相続人に障害者がいる場合に必要な手続きは?控除や生前対策についても解説!

相続人に障害者がいる場合に必要な手続きは?控除や生前対策についても解説!

相続手続きというと、一般的な流れをイメージする方が多いかもしれませんが、相続人に障害者がいる場合では、通常とは異なる対応が求められることもあります。

結論からいうと、障害者がいる場合には、本人の判断能力の有無によって手続き内容が変わり、さらに相続税の控除制度や、生前にできる対策も重要になってきます。事前にきちんと対策をしておかないと、手続きが複雑化したり、トラブルに発展したりするリスクもあるため、注意が必要です。

本記事では、「相続人に障害者がいる場合」に必要な手続きや注意点を、状況別にわかりやすく解説します。さらに、相続税の障害者控除や、生前にできる対策方法、よくあるトラブル事例とその防止策についても詳しく紹介していきます。

本記事を読めば、障害者がいる家庭の相続でも、安心してスムーズに手続きを進められるようになるはずです。ぜひ参考にしてください。

目次

相続人に障害者がいる場合まずは判断能力を調べる必要がある

相続人に障害者がいる場合、まず最初に確認しなければならないのは本人の判断能力の有無です。

なぜなら、判断能力が十分にあるかどうかによって、進めるべき相続手続きの方法が大きく異なるからです。

判断能力を調べる方法としては、本人に対して手続き内容や財産の状況について説明し、それを本人が理解し、自分の意思で判断できるかを確認します。

さらに必要に応じて、専門医の診断を受けたり、家庭裁判所の調査を受けることもあります。

本人に意思能力が備わっている場合は、通常とほぼ同じ流れで手続きが進みますが、本人の判断能力が不十分な場合は、成年後見人を家庭裁判所に申し立てて選任し、後見人が代わりに手続きを進める必要があります。

あとになって手続きが無効とされるリスクを避けるためにも、最初に慎重な確認をおこなうことがとても大切です。

相続人に判断能力のある障害者がいる場合の手続き

ここでは相続人に判断能力のある障害者がいる場合の手続きについて詳しく見ていきましょう。

通常の相続手続きと同じようにおこなう

障害者の方であっても、本人に十分な意思能力(判断能力)がある場合には、ほかの相続人と同様に通常の相続手続きをおこないます。

そのため、成年後見人や保佐人などの代理制度を利用する必要はなく、本人がみずから遺産分割協議に参加し、同意・署名・押印を行います。

つまり、障害の有無に関係なく、「本人が手続き内容を理解し、自分の意志で決定できるかどうか」が重要な基準といえるでしょう。

この条件を満たしていれば、一般的な相続の流れ(戸籍調査・遺産整理・分割協議・各種名義変更)をそのままおこなえます。

手続きの手順

前述のとおり、障害者でも判断能力がある場合は、通常の相続手続きと同様に進めます。

具体的な流れは次のとおりです。

相続人の確定
亡くなった方(被相続人)の戸籍謄本を取り寄せ、相続人を特定します。

相続財産の調査
預貯金・不動産・株式など、相続対象となる財産を一覧にまとめます。

遺産分割協議
相続人全員で財産の分け方を協議します。障害者本人も、ほかの相続人と同じように協議に参加します。

遺産分割協議書の作成・署名押印
決まった内容を協議書にまとめ、全員が署名・実印を押します。

相続手続きの実行
銀行口座の名義変更、不動産の名義変更、株式の移管などを行います。

手続きには、大体3ヵ月〜半年かかることが一般的です。ただし、遺産の内容が複雑だったり、相続人同士の調整に時間がかかる場合は、さらに長期化する場合もあることを頭に入れておきましょう。

