実家を生前贈与して名義変更するには?手順や必要書類、メリットデメリットを紹介

実家を生前贈与して 名義変更するには?手順や必要書類、メリットデメリットを紹介

親が高齢になり、「将来的にトラブルにならないよう、今のうちに実家の名義を自分に変更しておいたほうがいいのでは?」と考える方も多いのではないでしょうか。

とはいえ、実家の名義変更に必要な手続き、費用などはわかりづらく、不安を感じるのも無理はありません。

結論からいうと、親が健在なうちに名義変更をするには「生前贈与」の手続きが必要です。ただし、贈与税や登録免許税といった費用がかかるほか、手順を誤ると余計な負担やトラブルにつながる可能性もあります。

そこで本記事では、実家の名義を生前贈与で変更する際の流れや必要書類、費用の目安、さらにメリット・デメリットまでわかりやすく解説します。将来に備えて動き出したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。

目次

実家の名義変更をするには生前贈与をする必要がある

実家の名義を親から子へ変更するには、所有権を移すために法的な手続きが必要です。親が生きているうちに名義を子のものにする場合、それは「生前贈与」として扱われます。

たとえお金のやり取りがなくても、無償で不動産を譲り渡す行為は贈与とみなされ、名義変更には生前贈与の手続きが必要です。

この際には贈与税が発生する場合もあるため、贈与方法や税制度をしっかり理解したうえで、適切に進めていきましょう。

実家を生前贈与して名義変更をする際の手順

まずは実家を生前贈与して名義変更する際の手順を見ていきましょう。

▼生前贈与から名義変更する手順

  1. 贈与する不動産の内容を確認する
  2. 贈与税や登録免許税などの費用を事前に把握する
  3. 相続との関係や家族間の合意を確認しておく
  4. 名義変更に必要な書類をそろえる
  5. 所有権移転登記の申請書を作成する
  6. 書類一式を法務局へ提出する
  7. 名義変更が完了し、新しい登記情報が通知される

贈与する不動産の内容を確認する

実家を生前贈与する際は、まずどの不動産を贈与するのか、その内容をしっかり把握するのが大切です。手続きの土台となる情報なので、下記のように確認しておきましょう。

登記事項証明書(登記簿謄本)をチェック
法務局で「登記事項証明書」を取得し、土地や建物の所在地・面積・所有者名・持分などを確認します。登記の内容に誤りがある場合は、事前に修正が必要になることもあります。

不動産の種類や構造を確認する
贈与する不動産が土地だけなのか、建物も含まれるのかを確認します。建物が未登記の場合には、名義変更の前に登記手続きが必要になる可能性もあります。

権利関係も忘れずに確認
抵当権が設定されていないか、共有名義になっていないかなども確認しておきましょう。他人の権利が絡んでいる場合は、贈与の前に整理しておく必要があります。

こうした情報をきちんと把握しておくことで、後の名義変更手続きがスムーズに進みます。書類作成にも直結する部分なので、最初のステップとして丁寧に行いましょう。

贈与税や登録免許税などの費用を事前に把握する

不動産の贈与では、名義変更に伴っていくつかの税金や諸費用が発生します。事前におおまかな費用を把握しておくことで、安心して手続きを進めることができます。

贈与税について(受けとる側が負担)
贈与を受けた方が支払う税金で、不動産の評価額に応じて税額が決まります。たとえば、親から子への贈与であれば年間110万円までの「基礎控除」が適用されますが、それを超える部分については課税されます。税率や控除額は関係性や費用によって変わるので、あらかじめシミュレーションしておくと安心です。

登録免許税について(登記時にかかる)
不動産の名義を変更する際には、「登録免許税」といった税金も必要です。こちらは、固定資産評価額の2%が基準となって計算されます。評価額は市区町村の役所で「固定資産評価証明書」を取得すれば確認できます。

