電気工事業登録が不要なケースとは? 知らないと危険なリスクと判断基準

電気工事業を始める際、「自分のケースは電気工事業登録が不要なのでは?」と迷う方もいるでしょう。確かに、登録が不要となるケースもありますが、判断を誤ると無登録営業のリスクがあります。
登録不要な場合でも、信頼性向上や受注機会拡大のために、あえて登録することも可能です。本記事では、電気工事業登録が不要となる具体的なケースや無登録のリスク、登録するメリットをわかりやすく解説します。
電気工事業登録や通知が不要なケースとは?
電気工事業の登録や通知は、全ての事業者に必要なわけではありません。電気工事士法で定める軽微な工事のみを扱う場合や、他社からの依頼を受けない工事の場合などは、登録や通知が免除されます。ここでは、どのような場合に登録や通知が不要となるのか、詳しく解説します。
他社からの依頼ではなくみずから電気工事をおこなう場合
自社または自分自身が所有する施設で使うために電気工事をおこなう場合、電気工事業の届出は不要です。たとえば、自社工場の電気設備の点検・修繕を社員がおこなうケースです。
ただし、この場合でも、感電や火災の危険があるため、電気工事士法や労働安全衛生法などの法律にしたがい、専門資格を有する人が安全基準に沿って作業をおこないましょう。
電気工事に該当しない軽微な工事のみを扱う場合
電気工事士法で定める「軽微な工事」のみをおこなう場合には電気工事業登録が不要です。具体的には以下のような作業を指します。
- 差込接続器、ねじ込み接続器、ソケット、ローゼット、その他の接続器に電線を接続する作業
- ヒューズの取り付け・取り外し
- 電力量計や配電盤などの設置位置を変更せず、電線を取り外したり接続したりする作業
注意点として、照明器具の交換でも、天井配線をいじるような作業や、電源回路に直接接続する工事をおこなう場合は電気工事業登録が必要です。不安な場合は、自治体の窓口や専門家に確認することが望ましいでしょう。
家電機器の販売に附随してみずから電気工事をおこなう場合
家電量販店や設備販売業者が、販売した家電機器の設置や接続に付随してみずから電気工事をおこなう場合も、一定の条件を満たせば電気工事業登録は不要です。たとえば、照明器具の取り付けやエアコンの配線工事などがあります。
ただし、工事の範囲が軽微なものに限られ、請負としての電気工事ではなく販売に附随するサービスとして位置づけられていることが条件です。工事の内容や範囲が大きい場合や、明確に工事としての請負契約がある場合は登録が必要なため、自社の事業形態や取引の実態に合わせて判断しましょう。
請け負った電気工事を全て下請けに出す場合
電気工事を請け負っても、自社で工事を一切行わず電気工事業者登録済みの下請業者に委託する場合は、原則として元請け会社の電気工事業登録は不要です。しかし、元請けとして下請けに発注した責任は残るため、工事の品質や安全管理には注意を払う必要があります。また、一部でも自社で工事をおこなう場合は登録が必要になるため、業務内容を明確にし、契約時に下請業者の登録有無を必ず確認しましょう。
電気工事業者の種類と建設業許可
電気工事業を始めるにあたり、自身の事業がどの区分に該当するかを正確に把握することは非常に重要です。法的な立場や事業規模、扱う電気工作物の種類、そして建設業許可の有無によって、必要な手続きや義務が大きく変わってきます。ここでは、電気工事業者の分類と建設業許可の関係について詳しく解説します。
電気工事業者の4分類
電気工事業者は、事業内容と許可・登録の状況に応じて、以下の4つのタイプに分類されます。
一般用電気工作物のみ/一般用電気工作物と自家用電気工作物 | 自家用電気工作物 | |
建設業許可(電気工事業)あり | 登録電気工事業者 | 通知電気工事業者 |
建設業許可(電気工事業)なし | みなし登録電気工事業者 | みなし通知電気工事業者 |
無許可・無登録での営業は違法行為にあたるため、自社の事業がどの区分に該当するかを確認し、適切な手続きをおこないましょう。
一般用電気工作物を扱う場合は「登録」
一般用電気工作物は、私たちが日常生活で最も目にする機会の多い電気設備です。一般用電気工作物の工事を請け負う場合、原則として「登録電気工事業者」となる必要があります。
一般用電気工作物は、一般家庭や小規模な店舗、事務所など、600ボルト以下の電圧で電気を使用する設備です。具体的には、一般住宅の屋内配線や小規模店舗の照明、コンセントなどが含まれます。
一般用電気工作物は生活に密接に関わるため、法律によって厳格な管理が求められます。登録には、営業所ごとに主任電気工事士の設置や、所定の検査器具の備え付けが必要です。
自家用電気工作物のみを扱う場合は「通知」
自家用電気工作物のみを扱う場合、一般用電気工作物を扱う場合とは異なり、「通知電気工事業者」として都道府県知事などへ事業開始の通知が必要です。
自家用電気工作物は、工場やビル、病院、学校など、大規模な施設で使われる電気設備です。600ボルトを超える高圧・特別高圧で電気を受電する設備や、一定以上の出力を持つ発電設備(例:50kW以上の太陽光発電設備)などが該当します。
自家用電気工作物は、高圧の電気を扱うため、一般用電気工作物よりも危険性が高く、法律で厳格な保安管理が義務付けられています。通知手続きは登録よりも簡便ですが、所定の検査器具などを備え付ける義務があります。
