外国人雇用で失敗しない!採用フェーズ別の手続きと必要書類を解説

今、優秀な外国人材を積極的に雇用する企業が増えています。外国人を雇用するためには、日本人を採用する場合には発生しない複雑な手続きが必要です。準備する書類も多く、不安を抱える採用担当の方も多いでしょう。
本記事では、外国人雇用に必要な手続きと書類を採用前・入社時・入社後の3フェーズで整理します。スムーズに手続きを進めるための参考にしてください。
外国人雇用で書類が企業の命運を握る理由

就労を目的として日本に滞在する外国人は「技術・人文知識・国際業務」などの在留資格が必要です。外国人雇用で書類の収集・作成・管理が重要とされることには、大きく2つの理由があります。
1. 在留資格の不許可リスクを回避するため
就労を目的とする在留資格申請では、本人の専門性と企業の安定性・職務の適合性が審査されます。書類に不備や矛盾があると在留資格が不許可となり、外国人が入国・就労できません。企業の決算書や雇用契約書、職務説明書は、入管審査における裏付け資料であり、採用の成否を決めるもっとも重要な要素です。
2. 雇用主として不法就労を助長しないため
外国人雇用では、在留資格で認められた活動以外の業務をさせたり、在留期限切れの外国人を雇用したりすると、企業も不法就労助長罪として処罰対象となります。日本人雇用と同様に労働条件の明示も必須です。採用後の法的トラブルや監査から企業を守るため、コンプライアンスを証明する書類の準備と管理が求められます。
外国人雇用は3つのフェーズで書類を整理する
在留資格に関わる手続きも、一般的には企業が中心となって手続きを進めます。特に、海外から外国人を新しく雇用する場合は、採用する企業の果たす役割が大きいのです。
外国人雇用の手続きが複雑で何から始めていいかわからない場合は、採用プロセス全体を3つのフェーズに分けて整理しましょう。必要書類の目的と役割が明確になり、効率的に管理できるようになります。
- 【フェーズ1:入社前】在留資格に関する手続きをおこなう
- 【フェーズ2:入社時】コンプライアンス体制を確保する
- 【フェーズ3:入社後】雇用管理を万全にする
採用が決定したら、まずは在留資格を取得するための申請書類を準備します。在留資格取得後は在留カードの確認や労働条件の明示によって不法就労の助長や労働トラブルのリスクに対応します。入社後も、ハローワークへの届出や社会保険加入、在留期間更新に向けた書類管理など、継続的なコンプライアンス管理が重要です。
以下では、フェーズごとの手続きと必要書類を確認していきます。
【フェーズ1】入社前の在留資格に関する手続き
まずは、採用が決定したら最初におこなう手続きや必要書類を整理します。
【採用ルート別】在留資格の手続き
まずは、必要な在留資格の種類や手続きを確認しましょう。外国人材の採用ルートによって申請の種類や審査ポイントが異なり、準備する書類も変わります。以下では、海外から呼ぶ場合、留学生の新卒採用、国内転職の場合の手続きを確認します。
海外にいる外国人を日本で雇用する場合(COE新規申請)
海外在住者を新規採用して日本に招く場合、原則として2つのステップが必要です。
第1段階として、雇用主である企業が、日本の地方出入国在留管理局にCOE(在留資格認定証明書)の交付申請をします。COEは在留資格の事前審査の合格証のようなものです。
企業が用意した書類と外国人本人の書類をそろえ、企業の所在地を管轄する入管に提出します。1〜3ヵ月程度の審査を経て許可が下りると、企業にCOEが送付されます。
第2段階は、外国人本人がCOEをもって居住国の在外日本公館(大使館・領事館)に査証(ビザ)の発給申請をおこないます。ビザが発給されたら、COEの交付日から3ヵ月以内に日本へ入国します。入国時の空港でCOEを提示し、在留カードを受け取ります。
外国人留学生を新卒採用する場合(在留資格変更申請)