そのほかの諸費用
住民票や印鑑証明書、登記事項証明書の取得費用、郵送代など、細かい費用も含めておくと、より正確な予算が見えてきます。

税金の中には、条件を満たすことで控除や特例の対象となるものもあります。

たとえば「相続時精算課税制度」などを利用すると、贈与税がかからないケースもあるため、不安な場合は税理士などの専門家に相談しておくと安心です。

相続との関係や家族間の合意を確認しておく

贈与を進める前に家族全員と十分に話し、今後の相続にどのような影響があるのかを共有しておくことが大切です。

なぜなら、不動産の生前贈与は相続時に「特別受益」として扱われる可能性があり、将来の相続財産の分配に直接関わってくるためです。

たとえば、贈与された不動産の価値が高い場合、ほかの相続人の取り分とのバランスが崩れ、不公平感が生じトラブルが発生する可能性があります。

こうした問題を防ぐには、あらかじめ兄弟姉妹などの相続人と情報を共有し、合意を得ておくことが非常に重要です。「知らされていなかった」といった不満があとから出ることのないよう、話し合いの場を持ち、将来的な相続の考え方も含めて方向性を確認しておくと安心です。

また、今回の贈与が家全体の財産の分け方にどう影響するのかを整理しておくことで、遺言やそのほかの相続手続きにも一貫性を持たせることができます。必要に応じて専門家の助言を受けながら進めると、より円滑に手続きが進められるでしょう。

名義変更に必要な書類をそろえる

不動産の生前贈与による名義変更を進めるには、事前に必要書類をしっかりとそろえておくことが大切です。

これらの書類が不完全な状態では、法務局での登記申請が受理されない可能性もあるため、ひとつひとつ確実に準備するのが重要です。

具体的には、以下のような書類を用意しましょう。

  • 贈与を証明する契約書など
  • 贈与者の印鑑証明書(3ヵ月以内)
  • 受贈者の住民票
  • 登記識別情報または権利証
  • 固定資産評価証明書

所有権移転登記の申請書を作成する

必要な書類が全てそろったら、いよいよ法務局に提出するための「所有権移転登記申請書」を作成します。

この申請書は、贈与による不動産の所有権の移転を正式に届け出るための重要な書類です。

書式や記載内容に誤りがあると、受理されず差し戻されてしまうこともあるため、申請書には、以下のような情報を正確に記載しましょう。

不動産の表示
登記事項証明書に記載されている内容(所在、地番、家屋番号、種類、構造、床面積など)をもとに記載します。

登記の目的
「所有権移転」と記載します。

原因とその日付
贈与があったことを示す「贈与」と、その契約日を記載します(例:「令和○年○月○日贈与」)。

権利者(受贈者)・義務者(贈与者)の情報
それぞれの氏名・住所を正確に記載し、押印が必要な場合は実印を使用します。

登録免許税額の記載
固定資産評価証明書をもとに算出した費用(評価額の2%)を記載します。

添付書類の一覧
申請に添付する書類(贈与契約書、登記識別情報通知書、印鑑証明書など)を記載します。
記載例はこちらから確認できます。

書類一式を法務局へ提出する

申請書と必要書類の準備が整ったら、次はそれらを不動産の所在地を管轄する法務局へ提出します。

所有権移転登記は、どの法務局でも受け付けているわけではなく、登記対象の不動産がある地域を担当する法務局でのみ手続きが可能です。

提出方法は、窓口持参か郵送、さらに令和2年からは新たに「QRコード付きの書面申請」が使えるようになりました。窓口に直接持ち込むと、その場で書類のチェックを受けられるので、初めての方や不安がある場合にはおすすめです。

窓口提出の際には、以下の書類を一式まとめて提出します。

  • 所有権移転登記申請書
  • 登記識別情報通知書または登記済証(権利証)
  • 贈与契約書
  • 登記事項証明書
  • 固定資産評価証明書
  • 印鑑証明書(贈与者・受贈者)
  • 住民票(受贈者)
  • 登記原因証明情報(通常は贈与契約書で兼ねる)
  • 登録免許税の納付(収入印紙を申請書に貼付)

