建設業法における下請けとは?違反ケースや対策について徹底解説!

建設業法における下請けとは?違反ケースや対策について徹底解説!

建設業界では「下請け」といった言葉が日常的に使われていますが、建設業法での定義や契約上の扱いを正しく理解していないと、知らないうちに法令違反にあたるケースもあります。

本記事では、建設業法における下請けの定義や元請・下請・孫請の関係、よくある違反事例とそのペナルティ、さらに2025年・2026年の法改正による最新ルールまでをわかりやすく解説します。

最後まで読むことで、下請け取引で注意すべきポイントや、トラブルを防ぐための実務対応が明確になり、自社の取引をより安心・適正に進めることができるでしょう。

目次

建設業法における下請けとは?

建設業界では、「下請け」といった言葉を日常的に使いますが、法律上の定義や扱いを正確に理解している人は意外と多くありません。

建設業法では、元請・下請の関係や契約の範囲を明確に区分しており、その解釈を誤ると法令違反に問われることもあります。

まずは、建設業法における下請けの基本的な定義や、元請・下請・孫請の関係性、そして「下請契約」に該当するかどうかの判断基準を整理してみましょう。

下請けの基本的な定義とは

建設業法の「下請契約」とは、建設工事を請け負った建設業者が、その工事の全部または一部を別の建設業者に請け負わせる契約のことです。

つまり、発注者(施主)から工事を直接請け負った元請業者が、ほかの業者に再び仕事を発注する形態が「下請け」にあたります。

名称が「外注」「業務委託」「協力会社契約」であっても、実態として建設工事の完成を目的とした請負であれば、法律上は下請契約として扱われます。

建設業法に基づく下請契約には、契約書面の交付義務や適正な支払いなど、元請業者に課されるルールが細かく定められており、これを守らないと行政処分の対象となる可能性があります。

元請け・下請け・孫請けの関係

建設工事では、契約の流れに応じて「元請け」「下請け」「孫請け」といった関係が生まれます。

まず、元請けは発注者から直接工事を請け負う業者を指します。次に、下請けは元請けから工事の一部を任される業者、さらにその下で仕事を請ける業者が孫請け(二次下請け)です。

このように、契約は階層的に連なりますが、それぞれの階層で「発注者(注文者)」と「請負者」といった関係が成立します。つまり、一次下請けも孫請けに対しては発注者となり、法的には元請け的な立場を取ります。

建設業法では、元請業者が下請業者に対して不当な要求や代金の減額をおこなうことを禁じており、各階層で公正な取引をおこなう必要があります。

下請契約にあたるかどうかの判断基準

ある契約が建設業法上の下請契約に該当するかどうかは、形式ではなく実態で判断されます。

主な判断ポイントは次のとおりです。

  1. 対象が建設工事であるか

    建設業法の適用対象は、実際に建設工事の施工を請け負う契約に限られます。設計や測量、清掃などは建設工事に含まれません。
  2. 請負契約であるか

    報酬を得て、工事を完成させることを約束する契約が請負契約にあたります。名目が「業務委託」や「協力作業」でも、実質的に工事の完成を目的としていれば下請契約と見なされます。
  3. 元請けの工事の一部を担当しているか

    元請業者が受注した工事の全部または一部を別業者に再委託する場合は、原則として下請契約に該当します。

このように、名称や書面よりも、実際の契約内容と業務実態がもっとも重要です。

下請けに該当する工事の範囲

建設業法で「下請け」として扱われるのは、法律で定められた「建設工事」に該当する作業です。土木工事や建築工事をはじめ、舗装、電気、管工事など、法令の別表に掲げられた全29業種が対象です。

一方、設計業務や測量、資材の販売、交通誘導などは建設工事には当たらず、下請契約とはみなされません。

また令和7年2月1日以降の基準として、、下請契約金額が一定額(建築一式工事8,000万円以上、そのほかの工事5,000万円以上)を超える場合には、施工体制台帳の作成が義務づけられました。

