【状況別の例文7選】面識のない相続人に出す手紙の書き方

面識のない相続人に手紙を出すのは緊張するものですし、「どのような文面が適切かわからない」「失礼にならないか心配」と悩む方も少なくないでしょう。
さらに、手紙の内容によっては、面識のない相続人から反発や不信感を抱かれてしまい、協議が進まなくなるケースもあります。
そこで本記事では、面識のない相続人に出す手紙の例文を、「遺産分割協議」「遺言がある場合」「法定相続分どおりに分ける場合」など状況別に紹介します。
あわせて、面識のない相続人に出す手紙の書き方のコツや注意点、同封すべき資料まで、初めてでも安心して進められるように詳しく解説します。
面識のない相続人に出す手紙の例文をお探しの方は、ぜひ最後までお読みください。必要な文面がすぐに見つかります。
【遺産分割協議で分ける場合】面識のない相続人に送る手紙の例文
遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分け方を話し合って合意し、「遺産分割協議書」にまとめる法的手続きです。
民法上、協議は相続人全員の合意が必要とされており、一人でも連絡が取れなかったり、合意しなかったりすると成立しません。
面識のない相続人がいる場合でも、必ずその方を含めた協議をおこなう必要があるため、手紙で丁寧に説明し、参加をお願いしましょう。
次からは、相手が戸惑わないようにするための、実用的かつ配慮のある手紙の文例を紹介します。
例文
[相手の氏名] さま 拝啓 突然のお手紙を差し上げる無礼をお許しください。 私の親族である [被相続人の氏名](昭和[年]年[月]日生まれ) が、令和[年]年[月]日に永眠いたしました。 相続手続きを進めるにあたり、戸籍を調査いたしましたところ、[相手の氏名]さまが[被相続人の氏名]の法定相続人でいることが判明いたしました。 これまで面識がなく、突然のご連絡となりましたこと、心よりお詫び申し上げます。 現在、遺産分割協議をおこなう必要があり、相続人全員の合意をもって手続きを進めなければならない状況です。 つきましては、今後の手続きのご説明と、[相手の氏名]さまのお考えをお伺いしたく存じます。 お手数ですが、まずはご連絡いただけますと幸いです。 以下の連絡先へお電話いただくか、同封の返信用封筒にてご連絡先をご記入のうえご返送いただければ、私からあらためてご連絡差し上げます。 恐れ入りますが、[○月○日]までにご一報いただけますようお願い申し上げます。 ご不明な点などございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。 何卒よろしくお願い申し上げます。 敬具 令和[年]年[月]日 [差出人の氏名] 〒[差出人の住所] 電話番号:[電話番号] メールアドレス(任意):[example@example.com] |
手紙を書く際に注意するべきポイント
遺産分割協議で面識のない相続人に手紙を送る際は、「相続人全員の合意が必要」といった法的前提を丁寧に伝えることがもっとも重要です。
一部の相続人だけで話を進めた印象を与えると、不信感を持たれ協力を拒まれるおそれがあります。
手紙では、相手が相続人であるとわかった経緯や、協議への参加をお願いする理由を誠実に説明し、対等な立場で意見を伺う姿勢を示しましょう。
また、押しつけがましい表現は避け、「ご協力いただければ幸いです」など、柔らかい言葉で相手の理解と協力を促すことが大切です。
【遺言どおりに分割する場合】面識のない相続人に送る手紙の例文
遺産を遺言どおりに分割する場合、被相続人が生前に残した有効な遺言書(公正証書遺言など)の内容にしたがって、遺産を分けていきます。
遺言書があれば、原則としてその内容が優先されますが、相続人の一人でも遺留分の侵害や内容に疑義を感じた場合は、トラブルに発展する可能性もあります。
面識のない相続人に連絡する際は、遺言の存在と内容、そしてその効力を丁寧に説明し、納得と協力を得ることが重要です。