なお、登録免許税は原則として収入印紙を申請書に貼って納めます。

郵送の場合は、収入印紙を購入したうえで、ミスがないように貼り付けておきましょう。

名義変更が完了し、新しい登記情報が通知される

法務局に登記申請書と必要書類一式を提出すると、審査が行われ、問題がなければ数日から1~2週間ほどで名義変更の登記が完了します。申請の際に渡された「登記完了予定日」の目安をもとに、法務局からの連絡を待ちましょう。

登記が完了すると、「登記完了通知」といった書類が交付されます。完了通知が届いたあと、新しい登記事項証明書(登記簿謄本)を取得すれば、実際に受贈者の名義へと変更されたことを確認できます。

この証明書は、将来の売却や相続の際などにも必要になるため、大切に保管しておきましょう。

実家を生前贈与して名義変更する際に必要な書類

実家を生前贈与して名義変更する際に必要な書類は、以下のとおりです。

  • 贈与を証明する契約書など
  • 贈与者の印鑑証明書(3ヵ月以内)
  • 受贈者の住民票
  • 登記識別情報
  • 固定資産評価証明書

それぞれ詳しい内容を見ていきましょう。

贈与を証明する契約書など

実家を生前贈与して名義変更する際には、贈与者(あげる方)と受贈者(もらう方)の間で、贈与が行われたことを正式に示すための書類を用意する必要があります。通常は「贈与契約書」として作成され、当事者双方の署名・実印押印がされている必要があります。

贈与契約書は、登記申請時に「登記原因証明情報」として提出する必要があり、登記の根拠を示す非常に重要な書類です。

「登記原因証明情報」は役所などで取得するものではなく、贈与者と受贈者が自分たちで作成するものです。形式の自由度はありますが、後々のトラブル防止のためにも以下のような情報を記載するのが一般的です。

  • 契約日
  • 贈与する不動産の内容(所在地・地番など)
  • 贈与者と受贈者の氏名・住所
  • 無償であること(対価なし)
  • 贈与者・受贈者の署名・実印の押印

さらに、より法的な効力や証明力を高めたい場合は、公証役場で「贈与契約の公正証書」の作成も可能です。

贈与者の印鑑証明書(3ヵ月以内)

印鑑証明書は、贈与契約書や登記申請書に押された印鑑(実印)が、市区町村に登録されている本人のものであることを証明する書類です。登記手続きでは、贈与者が確かにその契約や申請に合意していることを示すために、実印とともにこの証明書の添付が求められます。不動産登記では、「印鑑証明書の発行から3ヵ月以内のもの」でなければ無効となるため、有効期限にも注意が必要です。

印鑑証明書は、贈与者の住所地の市区町村役場(役所・役場)で取得します。印鑑登録をしている本人が窓口で申請し、本人確認書類を提示すれば発行されます。また、マイナンバーカードを使ってコンビニで交付を受けることも可能です(一部自治体を除く)。取得には数百円程度の手数料がかかります。

なお、印鑑登録がまだ済んでいない場合は、まず実印を作成したうえで、市区町村に「印鑑登録申請」をおこなう必要があります。

受贈者の住民票

住民票は、贈与によって不動産の名義を新たに取得する方(受贈者)の現在の住所・氏名を証明するための書類です。名義変更をおこなう登記簿に正確な情報を反映させるために必要であり、登記申請時には必ず添付する書類のひとつです。登記簿に記載される内容と住民票の情報が一致している必要があるため、記載内容に誤りがないか事前に確認しておくと安心です。

住民票は、受贈者本人が、住民登録している市区町村の役所(役場)の窓口で申請して取得します。申請の際には、本人確認書類(マイナンバーカードや運転免許証など)の提示が必要なので、準備しておきましょう。

また、マイナンバーカードをお持ちであれば、コンビニ交付サービスを利用して全国のコンビニエンスストアで発行可能です。発行手数料は自治体によって異なりますが、通常は200〜300円程度であることを覚えておきましょう。

登記識別情報

登記識別情報は、贈与者が不動産の「正当な所有者」であることを証明する非常に重要な書類です。以前は「権利証(登記済証)」と呼ばれていたものが、現在では「登記識別情報」として発行されるようになっています。

