【認知症の相続人がいる場合】遺産分割協議書の代筆は無効!バレる理由やきっかけも紹介

【認知症の相続人がいる場合】遺産分割協議書の代筆は無効!バレる理由やきっかけも紹介

「認知症の家族がいる場合、遺産分割協議書って代筆しても大丈夫なの?」

相続の手続きが必要になったけれど、相続人のひとりが認知症で自分では署名できない…。そのような状況で、「家族が代筆してしまえばいいのでは?」と思った方もいるのではないでしょうか。

しかし、遺産分割協議書の代筆は、法律的に認められないケースがほとんどです。安易な代筆は、手続きのやり直しだけでなく、無効・損害賠償・刑事責任など、大きなトラブルにつながる可能性があります。

本記事では、「認知症の相続人がいる場合に遺産分割協議書をどう扱うべきか」「代筆がバレるケース」「正しい進め方」について、丁寧にわかりやすく解説します。

いま何をすべきか判断できるよう、ぜひ最後までご一読ください。

目次

認知症の相続人がいる場合、遺産分割協議書の代筆は無効となる

遺産分割協議書は、相続人全員が内容を理解し、自身の意思に基づいて署名・押印することで、法的な効力を持ちます。

そのため、認知症の相続人に代わって誰かが署名を代筆したとしても、それは本人の意思表示と見なされず、協議書は無効と判断されるおそれがあります。

さらに、代筆だけでなく、そもそも認知症で意思能力がない相続人が含まれている場合は、遺産分割協議自体が成立しません。

このようなケースでは、本人の代理として成年後見人を家庭裁判所に申し立て、選任された後見人が協議に参加する必要があります。

正当な手続きを踏まずに進めた場合、相続全体がやり直しになるリスクがあるため、慎重な対応が求められます。

軽度の認知症なら自署でOKの場合も

ただし、認知症であっても症状が比較的軽く、遺産分割の内容を理解し、自分の考えをしっかりと伝えることができる状態であれば、みずから遺産分割協議書への署名も可能な場合もあります。

判断能力の有無は、協議の趣旨を正しく理解できるかどうかや、自身の意思を明確に示せるかどうかを基準にして見極められます。

その際には、医師の診断結果だけでなく、協議中の受け答えや家族の意見なども総合的に考慮されます。

遺産分割協議書の代筆をしてはいけない理由

遺産分割協議書の代筆をしてはいけない理由は、以下のとおりです。

  • 法的に「本人の意思確認」が不可欠だから
  • 代筆は私文書偽造罪などの刑事責任に問われる可能性があるから
  • 代筆された協議書は無効と判断される恐れがあるから

それぞれ詳しく解説していきます。

法的に「本人の意思確認」が不可欠だから

遺産分割協議書は、相続人全員がその内容に合意したことを証明する極めて重要な書類です。

そのため、各相続人が自分自身の意思で署名・押印することが法的に求められます。

特に、署名は「本人が協議の内容を理解し、みずから同意した」といった意思表示として扱われるため、代筆による署名はこの法的要件を満たされません。

そのため、判断能力がない相続人がいる場合は、安易に代筆で済ませようとせず、成年後見人の選任など法的に適切な手続きをとることが必要です。

代筆は私文書偽造罪などの刑事責任に問われる可能性があるから

遺産分割協議書における署名は、相続人本人が内容に同意した証となるため、他人が勝手に本人の名前を代筆した場合、「私文書偽造罪」や「偽造文書行使罪」に該当する可能性があります。

特に、本人が認知症などで判断能力がない状態であった場合、代筆はたとえ善意であっても「本人の意思に基づいていない不正行為」と判断されてしまいます。

実務上でも金融機関や登記官が筆跡や署名の整合性に注意を払っており、不審があれば手続きが停止されるケースもあります。

こうしたリスクを避けるためにも、安易な代筆は厳禁であるといったことを理解しておく必要があるでしょう。

代筆された協議書は無効と判断される恐れがあるから

遺産分割協議書に誰かが本人の代わりに署名を行った場合、協議の合意自体が成立していないと見なされ、書類全体が無効と判断されるリスクがあります。

特に本人が認知症などで判断能力を欠いていた場合、その代筆が「本人の意思に基づかない手続き」であるとされやすく、法的なトラブルに発展する可能性が高いです。

金融機関や法務局でも署名の正当性は厳しくチェックされており、筆跡や署名の不自然さから手続きが中断されることもあります。

後の無効や紛争を避けるためにも、必ず本人による署名または正式な後見人による手続きをおこなうようにしましょう。

遺産分割協議書を代筆したことがバレるきっかけとは?

