解体業に必要な資格は?建設業許可と解体工事業登録の技術者要件を解説

解体業を営むには、解体工事業の建設業許可や解体工事業登録といった資格が必要です。制度を理解せずに無許可・無登録で施工すると、法律違反となり罰則の対象となります。
本記事では、建設業許可取得や解体工事業登録に必要な資格や実務経験などの要件と、現場作業に必要な資格をわかりやすく解説します。正しい知識をもち、安全に解体工事をおこないましょう。
解体業に必要な資格|解体工事業登録または建設業許可
解体業を営む際、500万円以上の解体工事を請け負う場合は建設業許可、500万円未満の解体工事のみを請け負う場合は解体工事業登録が必要です。
無許可・無登録での施工は法律違反となり、罰則や行政処分の対象となります。工事金額の計算には材料費や消費税も含まれる点に注意し、事業計画や受注予定金額に合わせて、どちらの許可・登録が必要かを見極めることが大切です。
近年は、500万円未満の工事を多く手掛ける業者でも、将来の受注拡大を見越して建設業許可を取得しておくケースが増えています。建設業許可が信頼性の証明となり、公共工事の入札に参加したり大手元請け会社からの受注が得やすくなったりするため、事業拡大に不可欠な経営戦略といえます。
解体工事業登録と建設業許可にはいずれも技術者要件があり、学歴・実務経験・資格などの一定の条件を満たした技術者を営業所に常勤させることが必須です。次は、それぞれの技術者要件について詳しく解説します。

【解体工事業登録】技術管理者の資格要件と実務経験
解体工事業には技術管理者が必要です。技術管理者は、解体工事の安全性を確保し、技術的な基準に適合しているかを監督する役割を担います。登録申請の際に、営業所に常勤していることを確認されるため、名義貸しなどは認められません。
技術管理者の要件を満たす方法は、資格、学歴と実務経験、実務経験のみの3つがあります。
技術管理者の資格要件
国土交通省が定める以下の資格をもっている方は、それだけで技術管理者の要件を満たします。主な資格は以下のとおりです。
- 1級・2級建設機械施工技士(2級は種別「第1種」または「第2種」)
- 1級・2級土木施工管理技士(2級は種別「土木」)
- 1級・2級建築施工管理技士(2級は種別「建築」または「躯体」)
- 1級・2級建築士
- 1級のとび・土工の技能検定に合格した者
- 2級のとびあるいはとび工の技能検定に合格したあと、解体工事に関し1年以上の実務経験を有する者
- 技術士(2次試験のうち建設部門に合格した者に限る)
- 解体工事施工技士試験に合格した者
しかし、上記の資格は受験資格として一定の学歴や実務経験が求められる場合がほとんどのため、全くの未経験者が試験勉強をすれば手っ取り早く技術管理者になれるわけではありません。
逆に、実務経験年数の要件を満たさない方でも、受験資格を満たすだけの経験がある場合、資格取得により早期に技術管理者となることが可能です。
実務経験で要件を満たす方法
上記で挙げた資格がない方でも、原則として8年以上の解体工事の実務経験があれば技術管理者の要件を満たします。
実務経験は、建物や構造物の解体工事、内装解体工事など、解体工事そのものに直接携わった経験が対象です。重機オペレーターや鳶工として、実際に解体工事の施工に直接従事した経験だけでなく、解体工事の計画・指揮・監督を行った経験も含まれます。
逆に、物品の運搬やゴミの片付けなど解体工事の技術を要しない雑務や、壁の一部を壊すだけの補修工事など本体工事の一部として行われる軽微な作業は実務経験として認められません。
経験を証明するには、「いつ、どこで、どのような解体工事に、どのような役割で、どのくらいの期間携わったか」がわかる書類が必要です。工事請負契約書、請求書、工事台帳など客観的な資料を複数そろえて証明するのが一般的です。
証明資料が不足していると審査に時間がかかり、申請が認められないリスクもあるため、不安がある場合は申請準備の段階で行政書士に相談するとよいでしょう。
学歴と実務経験で要件を満たす方法
下記のように、一定の学歴がある方は実務経験の要件が緩和されます。
- 大学または高専の土木工学科等を卒業+2年以上の実務経験
- 高校または中等教育学校の土木工学科等+4年以上の実務経験
前述の実務経験の証明書類のほかに、卒業証明書が必要です。学校によっては卒業証明書の発行に時間を要する場合もあるため、期間に余裕をもって請求しましょう。
解体工事業登録の手続き方法
解体工事業登録の申請は、営業所がある都道府県に対しておこないます。各都道府県の公式Webサイトで要綱を確認し、必要書類をダウンロードしましょう。必要書類を全て揃えたら、都道府県の窓口に提出します。自治体によって金額が異なりますが、申請時に手数料として3~5万円を納めます。
提出された書類に不備がないか、技術管理者やその他の要件を満たしているかなどの審査を経て、問題がなければ登録が認められます。登録証の交付までは1ヵ月程度かかるのが一般的です。
書類を提出しても、登録証が交付されるまでは解体工事を請け負えません。技術管理者の証明書類を集めるのに時間を要する場合もあるため、解体業を始めたい時期から逆算して数ヵ月前には準備を開始しましょう。
