任せるかを明言しないまま亡くなり、相続人同士で主導権争いに発展します。
揉めないケースでは、被相続人が生前に後継者を明確にし、社内外に周知しておくことで、承継に対する混乱を避けます。
株式の相続分をめぐって対立する
中小企業の経営権は株式の保有に直結するため、株式をどのように相続するかは非常に重要です。複数人で分散してしまうと、経営の意思決定がスムーズにおこなえず、会社の安定性が損なわれます。
揉める人たちは、「法定相続分にしたがって株も平等に分けるべき」と主張する一方、経営に関わっていない相続人が株をもつことで、経営と無関係な口出しや意見対立が発生しやすいです。
揉めない人たちは、株式は後継者に集中させ、ほかの相続人には代償金や別の資産で調整するなど、バランスの取れた分配を工夫します。
経営に関与しない相続人との利害対立が起きる
事業を継ぐ人は「会社の安定と将来」を重視しますが、経営に関与しない相続人は「自分の取り分の確保」を優先しがちです。これにより、利益配当や資産売却をめぐって衝突してしまいます。
揉める人たちは、お互いの立場や背景を理解しないまま主張し合い、関係が悪化します。
一方、揉めない人たちは、事業承継と相続を分けて考え、経営を担う人がスムーズに会社を続けられるような形で財産の分配を設計します。
【生前準備が中途半端なケース】遺産相続で揉める人と揉めない人の差
ここでは遺産相続で揉める人と揉めない人の差を生前準備が中途半端なケース別に見ていきましょう。
- 特定の人が生前贈与受けていた場合
- 遺言書がない場合
- 遺言書があるが不公平がある場合
それぞれ詳しく解説していきます。
特定の人が生前贈与受けていた場合
被相続人が生前に特定の子どもや家族にだけお金や不動産を贈与していた場合、ほかの相続人から「不公平だ」と感じられやすく、相続の場面で対立してしまうことがあります。
特にその贈与が明確に記録されていない、あるいはほかの家族に知られていなかった場合、感情のもつれから深刻なトラブルに発展してしまうこともあるので注意しましょう。
以下では、生前贈与に関してよくあるトラブルと、「揉める人」「揉めない人」の違いを見ていきましょう。
生前贈与の事実や内容をめぐって争う
「いくら贈与されたのか」「何をもらっていたのか」など、生前贈与の具体的な内容が不明確な場合、ほかの相続人がその存在や金額を疑い、対立につながります。
揉めるケースでは、贈与を受けた側が説明責任を果たさず、曖昧な対応をとることで、ほかの相続人に不信感を与えてしまいます。
一方、揉めないケースでは、贈与を受けた事実を被相続人が明確に記録し、家族全体に共有しておくことで、トラブルを事前に防ぎます。
特別受益に該当するかで意見がわかれる
生前贈与は「特別受益」として扱われることがあり、その分を相続分から差し引く(持ち戻す)必要があるかどうかで揉めることがあります。特別受益とみなされるかは、金額・時期・目的などを判断材料にします。
揉める人たちは、互いに「これは特別受益だ/そうではない」と主張し合い、法律的な根拠ではなく感情論で争うことが多いです。
揉めない人たちは、特別受益の可能性がある贈与について、事前に専門家に相談して法的な整理を済ませ、相続時に公平感を保つよう工夫します。
贈与を受けた側とほかの相続人の関係が悪化する
「一人だけ得をしていた」と感じた相続人が、贈与を受けた相手に対して不満や嫉妬を抱き、遺産分割協議とは別の場面でも人間関係に亀裂が入ることがあります。
揉めるケースでは、贈与を受けた側が「もらって当然」といった姿勢をとることで、ほかの相続人の反発をさらに招く結果になってしまいます。
揉めないケースでは、贈与を受けた側も周囲への感謝と配慮を持ちつつ、場合によっては代償分割や調整を提案し、納得してもらえるようにします。
遺言書がない場合
遺言書が残されていない相続では、民法の規定にしたがって法定相続分で遺産を分けることになり、遺産分割協議をおこなう必要があります。不動産など分割しにくい財産が含まれていると、誰が取得するかで揉めることが多いです。
揉めるケースでは、法定相続分にこだわったり、感情的な主張を繰り返すことで話し合いが長引き、相続手続きが滞ってしまいます。
一方、揉めないケースでは、相続人同士が冷静に協議し、場合によっては専門家の助言を得ながら、柔軟な分割案を模索する場合が多いです。
遺言書があるが不公平がある場合