手続きをおこなう際の注意点

相続人に判断能力のある障害者がいる場合でも、通常の相続手続きと同じ流れで進めることができますが、手続きをおこなう際にはいくつか注意が必要です。

もっとも大切なのは、本人が手続き内容を正しく理解し、みずからの意思で同意しているかを丁寧に確認することです。

内容が難しい場合には、図や簡単な言葉を用いてわかりやすく説明するようにしましょう。

また、本人の同意は遺産分割協議書への署名・押印によって明確に残し、後日トラブルにならないよう記録を整えておくことが大切です。

さらに、手続きの途中で判断能力が低下する可能性も考えられるため、状況に応じて成年後見制度の利用を視野に入れておくと安心です。

このように、障害の有無にかかわらず、本人の意思を尊重しながら慎重に手続きを進めましょう。

相続人に判断能力のない障害者がいる場合の手続き

ここでは相続人に判断能力のない障害者がいる場合の手続きについて見ていきましょう。

成年後見制度の利用が必須

相続人に判断能力のない障害者がいる場合、相続手続きには成年後見制度の利用が必須です。

成年後見制度とは、本人の判断能力を補うために家庭裁判所が後見人を選任し、財産管理や遺産分割協議などの法律行為を代理でおこなう制度のことです。

後見人には親族のほか、弁護士や司法書士などの専門職が選ばれることもあり、本人にとって不利益がないよう手続きを進めます。

家庭裁判所への申し立てには、診断書、戸籍謄本、財産目録などの書類が必要で、選任までには1〜3か月ほどかかることを覚えておきましょう。

制度を利用する際の費用は、以下を参考にしてください。

費用項目目安費用
申し立て書類作成費用(専門家依頼)5万円〜15万円程度
医師の診断書作成費用数千円
裁判所への申し立て手数料数千円(収入印紙+郵券代)
成年後見人への報酬(専門職が選任された場合)月2〜5万円程度

手続きの手順

前述したとおり、相続人に判断能力のない障害者がいる場合、成年後見制度の利用が必要です。

次から、成年後見制度を利用する際の手続き手順を見ていきましょう。

申し立て人を決める
成年後見制度を利用するために、家庭裁判所へ申し立てをおこなう方(通常は親族)が申し立て人です。

必要書類(以下)を準備する
申し立て書本人の戸籍謄本・住民票申し立て人の戸籍謄本・住民票財産目録医師による診断書(成年後見用)

家庭裁判所に申し立てをおこなう
書類を整えて、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。

家庭裁判所の調査官による面談調査
本人や申し立て人に対して面談が行われ、本人の判断能力の状況などが詳しく調査されます。

家庭裁判所による判断能力の確認
提出書類や面談の結果をもとに、本人の判断能力の有無を裁判所が正式に判断します。

後見人の選任決定
裁判所が成年後見人を正式に選任し、後見人には通知が送られます。


選任された成年後見人は、本人の財産管理や相続に関する手続きを代理して行います。

手続きをおこなう際の注意点

成年後見人が選任されたあと、相続手続きを進める際には、通常の相続手続きとは異なる注意が必要です。

まず、後見人は本人である障害者の利益を最優先に考えて行動しなければなりません。遺産分割協議においても、本人にとって不利益な内容を簡単に了承するのは許されず、慎重な判断が必要です。

また、後見人自身が相続人に含まれる場合(親族が後見人になった場合など)には、利益相反が発生するため、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立て、第三者が代理で協議に参加する必要があります。特別代理人は、後見人に代わって遺産分割協議に参加し、公平な立場で手続きを進める役割を担います。

遺産分割協議が終了したあとも、後見人は本人が相続した財産について適切に管理しなければなりません。財産目録を作成、または更新し、必要に応じて家庭裁判所へ財産状況を報告する義務があります。

