建設業法の改正内容まとめ!改正ポイントや必要な対応などを徹底解説

2025年の建設業法改正では、従業員の処遇改善、資材高騰への対応、そして働き方改革や生産性向上といった建設業界の課題に本格的に切り込むものです。
今回の建設業法の改正をうけて、企業には契約や見積りルールの見直し、社内教育やコンプライアンス体制の整備といった実務的な対応が欠かせません。
本記事では、改正内容のポイントから背景、必要な対応、違反リスク、さらに2026年の追加改正予定までを整理して解説します。これを読めば、建設業法改正の全体像を理解し、自社がとるべき行動を明確にできるはずです。ぜひ参考にしてください。
【2025年】建設業法改正内容まとめ
まずは2025年の建設業法改正内容を見ていきましょう。下記の表をご覧ください。
改正ポイント | 主な内容 |
従業員の処遇改善 | ・労務費の確保を努力義務化 ・標準労務費の基準策定 ・著しく低い労務費の禁止 ・原価割れ契約の禁止を受注者にも適用 |
資材高騰への対応 | ・資材高騰リスクの事前通知義務化 ・契約書に変更方法を明記する義務化 ・契約後の誠実協議義務 ・労務費へのしわ寄せ防止 |
働き方改革・生産性向上 | ・工期変更協議ルール強化 ・工期ダンピング禁止(2025年中) ・現場技術者専任義務の合理化 ・ICT活用による現場管理効率化 ・施工体制台帳提出の合理化 ・中小企業のICT導入支援 |
2025年の建設業法改正は、安すぎる賃金や資材高騰、長時間労働といった問題を解決するためのもので、働く方の賃金を正しく反映し、工期を無理に短くしないようにし、ICTを使った仕事の効率化を目指しています。

建設業法が改正される背景と効果
建設業法の改正は、単に法律を厳しくするためではなく、業界が直面する構造的な課題を解決するために行われています。
人手不足や資材高騰、インフラの老朽化など、社会全体に関わる深刻な問題に対応する狙いがあります。ここでは、改正の背景と期待される効果を4つの視点から解説します。
人手不足解消と働き方改革の推進
建設業界では長時間労働や休日の少なさが慢性的な課題となり、若手人材の確保や定着が難しくなっています。
こうした状況を改善するため、建設業法改正では労働環境の是正が大きな柱となっています。
具体的には、週休二日制の普及促進、時間外労働の上限規制の適用、ICT活用による業務効率化などが挙げられます。
これにより働き手の負担軽減やワークライフバランスの改善を図り、人材不足の解消につなげる狙いがあります。
結果として、若年層や女性、高齢者など多様な人材が参入しやすい環境を整え、建設業界全体の労働力確保が期待されています。
資材価格高騰への対応と公正取引の確保
近年、ウクライナ情勢や円安の影響により、鉄鋼・木材・燃料などの資材価格が大幅に上昇し、建設業界の経営環境を大きく揺さぶっています。特に下請企業では、価格転嫁が進まずに経営が圧迫される事例が多発しており、公正な取引環境の整備が喫緊の課題となってきました。
こうした状況を是正するため、改正建設業法では元請・下請間の取引適正化が柱のひとつとされました。具体的には、資材価格の変動や労務費上昇を契約に反映させるため、契約書に変更方法を明記する義務や、価格変動が生じた際の「誠実な協議義務」が設けられています。また、下請代金の支払い期日や支払い手段の適正化(手形依存の縮小・現金比率の向上)についても関連法改正とあわせて強化されています。
さらに、国土交通省による監督指導、公正取引委員会や「建設Gメン」による取引監視が拡充され、不当な買いたたきやしわ寄せを防ぐ体制が整備されました。これにより、中小建設業者でも資材高騰リスクを発注者と適切に分担し、安定した経営基盤を築きやすくなることが期待されています。
インフラ老朽化に伴う安全性・品質向上
高度経済成長期に整備された道路・橋梁・トンネルなどの社会インフラは、全国的に老朽化が進み、事故や崩落といったリスクが現実的な課題となっています。国民の安全・安心を守るため、施工段階での品質確保と維持管理の高度化が急務となりました。
この課題に対応するため、改正建設業法では「安全性と品質の確保」を重要な柱とし、施工体制や技術者配置制度を見直しています。
具体的には、監理技術者の配置要件を見直しつつ、一定条件下では複数現場を兼任できる特例も導入されました。また、施工体制台帳や契約記録の保存・活用を義務づけ、品質管理を裏付ける制度基盤を整備しています。
さらに、ICTやドローン、BIM/CIMといった先端技術の導入も政策的に推進されており、施工状況や点検結果を3次元モデルで可視化し、効率的かつ高精度な維持管理を可能にします。これにより、老朽化インフラの補修・更新を計画的に進め、持続可能で安全な社会基盤の構築が期待されています。ただし、実務への適用にはコストや人材育成といった課題も残されている点に注意が必要です。
建設業界全体の健全な発展と社会的信頼性の向上
建設業界は国の基盤を担う一方、過去には談合や不正入札、下請いじめといった問題が繰り返し指摘されてきました。