登記識別情報は、すでに不動産を所有している贈与者が過去の登記時に受け取っている書類です。新たに発行されるものではありませんので、家の書類棚や金庫などに保管されていることが多いです。

もし紛失してしまった場合は、下記のような対応が必要です。

  • 事前通知制度の利用(法務局からの郵送確認)
  • 司法書士による本人確認情報の提供手続き

時間も手数料もかかるため、早めに確認しておくと安心です。

固定資産評価証明書

固定資産評価証明書は、贈与対象の不動産(土地・建物)の課税評価額(=税務上の価値)が記載された公的な証明書です。この評価額は、登記時に納める登録免許税の算出に使用されるため、名義変更手続きには必須の書類です。

評価額は、市町村が固定資産税の課税のために毎年算定しており、評価額に対して所定の税率(生前贈与による所有権移転登記の場合は2%)を掛けて税額を決定します。

また不固定資産評価証明書は、動産の所在地を管轄する市区町村役場(資産税課や税務課など)で取得します。土地と建物がある場合は、それぞれの証明書が必要です。

申請に必要な情報は次のとおりです。

  • 不動産の所在地・地番
  • 所有者の氏名
  • 使用目的(「登記用」など)

手数料は自治体によって異なりますが、1件あたり300円〜400円程度が一般的です。

実家を生前贈与して名義変更するメリット

実家を生前贈与して名義変更するメリットは、以下のとおりです。

  • 相続トラブルを防ぎやすい
  • 相続手続きが一部簡略化される
  • 将来の管理がスムーズ

それぞれ詳しく見ていきましょう。

相続トラブルを防ぎやすい

実家を生前贈与して名義変更しておくメリットのひとつが、相続トラブルを防ぎやすい点です。

特に実家のような不動産は現金と違って分けにくいため、「誰が相続するか」「どのように利用するか」などを巡って、相続人の間で争いが起きることがよくあります。

そうした事態を避けるためには、生前のうちに財産の行き先を明確にしておくことが大切です。実際に名義を変更しておけば、遺産分割協議の対象から外れるため、ほかの相続人が口を出しにくくなり、相続手続きもスムーズに進みます。

また、贈与をおこなう際に家族全体で話し合いの場をもつことで、納得したうえで財産を引き継ぐことができ、後々の感情的な対立も抑えることができます。こうした点からも、生前贈与は家族の関係を守りながら、確実に資産を承継するための有効な選択肢といえるでしょう。

相続手続きが一部簡略化される

実家を生前贈与し、あらかじめ名義を変更しておくことで、将来の相続にかかる手続きを一部省略できるといったメリットがあります。

通常、不動産が相続財産として残っていると、相続人全員で遺産分割協議を行い、その内容を証明する書類を作成しなければなりません。加えて、印鑑証明書の取得や登記申請といった複雑な作業が発生します。

しかし、生前贈与で不動産の名義がすでに移っていれば、その物件は相続財産に含まれないため、こうした面倒な手続きを省くことができます。相続人間の調整や書類のやり取りも不要になり、名義変更をめぐるストレスが大幅に軽減されるのです。

また、あらかじめ名義を移しておくことで、相続人の人数が多かったり、関係がややこしい場合でも、相続全体の整理がしやすいです。財産の一部がすでに確定していることで、残りの分割にも明確な基準ができ、相続手続きを効率的に進めることが可能です。

将来の管理がスムーズ

実家の名義を親から子へ生前に移しておくことで、将来的な不動産の管理が格段にしやすくなるでしょう。

名義が親のままの状態では、親が高齢化したり、認知症などによって判断能力が低下すると、売却や賃貸などの重要な手続きが進められなくなる可能性があります。成年後見制度(判断能力が不十分な方を法律的に支援する制度)を利用する手もありますが、手続きが煩雑で時間もかかります。

その点、子どもがあらかじめ名義人となっていれば、第三者との契約や不動産の処分も本人の判断でおこなえます。たとえば、空き家になった実家を売却したり、必要に応じてリフォーム・賃貸に出すなど、柔軟な対応が可能です。