解体工事業登録の有効期間は5年間で、継続して事業をおこなう場合は更新申請が必要です。更新忘れは無許可営業となるため、期限管理を徹底しましょう。
【解体工事業の建設業許可】営業所技術者の資格要件と実務経験
解体工事業の建設業許可を取得するには、営業所に技術者を配置する必要があります。建設業許可には、元請けとして下請けに発注する工事の金額に応じて、「一般建設業」と「特定建設業」の2つの区分があります。
一般建設業は、下請けに出す金額が4,500万円未満の工事を請け負う場合に必要です。一方、特定建設業は、下請けに出す金額が4,500万円以上になる大規模工事を元請けとして請け負う場合に必要となります。
特定建設業は、工事の規模が大きくなり、元請けとしての責任が重いため、技術者要件をはじめとする許可基準がより厳しいのが特徴です。以下では、それぞれの営業所技術者要件について詳しく解説します。
一般建設業許可の営業所技術者要件
一般建設業の営業所技術者になるには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。資格がない場合、学歴や実務経験で要件を満たすことも可能です。
- 1級・2級土木施工管理技士(種別「土木」または「鋼構造物塗装」)
- 1級・2級建築施工管理技士(種別「建築」または「躯体」)
- 技術士(建設部門または総合技術監理部門)
- 1級・2級建築士
- 解体工事施工技士
- 指定学科(土木工学、建築学、都市工学、衛生工学、交通工学)卒業
- 大卒・高専卒:2年以上の実務経験
- 高卒・中等教育学校卒:4年以上の実務経験
- 実務経験のみ
- 10年以上の実務経験
- 資格保有者
- 1級とび技能士資格+実務経験5年
- 2級とび技能士資格+実務経験3年
解体工事業登録と比べて必要な実務経験は長く、証明がより厳格に求められます。
解体工事に関して10年以上の経験があるベテランの職人でも、過去10年分の実務経験の証明資料を集めるのは容易ではありません。許可取得を目指す場合は、どの要件を満たすのかだけでなく、どのように証明するのかまで考慮する必要があります。
特定建設業許可の営業所技術者要件
特定建設業の営業所技術者には、一般建設業よりも高い専門性が求められます。以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 1級土木施工管理技士
- 1級建築施工管理技士
- 1級建築士
- 技術士(建設部門または総合技術監理部門のうち建設部門に属するもの)
- 指定学科(土木工学、建築学、都市工学、衛生工学、交通工学)卒業
- 大卒・高専卒:5年以上の実務経験(うち2年以上が指導監督的実務経験)
- 高卒・中等教育学校卒:7年以上の実務経験(うち2年以上が指導監督的実務経験)
- 実務経験のみ
- 10年以上の実務経験(うち2年以上が指導監督的実務経験)
- 一般建設業の要件を満たす資格保有者
- 以下のいずれか+2年以上の指導監督的実務経験
- 2級土木施工管理技士
- 2級建築施工管理技士
- 2級建築士
- 解体工事施工技士
- 2級とび技能士+実務経験3年(うち2年以上が指導監督的実務経験)
- 1級とび技能士+実務経験5年(うち2年以上が指導監督的実務経験)
- 以下のいずれか+2年以上の指導監督的実務経験
指導監督的実務経験とは、下請け契約の請負代金の合計額が税込4,500万円以上の工事において、発注者から直接請け負った建設工事を指導監督した経験を指します。施工計画、工程管理、品質管理、安全管理等、技術上の全ての責任を負った経験が必要です。

実務経験の証明方法と注意点
実務経験を証明するには、工事契約書、請求書、発注書、現場写真、雇用契約書、給与明細などの客観的な書類の提出が求められます。建設業許可では、実務経験の証明が解体工事業登録よりも厳格です。
経験年数の計算では、同時期に複数の現場を担当した場合でも重複期間は通算されません。また、書類不足は審査遅延や不許可の原因となるため、申請前に行政書士へ相談し、証拠資料を揃えてから手続きを進めると安心です。

資格に加えて実務経験や講習受講が必要な場合
2016年の建設業法改正により、解体工事業は建設業法において独立した業種となりました。それまでは「とび・土工工事業」の一部として扱われていましたが、解体工事の専門性が高まったため、単独の業種として認められた経緯があります。
平成27年度以前に1級・2級土木/建築施工管理技士の資格を取得した方が、解体工事業の営業所技術者になるためには、追加で1年以上の実務経験や、講習の受講が求められるケースがあります。資格を取得から期間が空いている場合は要注意です。
解体工事で特定の資格が必須となる作業
解体工事の現場では事故防止などの観点から、法律で定められた資格が必要となる作業があります。建設業許可や解体工事業登録とは別に資格取得や講習受講が必要です。
資格が必要な作業を把握し、資格者を適切に配置するように心がけましょう。ここでは、資格取得や講習の受講が必要な作業の例を紹介します。
