葬儀費用控除はどこまで?相続税節税と否認されないための備え

相続税の計算で、葬儀費用控除の対象となる支出がどこまでなのか、迷う方は少なくありません。遺族としては葬儀のために使ったと考えていても、税務上は控除の対象外となる支出もあるためです。
相続税を適切に節税するには、控除の対象となる費用とならない費用を正確に把握しておくことが大切です。税務調査が入った場合に否認されないための準備も欠かせません。
本記事では、相続税申告における葬儀費用控除の範囲と注意点についてわかりやすく解説します。
相続税の「葬儀費用控除」とは?
葬儀費用控除とは、相続税を計算する際に、相続財産から葬儀にかかった費用を差し引くことができる制度です。相続税は故人の財産に対して課税されますが、借金などのマイナス財産や葬儀にかかった費用は控除できます。課税対象となる財産が減ることで、結果的に税負担が抑えられるのです。
故人を葬ることは社会的な慣習であり、遺族にとって避けられない費用負担であるため、税法上、相続財産から控除が認められています。ただし、控除できるのは必要かつ相当な範囲の支出に限られます。
相続税の控除対象となる葬儀費用
葬儀に関連する支出全てが控除対象になるわけではありませんが、税法上、控除対象と認められている費用も多くあります。ここでは、税務署の通達や実際の運用で一般的に控除できるとされている費用項目を見ていきましょう。
死亡診断書・火葬埋葬許可書の費用
死亡診断書(死体検案書)は、故人が亡くなったことを医学的・法律的に証明する大切な書類です。死亡届と一体になっており、市町村役場に提出することで、戸籍に死亡の事実が反映されます。この書類がないと、火葬や埋葬の許可が下りません。また、火葬埋葬許可証がなければ火葬や納骨はできません。
死亡診断書(死体検案書)の作成費用や、自治体で火葬埋葬許可証を発行してもらう費用は、葬儀を行うための前提となる支出であり、控除の対象です。
遺体安置・ドライアイス費用
故人の遺体を安置期間中の保管料、ドライアイス代なども控除の対象になります。遺体を適切に取り扱うための費用は葬儀の一部として認められるためです。ドライアイス代や保冷施設の利用料は、利用する日数が長くなるほど総額が高くなる傾向があります。後日の確認に備え、明細をしっかり保管しておきましょう。
通夜・告別式・火葬・埋葬費用
通夜や告別式、火葬、納骨までの一連の儀式にかかる費用は控除できます。たとえば、葬儀社への支払い全般、火葬場の使用料、納骨の作業料などです。式場使用料、設営費用、装飾費用、撤去費用形式にこだわらず、葬儀として行われたかどうかが判断基準です。
霊柩車・バスなど交通費
葬儀場から火葬場までの霊柩車や、遺族や参列者を火葬場などへ送る送迎バスの費用も控除の対象となります。故人や参列者の移送は、葬儀進行になくてはならないものだからです。ただし、交通費が高額になりすぎると「相当な金額」を超えるとして否認される場合があります。人数や距離に応じた見積書や請求書を残しておくと、証明がスムーズになります。
僧侶などへの謝礼(お布施・戒名料など)
宗教者への謝礼、お布施、読経料、戒名料なども控除対象です。葬儀を行ううえで必要な支出であり、金額の上限も特に定められていません。現金手渡しが多く、「謝礼は気持ちである」という考え方から、領収書を出さないケースも多いものです。領収書がない場合は、「〇月〇日、〇〇寺〇〇僧侶へ葬儀謝礼として〇万円を支出」といった内容を記録しておくことが重要です。
会葬御礼費用
通夜や告別式でその場で渡す会葬御礼品は、参列に対する感謝の気持ちを表すものであり、葬儀に直接関連する費用として控除対象となります。会葬御礼と香典返しを兼ねる「即日返し」の場合、実質的にどちらの性質をもつかによって控除可否が異なります。
香典の金額にかかわらず、一律の少額な品物を渡す場合は、葬儀に際して参列者への感謝を示す費用として、控除が認められる可能性が高いでしょう。一方、返礼品の金額が、通常の会葬御礼の相場を大きく超え、受け取った香典の半額や3分の1程度に設定されている場合は注意が必要です。実質的に香典返しであると判断されて控除が認められない場合があります。
金額の妥当性や一律性、名目が判断のポイントです。判断に迷う場合は税理士に相談しましょう。
参考:第13条《債務控除》関係|国税庁
参考:No.4129 相続財産から控除できる葬式費用|国税庁
控除対象とならない葬儀費用
相続税の葬儀費用控除では、葬儀に直接関係しない支出は対象外とされています。感情的には葬儀に関係があると感じる費用も、税務上は認められないケースがあるため注意が必要です。ここでは、代表的な控除対象外の費用を解説します。
香典返し
参列者から受け取った香典への返礼として贈る「香典返し」は、相続税の控除対象にはなりません。税務上は贈答費用とされ、葬儀に直接必要な費用とはみなされないためです。また、香典返しは葬儀後しばらくしてから送るのが通例であり、葬儀の一部ではないと考えられています。会葬御礼と兼ねて、通夜や葬儀の当日に渡す場合も同様です。税務署に否認されやすい項目のひとつのため、会葬御礼などと混同しないよう注意が必要です。
墓石・墓地、仏壇・仏具の購入費用
墓地の使用料、墓石の購入費、墓地の永代使用料、墓石への彫刻費用、仏壇や仏具などの支出は、葬儀費用ではなく、葬儀後の祭祀に関わる費用として扱われます。これらは祭祀財産と呼ばれ、そもそも相続税の課税対象とならないため、控除する必要がないのです。お墓の建立費用は高額になることが多いため、控除対象と誤解されやすい項目ですが、お墓そのものの設置・購入費用は控除不可と覚えておきましょう。
初七日以降の法事・法要費用