このように、成年後見人は単なる手続きの代理人ではなく、障害者本人の利益を守るために常に公正かつ慎重な対応が必要です。

相続人に障害者がいる場合は相続税の障害者控除が受けられる

相続人に障害者がいる場合、相続税の障害者控除を受けることが可能です。

ここでは相続税の障害者控除について下記の内容を見ていきましょう。

  • 相続税の障害者控除とは
  • 控除額の計算方法
  • 控除の適用条件
  • 手続き方法
  • 注意点

相続税の障害者控除とは

相続税の障害者控除とは、相続人に障害のある方がいる場合に、相続税額そのものから一定費用を差し引くことができる特別な制度です。

障害者控除は、通常よりも医療費や生活費といった経済的な負担が大きくなりやすい障害者のために設けられた制度で、親や扶養していた家族を亡くしたあとも、障害者本人が安定した生活を続けられるように配慮されています。

この制度は、財産の費用を減らす一般的な控除(基礎控除や小規模宅地等の特例など)とは異なり、直接、税額から差し引けるため、節税効果が大きいです。

適用されるためには、障害者手帳や特別児童扶養手当証書などで障害の程度を証明する必要があることを覚えておきましょう。

控除額の計算方法

障害者控除は「一般障害者※」と「特別障害者※」で、控除額が異なります。

※一般障害者
障害者手帳などにより障害の程度が認定されている方で、特別障害者に該当しない比較的軽度な障害をもつ方

※特別障害者
重度の障害があると認定された方で、具体的には身体障害者手帳の1級・2級、精神障害者保健福祉手帳の1級などに該当する方

それぞれのパターンの控除額の計算方法を、次から詳しく見ていきましょう。

一般障害者の場合

控除額の計算式は次のとおりです。

(85歳-相続時の年齢)× 10万円

たとえば、相続時に50歳の一般障害者なら

(85歳-50歳)× 10万円=350万円が控除されます。

特別障害者の場合

特別障害者は、控除額が一般障害者の2倍です。

(85歳-相続時の年齢)× 20万円

たとえば、相続時に50歳の特別障害者なら

(85歳-50歳)× 20万円=700万円が控除されます。

控除の適用条件

障害者控除を受けるためには、いくつかの条件を満たしている必要があります。

下記のように、本人が障害者であることだけでなく、相続時点の状況や取得した財産の有無など、いくつかの細かい要件が定められています。

  • 相続開始時点で障害者であること(相続後に障害者になった場合は対象外)
  • 対象となる相続人が85歳未満であること
  • 実際に遺産を取得していること(相続放棄をした場合は適用されない)
  • 障害者手帳や特別児童扶養手当証書などで障害の区分を証明できること
  • 身体障害1級・2級などの場合は「特別障害者」として、より高い控除が認められる
  • 障害者本人が日本国内に住所を有していること(国外在住者は対象外)

これらの条件を正しく把握して、ひとつひとつ丁寧に確認するのが、障害者控除を適切に受けるためにとても重要です。

見落としがあると控除が受けられない場合もあるため、注意して手続きを進めましょう。

手続き方法

相続税の障害者控除を受けるためには、相続税申告時に正しい手続きをおこなうことが必要です。障害者控除を適用するには、単に申告書を提出するだけでなく、障害の状況や相続関係を証明する書類をそろえる必要があります。

手続きの主な流れは以下のとおりです。

  1. 相続税申告書に「障害者控除を適用する」旨を明記する
  2. 対象者が障害者であることを証明する書類(障害者手帳のコピーや特別児童扶養手当証書など)を添付する
  3. 戸籍謄本や住民票の写しなど、相続関係を示す書類を提出する
  4. 控除額を正しく計算し、税額控除欄に適用後の費用を記入する
  5. 相続開始から10か月以内に申告書と必要書類をまとめて税務署に提出する