電気工事業の建設業許可がある場合は「みなし」登録/通知
電気工事業の建設業許可を取得している事業者は、電気工事業登録の手続きを省略できる「みなし登録/通知」の特例があります。これは、建設業許可が電気工事業登録よりも厳しい要件であるため、許可を持つ事業者は、登録業者と同等の能力があるとみなされるからです。
一般用電気工作物の工事を扱う場合は「みなし登録電気工事業者」として、自家用電気工作物のみを扱う場合は「みなし通知電気工事業者」として扱われ、別途の登録手続きは不要です。ただし、事業開始時には「電気工事業開始届出書」を提出する義務がある点に注意しましょう。
みなし登録/通知の場合、電気工事業の登録証明書は発行されません。入札参加や大手元請けとの取引のために、対外的に登録業者であることを証明する必要がある場合は、あえて建設業許可とは別に登録をおこなうこともひとつの選択肢です。
無登録で電気工事業を続けた場合のリスク
電気工事業登録/通知を怠って電気工事業をおこなうと、法律違反による罰則だけでなく、社会的信用の低下や営業機会の損失といった経営面でのリスクが生じます。自社が本当に登録が不要なケースに該当するのかを精査し、必要に応じて登録/通知をおこないましょう。
法律違反による罰則(拘禁刑・罰金・過料)
電気工事業の建設業許可をもたずに一般用電気工作物の工事をおこなう事業者が電気工事業登録を怠った場合、1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金、またはその両方が課される可能性があります。
自家用電気工作物のみを扱う事業者が通知を行わなかった場合や、建設業許可をもつ事業者が電気工事業開始の届け出を怠った場合は、2万円以下の罰金が課される可能性があります。無通知での営業は、無登録の場合よりも罰則は軽微ですが、これもれっきとした違法行為です。
無登録・無通知以外にも、電気工事業法には以下のような罰則が定められています。
- 主任電気工事士の選任義務違反: 3万円以下の罰金
- 備付器具の不備: 3万円以下の罰金
- 標識の未掲示: 1万円以下の過料
これらの罰則は、行政指導や業務停止命令といった行政処分と合わせて科されることが多く、事業の信頼性を大きく損なうことになります。安全かつ適正な電気工事業を営むためには、自身の事業内容を正確に把握し、必要な登録や届け出を速やかにおこなうことが大切です。
社会的信用とビジネス機会の損失
公共工事の入札や大手元請け会社との取引では法令遵守が厳しく求められるため、電気工事業登録が必須のケースがほとんどです。登録業者であれば一定の技術者配置や安全管理体制が担保されるため、発注者や元請け会社にとって大きな安心材料なのです。
無登録/通知で営業を続けていると、大きな契約の土俵に上がることすらできません。それだけでなく、コンプライアンス体制を疑問視されて悪評が広まるリスクもあります。長期的な事業の成長のためには、必要な手続きを早期におこなうことが重要です。
登録が不要な場合でもすべき理由
法律上、電気工事業登録が不要なケースでも、あえて登録をおこなうことには多くのメリットがあります。特に将来的に事業を拡大したい、顧客の信頼を得たいと考える場合には、自主的な登録が重要です。ここでは、登録不要な場合でも登録を検討すべき理由を解説します。
顧客からの信頼獲得
電気工事業者登録は、事業者としてのコンプライアンス体制や安全管理体制が整っていることの公的な証明となります。大手ゼネコンや官公庁は特に、公的な許可や登録の有無を厳しく確認します。逆に、未登録業者は依頼の対象から外される可能性が高いです。
登録業者となることで、新規顧客の獲得や取引先からの紹介増加も期待できます。小規模事業者にとっても、電気工事業者登録は営業戦略上の重要なポイントであり、信頼性を高めるための強力な武器となります。
コンプライアンスの安心感
自主的に登録をおこなうことで、常に法律を遵守する体制が整っていることを対外的に示せるだけでなく、事業者自身の安心感にもつながります。現時点では必要なくても、登録しておくことで、将来事業を拡大した場合の無許可営業のリスクを回避し、安心して事業を継続できます。
また、法令遵守の姿勢は、取引先や金融機関からの信頼を高め、資金調達や事業拡大において有利に働きます。万が一、工事が原因で事故や不具合が発生した場合でも、登録業者として責任の所在が明確なため、問題解決をスムーズに進める助けとなります。
まとめ
電気工事業の届出が不要なケースは、軽微な工事のみをおこなう場合や、他社からの依頼を受けない場合に限られます。自家用電気工作物のみを扱う場合でも、通知という手続きが必要です。これらの届出を怠ると、無届出営業とみなされ、懲役や罰金といった罰則のリスクがあるため、自社の事業に合った手続きを慎重に判断することが重要です。
また、たとえ法律上届出が不要でも、あえて登録をおこなうことには大きなメリットがあります。登録は、法令遵守の証明となり、顧客からの信頼獲得につながるほか、ビジネス機会の拡大や法的リスクの軽減にも役立ちます。事業の安定と将来的な成長のためには、行政書士などの専門家への相談も有効な手段です。
当事務所(行政書士佐藤秀樹事務所)では、建設業許可や電気工事業登録についての相談を受け付けています。そもそも登録が必要かといった確認から、申請書の作成・提出まで、専門家が丁寧にサポートいたします。ぜひお気軽にお問い合わせください。