また、名義が変わることで、固定資産税や管理責任も子ども側に移るため、維持費や修繕に関する判断もスピーディーにおこなえます。こうした管理上のスムーズさは、将来的なトラブルや家の放置リスクを減らすうえでも大きなメリットといえるでしょう。

実家を生前贈与して名義変更するデメリット

実家を生前贈与して名義変更するデメリットは、以下のとおりです。

  • 贈与税の負担が大きくなる場合がある
  • 将来の相続税に不利な場合がある
  • 不動産の登記費用・手間がかかる

それぞれ詳しく見ていきましょう。

贈与税の負担が大きくなる場合がある

実家を生前に贈与する際に特に注意すべきなのが、贈与税の負担です。

贈与税は、年間110万円を超える財産を受け取った場合に課税される税金で、相続税に比べて控除額が小さく、税率も高めに設定されています。

不動産のように評価額が大きい財産を贈与する場合、贈与税の費用が数百万円にのぼることも珍しくありません。

たとえば、土地と建物の評価額が1,000万円を超えるようなケースでは、基礎控除の110万円を差し引いた額に対して10〜55%の税率が適用されるため、相当な負担になることが多いです。

さらに、贈与を受けた側(通常は子ども)が納税義務を負うため、事前の資金準備も必要です。

もちろん、「相続時精算課税制度」などを活用すれば税金を抑えることも可能ですが、その制度には条件や注意点もあり、使い方を誤ると逆に不利になる場合もあります。

生前贈与を考える際は、贈与税の負担をしっかり試算し、制度の適用可能性について税理士など専門家の助言を受けることが重要です。

将来の相続税に不利な場合がある

生前に実家を贈与して名義変更をしておくと、相続が発生した際にかえって税務上の不利になる場合があります。

というのも、相続の場面では「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」など、相続税の負担を抑えるための制度が複数用意されています。しかし、これらの多くは「相続によって取得した財産」に限定されており、生前贈与された財産には適用されないのが一般的です。

また、令和6年の税制改正により、生前贈与した財産については、贈与者の死亡前7年以内に贈与された分が相続税の計算に加算されるようになりました(従来は3年)。

このルールによって、名義変更後も一定期間は相続税の対象に組み込まれることになり、思ったほど節税効果が得られない可能性があります。

このように、生前贈与が必ずしも相続税対策になるとは限らず、むしろ税額が増えてしまうケースもあります。

贈与のタイミングや対象となる不動産の価値、家族構成などを総合的に考慮し、慎重に判断する必要があります。可能であれば、事前に税理士など専門家の助言を受けることをおすすめします。

不動産の登記費用・手間がかかる

実家を生前贈与する場合、不動産の名義変更にともない「所有権移転登記」が必要ですが、これには手間も費用もかかります。

特に費用面では、登録免許税が課され、贈与による登記では不動産の固定資産税評価額の2%がかかります。たとえば評価額が2,000万円の不動産なら、それだけで40万円の税金が発生します。

一方で、相続によって名義変更する場合の登録免許税は評価額の0.4%と大幅に軽く設定されており、同じ不動産でも費用負担には大きな差が出ます。

また、登記の手続きを自分でおこなうには、贈与契約書の作成や必要書類の収集、登記申請書の記入など、専門的で煩雑な作業が多く、時間と労力がかかります。

不慣れな方にとってはハードルが高く、ミスや不備によって再申請が必要になることもあります。

実家を生前贈与して名義変更する際にかかる費用

実家を生前贈与して名義変更する際にかかる費用は、以下のとおりです。

  • 贈与税
  • 登録免許税
  • 不動産取得税
  • 相続税

それぞれ詳しく見ていきましょう。4

贈与税

贈与税とは、財産を無償で受け取った方(受贈者)に課される税金で、実家など不動産を親から子へ生前に贈与する場合、その評価額に応じて課税されます。

贈与税の課税対象になるのは、年間110万円を超える贈与分です。

110万円までは「基礎控除」として非課税ですが、それを超えると費用に応じて10〜55%の累進課税が適用されます。

基礎控除後の財産の費用税率控除額
200万円以下10%
200万円超400万円以下15%10万円
400万円超600万円以下20%30万円
600万円超1,000万円以下30%90万円
1,000万円超1,500万円以下40%190万円
1,500万円超3,000万円以下45%265万円
3,000万円超4,500万円以下50%415万円
4,500万円超55%640万円