これらの準備をきちんと行わないと、障害者控除が認められない場合もあります。

特に、控除を適用して相続税が0円になった場合でも申告自体は必要になることがあるため、申告漏れにならないよう注意しましょう。

わからない点があれば、早めに税理士や専門家に相談して進めると安心です。

注意点

相続税の障害者控除を利用する際には、いくつかの注意点があります。

まず、控除の対象となるのは相続開始時にすでに障害者であることが前提となるため、あとから障害が認定された場合には控除が適用できません。

また、控除額の計算には本人の年齢や障害の区分が深く関わるため、誤った情報に基づく申告をしてしまうと過少申告加算税などのペナルティが科されるリスクがあります。

さらに、特別障害者か一般障害者かの区別についても正確な確認が求められます。障害者控除を適用すれば申告が不要になる場合もありますが、ケースによって異なるため、必ず税務署や税理士に相談のうえ判断するのが大切です。

特に注意すべきなのは、障害者控除によって差し引ける費用が障害者本人の相続税額だけでは足りない場合の取り扱いです。この場合、本人以外の「扶養義務者(配偶者、直系血族、兄弟姉妹、家庭裁判所の審判で扶養義務者と認められた3親等内の親族)」の相続税額から控除を受けることが認められているので、忘れずに申告しましょう。

事前に相談して取り決めをしておくと、申告時のトラブルを防ぎ、手続きをスムーズに進めることができます。

【お金について】相続人に障害者がいる場合の生前対策

障害者がいる家庭では、相続や生活資金に不安を残さないため下記のような生前対策が必要です。

  • 遺言書を作成する
  • 家族信託を活用する
  • 事前に後見人の選任をおこなう
  • 特別障害者扶養信託制度の利用

詳しく見ていきましょう

遺言書を作成する

相続人に障害者がいる場合は、生前に「遺言書」を作成しておきましょう。

遺言があれば、遺産分割協議をおこなう必要がなく、障害者本人が手続きに関与できないことによるトラブルを防ぐことができます。

特に、障害者には成年後見人の選任が必要になるケースも多いため、あらかじめ財産の分け方を明確にしておくことで、相続手続きをより円滑に進めることが可能です。

また、遺言の中で遺言執行者を指定しておけば、不動産の名義変更などもスムーズにおこなえます。

なお、遺言書には「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」がありますが、より確実性と安全性を重視するなら公正証書遺言を作成するのが望ましいでしょう。

早い段階で準備しておくことが、障害者本人と家族にとって安心できる環境づくりにつながります。

家族信託を活用する

遺族に障害者がいる場合、生前対策として「家族信託」を活用するのもおすすめです。家族信託とは、信頼できる家族に財産の管理や運用を任せる制度のこと。

たとえば、親が自分の財産を子ども(受託者)に信託し、障害をもつ兄弟姉妹(受益者)のために使うように設定できます。これにより、相続後も障害者本人の生活費や医療費を確保し続けることができます。

家族信託は、成年後見制度と違い、財産の使い道を細かく指定できるほか、信託契約に沿って管理運営が行われるため、裁判所の監督を受けずに家族内でのサポート体制をつくれるのも大きなメリットでしょう。

ただし、契約内容の設計が重要であり、間違えると意図した効果が得られないこともあるため、専門家のサポートを受けて慎重に進めることが大切です。

事前に後見人の選任をおこなう

障害者本人に判断能力が十分でない場合、生前対策として「後見人を事前に選任しておく」のもおすすめです。

成年後見制度を利用すれば、後見人が障害者本人の財産管理や法律行為を代理でおこなうことができ、相続手続きもスムーズに進められます。

通常は家庭裁判所に申し立てを行い、親族または弁護士・司法書士などの専門職後見人が選ばれます。特に、親が元気なうちに「任意後見契約」を結んでおくと、将来の手続き負担を大幅に減らすことができます。