ここでは、初回の手紙での連絡として使える文例を紹介します。
例文
[相手の氏名] さま 拝啓 突然のお手紙を差し上げる無礼をお許しください。 私の親族である[被相続人の氏名](昭和[年]年[月]日生まれ)が、令和[年]年[月]日に永眠いたしました。 相続手続きにあたり戸籍を確認したところ、[相手の氏名]さまが[被相続人の氏名]の法定相続人であることが判明いたしました。 これまで面識がなく、突然のご連絡となりましたこと、心よりお詫び申し上げます。 故人は生前、公正証書による遺言を残しており、その内容に従い、現在相続手続きを進めております。 遺言書の写しや資料を同封いたしましたので、内容をご確認いただければと存じます。 ご不明な点がございましたら、どうぞ遠慮なくご連絡ください。 恐れ入りますが、[○月○日]までに一度ご一報いただけますようお願い申し上げます。 何卒よろしくお願い申し上げます。 敬具 令和[年]年[月]日 [差出人の氏名] 〒[差出人の住所] 電話番号:[電話番号] メールアドレス(任意):[example@example.com] |
手紙を書く際に注意するべきポイント
遺言どおりに分割する場合、面識のない相続人にとっては「知らない相手から突然、相続の話が来た」といった状況になるため、まずは安心感を与える書き方が大切です。
「遺言書にしたがって進めています」と一方的に伝えるのではなく、遺言の存在・効力・背景を丁寧に説明し、写しを同封するなど誠実な対応を心がけましょう。
また、相手が疑問や不安を感じるのは当然のことなので、「ご不明な点はお気軽にご相談ください」といった柔らかい表現を使い、一方的な通知ではなく対話のきっかけとなる文面を意識しましょう。
【法定相続分どおりに分割する場合】面識のない相続人に送る手紙の例文
法定相続分とは、民法で定められた相続の割合に基づいて遺産を分ける方法で、たとえば次のようなケースがあります。
配偶者と子どもが相続人の場合

- 配偶者:遺産の2分の1
- 子ども:残りの2分の1(子どもが複数いれば等分)
配偶者と故人の父母が相続人の場合

- 配偶者:3分の2
- 父母:3分の1(両親が存命なら等分)
配偶者と兄弟が相続人の場合

- 配偶者:4分の3
- 兄弟:4分の1
法定相続分は、遺言書がない場合などにつかえる基本的な指針のことです。
面識のない相続人にこの内容を伝える際には、あらかじめ法定相続分での分割を進めたい理由を明確に伝えるとともに、相手に安心してもらえるよう丁寧な配慮が必要です。
以下に、初回連絡用として使える実用的な文例を紹介します。
例文
[相手の氏名] さま 拝啓 ご面識のない中、突然のお便りを差し上げます非礼を深くお詫び申し上げます。 私の親族である[被相続人の氏名](昭和[年]年[月]日生まれ)が、令和[年]年[月]日に永眠いたしました。 このたび相続手続きをおこなうにあたり、戸籍を確認したところ、[相手の氏名]さまが[被相続人の氏名]の法定相続人に該当されることが判明いたしました。 これまで直接のご縁がなかったことから、突然のお知らせとなりましたこと、重ねてお詫び申し上げます。 現在、遺産は法律で定められた相続割合(法定相続分)にしたがって分割する方向で話が進んでおり、そのためには全ての相続人の同意とご署名が必要です。 つきましては、[相手の氏名]さまにも内容をご確認いただいたうえで、お考えをお聞かせ願えればと存じます。 お手数をおかけしますが、まずはご連絡をいただけますと幸いです。 同封の返信用封筒にてご連絡先をご記入いただくか、下記連絡先までご一報くださいませ。 誠に恐縮ですが、[○月○日]までにご返信をいただければ幸いです。 ご不明な点がございましたら、どのようなことでもお気軽にご相談ください。 敬具 令和[年]年[月]日 [差出人の氏名] 〒[差出人の住所] 電話番号:[電話番号] メールアドレス(任意):[example@example.com] |