改正建設業法では透明性とコンプライアンス強化を柱とし、見積内訳の明示義務や不当取引への罰則強化、経営業務管理責任者制度の柔軟化などが盛り込まれています。
これにより、責任ある経営を促し、公正な競争環境を整えるとともに、業界全体の社会的信頼性を高めることが期待されています。
建設業法改正ポイント①従業員の処遇改善
最初の柱となるのは「従業員の処遇改善」です。
建設業界は長らく低賃金や長時間労働といった問題を抱えてきましたが、改正により労務費を適正に確保し、安定した雇用環境を整える取り組みが進められます。
具体的にどのような制度が導入されるのかを確認していきましょう。
労務費の確保を努力義務化
2024年改正建設業法では、建設業者に対し従業員の処遇確保が努力義務化されました。
具体的には、「適正な賃金支払い・能力・経験評価に基づく賃金制度」を構築するよう努める旨が努力義務として置かれています。
これにより、従来課題となっていた低賃金・長時間労働の是正を進め、人材の流出を防ぐ狙いがあります。
特に建設業界は若手や女性の就労が進みにくい環境とされており、待遇改善は人材確保のカギです。
努力義務といった位置付けではあるものの、国交省や建設Gメンによる監視・調査体制が整備され、違反があれば勧告や公表の対象となり得ます。今後は企業の自主的な改善努力が一層求められるでしょう。
標準労務費の基準策定
2024年9月に中央建設業審議会内で「労務費の基準に関するワーキンググループ」が設置され、技能者ごとの標準労務費の策定が進められています。
基準は「労務単価(円/人日)×歩掛(人日/施工量)」で算出され、公共工事設計労務単価を活用する方針です。
これは受発注双方に労務費の目安を示すもので、実際の契約価格に反映されることが期待されています。
2025年12月までに正式な勧告が予定されており、下請業者の立場改善に直結する重要な制度です。
従来は「言い値」で低く抑えられるケースが多く、適正水準を超える値引きが従業員の処遇悪化につながっていました。
標準基準の導入により、公正で透明性の高い価格決定が進み、処遇改善の実効性が担保される見込みです。
著しく低い労務費の禁止
2025年12月までに施行予定の改正建設業法では、「著しく低い労務費」の設定が改正により禁止予定となっています。
これまで下請け契約では、労務費が不透明かつ削減対象とされやすく、技能従業員の賃金が適正に反映されないことが大きな課題でした。
今回の改正により、元請・下請を問わず、見積書に記載する労務費が地域や職種における通常水準を大きく下回ることは認められません。
労務費には賃金だけでなく法定福利費も含まれる点が重要で、国交省の「労務費基準」が交渉や監督の客観的指標として活用されます。
違反した場合、行政からの勧告や公表、場合によっては営業停止処分のリスクもあります。適正な労務費の確保は技能者の処遇改善と業界の持続的発展に直結するため、今後は全ての契約で法令遵守と公正な取引姿勢が求められます。
原価割れ契約の禁止を受注者にも適用
従来は注文者のみが「原価割れ契約」を禁止されていましたが、今回の改正により受注者(建設業者)側にも禁止規定が導入されます(施行は2025年内予定)。
つまり、正当な理由がない限り、必要原価を下回る価格での請負契約はできません。
これは、下請業者が元請への競争で過剰に値下げし、みずからの労務費や安全経費を削る悪循環を断ち切る狙いです。
特に零細業者は「仕事をとるために赤字契約もやむなし」といった現実がありましたが、それが従業員の処遇悪化や事故リスクの増大につながっていました。
今回の改正は業者みずからを守る規制でもあり、健全な競争環境の形成、持続可能な経営の確立に大きな意味を持ちます。
建設業法改正ポイント②資材高騰への対応
次に注目すべきは、急激な資材価格の上昇に対応するためのしくみです。
これまで下請業者が負担を強いられるケースが多かった資材コストについて、発注者と受注者の間で公正にリスクを分担できるようルールが整備されました。
ここからは、新たに導入された具体的な規定を見ていきます。
資材高騰リスクの事前通知義務化
改正建設業法により、2024年12月13日から、受注者は契約締結前に資材の供給不足や価格高騰の「おそれ情報」を注文者へ通知する義務が課されました。
通知にあたっては、資材種類・価格基準日などとともに、メディア報道、公的統計、見積資料などの根拠情報を示すことがガイドラインで求められています。
これにより契約当事者間でリスクを事前に共有し、実際に価格変動が起きた際の協議を円滑に進められる環境が整備されました。
従来は資材高騰が生じても契約変更が難しく、下請が一方的に負担を抱えるケースが多かったのですが、新ルールは公共工事・民間工事を問わず原則として全ての請負契約に適用される予定で、価格転嫁の透明性と公正な交渉の実現が期待されています。
契約書への「変更方法」明記の義務化
2024年12月13日施行の改正により、建設工事の契約書には資材価格が変動した場合の「請負代金変更方法」を必ず記載しなければならなくなりました。