なお、後見制度には一度開始すると本人が亡くなるまで継続する必要があるため、制度の内容をよく理解したうえで準備しましょう。

特定障害者扶養信託制度の利用

特定障害者扶養信託制度は、障害のある子や家族の将来の生活を安定させるために設けられた制度です。

特定障害者扶養信託制度は、親族が委託者となって、信託銀行などの金融機関(受託者)と契約を結び、障害者本人(受益者)のために財産を信託します。

信託された財産は、信託銀行によって管理・運用され、障害者の生活費や医療費などが定期的に支払われるしくみです。

この制度を利用すると、贈与税において特別障害者の場合は6,000万円、一般の特定障害者の場合は3,000万円までが非課税となるメリットがあります。

また、相続開始から7年以内の贈与でも、信託による財産は相続財産に加算されないため、相続税の節税効果も期待できます。

さらに、財産管理を金融機関がおこなうため、第三者による流用や悪用のリスクを低減できるのも大きな利点です。

なお、特定障害者扶養信託制度を利用するには、「障害者非課税信託申告書」を税務署に提出する必要があり、契約内容の設計や信託報酬・手数料についても事前に確認しておくことが重要です。

障害者本人の将来にわたる安定した生活を支える手段として、特定障害者扶養信託は積極的に検討しましょう。

【生活について】相続人に障害者がいる場合の生前対策

家族の死後、障害者の安心した暮らしを支えるためには、下記のような生活面での準備も欠かせません。

  • 死後事務委任契約を活用する
  • 日常生活自立支援事業を活用する
  • 障害者グループホームを活用する

詳しく見ていきましょう。

死後事務委任契約を活用する

死後事務委任契約とは、自分が亡くなったあとに必要となる手続きや整理を、生前に信頼できる第三者に依頼しておく契約のことです。

相続人に障害者がいる場合、遺族による手続き負担を軽減したり、障害者本人が手続きを担えない場合に備える手段として有効です。

契約によって依頼できる主な内容には、遺体の引き取りや葬儀・納骨の手配、役所への死亡届の提出、医療費や施設利用料の清算、公共料金やクレジットカードの解約手続きなどがあります。

これらの事務を一括して任せておくことで、遺された家族、特に障害者本人の生活に支障が出るリスクを大きく減らします。

契約を締結する際は、委任内容を明確に定め、公正証書で作成するのが一般的です。意思能力があるうちに手続きを済ませ、費用や報酬についても事前にしっかり確認しておきましょう。

日常生活自立支援事業を活用する

日常生活自立支援事業は、障害者や高齢者など、日常生活の中で判断に不安がある方を対象に、地域での暮らしを支えるために設けられた制度です。

社会福祉協議会が窓口となり、福祉サービスの利用手続きや、日常的な金銭管理のサポートを行います。

たとえば、公共料金や家賃の支払い、福祉サービスの契約支援、通帳・印鑑の預かり管理など、本人だけでは難しい事務作業を代わって支援してくれます。

この制度を利用すれば、親が亡くなったあとも障害者本人が安心して生活を続けることが可能です。

利用を希望する場合は、本人または家族が社会福祉協議会に申し込み、支援内容に応じた契約を結びます。サービスの利用料は比較的低額で、毎月数千円程度に抑えられるケースが多いです。