手紙を書く際に注意するべきポイント
法定相続分での分割を前提とした連絡では、相手に対して一方的な決定を押しつけていると受け取られないよう、慎重な表現をつかいましょう。
法定割合に基づいて進めたい理由(公平性・手続きの簡便さなど)を丁寧に説明し、あくまでも「ご理解をお願いしたい」といった姿勢を大切にしましょう。
また、相手にとっては突然の連絡となるため、被相続人との関係性や手紙を送るに至った経緯を具体的に説明し、信頼を築くことが重要です。
文中では、「ご納得いただいたうえでご協力をお願いしたい」「ご不明点には丁寧にご説明します」など、相手に寄り添う姿勢を表す言葉を積極的に使いましょう。
【代償分割を提案する場合】面識のない相続人に送る手紙の例文
代償分割とは、特定の相続人が不動産や事業資産などを単独で相続する代わりに、ほかの相続人に代償として金銭を支払う方法です。
相続人全員の合意があれば成立する方法で、不動産を売却せずに残したい場合や、相続人間の事情により資産を集約したいケースで使われます。
ただし、代償額や支払い条件を巡ってトラブルになりやすいため、面識のない相続人に提案する際は、信頼関係を築くことを第一に考え、押しつけがましくならない表現で説明するのが大切です。
以下に、手紙での初回連絡として使える文例を紹介します。
例文
[相手の氏名] さま 拝啓 突然のお手紙を差し上げる無礼をお許しください。 私の親族である[被相続人の氏名](昭和[年]年[月]日生まれ)が、令和[年]年[月]日に永眠いたしました。 このたび相続手続きを進めるにあたり戸籍を調査した結果、[相手の氏名]さまが[被相続人の氏名]の法定相続人であることが判明いたしました。 これまで面識がなく、突然のご連絡となりましたことを深くお詫び申し上げます。 現在、遺産分割にあたり、相続人の一部で代償分割の検討がなされております。 これは、特定の財産を一人が相続し、その代わりにほかの相続人へ代償金を支払うといった内容です。 もちろん、これは相続人全員の合意のうえでのみ進められるものであり、[相手の氏名]さまのお考えを尊重しながら話を進めてまいりたいと存じます。 まずは一度ご説明させていただきたく、恐れ入りますが[○月○日]までにご連絡をいただけますと幸いです。 お電話([電話番号])や、同封の返信用封筒にてご連絡先をお知らせいただければ、あらためて私よりご連絡差し上げます。 ご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。 何卒よろしくお願い申し上げます。 敬具 令和[年]年[月]日 [差出人の氏名] 〒[差出人の住所] 電話番号:[電話番号] メールアドレス(任意):[example@example.com] |
手紙を書く際に注意するべきポイント
代償分割を面識のない相続人に提案する際は、金銭のやり取りが発生するため、特に信頼感のある丁寧な説明が必要です。
「すでに話が進んでいる」と誤解を与えないよう、あくまで「検討中の案である」ことを明記し、本人の意見や同意を前提とする姿勢を強調しましょう。
また、代償金の費用や支払い方法を提示する場合は、客観的な根拠(不動産評価書など)も後日提示する旨を伝え、不信感を与えない進め方を意識するのが大切です。
一方的な決定事項として伝えると、感情的な対立を招く恐れがあるため、「お考えをお聞かせいただければ幸いです」「ご納得いただけるよう丁寧にご説明します」といった柔らかな言い回しを用いましょう。
【換価分割(売却して現金分配)を検討している場合】面識のない相続人に送る手紙の例文
換価分割とは、相続財産のうち現物(不動産や動産など)をそのまま分けることが難しい場合に、それを売却して得た代金を相続人で分配する方法です。
たとえば不動産を共同で所有するのに抵抗がある場合や、公平に分けにくい財産がある場合に多く用いられます。