日本国内の学校に留学している外国人留学生の在留資格は「留学」で、原則として就労ができません。アルバイトの許可を得ている場合も、フルタイムの就労は不可です。新卒で日本の企業に就職する場合、在留資格を「留学」から就労が可能な「技術・人文知識・国際業務」などへ変更する手続きが必要です。
審査には通常1〜3ヵ月程度かかります。4月1日入社の場合、卒業前の12月から翌年1月上旬ころに本人が出入国在留管理局で申請手続きをおこないます。
在留資格の更新は企業との間で雇用契約を締結していることが前提となりますが、逆に在留資格の変更が許可されることが採用条件とすることが多いです。
雇用主である企業としては、本人の専攻内容と職務内容の関連性を示すことが重要です。たとえば、情報工学を学んだ学生がエンジニアとして働く場合はスムーズです。専攻と業務内容の関連性が薄い場合は、補足資料を準備しましょう。
日本で就労中の外国人を中途採用する場合(在留資格変更・就労資格証明書交付申請)
すでに日本で就労している外国人を中途採用する場合、転職後の仕事内容が、現在外国人が持っている在留資格の活動範囲に含まれるかどうかが重要です。
在留資格の種類が変わる場合や、同じ在留資格内で活動範囲が大きく変わる場合、在留資格の変更手続きを行います。
たとえば、在留資格「教育」で高校の英語教師をしていた方が、民間企業の翻訳・通訳の仕事に転職する場合、在留資格「技術・人文知識・国際業務」へ変更します。また、在留資格「技術・人文知識・国際業務」でITエンジニアをしていた方が、介護士に転職する場合も活動内容の変更が必要です。
審査では、転職理由が合理的か、職務内容がこれまでの経験と関連しているかが重要視されます。雇用条件が前職と極端に異なる場合も注意が必要で、給与水準や業務内容の説明に整合性を持たせることが重要です。変更の許可が下りるまで、新しい勤務先で働くことはできません。1〜3ヵ月の審査期間を考慮して早めに申請しましょう。
また、在留資格の変更の有無にかかわらず、所属期間が変わった場合は退職日または新しい勤務先との契約締結日のいずれか早い方から14日以内に、出入国在留管理庁へ「所属機関に関する届出」が必要です。
「所属機関に関する届出」では、新しい勤務先の仕事が在留資格の要件を満たしているかは審査されません。次回の在留資格更新時のトラブルを防ぐために、「就労資格証明書交付申請」を強くおすすめします。任意の手続きではありますが、新しい勤務先での活動内容が在留資格上問題ないというお墨付きを得た上で働けるため、勤務先と外国人本人の安心につながります。
企業が用意する書類|事業の安定性・継続性の証明と不備対策
企業側が準備する書類は、事業の安定性・継続性や、本人の専門性と職務内容の関連性を示す重要な資料となります。たとえば、以下のような書類が必要です。
- 登記事項証明書
- 会社概要
- 直近の決算書
- 法人税の納税証明書
- 雇用契約書のコピー
- 職務内容を説明する書類
- 前職との雇用条件の比較資料(在留資格変更時)
企業の規模や事業実績(上場・非上場、前年分の源泉徴収税額など)によって申請のカテゴリー(1~4)が定められ、提出書類の量が大きく異なります。カテゴリー1や2に該当する場合、提出書類が大幅に軽減されるため、最初に自社のカテゴリーを確認すると効率的です。
書類の準備にあたっては、以下のポイントに注意しましょう。
- 自社がどのカテゴリーに属するか確認する
- 登記事項証明書、納税証明書などは発行から3ヵ月以内のものを提出する
- 原本提出が必要か、写し(コピー)でよいのかを確認する
- 会社概要と事業計画書の内容に矛盾がないか確認する
- 外国人の専門性を活かせる職務内容であることを明確に説明する
書類の内容に不安がある場合は、提携する行政書士などに相談しましょう。
外国人本人が用意する書類|必要書類リストと依頼のコツ
外国人本人に依頼する書類のうち、母国から取り寄せる書類がある場合、回収に時間がかかることを前提に準備を進めます。本人が用意する書類の例は以下のとおりです。新卒か、中途かによっても異なるため、状況に応じた必要書類を確認しましょう。
- 卒業証明書(または卒業見込証明書)