遺言書があっても、それが相続人の誰かに著しく偏った内容だった場合、「なぜ自分の取り分が少ないのか」「生前は何も言われていなかった」といった不満が生まれ、相続トラブルに発展する場合があります。
以下では、「遺言書はあるが不公平感がある」場合に起こりやすいトラブルと、それに対する「揉める人」「揉めない人」の違いを見ていきましょう。
遺言内容に納得できず感情的な対立が起こる
遺言で「長男に全財産を相続させる」といった極端な偏りがあると、ほかの相続人が感情的に強く反発するケースがあります。
揉める人たちは、「親は自分を軽視していた」「あの人だけ優遇された」と過去の感情を掘り起こし、話し合いではなく争いに発展しやすいです。
一方、揉めない人たちは、遺言の内容に不満があっても、一度冷静に立ち止まり、内容の背景や故人の思いを推し量る努力をします。
遺留分侵害で訴訟に発展する
遺言内容が一部の相続人の「遺留分」(法律で保障された最低限の取り分)を侵害している場合、遺留分侵害額請求が起こされることがあります。
揉めるケースでは、遺留分を請求する側とされる側が感情的に対立し、調停や裁判にまで発展しやすく、関係がさらに悪化します。
揉めないケースでは、請求が発生した場合でも、法律に基づいた金額を計算し、冷静に協議や調整を行い、解決を目指しています。
遺産相続で揉めないための対策
遺産相続で揉めない対策は、以下の5つです。
- 事前に家族で話し合いをする
- 遺言書の作成をおこなう
- 財産内容を見える化しておく
- 家族信託を活用する
- 専門家を活用する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
事前に家族で話し合いをする
相続で揉めないためには、生前に家族でしっかりと話し合いをおこなうことが非常に大切です。
特に被相続人が元気なうちに、財産の内容や所在、誰に何をどのように継がせたいのかといった意向を明確に伝えておきましょう。
併せて、遺言書を作成するかどうかや、介護・生活支援といった家族内の負担のバランスについても共有しておくと、後々の不公平感や誤解を防ぐことにつながります。
このような話し合いは、一部の相続人だけで進めず、家族全体で行いましょう。必要に応じて専門家に同席してもらうのがおすすめです。
もっとも大切なのは、感情的な衝突を防ぎ、お互いの立場や思いを理解しながら、将来の相続に備えることです。
遺言書の作成をおこなう
遺言書は、被相続人の意思を法的に明確に残す手段であり、相続トラブルを防ぐもっとも有効な対策のひとつです。
ただし、遺言書があっても内容が不明確だったり、一部の相続人に偏った内容であると、かえって不満や争いを生む原因にもなってしまいます。
揉めない遺言書を作成するためには、まず、財産の内容や分け方を具体的に記載し、「なぜそのように分けるのか」といった考えもできるだけ丁寧に補足しておきましょう。
また、法定相続人の遺留分に配慮した内容にするのも重要です。遺留分を侵害すると、遺留分侵害額請求がなされて結局トラブルに発展する可能性があります。
さらに、公正証書遺言を活用すれば、形式不備や無効のリスクを避けることができます。公証人が関与するため、作成時の意思能力も証明されやすく、後の争いを防ぎやすいです。
加えて、遺言書の内容については可能であれば家族に生前に伝えておくことで、「知らなかった」「不公平だ」といった誤解や不満を減らすことができるでしょう。
財産内容を見える化しておく
相続で揉める原因のひとつに、「財産の全体像がわからない」といった問題があります。
何がどこにどのくらいあるのかがわからなければ、相続人同士で「隠しているのではないか」「不公平に受け取っているのでは」といった不信感が生まれ、トラブルの引き金になってしまいます。
そのため、被相続人が元気なうちに財産の内容を「見える化」しておくことが、揉めない相続の基本です。
見える化の方法としては、預貯金、不動産、有価証券、保険、負債などを一覧にまとめた財産目録を作成しておくのがおすすめです。
可能であれば、不動産の登記事項証明書や通帳のコピー、保険証券なども一緒に保管しておくと、相続人のスムーズな手続きが可能です。
また、この財産目録を遺言書とともに保管したり、家族と共有すれば、「どの財産を誰に承継させたいか」についての意向も伝えやすくなり、無用な誤解や疑念を未然に防ぐことができます。