面識のない相続人に換価分割を提案する場合は、「協議の一案として検討している」ことを丁寧に説明し、相手の同意が不可欠である旨を明記するのが大切です。
売却予定の財産や見積額についても、希望があれば資料を送付する旨を伝え、信頼を得られる配慮を心がけましょう。
例文
[相手の氏名] さま 拝啓 突然のお手紙を差し上げる非礼をお許しください。 私の親族である[被相続人の氏名](昭和[年]年[月]日生まれ)が、令和[年]年[月]日に永眠いたしました。 相続手続きを進める中で戸籍を確認したところ、[相手の氏名]さまが[被相続人の氏名]の法定相続人であることが判明いたしました。 これまで面識がなく、突然のご連絡となりましたことをお詫び申し上げます。 被相続人の遺産のうち、不動産(〇〇市所在の土地・建物)などについては、共有による管理が難しいことから、相続人間で売却し、換価分割によって代金を分ける案を検討しております。 もちろんこれは協議案のひとつであり、最終的には相続人全員の合意のもとで進めていく必要があるため、[相手の氏名]さまのお考えをぜひお聞かせいただきたく思っております。 恐れ入りますが、一度ご連絡いただけますと幸いです。 お電話([電話番号])または同封の返信用封筒にてご連絡先をご記入のうえ、ご返送いただければ、私からあらためてご説明を差し上げます。 ご多忙のところ恐縮ですが、[○月○日]ごろまでにご一報いただけますとたいへん助かります。 ご不明な点などございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。 何卒よろしくお願い申し上げます。 敬具 令和[年]年[月]日 [差出人の氏名] 〒[差出人の住所] 電話番号:[電話番号] メールアドレス(任意):[example@example.com] |
手紙を書く際に注意するべきポイント
換価分割を提案する際は、「すでに売却が決まっている」「同意が前提である」といった誤解を招かない表現を避けることが非常に重要です。
あくまで、「現物分割が難しいため、協議の中で換価分割の案が出ている」程度にとどめ、相手の意見を尊重する姿勢を必ず盛り込みましょう。
また、売却する財産が不動産である場合には、物件の概要・評価額・査定資料を希望があれば提供できることも明記すると、誠実な対応と受け取られやすいでしょう。
文章全体は穏やかで冷静なトーンを保ち、「ご検討いただければ幸いです」「丁寧にご説明いたします」など、対話の姿勢が伝わる表現を心掛けることが大切です。
【相続放棄をお願いしたい場合】面識のない相続人に送る手紙の例文
相続放棄とは、相続人が被相続人の遺産(財産や借金)を一切引き継がないとする意思表示を、家庭裁判所に申述する手続きです。
遺産の分配を簡素化したい場合や、被相続人に借金があった場合などに、相続放棄となる場合が多いです。
ただし、相続放棄は本人の自由な意思によるものであり、強要や圧力は絶対に避けなければなりません。
そのため、面識のない相続人にお願いする際は、丁寧で配慮ある表現を使い、あくまで「検討をお願いする」といったように柔らかい表現をする必要があります。
以下に、配慮を込めた例文を紹介します。
例文
[相手の氏名] さま 拝啓 突然のお手紙を差し上げる無礼をお許しください。 私の親族である[被相続人の氏名](昭和[年]年[月]日生まれ)が、令和[年]年[月]日に永眠いたしました。 現在、相続手続きを進めていたところ、戸籍を確認した結果、[相手の氏名]さまが法定相続人であることが判明いたしました。 これまで面識がなく、突然のご連絡となりましたこと、心よりお詫び申し上げます。 被相続人の遺産は、不動産(地方にある空き家1件)と預貯金(少額)となっておりますが、その一方で、負債や維持費がかかる資産も含まれており、現時点では大きなプラスの相続とは言えない状況です。 このような事情をふまえ、相続人の間で協議した結果、手続きや費用の負担を一部の相続人で引き受け、ほかの相続人の皆さまには「相続放棄」をご検討いただけないかという案が出ております。 