- 成績証明書
- 在学中の出席・成績に関する資料
- 職務経歴書(前職・現職の内容を詳細に)
- 転職の経緯や合理性を説明する理由書
- パスポートの写し
以下のチェックポイントを確認し、外国人本人と連携して書類を集めましょう。
- 海外発行書類には日本語訳と翻訳者の署名をつけてもらう
- 発行国によっては公証(アポスティーユ)が必要な場合があるため、手順を確認する
- 提出期限と、遅延する場合の連絡についてルールを設定する
- 卒業証明書の専攻内容が、新しい職務内容と関連しているか確認する
申請してから不備を指摘されないよう、本人が準備するべき書類が全てそろっているか、内容に矛盾はないか、説明は十分なされているかを確認すると安心です。
【フェーズ2】入社時のコンプライアンス体制確保
在留資格取得後に重要なのは、不法就労助長や労働トラブルのリスクに備えることです。コンプライアンスを徹底し、安心して働いてもらえるように必要な手続きは事前に確認し、もれなくおこないましょう。
在留カードとパスポートの確認
在留資格の許可通知書だけでは就労資格を証明できません、在留資格が更新されているか、就労可能な在留資格かを在留カードで確認しましょう。採用時のみならず更新のたびに継続的に確認し、次回の在留資格更新を確実におこなうことが重要です。
在留カードの写しを保管しておくことで、内部監査や監督署からの問い合わせにも適切に対応できます。過去には偽の在留カードが出回った例もあるため、法務省の在留カード番号自動チェックサイトを利用する企業も増えています。
資格外活動許可の確認(アルバイト・パートの場合)
外国人がアルバイト・パートとして就労する場合、「資格外活動許可」があるかどうかの確認が必須です。留学や家族滞在の在留資格で滞在する外国人を資格外活動許可なく働かせてしまうと、企業が不法就労助長罪に問われる可能性があります。
許可の有無は在留カード裏面に記載されており、「資格外活動許可(包括)」と記載されていれば、週28時間以内のアルバイトが可能です。ただし、学則で定める長期休暇中のみ時間制限が異なる場合があるため、学生の学籍状態も併せて確認すると安全です。なお、風俗営業に該当する業務は資格外活動許可があっても禁止されています。
在留カードのコピーを雇用時に保存しておくことで、監査や指導の際に企業の適正な管理を示す証拠となります。
労働条件の明示と説明
外国人雇用で特に問題となりやすいのが、労働条件の認識のズレです。日本語が堪能な外国人でも、雇用形態・残業規定・みなし労働時間・諸手当など、日本特有の労働慣行を完全に理解するのは容易ではありません。
厚生労働省は、外国人に対して「母国語または平易な日本語」で説明するよう推奨しており、企業としても誤解防止のために2言語対応の書面を整えることが望ましいです。また、職務内容が在留資格に適合している必要がある点に注意しましょう。
【フェーズ3】入社後の雇用管理
法令を順守し、外国人の安定した雇用を維持するために必要な手続きです。継続して適切な管理ができる体制が求められます。
ハローワークへの外国人雇用状況の届出
外国人を雇い入れた翌月10日までに、ハローワークに「外国人雇用状況届出書」を提出しましょう。期限を過ぎると行政指導の対象になるため注意が必要です。在留カードの写しを添付します。
離職時にも同様の届出が必要です。届出義務違反には罰則があるため、外国人雇い入れ時と離職時の業務フローに必ず含め、企業としてのコンプライアンスを守りましょう。
社会保険・労働保険の加入手続き
外国人であっても、日本人社員と同じく社会保険(健康保険・厚生年金)および労働保険(雇用保険・労災保険)への加入が義務です。
留学生や短時間就労者の場合、雇用保険の加入基準(週20時間以上、31日以上の雇用見込み)の判断に迷うケースも多いです。迷ったら申請先の役所や社労士に確認して、手続きもれを避けましょう。
外国人特有の事情として、母国の社会保障制度との調整(社会保障協定)が必要となることがあるため、該当国かどうかを確認することも有効です。