家族信託を活用する
家族信託とは、自分の財産を信頼できる家族に託し、その家族が決められた目的にしたがって管理・運用・処分していくしくみです。
財産の「所有権」は受託者である家族に移りますが、最終的な受取人(受益者)は別に設定できるため、本人の意思を柔軟に反映できる特徴があります。
特に、認知症対策や事業承継、高齢になってからの資産管理において有効で、相続が発生する前から「誰が、どの財産を、どのように引き継ぐか」を具体的に決めておくことができます。
▼家族信託を利用するメリット 認知症になっても、財産管理を家族に任せられる遺産分割協議なしで財産をスムーズに引き継げる遺言では難しい複数世代への承継も設計できる家族の事情に合わせて自由にしくみを作れる |
このように、家族信託を利用すれば「生前対策」としての役割を果たしつつ、相続時のトラブルを未然に防ぐことが可能です。
専門家を活用する
相続は法律・税金・感情が複雑に絡み合うため、自己判断だけで進めるとトラブルに発展しやすいです。円満な相続を実現するには、早い段階から専門家のサポートを受けることが重要です。
相続に関わる主な専門家は以下のとおりです。
税理士 相続税の申告や節税対策、財産評価の助言をおこなう 司法書士 不動産の名義変更、遺言書の文案作成支援、家族信託の手続きなどを担当 弁護士 相続人同士での争いが予想される場合や、遺留分の請求対応など法的トラブルに対応 行政書士 遺産分割協議書の作成や各種書類作成をサポート |
専門家を活用すれば、手続きを正確かつ効率的に進めることができるだけでなく、家族間の感情的な対立を避け、客観的な判断材料のもとで冷静に相続を進められます。
結果として、無用な誤解やトラブルを未然に防ぎ、家族の信頼関係を損なわずに相続を終えることができます。
遺産相続で揉めてしまった方のトラブル事例3選
ここでは遺産相続で揉めてしまった方のトラブル事例を3つ紹介します。
- 事例➀親が認知症になって遺言書が作れなかったケース
- 事例➁生前贈与の有無で兄弟間に不公平感が発生
- 事例➂曖昧な自筆遺言書が原因で家族間のトラブルが発生
事例➀親が認知症になって遺言書が作れなかったケース
Aさんは、父親が高齢になってから相続の準備を始めようとしましたが、そのころにはすでに認知症が進行しており、遺言書を作成できる状態ではありませんでした。
家族で話し合おうとしたものの、父の意向が確認できず、不動産を誰が相続するかで兄弟間の意見が真っ向から対立。最終的には調停に持ち込まれる事態となりました。
「もう少し早く準備していれば…」と後悔が残る結果となりました。
◎どうすればよかったのか? 親が元気なうちに遺言書を作成し、できれば公正証書遺言として残しておくことで、本人の意思を明確に伝えることができます。また、家族で早めに話し合いの場を設けておくべきでした。 |
事例➁生前贈与の有無で兄弟間に不公平感が発生
Bさんは、亡くなった母親から長男が生前に多額の援助を受けていたことを相続の場面で初めて知りました。
長男は「介護をしていたから当然」と主張しましたが、Bさんをはじめほかの兄弟は「私たちは何ももらっていないのに不公平だ」と納得できず、遺産分割協議は難航。
感情的な対立に発展し、兄弟の関係は修復不可能なほど悪化してしまいました。
◎どうすればよかったのか? 生前贈与があった場合は、事前に家族へ説明し、贈与内容を記録に残しておくことが大切でした。また、遺言書に贈与の理由や取り扱いについて明記しておけば、公平性に対する誤解を防ぐことができます。 |
事例➂曖昧な自筆遺言書が原因で家族間のトラブルが発生
Cさんの父親は自筆で遺言書を残していましたが、内容が曖昧で「長男に感謝を込めて土地を譲る」といった記載しかなく、どの土地かも明記されていませんでした。
遺言の日付や署名にも不備があり、法的に有効かどうかが争点に。兄弟間で解釈が食い違い、結局は遺言無効の主張を巡って裁判に発展しました。
遺言書があるにもかかわらず、かえって混乱を招く結果となってしまったのです。
◎どうすればよかったのか? 曖昧な表現ではなく、財産の内容や相続人名を正確に記載した遺言書を作成するべきでした。形式の不備を避けるためにも、公証役場で作成する公正証書遺言にしておけば、法的トラブルを回避できた可能性が高いです。 |
もし遺産相続で揉めてしまったらどうするべき?