たとえば、不動産の評価額が1,110万円だった場合、110万円の控除を引いた1,000万円が課税対象となり、税率は30%前後になることもあります。

贈与税の納税義務者は、財産を「もらった側」、つまり受贈者です。申告と納付は、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までにおこなう必要があるので、注意しましょう。

登録免許税

登録免許税とは、不動産の名義を変更する際に法務局に支払う税金のことで、所有権の移転登記をおこなうときに必ず発生する費用です。

生前贈与の場合は不動産の固定資産税評価額の2%といった高い税率が適用されます。たとえば、不動産の評価額が2,000万円であれば、登録免許税は40万円です。

一方、相続による名義変更の場合は税率が0.4%に軽減されるため、同じ不動産でも税額はわずか8万円程度と、大きな差が生じます。

このように、生前贈与では相続よりも登録免許税の負担が重くなるため、名義変更の方法を選ぶ際には慎重な検討が必要です。

不動産取得税

不動産取得税は、その名のとおり土地や建物などの不動産を取得した際に都道府県に支払う税金です。

税額は「固定資産税評価額×税率」で計算され、2025年時点では住宅用不動産に対して税率3%が適用されています。

ただし、居住用であること、床面積の基準、取得時期などの要件を満たし、都道府県税事務所に申請すれば軽減措置を受けることも可能です。

たとえば、新築住宅であれば評価額から1,200万円(長期優良住宅は1,300万円)が控除されます。

中古住宅の場合は築年数や耐震基準などに応じて控除額が異なります。土地についても課税標準額が評価額の1/2になり、さらに一定費用が控除されます。

また、不動産取得税は登記とは関係なく課税されるため、「名義変更をしていないから課税されない」といったことにはなりません。贈与契約を結び実質的に不動産を取得したと判断されれば、課税対象となるため注意が必要です。

相続税

相続税とは、亡くなった方の財産を相続や遺贈で受け取った方に対して課される税金のことです。

相続した財産の合計額が一定の費用(基礎控除)を超えた場合に、その超えた部分に対して課税されます。

▼基礎控除額の計算式
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

もし実家を生前贈与で名義変更したとしても、場合によって下記のように相続税がかかるケースがあるので、注意しましょう。

相続開始前7年以内に行った贈与
法定相続人への贈与は、相続財産に加算され相続税の対象に。

相続時精算課税制度を使った贈与
贈与から何年経っていても、相続時に全て合算されて相続税がかかります。

生前贈与を活用する際は、相続税との関係をよく理解した上で計画的におこなうことが大切です。

贈与税を安くして実家の名義変更をする方法

贈与税を安くして実家の名義変更をするには、以下の方法があります。

  • 暦年贈与
  • 相続時精算課税制度
  • 相続のタイミングで名義変更する

それぞれ詳しく解説していきます。

暦年贈与

「暦年贈与」は、1年間(1月1日~12月31日)に受けた贈与額が110万円以下であれば、贈与税がかからない制度です。

この非課税枠を利用して、実家などの不動産を数年にわたって分割して贈与すれば、贈与税の負担を抑えながら名義変更を進めることが可能です。

ただし、この方法にはいくつか注意点があります。

まず、毎年同額を機械的に贈与していると最初から複数年分を渡す契約とみなされ「定期贈与」として扱われて、全額に贈与税が課されるおそれがあります。これを避けるためには、贈与のたびに契約書を作成し、費用や時期に変化を持たせるなどの工夫が必要です。