もちろん、これはあくまでお願いであり、[相手の氏名]さまご自身のご判断を第一に尊重したいと考えております。 詳細についてのご説明資料の送付も可能ですので、ご不明な点などがございましたら、遠慮なくお知らせください。 恐れ入りますが、一度ご連絡をいただけますと幸いです。 お電話([電話番号])または、同封の返信用封筒にてご連絡先をご記入のうえご返送いただければ、私からあらためてご連絡差し上げます。 お忙しいところ恐縮ですが、[○月○日]ごろまでにご一報いただけますようお願い申し上げます。 敬具 令和[年]年[月]日 [差出人の氏名] 〒[差出人の住所] 電話番号:[電話番号] メールアドレス(任意):[example@example.com] |
手紙を書く際に注意するべきポイント
相続放棄をお願いする手紙では、「強要や誘導と取られない表現」に最大限注意する必要があります。
放棄は相続人の自由な判断に委ねられるものであり、「お願い」する立場であることを忘れてはいけません。
また、相手が状況を理解しやすいよう、相続の全体像や放棄をお願いする背景事情を丁寧に説明するのが大切です。
放棄の手続きや費用、期限などについても、希望があれば資料を提供する旨を伝えると親切です。
あくまで冷静で穏やかな表現を使い、相手の判断を尊重する姿勢を最後まで崩さないようにしましょう。
「ご負担がなければご検討いただければ幸いです」「無理のない範囲でお考えください」といった表現が効果的です。
【返事が来ない場合】面識のない相続人に送る手紙の例文
相続手続きにおいて、面識のない相続人に手紙を送ったにもかかわらず返答がない場合、遺産分割協議が進められず、登記や預貯金の解約なども滞ってしまいます。
このようなときは、催促の手紙をもう一度丁寧に出すことが重要です。
相手が多忙、事情がわからない、不信感があるといった可能性を考慮し、決して責めるような表現は使わず、「確認のためのご連絡」といった立場で、穏やかに意向をうかがいましょう。
次に、催促の場面でも使える配慮のある文例を紹介します。
例文
[相手の氏名] さま 拝啓 先日は、突然のお手紙を差し上げたにもかかわらず、ご多忙の折にご確認いただき誠にありがとうございました。 あらためまして、私の親族である[被相続人の氏名](昭和[年]年[月]日生まれ)が、令和[年]年[月]日に永眠いたしましたことをご報告申し上げます。 先にご案内差し上げたとおり、相続手続きにあたり戸籍を確認したところ、[相手の氏名]さまが法定相続人に該当されることが明らかになりました。 相続人全員の合意が必要な遺産分割協議を進めるうえで、[相手の氏名]さまのお考えをお聞きしたく、重ねてご連絡を差し上げた次第です。 ご事情により、まだお手紙の内容をご確認いただいていない、あるいはご不明な点やご不安な点があるかと存じます。 もしそのような場合には、遠慮なくご質問ください。資料の再送や説明のご案内など、柔軟に対応いたします。 恐れ入りますが、できましたら[○月○日]ごろまでに一度ご連絡いただけますとたいへんありがたく存じます。 ご連絡は、お電話([電話番号])または同封の返信用封筒のいずれでも構いません。 何卒よろしくお願い申し上げます。 敬具 令和[年]年[月]日 [差出人の氏名] 〒[差出人の住所] 電話番号:[電話番号] メールアドレス(任意):[example@example.com] |
手紙を書く際に注意するべきポイント
返事がない相続人に再度手紙を出す際は、責めるような言い回しや急かす表現は避けましょう。
相手にとっては、ほかの用事や心配、そもそも手紙の内容を理解できていない可能性もあります。
そのため、「ご多忙かと存じますが」「ご不明な点があればご遠慮なく」といった相手の状況に配慮する姿勢が伝わるように意識しましょう。
また、返事がないことを前提に、「再送」「再確認」「ご案内」などの柔らかい言葉で対応するのも大切です。
