離婚した親が死亡…遺体引き取りは拒否できる?費用や相続の義務を解説

離婚した親が亡くなったことを突然知らされても、関係が途絶えていた方にとっては戸惑いが大きいでしょう。長年疎遠にしていた場合、実の子であるとはいえ遺体の引き取りや葬儀を自分が担うべきなのか迷う方も少なくありません。
本記事では、引き取りを拒否できる場合や相続との関係、親族トラブルを避けるための対応方法を行政書士の視点で解説します。最後まで読むと、法律上の義務や費用負担の有無を正しく理解し、安心して対応できるでしょう。
遺体の引き取りは拒否できる?法的な義務はない
離婚した親が亡くなった場合、必ずしも子どもが遺体を引き取らなければならないわけではありません。亡くなった方の子どもなどの関係の近い方が遺体を引き取ったり葬儀を執り行ったりするのが一般的ですが、遺体の引き取りは法律上の義務とはされていないのです。
遺体の引き取りを依頼されるのはどのような場合?
ひとり暮らしで亡くなった場合や、身寄りが不明な場合、警察などが戸籍をたどり、子どもや兄弟姉妹などの親族に連絡することがあります。依頼があっても必ずしも応じなければならないものではなく、断ることも可能です。
遺体の引き取りを拒否できる理由
遺体の引き取りは法的な義務ではないため、あなたの経済状況や感情的理由から拒否してもよいのです。
親子関係が長年疎遠であったり、過去に虐待や不和があった場合など、心理的に親と関わることが困難なケースもあるでしょう。
拒否を表明するには特別な手続きは不要で、連絡してきた行政や警察の担当者に「引き取れない」と明確に伝えることで、自治体が火葬・埋葬する流れになります。
引き取り拒否したらどうなるのか
親族が遺体の引き取りを断った場合には自治体が「行旅(こうりょ)死亡人」として処理し、発見された地域の自治体が火葬・埋葬をおこないます。
火葬された遺骨は、一定期間自治体が保管したあと、身寄りがない人の遺骨をまとめて埋葬する合葬墓に納骨されます。一度合葬されると、後から遺骨を取り出すことはできません。
自治体が火葬費用を負担した場合でも、扶養義務者である親族に対して費用請求される可能性があります。相続放棄をした場合は請求されないのが一般的です。
また、法的な義務がないとはいえ、遺体の引き取りや葬儀費用の負担を拒否することで、他の親族との間で感情的なトラブルに発展する可能性はゼロではありません。早い段階で親族に自分の意思を伝え、必要に応じて専門家に相談しましょう。
離婚した親の死とどう関わるか
離婚した親の遺体の引き取りは任意ですが、相続は避けられません。亡くなった方に子どもがいる場合は必ず相続人となることが民法で定められているためです。
感情的には距離をおきたい場合でも、相続放棄や財産調査など必要な対応を怠ると、思わぬトラブルや借金の負担につながるリスクがあります。 ここでは、離婚した親の死との関わり方について考えてみましょう。
葬儀も義務ではない
遺体の引き取りと同じく、葬儀をおこなうことも法律上の義務ではありません。経済的事情や心理的な理由から参列しない、あるいは主宰しないことも可能です。もしあなた以外の親族も誰も遺体を引き取らなければ、前述のように自治体が簡易的に火葬・埋葬をおこないます。
ただし、親族の中には子であるあなたが葬儀をおこなうのが当然と考える方もいるかもしれません。誰が葬儀をおこなうべきかという問題は感情面での摩擦を生みやすく、トラブルの火種となりがちです。葬儀を引き受けない場合は、親族に意思を明確に伝えましょう。
相続は避けられない
遺体の引き取りや葬儀と相続は別問題です。亡くなった方の子は法定相続人となるため、他の相続人とともに財産の整理や遺産分割協議をおこなう必要があります。
親が離婚している場合、あなたのほかに、あなたの兄弟姉妹や、亡くなった親の再婚相手、再婚相手との子などが相続人となる可能性があります。
相続財産には現預金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。何も手続きをせずに放置すると、借金を背負うなどの不利益を被る可能性があります。

どうしても関わりたくない場合は相続放棄
親の財産や借金を一切引き継ぎたくない場合は、放置せずに家庭裁判所で相続放棄の手続きをおこないましょう。相続放棄は原則として、親の死亡を知った日から3ヵ月以内に手続きをおこなう必要があります。
相続放棄すると最初から相続人ではなかったことになり、プラスの財産もマイナスの財産も引き継がれなくなります。絶対に借金を引き継ぎたくない場合や、ほかの相続人とのやりとりが煩わしい場合は早期に相続放棄することをおすすめします。