なお、元請が工事の主要部分を全て下請けに任せる「丸投げ」は原則として禁止されており、適正な範囲内での再委託が必要です。

建設業法違反となる下請け取引のケース

下請け取引は、元請と下請が信頼関係のもとで適正におこなうことが大前提ですが、現場ではさまざまなトラブルや違反行為が発生しています。

特に、無許可業者への発注や契約書の未交付、不当な減額などは、知らずに行っても法令違反として厳しく処分されるおそれがあります。

ここでは、建設業法上「違反」とみなされる代表的な下請け取引のケースを取り上げ、その内容と注意すべきポイントを解説します。

無許可業者への下請け発注

建設業の許可を持たない業者へ、軽微な工事(500万円以下の工事など)を超える業務を発注するのは、建設業法違反です。

特に、請け負う工事の金額が許可基準を上回る場合、元請業者自身も「無許可業者を利用した」として処分対象になるおそれがあります。

公共工事では、無許可業者を下請けに使うことが厳しく禁じられており、元請けが資格停止や指名停止を受けるケースもあります。

したがって、下請け先を選定する際には、許可証の有効期限や業種区分を確認し、許可業種の範囲内で契約を結ぶことが必要です。

見積もりを出さない

元請業者が下請け業者に見積条件を提示せず、十分な協議を経ないまま契約を進めるのは、建設業法第19条および第20条に違反するおそれがあります。

この条文では、元請業者に「工事内容」「工期」「支払い方法」「設計変更や損害負担の取扱い」など、見積条件を契約前に明示する義務が定められています。

見積もりを提示しないまま契約すると、下請け業者が不利な条件を受け入れざるを得ない状況になりやすく、トラブルの原因にもなってしまいます。

契約前の段階で条件を文書化し、双方が内容を確認するのが、法令遵守と公正な取引の第一歩です。

下請契約書を交わさない

建設業法では、下請契約を結ぶ際に「契約内容を明示した書面」を取り交わすことが義務付けられています。にもかかわらず、口頭や見積書だけで契約を進めることは、法令違反となる場合があります。

契約書には、工事内容や金額、支払い方法、設計変更への対応、工期、損害負担の範囲など、基本事項を全て記載しなければなりません。

書面を交わしていないと、工期遅延や追加工事などで紛争が生じたときに責任の所在が曖昧になり、行政監督でも問題視されます。

特に近年は電子契約も認められており、書面交付の省略は「慣例」で済まされなくなっています。

使用資材等の強制購入

元請業者が、特定の資材や機器を下請け業者に強制的に購入させる行為は、建設業法上の不当な取引行為に該当する場合があります。

たとえば、「指定業者から必ず購入するように」と強要したり、他社より高い価格で買わせるような行為は、下請け業者の経営の自由を侵害する不公正な取引とみなされます。

資材の指定自体は工事品質を保つために必要な場合もありますが、その際は価格や調達方法を事前に協議し、下請けに不利益が生じないよう配慮する必要があります。

一方的な押し付けではなく、契約書に調達条件を明記するのが望ましいとされています。

不当な下請代金の減額・未払い

契約後に元請業者が一方的に代金を減額したり、支払いを遅らせる行為は、建設業法および下請法に違反します。

代金の支払いは、下請けから請求を受けてから一か月以内かつできる限り短期間におこなうのが原則です。(特定建設業者は、下請業者から工事の完成の申し出を受けた日から50日以内)

また、材料高騰などを理由に不当に値引きを迫る、支払いを留保する、あるいは「協力金」などの名目で差し引く行為も、監督処分の対象になってしまいます。

支払いトラブルは下請け業者の経営を直撃する問題であり、元請業者には誠実な支払い管理が必要です。

不当な工期短縮・設計変更の強要

元請業者が、契約書に定められた内容を無視して工期を短縮させたり、設計変更を一方的に求める行為は、下請け業者に不当な負担を与える行為として違法になることがあります。