ただし、資産の運用や売買契約など高度な判断が必要な行為には対応していないため、その場合は成年後見制度との併用を考える必要があります。

日常生活自立支援事業は、障害者本人の「親なき後」の安心を支える有力な手段のひとつでしょう。

障害者グループホームを活用する

障害者グループホームとは、障害のある方が少人数で共同生活を送りながら、スタッフの支援を受けて自立した生活を目指すための施設です。

親が亡くなったあと、障害者本人が一人暮らしを続けるのが難しい場合に、安心して生活できる環境を提供する場として注目されています。

グループホームでは、日常生活に必要なサポート、たとえば食事の準備や掃除、金銭管理のアドバイスなどを受けながら、自分らしく暮らすことができます。

生活支援員や世話人が常駐しているため、困りごとがあった際にもすぐに対応してもらえる安心感があります。

利用するためには、市区町村に申請し、障害支援区分の認定を受けたうえで、利用契約を結ぶ必要があります。

費用は家賃や光熱費のほかに、食費や日用品代がかかりますが、自治体の補助や障害年金を活用すれば負担を軽減できる場合もあります。

グループホームは、障害者が地域社会の一員として自立した生活を続けるための大きな支えとなる選択肢のひとつと言えるでしょう。

相続人に障害者がいる場合によくあるトラブル事例

ここでは相続人に障害者がいる場合によくあるトラブル事例を見ていきましょう。

障害者の子どもに十分な生活資金が残らない

Aさんは、知的障害のある長男の将来を心配しながらも、「障害年金がもらえるだろうから生活には困らないだろう」と考え、大きな財産対策をしないまま亡くなりました。

しかし、実際には障害年金だけでは生活費が足りず、息子さんは最低限の生活を送るために生活保護を申請することになりました。

Aさんのほかの兄弟姉妹たちは、それぞれ家庭をもっており、息子さんの支援を十分にできる状況ではありませんでした。

◎どうすればよかったのか
Aさんは、生前に遺言書を作成して障害のある息子に十分な生活資金を確保する手続きをしておくべきでした。あわせて、家族信託や特定障害者扶養信託を活用し、確実に生活費が支払われるしくみを整えておけば、息子さんの経済的不安を防ぐことができたでしょう。

家族信託を組まず、口座凍結で生活費が引き出せない

Bさんは、重度の障害がある息子のために、将来の生活費として息子名義の銀行口座に長年コツコツと貯金をしていました。

親が亡くなったあともその口座のお金で生活できるようにとの思いからでした。

しかし、いざ親が亡くなり、息子自身には十分な判断能力がなかったため、銀行が口座を凍結。息子の生活費を引き出すことができず、急遽成年後見制度を申し立てる必要が生じました。

その結果、手続きに時間がかかり、生活資金の確保に大きな支障が出てしまいました。

◎どうすればよかったのか
Bさんは、生前に家族信託を活用し、息子の財産管理を信頼できる家族に託すしくみを作っておくべきでした。家族信託を利用していれば、口座凍結の心配をせず、生活費を安定して管理・支出できる体制を整えることができたでしょう。

きょうだいに負担が集中してしまう

Cさんには、障害をもつ妹がいました。

両親が元気な間は妹の生活を全面的に支えていましたが、両親が亡くなったあと、妹の生活を支える役割が突然Cさんに集中しました。

妹の日常的な生活支援や財産管理、役所や病院への付き添いなど、多くの負担がCさん一人にのしかかり、仕事や家庭生活にも大きな影響が出るようになりました。

ほかのきょうだいたちは遠方に住んでいることや各自の事情もあり、結果的に支援を担うのはCさんだけとなってしまいました。

◎どうすればよかったのか
両親が生前のうちに、障害のある妹の支援体制について家族全員で話し合い、支援の役割分担を決めておくべきでした。さらに、グループホームへの入居や福祉サービスの利用、家族信託や成年後見制度を活用して、支援の負担を社会制度に分散させる準備を整えておけば、Cさん一人に負担が集中する事態を防ぐことができたでしょう。

まとめ

相続人に障害者がいる場合、本人の判断能力によって相続手続きが大きく変わります。

判断能力があれば通常どおりの手続きが可能ですが、ない場合は成年後見人の選任が必須となり、家庭裁判所への申し立てが必要です。

また、相続税の障害者控除も活用でき、条件を満たせば大きな節税効果が期待できます。

なお、生前対策としては、遺言書の作成、家族信託の利用、後見人の事前選任、特定障害者扶養信託制度の活用が有効です。生活面では、死後事務委任契約や日常生活自立支援事業、障害者グループホームを利用すれば、障害者本人の「親なき後」の安心を支えることができます。

対策を怠ると、生活資金不足や口座凍結、きょうだいへの負担集中といったトラブルに発展するリスクがあるため、早めに備えることが大切です。

編集者

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