遺産分割協議書を代筆すると、以下のきっかけでばれてしまうことが多いです。

  • 金融機関・登記官の確認
  • 署名が不自然に早く揃う
  • 筆跡が不自然・明らかに違う

それぞれ詳しい内容を見ていきましょう。

金融機関・登記官の確認

銀行や法務局などの手続きの場では、遺産分割協議書に記された署名や押印が、本人の明確な意思に基づいたものかどうかを慎重にチェックされます。

特に相続人の中に高齢者や認知症の疑いがある方が含まれている場合は、署名時の判断能力の有無にも注意が向けられます。

このような確認作業の中で、署名内容に不自然さや不一致があれば、詳細な調査へと進み、結果として代筆が発覚してしまうケースがあります。

署名が不自然に早く揃う

通常、複数の相続人がいる場合、署名を集めるには時間がかかるのが自然です。

たとえば、遠方に住んでいたり、体調に問題がある相続人がいれば、連絡のやり取りや書類の郵送などで日数が必要ですが、そうした事情にもかかわらず短期間で全員の署名が揃っていると、「本当に本人が書いたのか?」といった疑いをかけられやすくなります。

特に認知症の人の署名がスムーズに集まっている場合は、代筆を疑われる可能性が高まります。

筆跡が不自然・明らかに違う

協議書に書かれた署名が、過去の本人の筆跡と大きく異なる場合には、代筆の可能性が疑われます。

また、複数の署名が妙に似通っていたり、同一人物が書いたような印象を与えると、不自然さが際立ちます。

こうした状況では筆跡鑑定などの専門的な検証が行われることもあり、その結果、他人による代筆だったと確認されれば、書類の無効や刑事責任を問われる事態につながることがあります。

遺産分割協議書の代筆がバレたらどうなる?

遺産分割協議書の代筆がバレると下記のような事態になってしまう可能性が高いです。

  • 不動産の登記や預貯金の払い戻しが中断される
  • 民事訴訟(損害賠償請求)の対象になる
  • 家族間の信頼関係が壊れる
  • 後見人選任時にも不利になる