手続きをおこなわずに3ヵ月が経過すると相続の意思があるものとみなされます。ほかの相続人に「放棄する」と伝えるだけでは相続放棄の効果はないため注意が必要です。

相続放棄しても火葬費用は請求される場合がある
相続放棄をした場合でも、葬儀や火葬にかかる最低限の費用について、親族として協力を求められることはあります。法律上、相続放棄をすれば一切の権利義務を引き継がないのが原則ですが、火葬や埋葬は社会的義務として扱われる側面があるためです。
故人の遺産(預金など)から費用を支払うと、相続財産の処分とみなされ相続放棄が無効になるリスクがあります。費用負担の範囲について争いが生じる場合は、弁護士など法律の専門家に相談するのが適切です。
もしもの時に参考にしたい3つの事例
離婚した親が亡くなったときの対応は、家庭の事情や関係性によって大きく異なります。亡くなったと連絡が来たときに慌てないために、具体的なケースで引き取り拒否や相続への対応方法イメージしましょう。
事例1:長年音信不通だった親がひとり暮らしで亡くなったケース
長年連絡を取っていなかった親が孤独死した場合、警察や役所から連絡が入ることがあります。遺体の引き取りや葬儀に応じる法律上の義務はありませんが、その後に遺品や財産の整理が必要です。
借金がある可能性があるため、安易に遺品を処分して相続したものとみなされてしまうと不利益を被ることがあります。
具体的なアクション
- 警察や役所からの連絡に対し、引き取れないと明確に意思表示する
- 借金の可能性があるため、遺品を勝手に処分したり、親の財産に手を出したりしない
- 財産調査をおこない、相続放棄する場合は親の死亡を知ってから3ヵ月以内に手続きを済ませる
事例2:親族から「あなたが喪主になるべき」と強く言われたケース
親族から喪主になることを強く求められることがありますが、喪主を務めることは法律上の義務ではありません。感情的な対立を避けるためにも、冷静に自分の意思を伝えることが重要です。
具体的なアクション
- 親族に対し、経済的・精神的な理由から喪主を務めることは難しいことを冷静かつ明確に伝える
- 感情的にならず、必要であればメールや書面で意思表示した記録を残す
- 話し合いがうまくいかない場合は第三者に間に入ってもらうことも検討する
事例3:親の財産状況が不明で、借金があるか不安なケース
親の財産がプラスかマイナスかわからないまま手続きを進めると、後から借金が発覚してトラブルになることがあります。まずは財産の全体像を把握することが先決です。
具体的なアクション
- 通帳や不動産登記簿、借入書類などを確認し、プラスとマイナスの財産を把握する
- 借金が多そうな場合は相続放棄を検討する
- プラスの財産もあるが、借金の全容が不明な場合はほかの相続人とともに限定承認を検討する
- 財産調査が難しいと感じたら、すぐに行政書士などの専門家に相談する
親族トラブルを避けるための賢い立ち回り方
離婚した親の死に際しては、遺体の引き取りや葬儀、相続などをめぐって親族間で意見が分かれることが多くあります。トラブルを避けるためには、自分の意思を冷静に示しつつ、必要に応じて第三者の力を借りることが有効です。
冷静に自分の意思を伝える
親族から引き取りや葬儀を強く求められると、断りにくさを感じることがあります。しかし、自分が対応できない理由がある場合は、それを明確に伝えることが重要です。
「経済的に難しい」「精神的に関われない」など、冷静かつ簡潔に説明することで、相手に納得してもらいやすくなります。
感情的に拒否すると対立が深まるため、必要に応じて書面やメールで意思を残すのもひとつの方法です。トラブルを避けるためには、曖昧な態度を取らず、はっきりと意思を示しましょう。
第三者を間に入れる
どうしても話し合いが平行線になってしまう場合は、第三者を介入させるのが効果的です。行政書士弁護士などの専門家が間に入ることで、感情的な争いを防ぎやすくなります。
特に費用分担や相続に関する問題は、専門家の客観的な意見を交えることで、公平な解決につながります。弁護士に依頼すべき場面もありますが、法的な争いが発生していない場合は行政書士が相続放棄や必要書類の整理をサポートできる場面も多くあります。
自分だけで抱え込まず、外部の助けを借りることで円満に進むことも多いのです。
離婚した親の相続Q&A
離婚した親が亡くなった場合、遺体の引き取りや葬儀の義務、相続の範囲など、さまざまな疑問が生じるでしょう。ここでは、よくある質問に行政書士の立場から回答します。法律上の責任や手続きの目安を知ることで、感情的な判断に流されず、冷静に対応しやすくなります。
引き取りを拒否した場合、罰則はありますか?