建設業法では、設計変更や工期変更が発生する場合には、見積条件を再提示し、代金や日程を協議のうえで書面での合意が義務付けられています。

しかし、現場都合や発注者の要望を理由に、下請けに追加負担を強いるケースも見られます。こうした行為は、監督行政から是正指導を受ける可能性があり、契約書に変更手続きを明記しておくことが重要です。

不当なやり直し・損害負担の押し付け

元請業者が、下請け業者に対して不当なやり直しを命じたり、損害の責任を一方的に押し付ける行為は、契約違反および不当取引にあたります。

建設業法では、やり直しや損害負担について、責任の範囲を契約で明確に定めることが求められています。原因が元請けや発注者にあるにもかかわらず、下請けに全額負担を強要するのは不当です。

やり直しが必要となる場合には、原因を明確にし、契約変更や費用負担の協議をおこなうことが原則です。

元請側の指示や設計変更などに起因する追加工事・再施工については、追加費用の支払いや工期の延長補償を行わないと、契約違反や損害賠償請求などの法的紛争に発展するおそれがあります。

契約時点で責任分担や補修範囲を明確化しておくことが、トラブル防止の基本です。

合意のない赤伝処理

元請業者が、支払い済みの代金について下請けの同意なく「赤伝処理」(金額の取り消し・減額処理)をおこなうことは、建設業法上の不当行為にあたるおそれがあります。

赤伝は、契約金額を訂正する正式な手続きであり、当事者双方の合意が前提です。にもかかわらず、元請側が一方的に金額を減額したり帳簿上で相殺する行為は、下請けの権利を侵害します。

このような処理は行政指導や損害賠償請求の対象になることもあるため、減額や修正が必要な場合は、必ず協議書や覚書などで合意を残すことが必要です。

下請業者への一方的な契約解除

元請業者が正当な理由なく下請契約を一方的に解除する行為は、建設業法や民法上の信義誠実の原則に反するおそれがあり、監督行政から「不公正な取引」として是正指導を受ける場合があります。

建設業法第18条は、請負契約を「対等の立場で誠実に履行すべき」と定めています。このため、下請業者に責任がないにもかかわらず契約を打ち切ることは、契約関係の公平性を欠く行為とみなされる可能性があります。

契約を解除するには、工期の著しい遅延や重大な債務不履行など、客観的で合理的な理由が必要です。

また、解除に際しては、理由・通知時期・未払い代金や補償内容を契約書などで明確にしておくことが重要です。

一方的な打ち切りや他業者への付け替え発注を行った場合、下請業者は損害賠償請求や行政への通報・指導要請をおこなうことができます。

下請契約で建設業法違反をした場合のペナルティ・処分内容

建設業法に違反した場合、行政はその内容や悪質性に応じて、段階的に処分を行います。

軽微な違反であっても「指示処分」から始まり、改善が見られない場合には「営業停止」や「許可取消」へと進む可能性があります。

さらに、重大な違反行為では刑事罰が科されることもあり、企業の信用にも大きく関わります。

ここでは、違反時に科される主な行政処分や罰則の内容を順に解説していきます。

指示処分

指示処分は、建設業法に違反する行為や不適切な取引が確認された際に、監督官庁(国土交通大臣または都道府県知事)が業者に対して改善を命じる行政処分です。

たとえば、契約書の未交付や届出漏れ、帳簿の不備など、比較的軽い違反行為に対しておこなわれます。

指示処分を受けた場合は、行政から定められた期限内に改善内容を報告しなければなりません。もしこの命令に従わなかったり、再び同様の違反を行った場合は、次の段階として「営業停止処分」などの重い処分が科されることになってしまいます。

つまり、指示処分は“警告”にあたる位置づけであり、違反を早期に是正するための最初の行政対応と言えます。

営業停止処分

営業停止処分は、指示処分を無視した場合や、違反内容が重大で社会的影響が大きい場合に下される行政処分です。

国や都道府県の監督庁が、建設業者に対して一定期間、営業の全部または一部を禁止する命令を出します。営業停止の期間は最長1年以内で、期間中は新たな工事契約の締結・入札・見積提出などの営業活動が原則禁止されます。