それぞれ詳しい内容を解説していきます。

不動産の登記や預貯金の払い戻しが中断される

遺産分割協議書に代筆があったことが発覚すると、その書類の信頼性が疑われ、関連する手続きが全て一時停止される可能性があります。

具体的には、不動産の名義変更や金融機関での預貯金の払い戻しが進められなくなり、相続全体の処理がストップするおそれがあります。

金融機関や法務局は本人の意思による署名を前提としているため、代筆が確認されれば、協議書は無効とされ、手続きのやり直しが必要です。

その結果、手続きが長期化してしまうため注意しましょう。

民事訴訟(損害賠償請求)の対象になる

遺産分割協議書を無断で代筆した場合、その行為によってほかの相続人が不利益を被ったと判断されれば、民法上の不法行為に基づき損害賠償を請求されることがあります。

たとえば、自分の取り分が減らされた、手続きが無効になり費用が発生した、などの理由で賠償を求められる可能性があります。

相続人同士のトラブルが裁判に発展すれば、時間的・精神的・金銭的な負担は非常に大きくなってしまうでしょう。

家族間の信頼関係が壊れる

たとえ代筆を「善意」で行ったとしても、それがほかの家族に発覚したときには大きな信頼の損失につながります。

特に相続は感情的な問題を含むため、「勝手に手続きを進めた」「自分たちを騙した」といった不信感が一気に広がる可能性があります。

結果として、相続を機に家族や親族の関係が断絶状態になることも珍しくありません。

一度壊れた信頼関係を修復するのは難しく、将来的な相続や介護の問題にも影響を及ぼす場合もあるため気をつけましょう。

後見人選任時にも不利になる

過去に遺産分割協議書で不正な代筆を行った事実があると、将来的に家庭裁判所で後見人や遺言執行者などの法的立場を任される場面で不利に働くことがあります。

家庭裁判所は、本人の誠実性や信頼性を重視するため、不正歴がある方は「公正な判断ができない」と見なされ、選任されにくくなります。

一度の不正が、将来の法的・社会的信頼に長く影響してしまい、後々まで尾を引く深刻な問題となることも覚えておきましょう。

認知症で遺産分割協議をするなら成年後見制度の申し立てが必要

認知症などで判断能力が十分でない相続人が遺産分割協議に参加する場合、成年後見制度の利用が法律上必要です。

成年後見制度とは、判断能力が不十分な相続人を保護するため、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てる手続きです。

後見人は本人の代わりに遺産分割協議へ参加し、本人の権利や利益を守りながら適切な判断を行います。

手続きの流れ

成年後見制度を利用する際の手続きの流れは以下のとおりです。

  1. 家庭裁判所に「後見開始の申し立て」をおこなう
  2. 医師による診断書などを添えて書類を提出
  3. 裁判所が調査・審理を実施
  4. 必要に応じて本人や親族への聞き取り
  5. 適任者を後見人として選任
  6. 後見人が相続手続きに参加

この一連の手続きには通常2〜4か月かかります。正確な書類の準備と、事前の段取りがスムーズな進行のカギです。

必要書類

成年後見制度を申し立てるには、多くの書類を準備する必要があります。

主な書類は次のとおりです。

  • 申し立て書(裁判所指定の様式)
  • 本人と申し立て人の戸籍謄本
  • 本人と申し立て人の住民票・戸籍附票
  • 成年後見制度専用の診断書(医師記入)
  • 財産目録(不動産・預貯金・有価証券など)
  • 本人の収支状況報告書(年金・生活費など)
  • 親族関係図(家庭裁判所指定のフォーマット)

ただし家庭裁判所によって必要となる書類が異なる場合があるため、事前に公式情報を確認し、漏れなく用意しましょう。

費用の目安

成年後見の申し立てにかかる費用は大きくはありませんが、項目ごとに細かい出費が発生します。

概算は以下のとおりです。

費用項目費用の目安備考
申立手数料(収入印紙)約800円家庭裁判所に提出する申立書用
登記費用(収入印紙)2,600円成年後見開始の登記に必要
登記されていないことの証明書発行費用300円収入印紙で支払い
郵便切手代約3,000〜5,000円家庭裁判所の通知・連絡用
診断書作成費用数千円医療機関によって費用が異なる
専門家に依頼する場合の報酬約100,000〜200,000円弁護士・司法書士などへの報酬

これらの費用をあらかじめ準備しておくことで、スムーズに申し立てをおこなえるでしょう。

成年後見制度の注意点

成年後見制度は認知症などで判断能力が不十分な方の権利を守るための制度ですが、一度開始されると本人が亡くなるまで原則として終了しません。

また、後見人には家庭裁判所への定期報告義務や、財産管理の制約が課されるため、時間的・精神的な負担が大きいことも覚えておきましょう。

さらに、後見人には親族が選ばれないこともあり、弁護士や司法書士など第三者専門職が選任されると、その報酬も継続的に必要です。

したがって、制度を利用する前には、今後の管理責任やコスト、相続人同士の合意などを慎重に検討する必要があります。

遺産分割協議をせずに遺産相続をする方法

そもそも相続人に認知症の方がいる場合、遺産分割協議をせずに遺産相続をする方法はあるのでしょうか?