遺体の引き取りは法的な義務ではないため、引き取りを拒否したとしても罰則はありません。親族が感情的・経済的理由から対応できない場合は、自治体が火葬や埋葬をおこないます。
ただし、自治体から火葬費用の負担を求められたり、代わりに遺体を引き取った親族から費用負担を交渉されたりする可能性があります。
親族から葬儀費用を請求された場合、支払う義務はありますか?
あなたが亡くなった方の子であっても、葬儀費用を支払う義務は原則としてありません。ただし、相続人としての立場や親族間の関係性によって、社会的な圧力を受けるケースがあるのも事実です。
相続放棄をしても、協力の範囲として費用の一部を求められることはありますが、強制力は低いとい言えます。請求された場合は、行政書士や弁護士に相談し、支払い範囲を明確にして対応すると安心です。
親の借金を知らずに遺品整理をしてしまったらどうなりますか?
遺品整理として財産を売却して現金に換えたりすると、相続を承認したものとみなされるリスクがあります。この場合は相続放棄が認められず、借金があれば返済の義務を負うことになってしまいます。
財産の全容を明らかにし相続の方針を決めるまでは、安易な遺品整理は控えるべきです。
網羅的な財産調査を自力でおこなうのが難しい場合は、行政書士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。
ひとりで抱え込まずに相談を
離婚した親の死に際して、遺体の引き取りや葬儀、遺品整理、相続といった問題を全てひとりで抱え込むと、精神的・経済的に大きな負担になります。トラブルを避け、安心して対応するためには、信頼できる人や専門機関に相談することが重要です。ここでは、相談先の具体例を紹介します。
親族に相談する
まずは兄弟姉妹や親しい親族に相談して、対応の分担や意思統一を図りましょう。あなたに兄弟姉妹がいる場合、あなたと同じように亡くなった親の相続人となる場合がほとんどです。
遺体の引き取りや葬儀費用の分担、相続の進め方について意見を共有することで、後からのトラブルを防ぎやすくなります。感情的な争いを避けるためにも、話し合いの際は冷静に、必要であれば書面で記録を残すと安心です。
役所や福祉サービスに相談する
経済的負担が大きい場合は、市区町村などの福祉サービスを活用できます。自治体による火葬や埋葬の手続き、生活支援や葬祭費の助成制度など、制度を利用することで経済的負担や心理的負担を軽減できます。事前に制度内容を確認し、必要書類を揃えて相談するとスムーズです。
遺品整理代行業者に相談する
遺品整理は物理的にも精神的にも大きな負担を伴います。業者に依頼することで、短期間で整理が可能となり、トラブル防止にもつながります。ただし、相続放棄や限定承認をする可能性がある場合は、まず行政書士などの専門家に相談し、対応方法を確認するとよいでしょう。
法律の専門家に相談する
相続放棄や限定承認の手続き、親族間での費用分担やトラブル対応は法律の専門知識が必要です。財産調査や遺産分割協議書の作成、相続放棄などの手続きのサポートは行政書士や司法書士が対応可能です。
一方、訴訟や紛争に発展した場合は弁護士への相談が必要です。早めに専門家に相談することでリスクを最小限に抑え、安心して手続きを進められます。
心の専門家に相談する
親との関係が複雑だった場合、死後も悲しみだけでなく、怒りや後悔、罪悪感といった複雑な感情を抱えることがあります。これは、通常の死別とは異なるグリーフ(悲嘆)です。
カウンセラーなどの心の専門家は、複雑な感情をひとつずつ丁寧に紐解き、あなたが気持ちを整理するのを助けてくれます。気持ちを整理することで、相続や遺品整理といった現実的な問題にも落ち着いて向き合いやすくなるでしょう。
まとめ
離婚した親が亡くなった場合、遺体の引き取りや葬儀は必ずしも子どもの義務ではありません。もし拒否しても法律上の罰則はなく、自治体が火葬・埋葬をおこないます。しかし、相続は別問題です。子どもは法律上の相続人であり、相続しないためには相続放棄の手続きが必要です。
感情的にも法的にも、そして経済的にも負担が大きい問題だからこそ、ひとりで抱え込まずに専門家を頼ることが、あなた自身の未来を守ることにつながります。
当事務所(行政書士佐藤秀樹事務所)では、相続に関する相談を受け付けています。財産調査や相続人調査、遺産分割協議書の作成など、多岐にわたる相続手続きを全面的にサポート可能です。小さなことでもお気軽にご相談ください。