ただし、処分前に締結済みの契約については、工事の継続や補修対応などが例外的に認められることがあります。

営業停止処分は、許可取消処分の前段階にあたる重大な行政措置であり、企業の信用や取引継続に大きく影響します。

許可取消処分

許可取消処分は、建設業法におけるもっとも重い行政処分です。

悪質な違反や、繰り返しの不正、または指示や営業停止命令に従わず営業を続けた場合に適用されます。

許可を取り消されると、その建設業者は事実上、営業を続けることができなくなり、通常5年間は新たに許可の申請もできません。

対象となるのは、虚偽申請や無許可営業、重大な契約違反など社会的影響の大きい行為です。

処分を受けた場合は行政の公表対象にもなり、企業の信用失墜につながるため、実務上はもっとも避けるべきペナルティとされています。

刑事罰・罰金

建設業法違反の中には、行政処分だけでなく刑事罰の対象となる行為もあります。

代表的なものが「無許可営業」で、許可を受けずに建設業を営んだ場合は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。

また、虚偽の申請や報告、帳簿不備、検査拒否などに対しても、6か月以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることがあります。

刑事罰は、違反行為の故意性や被害の程度によって判断され、行政処分と併せて科されるケースもあります。

特に悪質な無許可営業や詐称行為は、経営者個人が刑事責任を問われることもあるため、厳重な注意が必要です。

【2025年】建設業法改正で変わった下請契約について

2025年の建設業法改正では、下請契約に関する基準や制度が大きく見直されました。

特定建設業許可が必要となる金額の引き上げや、施工体制台帳の作成基準の変更に加え、従業員処遇改善や見積り制度の強化など、現場に直結する改正が行われています。

まずは、新しい基準と実務への影響を順に確認していきましょう。

特定建設業許可要件・下請契約金額基準の引上げ

2025年(令和7年)2月の改正で、特定建設業許可が必要となる下請契約金額の基準が下記のように引き上げられました。

要件以前
(一般工事)
改正後
(一般工事)
以前
(建築一式工事)
改正後
(建築一式工事)
特定建設業許可を要する下請代金額4,500万円以上5,000万円以上7,000万円以上8,000万円以上
施工体制台帳の作成を要する下請代金額4,500万円以上5,000万円以上7,000万円以上8,000万円以上
専任監理技術者を要する請負代金額4,000万円以上4,500万円以上8,000万円以上9,000万円以上
特定専門工事の下請代金額上限4,000万円未満4,500万円未満

この改正は、物価や人件費の上昇などに対応するための実態調整です。中小建設業者にとっては、許可の範囲や契約金額の管理を見直す必要があり、特定許可の取得・維持に関する判断がより重要になっています。

従業員処遇改善

今回の改正では、建設業者に対して従業員の処遇改善に努める義務(努力義務)が新設されました。

これは、技能従業員の賃金・労働環境の改善を通じて人材の定着を図ることを目的としたものです。

法律上は「建設業者は、従業員の処遇を確保するために必要な措置を講じるよう努めなければならない」と明記されました。

この改正により、見積もり段階での適正な労務費計上や、適正な請負金額の提示がより強く求められます。

罰則はないものの、今後は国交省や業界団体が作成する労務費基準への準拠が実質的に求められる可能性が高く、企業の社会的評価にも影響する改正と言えます。

著しく低い材料費などの見積りの禁止

2025年中に施行予定の改正建設業法では、「著しく低い材料費などによる見積りや見積り変更依頼の禁止」が新たに明確化されました。

建設業者は、契約締結にあたり、材料費・労務費・施工に不可欠な経費などを内訳として記載した見積書を作成するよう努めなければなりません。

見積書に記載する金額は、通常必要と認められる水準を著しく下回ってはならないと定められ、これは不当に低い請負代金による賃金の圧迫や安全性の低下を防ぐ狙いがあります。