結論、下記の方法を使えば遺産分割協議をせずに遺産相続が可能です。

  • 法定相続分で分ける
  • 遺言書を作成しておく
  • 家族信託をおこなう
  • 生前贈与をしておく

それぞれ詳しく見ていきましょう。

法定相続分で分ける

遺産分割協議を行わずに相続手続きを進めたい場合、下記のように「法定相続分にしたがって分ける」のがもっともシンプルな方法です。

相続人の組み合わせ配偶者の相続分子の相続分父母(直系尊属)の相続分兄弟姉妹の相続分
配偶者と子どもがいる場合1/21/2(子の人数で等分)なしなし
配偶者と父母(子どもなし)の場合2/31/3なし
配偶者と兄弟姉妹(子・父母なし)の場合3/41/4
子どものみ(配偶者なし)の場合全額(人数で等分)
父母のみ(配偶者・子どもなし)の場合全額(人数で等分)
兄弟姉妹のみ(ほかに相続人なし)の場合全額(人数で等分)

これは民法で定められた相続割合に基づき、各相続人が自動的に財産を取得するしくみです。

たとえば、被相続人に配偶者と子ども二人がいた場合、配偶者は2/4、子どもはそれぞれ残りの1/4ずつ相続します。

この方法であれば、協議による合意が不要なため、認知症の相続人がいる場合でも、後見人を立てずに手続きを進めることが可能です。

ただし、不動産や預貯金などを「共有」で相続する形になり、将来的に売却や処分をする際には全員の同意が必要になるため、実務上の不便さが残る点には注意が必要です。

遺言書を作成しておく

被相続人が生前に「遺言書」を作成していれば、遺産分割協議をおこなう必要はありません。

遺言書には、自分の財産を誰に・どのように分けたいかを明確に記載でき、法定相続分とは異なる分配も可能です。

遺言があれば、相続人はその内容にしたがって手続きを進めるだけで済むので、特に認知症の家族がいる場合や親族間で意見が合わない場合などにおすすめです。

ただし、自筆証書遺言(遺言者が全文・日付・署名を自筆で書いて作成する遺言書)には形式不備による無効リスクがあるため、公正証書遺言(公証人が遺言者の口述に基づいて作成し、公証役場で保管される正式な遺言書)など法律的に確実な形式で作成すると安心でしょう。

遺言執行者を指定しておけば、手続きもよりスムーズに進めることができます。

家族信託をおこなう

家族信託とは、本人が元気なうちに信頼できる家族(受託者)に財産の管理や運用を託す制度です。

信託契約を通じて、「誰が」「どの財産を」「誰のために」「どのように管理・処分するか」を自由に設計できるのが特徴です。

認知症などで判断能力が低下した場合でも、家族信託を事前に組んでおけば、本人に代わって受託者がスムーズに財産管理をおこなえるため、遺産分割協議を回避できる可能性があります。

また、相続開始後も信託のしくみにしたがって財産が承継されるため、協議や裁判をせずに円滑な相続が可能です。

ただし、信託契約の設計には専門知識が必要で、内容を誤ると逆効果になるリスクもあるため、専門家のサポートを受けておくのが安心でしょう。

生前贈与をしておく

生前贈与とは、被相続人が自分の財産を生きているうちに子や孫などに贈り渡すことができる制度です。

これにより、相続開始時点で財産を減らしておくことで、遺産分割協議を不要にし、トラブルを未然に防ぐことができます。

たとえば、現金や不動産、株式などを事前に贈与しておけば、相続人同士での取り合いや共有の問題を避けられます。

贈与税に注意

生前贈与をおこなう際の注意点として、贈与税がかかることが挙げられます。

贈与税は、個人がほかの個人から無償で財産を受け取った場合に課税される税金です。課税対象となるのは、1年間(1月1日~12月31日)に受け取った財産の合計額が、基礎控除額である110万円を超える場合です。

また、「相続開始前7年以内の贈与」では110万円以下であっても相続財産に加算されるルールがあるため、計画的な生前贈与が必要です。

まとめ

認知症の相続人がいる場合、その方に代わって遺産分割協議書へ署名を代筆してしまうと、法的に無効と判断される可能性が高いです。

さらに、代筆は私文書偽造罪にあたることもあり、軽い気持ちで済ませてしまうとあとで大きなトラブルに発展してしまうことも。

遺産分割協議書への代筆がバレてしまうきっかけは、金融機関や登記官が署名や筆跡の不自然さに気づき、手続きが止まってしまうといったケースが多いです。

もし代筆が発覚すれば、相続が一からやり直しになるだけでなく、損害賠償請求や家族の信頼関係が壊れてしまうリスクも考えられるため成年後見制度を利用するようにしましょう。

編集者

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