在留期間更新に向けた書類管理と更新申請
外国人を継続して雇用するためには、在留期間の満了を見落とさず、余裕をもって更新申請をおこなうことが大切です。一般的に更新申請は在留期限の3ヵ月前から受け付けられるため、社内で期限管理台帳を作成し、担当者が自動的にアラートを確認できるしくみを整えることをおすすめします。
更新のタイミングで提出書類に不備があると、最悪の場合、更新不許可や短縮許可につながることがあるため、早期の準備が重要です。
企業の信頼を左右する!必要書類準備で陥りやすい失敗とリスク対策
提出書類の矛盾や、期限管理のミスから生じる不法就労は、企業の信頼を大きく揺るがします。ここでは、実務の現場で実際に起こりやすい失敗と、今日から取り組めるリスク対策を解説します。
書類の不備・偽造による在留資格不許可のリスク
在留資格許可申請が不許可となる理由として多いのが、提出書類の不備や信憑性の欠如です。
たとえば、決算書と事業計画書の内容が矛盾している、職務内容と専門性の関連が薄い、本人の職歴が証明資料と整合しないといったケースは危険です。審査官に「事実確認ができない」と判断され、不許可につながる可能性があります。
また、本人が提出する学歴証明書や職務経歴書の中には、まれに偽造が混ざっていることもあり、企業が十分に確認しないまま申請すると、企業側も虚偽申請の疑いをかけられかねません。
不許可になると再申請まで時間がかかり、採用スケジュールが大幅に遅れるだけでなく、企業の評価にも影響します。書類の整合性を複数の担当者でチェックし、原本確認を徹底しましょう。
うっかりオーバーステイを防ぐための書類管理術
外国人雇用で絶対に避けなければならないリスクが「オーバーステイ」です。在留期限の管理を怠り、うっかり在留資格の期限を過ぎて滞在してしまうと、本人だけでなく企業も不法就労助長として責任を問われる可能性があります。
在留カードの有効期限をシステムと紙ベースの双方で管理し、期限の3ヵ月前に自動で通知が届くしくみを作ることが有効です。また、在留カードの裏面に記載される勤務先情報や住居地の変更状況を、定期的に原本と写しで照合するルールを社内で徹底することも重要です。
特に部署異動や勤務形態の変更がある場合、在留資格の活動範囲から逸脱していないかをチェックする体制が求められます。更新申請は早めに着手し、必要書類をあらかじめそろえておくことで、トラブルのリスクを最小限に抑えられます。
専門家への相談を検討すべきケース
外国人雇用の手続きは、表面上はシンプルに見えても、実際には法令・在留資格の専門的な判断を伴う複雑なケースが少なくありません。次のような場合は、早い段階で専門家に相談することを強く推奨します。
- 過去に在留資格の不許可歴がある、または退去強制歴がある
- 雇用契約や職務内容が特殊で、在留資格の区分に当てはまるか判断が難しい
- 中途採用のため、職務経歴や転職理由の整理が必要
- 新規事業に従事してもらうため、職務内容の説明が難しい
専門家の役割分担としては、入管手続きや在留資格許可申請の代行は行政書士、労働条件のレビューや社会保険関連の手続きは社会保険労務士が担当するのが基本です。適切な専門家に相談することで、申請の精度が高まり、企業のリスクを大幅に軽減できます。
まとめ
外国人を雇用する際は、採用決定から入社後までの手続きの見通しをもつことでスムーズな雇い入れが可能です。まずは、雇用する外国人や自社の状況に合わせた「必要書類チェックリスト」を作成し、分担や期限を明確に設定しましょう。
複雑な在留資格申請やリスクの高いケースでは、行政書士や社労士に相談して専門的なサポートを受けることで、企業の信頼を守ることができます。不安があればプロに任せて、安心・確実な外国人雇用体制を整えましょう。
当事務所(行政書士佐藤秀樹事務所)では、在留資格許可申請についてのご相談を受け付けています。外国人雇用でお悩みを抱える企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。