また、2024年の税制改正により、生前贈与加算の対象期間が従来の3年から段階的に7年に延長されたため、その間の贈与は相続税の課税対象となってしまいます。

さらに、実家の評価額が高額な場合、110万円ずつの贈与では名義変更に非常に長い年数が必要になるため、現実的な方法とは言えないケースもあります。たとえば、数千万円の評価額がある不動産であれば、全てを非課税で贈与するには数十年かかってしまいます。

そのため、暦年贈与は、比較的評価額が低い不動産や、部分的な持分移転に向いており、評価額が高い実家をまるごと贈与したい場合には、ほかの制度(相続時精算課税など)との併用や検討が必要です。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は、60歳以上の親や祖父母から、18歳以上の子や孫への贈与に適用される制度です。​

この制度を利用すると、贈与者ひとりあたり2,500万円までの贈与について、贈与税は非課税です。​ただし、贈与された財産は贈与者の相続時に相続財産に加算され、相続税の課税対象となることを覚えておきましょう。

また一度この制度を選択すると、同じ贈与者からの贈与については、暦年課税制度(年間110万円の非課税枠)に戻すことはできないので、注意してください。

相続のタイミングで名義変更する

贈与税の負担を避けたい場合、実家の名義変更は生前ではなく、親が亡くなった「相続のタイミング」でおこなうのも有効な選択肢です。

というのも、贈与による不動産の名義変更では、贈与税が非常に高額になる可能性があります。たとえば5,000万円の不動産を贈与する場合、2,000万円以上の贈与税が課されるケースもあるため、支払いが難しい場合も多いです。

一方、相続によって名義変更をする場合には、「相続税」の対象ですが、相続税には以下のような基礎控除があるため、一定の費用までは課税されません。

相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

また、贈与に比べて、相続による不動産取得には次のようなコスト面のメリットもあります。

  • 登録免許税が0.4%と安い( 贈与では2%)
  • 不動産取得税が非課税

そのため、高額な不動産を生前贈与するのが難しい場合には、相続を待って名義変更をするのもひとつの手です。

ただし、相続発生時にはほかの財産との合算で相続税がかかる可能性もあるため、早めの相続対策・資産の把握が重要でしょう。

【ケース別に解説】実家の名義変更は生前贈与と相続どちらのタイミングがよい?

ここでは実家の名義変更は生前贈与と相続どちらのタイミングがよいかを下記のパターン別に解説していきます。

  • 兄弟仲は良好だが親が高齢で認知症のリスクがあるパターン
  • 兄弟と相続で揉めそうなパターン
  • 実家の価値が高いパターン
  • 自宅にローンが残っているパターン

兄弟仲は良好だが親が高齢で認知症のリスクがあるパターン

親が元気なうちに名義変更しておくことで、認知症発症後の手続き困難を回避できます。

認知症になると、財産を自由に処分できなくなるため、成年後見制度(判断能力が不十分な方を法律的に支援する制度)を使う必要があり、不動産の売却・贈与などに制限がかかります。

兄弟間に信頼関係があるなら、早めに贈与契約を結んで名義を移す方がスムーズで安心です。

贈与税の節税には「相続時精算課税制度」などの活用も検討しましょう。

兄弟と相続で揉めそうなパターン

将来の相続トラブルを避けるためには、親が生きている間に名義を誰にするか明確にし、ほかの兄弟とも話し合って同意を得ておくのがおすすめです。

遺言だけでは不満が残るケースもあり、死後に遺産分割協議で揉める原因にもなってしまいます。

生前贈与を通じて、誰が実家を相続(取得)するのかを明確にし、あわせてほかの兄弟には金銭で調整するなどバランスをとるとよいでしょう。

実家の価値が高いパターン

評価額の高い不動産を生前贈与すると、高額な贈与税が発生する可能性があります。

たとえば5,000万円以上の贈与であれば、贈与税だけで2,000万円以上になるケースも。

相続であれば、「基礎控除」や「小規模宅地等の特例(最大80%評価減)」などが活用でき、税負担を大きく軽減できる場合があります。

相続税対策を講じた上で、相続タイミングでの名義変更が現実的です。

自宅にローンが残っているパターン

住宅ローンが残っている不動産を生前贈与する場合、ローンを引き継ぐための金融機関の承諾や、抵当権の問題が発生しますし、場合によっては贈与が認められないこともあります。