建設工事の発注者・受注者のいずれにおいても、契約を結ぶ前に提示された見積金額が、実情に即した妥当な水準かどうかを十分に確認する必要があります。

資材高騰時の契約変更協議に誠実に応じる努力義務などの新設

資材価格や人件費の高騰が続く中、今回の改正で「価格変動時に誠実に契約変更協議へ応じる努力義務」が新設されます。

これは、発注者や元請業者が、資材・労務費の著しい変動が生じた場合に、下請業者などから契約金額や工期の見直しを求められた際、誠実に協議するよう努めるものです。

従来は、価格上昇分を契約で吸収せざるを得ないケースが多く、特に民間工事では見直しが難しいのが実情でした。

この改正により、下請業者側からも契約変更の協議を求めやすくなり、原価上昇による経営圧迫を防ぐ効果が期待されています。

強制力はなく「努力義務」にとどまりますが、公正な取引環境を整備するうえで大きな一歩となる改正です。

【2026年】建設業法改正予定の下請契約について

2026年には、建設業法および関連する下請取引法のさらなる改正が予定されています。

今度の改正では、「下請」といった呼称の見直しや、価格協議の義務化、手形払いの禁止など、企業間取引の透明性と公平性を高める内容が中心です。

特に、価格交渉力の弱い中小事業者を保護するための法整備が進められており、取引慣行そのものが変わる転換期と言えます。

ここからは、改正の方向性について詳しく見ていきましょう。

名称変更・用語見直し

2026年に予定されている下請関連法改正では、法律名が従来の「下請代金支払遅延等防止法」から、

「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払いの遅延などの防止に関する法律」へと改められました。

実務上は長いため、今後は「中小受託取引適正化法」または「取適法」と略して呼ばれる見通しです。

また法律で使われてきた「親事業者」「下請事業者」「下請代金」などの呼び方を見直す方向で議論が進んでいます。

新たな案では、「親事業者」を「委託事業者」、「下請事業者」を「受託事業者」といったように、より対等な関係を意識した用語に変更される見込みです。

この変更は、下請けといった言葉に含まれる上下関係のイメージを和らげ、企業間取引を「協働関係」として位置づけ直す狙いがあります。

建設業法そのものにおける「元請」「下請」などの用語変更はまだ検討段階ですが、国としては取引の公平性をより明確に打ち出す方針です。

価格協議義務化・一方的価格決定の禁止強化

2026年改正では、発注者の一方的な価格の決定を防ぐため、「価格協議の義務化」が盛り込まれる見通しです。

これまでの法律では、価格の決定において発注側の優越的立場が問題視されることが多く、特に資材費や人件費の高騰時に下請業者が不利になるケースが指摘されてきました。

改正後は、受託側(下請業者)が合理的な理由をもって価格の見直しを求めた場合、発注者は協議に応じなければならないとされます。

また、協議の形だけを整える「形式的交渉」を防ぐため、見積根拠や協議内容の記録を残す義務も検討されています。

支払い手段の制限(手形払い禁止など)

2026年の改正では、建設業を含む取引全体で「手形払いの廃止・制限」が進められる予定です。

建設業界では長年、支払いを手形でおこなう慣行がありましたが、資金繰りの悪化や割引コストの増大など、下請業者に不利なしくみと指摘されてきました。

このため、今後は原則として現金・銀行振込・電子債権など、即時決済に近い方法での支払いが必要です。

国土交通省のガイドラインでも、すでに手形期日60日を超える取引は「不適正」とされており、改正ではこれを法律上明確に禁止する方向です。

ただし、建設業は工期が長く取引額も大きいため、完全な手形廃止には一定の移行期間が設けられる見込みです。

下請けに出す際の適正価格や見積もりの出し方

適正な取引関係を築くためには、法令遵守だけでなく、「価格の妥当性」の確保が欠かせません。

見積りの段階から、原価を正確に把握し、労務費や資材費などを適切に反映するようにしましょう。

ここでは、下請けへの発注時に求められる積算の基本と、見積書に記載すべき具体的な内容について解説します。

原価に基づく積算をおこなうことが基本

下請けに発注する際は、感覚的な「相場」や「前回と同じ金額」ではなく、実際の原価に基づいた積算をおこなうことが重要です。

「下請法」や「建設業法」では、発注者に対し、労務費・材料費・経費などの実勢価格を反映した適正な見積もりと契約金額の設定を求めています。

特に人件費については、国交省が示す「標準労務費」や賃金動向を反映させることが推奨されています。

近年は資材価格やエネルギーコストの高騰もあり、見積もり時点の実勢価格を反映しないと下請け側の利益が圧迫されるおそれがあります。適正な原価積算は、法令遵守だけでなく、信頼関係を維持し、持続可能な取引をおこなうための基本姿勢と言えます。   