アスベストの除去|石綿作業主任者
アスベスト(石綿)含有建材の解体・除去をおこなう場合に必要な資格です。石綿作業主任者が、アスベストの飛散リスクが高い作業の指揮、作業員の安全管理、防護具の使用指導を担います。石綿作業主任者技能講習を受講することで資格を取得できます。
ガス溶断作業|ガス溶接技能講習
鉄骨や金属部分をガスで切断する作業には、ガス溶接技能講習の修了が必要です。講習では酸素・アセチレンガスの安全な取り扱い方法、着火・消火手順、爆発防止措置などを学びます。
資格がないまま作業をおこなうと、ガス漏れや爆発事故など重大災害につながる危険があります。溶断作業は解体現場で頻繁におこなわれるため、資格保有者を確保しておくことが重要です。
クレーン作業|移動式クレーン運転士免許
現場で廃材や機材などの重量物を吊り上げる場合、クレーンの種類や吊り上げ能力に応じて「小型移動式クレーン運転技能講習」や「移動式クレーン運転士免許」が必要です。
クレーン作業は視界や地盤状況によって事故リスクが高く、適切な合図者の配置も義務付けられています。解体工事では、廃材や機材の搬出にクレーンを使用する機会が多く、計画的な資格者の配置が求められます。
重機の運転|車両系建設機械運転技能講習
解体現場では、解体後のコンクリート片や廃材を積み込んだり、地面を掘削・整地したりする作業で重機を使用します。現場でバックホウやホイールローダーなどの建設機械を運転するには、「車両系建設機械運転技能講習」の修了が必要です。
機種や作業内容によって講習区分が異なり、解体作業用機械の運転では「整地・運搬・積込み用及び掘削用」や「解体用」の講習が必要です。
産業廃棄物運搬|産業廃棄物収集運搬業許可
解体工事で発生したコンクリートがらや木くず、金属くずなどの産業廃棄物を収集・運搬する場合、「産業廃棄物収集運搬業許可」が必要です。
事業をおこなう区域(都道府県・政令指定都市)ごとに許可が必要で、排出元から中間処理施設や最終処分場へ運搬する全ての経路で許可を取得しなければなりません。
たとえば、東京都で廃棄物を収集し、神奈川県の中間処理施設に運搬する場合、東京都と神奈川県の両方の許可が必要です。許可の区分は車両や積載物の種類ごとに分かれています。
許可を受けるには、講習会を受講して修了試験に合格すること、運搬に用いる車両や容器が基準を満たすこと、事業を継続的におこなうための十分な資金力があることなどの要件があります。許可は建設業許可と同様に、5年ごとの更新が必要です。
足場の組立て・解体|足場の組立て等作業主任者
足場の組立て等作業主任者は組立・解体計画の作成、安全措置の実施、作業員への指示監督などをおこないます。足場は解体工事の安全確保に直結する設備であり、主任者の不在は重大な法令違反です。
玉掛け作業|玉掛け技能講習修了者
クレーンやホイストで荷を吊る際にワイヤやフックを掛け外しする作業には、「玉掛け技能講習」の修了が必要です。
荷物の重心を正確に見極め、安定した状態で吊れるよう、ワイヤーの掛け方や本数を調整する専門的な技術が求められます。不安定な状態で吊ると、荷物が落下したり、バランスを崩して事故につながる危険があります。
玉掛作業者はクレーンを操縦できず、クレーン運転者は玉掛作業ができません。安全なクレーン作業には、両方の資格をもった作業者が適切に配置され、密に連携することが重要です。
コンクリート造の工作物解体|コンクリート造の工作物の解体等作業主任者
コンクリート造の壁、柱、梁などの構造物の解体には「コンクリート造の工作物の解体等作業主任者」が必要です。粉じん対策や安全確保のための作業計画を立案・指揮します。
特に高所や狭所での解体では、主任者の指導が事故防止の鍵です。講習を受講することで資格を取得できます。
鉄骨の組み立て・解体|鉄骨の組立て等作業主任者
鉄骨建築物の組立・解体作業には、「鉄骨の組立て等作業主任者」が必要です。主任者は作業方法の決定、必要な安全設備の設置、作業員の安全管理などをおこないます。
鉄骨は重量が大きく、バランスを崩すと重大事故に直結するため、現場経験豊富な主任者の配置が欠かせません。資格取得には講習の受講が必要です。
職長・安全衛生責任者教育修了者
解体工事現場で作業員を指揮する立場に就く場合、職長・安全衛生責任者教育を修了している必要があります。この教育は労働安全衛生法に基づき義務付けられており、労働安全衛生法やリスクアセスメント、安全管理手法を学びます。
職長は現場の安全文化を作る要となる存在であり、事故防止や作業効率向上に直結します。
まとめ
解体業を営むには「解体工事業登録」または「解体工事業の建設業許可」が必要です。登録や許可の取得のためには、一定の資格や学歴、実務経験のある技術者の配置が求められます。
申請書類の作成や証明資料の整備など、専門的な知識が必要な場面では、行政書士に相談することでスムーズかつ確実な手続きが可能です。
当事務所(行政書士佐藤秀樹事務所)では、解体工事業登録や建設業許可についての相談を受け付けています。要件を満たすか不安な方や、実務経験の証明でつまずいている方もお気軽にご相談ください。