もし遺産相続で揉めてしまったら、次の対応をとりましょう。
- まずは当人同士で話し合う
- 家庭裁判所の「遺産分割調停」を利用する
- 弁護士に相談・依頼する
- 審判・裁判といった手段もある
1. まずは当人同士で話し合う
相続トラブルが発生した場合、最初の対応としてもっとも重要なのは「当人同士で冷静に話し合うこと」です。
法定相続人が全員集まり、それぞれの意見や立場を共有しながら、お互いの合意を求める必要があります。
なお、話し合いの際は、感情的にならず事実ベースで対話するのが大切です。必要に応じて、第三者(親戚、信頼できる知人など)に同席してもらうのも効果的です。
この段階で合意に至れば、トラブルを最小限に抑えたまま、円満に相続手続きを進めることができます。
2. 家庭裁判所の「遺産分割調停」を利用する
当人同士での話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の「遺産分割調停」を利用するといった手段があります。
遺産分割調停は、裁判官と調停委員が間に入り、中立的な立場で双方の意見を聞きながら解決を図る手続きです。
調停はあくまで「話し合いの延長」ですが、公的な場で第三者の助言を受けられるため、感情的な対立が緩和されやすいです。
また、調停で合意すれば、その内容は法的効力をもつため、安心して遺産分割を進めることができます。
3. 弁護士に相談・依頼する
調停を申し立てる前や申し立てと並行して、弁護士に相談するのもよいでしょう。
専門的な知識をもった弁護士に依頼すれば、自分にとって不利な条件を避け、法的に正当な権利を主張できます。
また、相続に詳しい弁護士であれば、遺留分侵害額請求や寄与分の主張など、複雑な手続きも代行してくれるため安心です。
相手方と直接やり取りしたくない場合にも、弁護士が間に入ることでストレスやトラブルを軽減できます。
4. 審判・裁判といった手段もある
調停でも解決できなかった場合は、最終手段として「審判」や「裁判」に進みます。
審判では、家庭裁判所が証拠や事情をもとに遺産の分け方を法的に判断し、強制力のある決定が下されます。
また、相続に関する争いがさらに複雑である場合(遺言無効や遺留分侵害など)には、民事裁判として訴訟に発展するケースもあります。
ただし、審判や裁判は時間と費用がかかるうえ、家族関係の修復が困難になることも多いため、できる限り話し合いや調停での解決を目指す方がよいでしょう。
まとめ
遺産相続でトラブルになる原因は、「財産の内容」「家族関係」「生前準備の有無」などさまざまです。
不動産や有価証券、負債を含む相続では、評価方法や分割方法が難しく、相続人同士で揉めやすい傾向にあります。さらに、相続人同士が不仲だったり、隠し子の存在、認知症の家族がいたりと、家族関係が複雑だと感情的になり対立しやすいです。
一方、揉めない方たちは、生前に家族で話し合いを行い、遺言書の作成や財産の「見える化」、信託制度の活用などでトラブルを未然に防いでいます。
万が一揉めてしまった場合でも、まずは冷静に話し合い、弁護士などの専門家の力を借りることで解決を図ることが重要です。
早めの準備と家族間のコミュニケーションが、円満な相続のカギとなるでしょう。