見積もりに記載すべき内容

見積書には、単に「工事一式」などの記載ではなく、費目や数量を明確にした詳細な内訳を示す必要があります。

建設業法および下請法の運用基準では、「工種別の数量」「単価」「小計」「労務費・材料費・経費の区分」の具体的な記載が適正取引の前提とされています。

さらに、見積もりの根拠となる労務費・材料費の算定基準を文書で説明できる体制を整えておくことも重要です。

また、値上げ要因(人件費上昇・資材高騰など)を明記しておくことで、契約後の価格交渉や変更契約にも活用できます。

下請契約で建設業法違反をした場合の相談先

下請取引に関してトラブルや法令違反の疑いが生じた場合は、専門の公的機関に相談しましょう。

行政や業界団体には、下請代金の未払い、契約書の不備、不当な取引慣行などに対応する相談窓口が設けられています。

ここでは、主な相談先として「建設業取引適正化センター」「駆け込みホットライン」「下請かけこみ寺」の特徴と活用方法を紹介します。

建設業取引適正化センター

建設業取引適正化センターは、建設業における元請・下請間の取引の公正化を目的として設立された公益財団法人です。

下請代金の未払い、契約書の不備、不当な減額など、建設業法や中小受託取引適正化法(旧・下請法)に関する相談を無料で受け付けています。

専門の相談員が、法令に基づくアドバイスや解決への手続き案内を行い、必要に応じて関係行政機関への連携も可能です。

相談は電話・メール・対面のいずれにも対応しており、事業者名を伏せた匿名相談もできます。

下請け業者が立場上直接元請に言いづらい問題を抱えた場合でも、安心して相談できる公的な窓口です。

建設業法違反の通報窓口(駆け込みホットライン)

国土交通省および各地方整備局には、建設業法違反の疑いがある行為を報告できる「駆け込みホットライン」が設置されています。

たとえば、許可を持たない業者による工事受注、不当な支払い遅延、契約書未交付などが対象です。

通報は電話やオンラインフォームで受け付けられ、匿名でも可能です。

内容は監督部局に共有され、必要に応じて調査や指導、監督処分が行われます。この制度は、法令違反の早期発見と被害拡大の防止を目的としており、下請け業者や関係者が安心して業務をおこなえる環境づくりに役立っています。   

下請かけこみ寺

下請かけこみ寺は、中小企業庁が全国に設置する無料の相談窓口で、下請け企業と元請企業とのトラブル全般に対応しています。

建設業に限らず、代金の未払い、契約内容の変更、取引停止など幅広い問題を扱っており、弁護士など専門相談員が中立の立場でアドバイスやあっせんを行います。

法的手続きに進む前の段階で、実務的な解決策を見出すことができるのが大きな特徴です。

全国47都道府県に拠点があり、オンライン相談や出張相談にも対応しているため、早期に相談すればトラブルの長期化や損害拡大を防ぐことができます。

まとめ

建設業法における下請け契約は、業務分担や効率化のために欠かせないしくみですが、その一方で法令遵守と取引の公正さが必要です。

違反行為が確認された場合は、行政処分や刑事罰が科されることもあり、経営への影響は非常に大きいものです。

また、2025年・2026年の法改正によって、下請け保護や価格協議の義務化など、取引の透明性が一層重視される方向に進んでいます。元請・下請双方が対等な立場で誠実に取引を行い、公正で持続可能な建設業界を築くことが今後ますます重要になるでしょう。

編集者

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