必要であれば、資料の再送や説明の機会を提案するなど、一方通行にならない工夫を添えることで、相手の心理的ハードルを下げることができます。
面識のない相続人に手紙を出す際に同封・送付しておくとよい書類
面識のない相続人に手紙を出す際に同封・送付しておくとよい書類は、以下のとおりです。
- 相続関係説明図(家系図)
- 財産目録(遺産一覧表)
- 遺言書の写し(ある場合)
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 返信用封筒(切手付き)
- ご返答書(意向確認書)
それぞれ詳しく見ていきましょう。
相続関係説明図(家系図)
相続関係説明図とは、被相続人と相続人との関係性を図解したもので、いわば「戸籍に基づいた家系図」です。
相手が「なぜ自分に手紙が届いたのか」を理解しやすくする役割があり、面識のない相続人に送る場合には特に有効です。
図には、被相続人の配偶者・子・兄弟姉妹・親などの氏名や生没年月日、続柄を簡潔にまとめます。
正式な提出書類ではないため、自作しても問題ありません(WordやExcelでも可)。
作成した相続関係説明図を同封すれば、相手にとって「自分が相続人であること」が視覚的にわかりやすくなり、安心感や信頼感につながります。
財産目録(遺産一覧表)
財産目録とは、被相続人が遺した財産の全体像を一覧にしたもので、相続人全員にとっての情報共有資料です。
不動産、預貯金、有価証券、生命保険、借金などが含まれ、相続協議の前提資料として非常に重要です。
形式は自由ですが、なるべく見やすい表形式で、不動産なら所在地・登記情報、預金なら銀行名・支店名・口座種別などを記載します。評価額や概算費用もあると親切です。
財産目録は司法書士や税理士が作成する場合もありますが、自作しても構いません。通帳、不動産登記簿、保険証券などを元に作成しましょう。
この書類を同封すれば、相手は「どのような財産が対象なのか」を把握でき、協議に前向きになってもらいやすいです。
遺言書の写し(ある場合)
被相続人が遺言書を残していた場合は、その写しを同封すれば相手に内容を正しく伝えることができます。
特に「公正証書遺言」の場合は、遺言書そのものが法的効力をもつため、早期の情報共有が重要です。
公正証書遺言の原本は公証役場に保管されており、相続人であれば「謄本」の取得が可能です。取得には公証役場での申請と本人確認書類が必要です。
自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合は、家庭裁判所の検認を受けたあとの写しを送りましょう。
被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
被相続人の戸籍謄本(正確には「戸籍一式」)は、相続人の確定に必要な根拠資料です。
出生から死亡までの連続した戸籍を集めることで、誰が法定相続人かを法律的に証明できます。
戸籍は本籍地の市区町村役場で取得します。被相続人が転籍していた場合は、全ての転籍先の役所から取り寄せる必要があり、申請には本人確認書類と、場合によっては相続関係を証明する書類が必要です。
面識のない相続人に手紙を送る際には、この戸籍の写しを同封すれば「あなたが相続人である」という法的根拠を示すことができます。
なお、戸籍謄本の内容は複雑な場合もあるため、相続関係説明図とあわせて提示するのが理想です。
返信用封筒(切手付き)
返信用封筒は、相手が負担なく返事を送れるようにするための心配りです。
切手を貼り、差出人(あなた)の住所と氏名を印字または記入しておくことで、相手がすぐに返信できる状態を整えます。
これにより、手紙を書く心理的なハードルが下がり、返答率が上がる効果が期待できます。
返信に使ってもらう書類(意向確認書や署名書類)がある場合は、そのサイズに合った封筒を選ぶとよいです。
さらに、「ご返信用」と明記しておくと親切です。このような細やかな配慮は、信頼を築く一歩となるでしょう。