初七日や四十九日、一周忌などの法要にかかる費用も控除対象には含まれません。初七日以降の法要は、葬儀とは別に遺族が任意で行う宗教的行事とされているためです。法要の際の食事代や引き出物などを葬儀費用と一括で請求されているケースでは、申告時に明細を整理しておくことが重要です。控除対象の費用と対象外の費用を明確に区別しておくことで、否認リスクを回避できます。
慰労会など個人的な飲食費用
葬儀後に遺族や親族で行う慰労会や、故人を偲ぶ集まりなどの飲食代は、私的な交際費とみなされ、葬儀費用控除の対象にはなりません。参加者や目的が明確に葬儀に関連している場合でなければ、控除対象と主張するのは難しいでしょう。
家族だけで火葬まで済ませた後、あらためて故人を偲ぶ場として開催する「お別れの会」などは、会の性質によって判断が分かれます。実質的な告別式として機能している場合は控除対象となる場合があるため、具体的なケースについては専門家に確認しましょう。
医学的な治療費用・解剖費用
亡くなる直前の治療費や、死因を特定するための解剖にかかる費用などは、葬儀費用控除の範囲には含まれません。
生前の医療費は、実際に支払った方が所得税の確定申告(亡くなった方の場合は準確定申告)で医療費控除の対象となります。医療費が亡くなった方の未払い債務として残っていた場合、相続税の計算上、債務控除として遺産総額から差し引くことも可能です。控除はどちらか一方を選択し、併用はできません。
判断に迷う「グレーゾーン」費用の解説
相続税の葬儀費用控除においては、控除対象かどうかがわかりにくい支出も多くあります。飲食費や供物代など、時期や内容で判断が分かれる項目は要注意です。
飲食代
通夜振る舞いや精進落としなど、通夜や告別式の直後に会葬者に提供する食事は、控除対象として扱われるケースが多いです。一方、親族のみの会食や葬儀後に行われる慰労会の費用は、葬儀に必要のない私的な支出とされ、控除が認められない可能性が高いでしょう。
税務調査では、参加者リストや献立表、会場案内などから会食の目的や規模を確認する場合もあります。控除するためには、儀式の一部であることが説明できる資料の準備が大切です。

供花・供物
通夜や告別式の際の供花や果物・菓子などの供物は控除対象です。葬儀社のパッケージプランに含まれている場合は控除が認められる可能性が高いでしょう。一方、初七日や四十九日などの法要で用意する供花や供物は控除対象外です。
遺体搬送の付帯費用・宿泊費
病院から葬儀会場、葬儀会場から火葬場への遺体搬送費用、遠方で亡くなった場合の遺体搬送費用(飛行機代、陸路での運搬費用など)は控除対象です。また、遺体の安置・搬送に直接関係する遺族の宿泊費も控除対象となる可能性があります。
あくまでも葬儀を行うために必要な費用という観点から判断するため、単に遠方から参列する親族の宿泊費を喪主が負担した場合などは、原則として控除対象外です。
税務署に否認されないための記録方法
葬儀費用控除を適切に受けるには、控除の根拠を明確にすることが大切です。たとえ葬儀に関係する支出であっても、証拠や記録が不十分な場合は税務署に否認されるリスクがあります。最後に書類の管理や保管のポイントと、注意すべき費用の特徴を確認しましょう。
控除に必要な書類と保管のポイント
相続税申告において葬儀費用を控除するには、誰に・いつ・どのような目的で・いくら支払ったかを明らかにする資料が必要です。
支出の証明として信頼性が高いのは領収書、振込明細書、通帳などです。ただし、支払った記録だけでは内容がわからないため、必ず請求書や明細書と一緒に保管しましょう。支払った方の名前・日付・金額・内容の記載があると安心です。葬儀社のパッケージ料金なども、明細の提示を依頼しましょう。
僧侶へのお布施など領収書が出ない支出については、「いつ・誰に・何のために・いくら渡したか」を記録したメモが役立ちます。相続税の申告に使用した控除証明書類は、少なくとも申告期限から7年間の保管が推奨されます。申告からある程度の期間が経ってから税務調査が入ることもあるため、書類はひとつのファイルにまとめておくと安心です。
問題視されやすい費用の特徴と注意点
遺族の感覚としては当然の出費であっても、税務上は控除を否認されやすい支出もあります。以下の点に注意しましょう。
- 一般的な相場と比較して高額すぎないか
- 支出の名目が明確か
- 控除対象の支出と対象外の支出が混在していないか
特に、一括請求された金額の中に控除対象の支出とそうでない支出が混ざっている場合、内訳が明示できなければ控除が認められない可能性があります。対象となる部分だけを明確に計上できるように書類を整理しましょう。税務調査で修正申告や追徴課税のリスクを避けるためにも、少しでも不安な項目がある場合は、専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
葬儀費用控除がどこまで認められるかは、相続税申告において大切なポイントです。基本的には、亡くなってから火葬・埋葬に至るまでに必要な支出の多くは相続税の計算上控除できます。一方で、香典返しや墓石の購入費用、法要での飲食代などは控除対象外です。
領収書など支払いを証明する書類はもちろん、なぜその支出が必要だったかを示す請求明細やメモ書きも、後日税務署に否認されないための備えになります。宿泊費や飲食代のように判断に迷う費用については、税理士に確認すると安心です。
相続税申告だけでなく、戸籍の収集や遺産分割協議書の作成など相続手続き全体に不安がある方は、行政書士や司法書士などの専門家も心強い味方となるでしょう。
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