一方で、相続の場合は、団体信用生命保険によりローン残高が完済されるケースも多く、結果として無償で家を相続できる可能性があります。

ただし、相続人がローン債務を引き継ぐケースもあるため、事前にローン契約の内容を確認しておきましょう。

生前贈与による実家の名義変更でよくあるトラブル事例

ここでは、生前贈与による実家の名義変更でよくあるトラブル事例を4つ解説していきます。

▼生前贈与による実家の名義変更でよくあるトラブル事例

  • 相続時精算課税制度をよく理解せずに使ってしまった
  • 地価上昇により税負担が想定より高額になった
  • 長男への生前贈与が原因で兄弟間に相続トラブルが起きてしまった
  • 生前贈与加算の対象になり相続税の支払いも必要になった

相続時精算課税制度をよく理解せずに使ってしまった

Aさんは、父親から実家を生前贈与で譲り受ける際、「贈与税がかからない」と聞いて相続時精算課税制度を安易に選択。

しかし制度の内容を十分理解していなかったため、父の相続時にその贈与分が全額相続財産に加算され、高額な相続税が発生してしまいました。

◎どうすればよかったのか?
制度のしくみやメリット・デメリットを事前に税理士などの専門家に相談し、将来の相続税負担もシミュレーションしたうえで制度の選択をおこなうべきでした。
一度選択すると撤回できないため、慎重な判断が必要です。

地価上昇により税負担が想定より高額になった

Bさんは、両親からの贈与で実家の名義変更を行いましたが、その時期に地価が急騰しており、評価額が想定以上に高騰しました。

結果として、贈与税・登録免許税ともに予想を大きく上回る額になってしまいました。

◎どうすればよかったのか?
不動産の評価額は贈与時点で決まるため、地価の動向を見ながら贈与のタイミングを慎重に判断するべきでした。
固定資産評価証明書を取得して事前に贈与税の概算を出し、納税計画を立てておけば、負担の見通しも立てやすいです。

長男への生前贈与が原因で兄弟間に相続トラブルが起きてしまった

Cさんのご両親は、実家を生前に長男であるCさんに贈与しましたが、ほかの兄弟には相談がなく、親の死後「不公平だ」と不満が爆発。遺産分割協議がまとまらず、家庭内で深刻な対立に発展してしまいました。

◎どうすればよかったのか?
贈与をおこなう前に、兄弟全員に事情を説明し、理解を得ておくこと必要がありました。
生前贈与とあわせて、ほかの相続人には現金などで調整(代償分割)をおこなう、もしくは遺言書で分配内容を明確にしておくと、トラブル回避につながります。

生前贈与加算の対象になり相続税の支払いも必要になった

Dさんは、父から実家を生前贈与で受け取り、贈与税も納付済みでした。

しかし父の死後、それが「相続開始前7年以内の贈与」に該当し、相続財産に加算されることに。結果として、相続税まで追加で支払うことになってしまいました。

◎どうすればよかったのか?
贈与を受ける時期を相続から十分に前にずらすことで、生前贈与加算の対象外にできた可能性があります。
2024年からは加算期間が7年に拡大されているため、制度改正を確認しながら早めの贈与計画を立てることが重要です。

まとめ

親が健在なうちに実家の名義を子へ変更するには「生前贈与」の手続きが必要です。

名義変更には贈与契約書の作成や、印鑑証明書・住民票・固定資産評価証明書などの書類が必要となり、法務局への登記申請も行います。

実家を生前贈与して名義変更するメリットは、トラブルの防止や相続手続きの簡略化、将来の不動産管理のしやすさなどが挙げられます。

一方で、費用面では贈与税や登録免許税、不動産取得税などがかかり、税負担は相続より重くなることも。制度や税制を正しく理解しないと損をするリスクもあるため注意しましょう。

手続きや税金の調査に不安がある場合は、早めに専門家へ相談するのがおすすめです。

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