ご返答書(意向確認書)
ご返答書(または意向確認書)とは、相続に関する相手の意思や連絡先を記入してもらうための書類です。
「相続協議に参加する意向があるか」「電話での説明を希望するか」「放棄の意思があるか」など、複数の選択肢を用意し、チェックや署名欄を設けます。形式は自由で、WordやPDFで簡単に作成できます。
あくまで法的効力をもたせるものではなく、「今後の連絡を円滑にするための確認資料」です。
相手にとっても、自分の意思を整理して伝えるツールになるため、丁寧な説明文とともに送ることが大切です。あわせて、記入後に返送しやすいように返信用封筒も同封しておきましょう。
面識のない相続人に手紙を出す際の流れ
面識のない相続人に手紙を出す際の流れは、以下のとおりです。
- 相続人の確定(戸籍調査)
- 財産の確定
- 連絡先(住所)の特定
- 手紙の作成と送付
- 相手から連絡が来る
順を追って見ていきましょう。
1. 相続人の確定(戸籍調査)
相続手続きを進めるうえで、まず「誰が法定相続人か」を正確に把握しましょう。
そのためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍を全て収集して家族構成を確認する必要があります。
たとえば、結婚・離婚・養子縁組・転籍などがあると戸籍がわかれていることがあるため、漏れなく取り寄せることが重要です。これにより、配偶者・子・兄弟姉妹・甥姪など、法定相続人に該当する人物を明確にできます。
戸籍は本籍地の市区町村役場で取得でき、代理人でも取得可能です。
相続人と面識がない場合でも、この調査によって法的根拠をもって連絡をとることができるため、最初の重要なステップと言えるでしょう。
2. 財産の確定
相続手続きでは、誰が相続人かを確定するだけでなく、どのような財産が相続対象に含まれているかを明らかにする必要があります。
これには、被相続人名義の預貯金、不動産、株式、車両、生命保険などのプラスの財産に加え、借金や未納税金などのマイナスの財産も含まれます。
全ての財産を一覧表(財産目録)としてまとめておくと、ほかの相続人との共有資料としても有効です。必要に応じて、通帳や不動産の登記簿謄本、証券口座の残高証明などを取得して裏付けを取りましょう。
このステップを丁寧におこなうことで、遺産分割方法の選択肢(現物分割・換価分割・代償分割など)や、相続放棄など検討しやすくなるでしょう。
3. 連絡先(住所)の特定
面識のない相続人に手紙を送るには、まずその方の現住所を正確に調べなければなりません。
そのためには、戸籍の「附票(ふひょう)」を取得すれば、その人物の住民登録上の住所を確認できます。
附票は本籍地の役所で発行されており、戸籍とあわせて申請するのが一般的です。
ただし、附票に記載がない、または転居後の住所が不明な場合は、住民票の除票や、探偵・調査会社の利用を検討する場合もあります。
相手の住所を特定できなければ、遺産分割協議が進められず、最終的には家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てるケースもあります。
いずれにせよ、法的に確実な連絡先を特定するのが必須です。
4. 手紙の作成と送付
連絡先がわかったら、相続人である相手に手紙を送付します。
この手紙は、相手にとって「突然、見知らぬ親族から届く」ものになるため、内容や表現には最大限の配慮が必要です。
文面には、被相続人の氏名と死亡日、自分の続柄、戸籍から相手が法定相続人であることが判明した経緯、遺産分割協議への参加のお願いなどを、誠意あるトーンで記載します。
また、返信を促すために返信用封筒や意向確認書を同封すると親切です。
いきなり遺産の話を進めようとするよりも、まずは「お話をさせていただきたい」といった柔らかな姿勢で書くと、相手の心理的負担も和らぎ、協力を得やすいです。
5. 相手から連絡が来る
手紙を送ったあとは、相手からの返答を待ちます。
すぐに連絡が来る場合もあれば、戸惑いや不安から返信を控えていることもあります。
数週間経っても返答がない場合には、再度手紙を送り、「前回のご案内はご確認いただけましたでしょうか」といった丁寧な文面で催促するのが望ましいです。
それでも反応がない場合には、電話番号がわかっていれば連絡を入れる、現地訪問を検討する、法的手続きを視野に入れるなど、段階的に対応しましょう。
協議にどうしても支障がある場合は、家庭裁判所での調停や不在者財産管理人の申し立ても視野に入れる必要があります。
最終的なトラブルを避けるためにも、冷静かつ丁寧な対応を心がけましょう。
面識のない相続人に手紙を出す際の注意点
面識のない相続人に手紙を出す際は、以下の点に注意しましょう。
- 送付方法は必ず記録が残る手段で
- 手続きの期限に気を付ける
- 返信がなく連絡が一切取れない場合は法的対応をとる
それぞれ詳しく解説していきます。
送付方法は必ず記録が残る手段で
面識のない相続人に手紙を出すときは、相手に確実に届いたことを証明できる方法で送付するようにしましょう。
特に相続に関する内容は後々トラブルになる可能性があるため、「送った・届いた」の記録が残る郵送手段を選びましょう。
具体的には、簡易書留や特定記録郵便がおすすめです。これらは配達状況の追跡ができ、万一の紛失にも一定の補償があるため、安心して利用できます。
また、手紙とともに戸籍謄本の写しや遺言書の写し、財産目録など重要な資料を同封する場合もあるため、安全面でも信頼できる手段を選ぶことが相手への配慮にもつながります。
手続きの期限に気を付ける
相続手続きにはいくつかの法定期限があります。
その中でも特に注意が必要なのが「相続放棄」と「相続税申告・納付」の期限です。
相続放棄をするには、被相続人の死亡を知った日から3か月以内に家庭裁判所へ申し立てなければなりません。
この期間を過ぎると、原則として全ての財産と負債を相続する「単純承認」になってしまいます。
また、相続税の申告および納付には10か月の期限があり、どちらも期限を過ぎると取り返しがつかない結果になりかねません。
そのため、相続人が全員で手続きを円滑に進めるには、早めに連絡を取り、必要な判断をしてもらうことが重要です。
返信がなく連絡が一切取れない場合は法的対応をとる
手紙を出しても返事が来ず、電話や訪問といった方法でも全く連絡が取れない場合には、相続手続きが進められなくなってしまいます。
そのようなときには、家庭裁判所に対して「不在者財産管理人」の選任を申し立てる法的手続きを検討します。
不在者財産管理人とは、所在不明の相続人の代わりに手続きを進める役割を担う人で、相続財産に関してその方の利益を守りながら、遺産分割協議などを円滑におこなうために選任されます。
申し立てには、住所不明の証拠やほかの相続人との関係資料などが必要です。時間や費用はかかりますが、協議を前に進めるためには有効な手段です。
ただしできる限り実務的な方法で連絡を試みたうえで、最終的な手段として検討しましょう。
まとめ
面識のない相続人に手紙を書く際は、相手に不信感を与えないよう、誠実かつ丁寧な表現を心掛けることが重要です。
まずは「突然のご連絡をお詫びします」といった配慮ある書き出しから始め、被相続人との関係や相手が相続人であると判明した経緯を簡潔に伝えます。
そのうえで、協議への参加や考えを伺いたい意向を、押しつけがましくなく柔らかな言い回しで伝えましょう。
また、手紙には「相続関係説明図」や「財産目録」「遺言書の写し(ある場合)」「返信用封筒」などを同封すると、相手が状況を理解しやすくなり、安心感や信頼感につながります。
送付には簡易書留など記録が残る方法を使い、相手に届いた証拠を残すことも忘れてはいけません。
さらに、相続放棄など期限のある手続きもあるため、連絡を急ぐ必要がある旨を柔らかく添えると効果的です。
もし手続きや書き方に不安がある場合は、司法書士や弁護士など相続の専門家に相談するのがおすすめです。