これまで契約書に条項がなく、発注者が「変更を認めない」と一方的に拒否するケースがありましたが、新制度ではそのような契約条項自体が法令違反です。
契約書には「資材価格が著しく変動したときは協議により変更額を定める」といった文言を盛り込むことが義務づけられ、資材高騰時でも契約条項に基づき協議がおこなえるため、下請業者や従業員への負担集中を防ぐ効果が見込まれます。
契約後の誠実協議義務
2024年12月13日から施行された改正では、契約後に資材価格の高騰が発生した場合、受注者は「契約書などに記載された変更方法などの定め」にしたがって協議を申し出ることができるようになりました。
これにより、従来は価格変動が起きても発注者が協議を拒否し、下請や受注者が泣き寝入りする構造が改善されます。
具体的には、協議自体を正当な理由なく拒否したり、過度に遅延させたりする行為は違反と見なされ、勧告や公表の対象となる可能性があります。
法的ルールとして明文化されたことで、協議の実効性が確保され、資材高騰リスクを公正に分担できるしくみが整いました。
労務費へのしわ寄せ防止
これまでは資材高騰分が十分に転嫁されないと、最終的に労務費が削られ、技能者の賃金や処遇悪化につながる問題が長らく続いていました。
この改正法では、資材高騰分を請負代金にしっかり反映し、労務費が不当に削られないしくみを整えています。
さらに2025年12月までには「著しく低い労務費の禁止」「原価割れ契約の禁止」などの規定が全面施行予定であり、技能者の安定的な処遇確保と業界の持続的発展が期待されています。
建設業法改正ポイント③働き方改革・生産性向上
さらに、改正法では「働き方改革」と「生産性向上」も大きなテーマとされています。
過重労働を防ぎつつ、限られた人材を効率的に活用するために、工期設定や技術者配置、ICT活用に関する規定が盛り込まれました。具体的な取り組み内容を順に解説します。
工期変更協議の円滑化
2024年12月13日の改正施行により、工期の変更協議ルールが大幅に強化されました。
これまで工期設定は発注者の意向が優先され、受注者の要望が反映されにくい状況が問題視されていました。
改正後は、資材不足や労務費高騰といったリスクが契約前に通知されていれば、契約後に実際に事象が発生した際、受注者は工期変更を協議でき、注文者は誠実に応じる義務(公共工事)または努力義務(民間工事)を負います。
不当に短い工期での契約、いわゆる「工期ダンピング」も2025年中に全面禁止され、元請・下請ともに違反時は監督処分の対象です。
これにより、現場での過重労働や休日返上施工が是正され、長時間労働削減と持続可能な働き方の実現が期待されています。
現場技術者専任義務の合理化
改正建設業法では、主任技術者・監理技術者の専任義務が合理化され、ICTを活用すれば複数現場の兼任が可能となりました。
従来は請負価格が一定以上の工事では現場ごとに専任配置が必要でしたが、2024年12月改正で条件付き兼任制度が導入されました。
さらに2025年2月からは請負価格基準が引き上げられ、土木工事は1億円未満、建築一式工事は2億円未満であれば兼任が認められます。
要件としては現場間の距離が日帰り可能で移動時間が2時間以内であることや、通信機器による遠隔確認ができる体制の整備が必須です。
これにより、限られた技術者を効率的に配置でき、人手不足への対応や管理の効率化が進みます。
ICT活用による現場管理の効率化
2024年12月施行の改正では、ICTを活用した現場管理を特定建設業者や公共工事受注者に努力義務化し、国交省は「ICT指針」を策定しました。
指針では、ドローン・3Dスキャナ・ウェアラブルカメラなどを用いた施工管理や、元請・下請間のデータ共有による効率化が示されています。
ICT導入により遠隔からの現場監督や書類作業の電子化が進み、現場技術者の負担軽減や残業時間削減に寄与します。
さらに、施工体制や労務管理の透明化を図り、適正な労務費転嫁や働き方改革の基盤を整える狙いがあります。
中小企業に向けては、省力化投資補助金の対象に建設向けICT機器が追加されており、導入コストの負担を軽減できます。今後、業界全体でICT活用の底上げが期待されています。
施工体制台帳提出義務の合理化
公共工事では、従来は下請契約でも全ての規模で施工体制台帳の提出が義務付けられていましたが、改正法により、発注者がICTなどで施工体制を直接確認できる場合は、台帳提出を省略できる合理化が導入されます。
たとえば、建設キャリアアップシステム(CCUS)や入退場管理システムを通じて必要情報を把握できる場合、元請業者は提出義務を免除される可能性があります。
これにより、書類手続きの負担軽減が図られ、現場管理と働き方改革の両立が進む効果が期待されます。
生産性向上と中小企業支援
建設業界の人手不足や労務費高騰に対応するため、改正法は生産性向上と中小企業支援を重視しています。
ICT建機や自動化技術の導入促進、補助金制度による支援拡充などがその柱とされています。
たとえば、中小企業が導入しやすいICT機器や自動化装置の補助対象拡大が論じられており、最新技術を取り入れやすい環境整備が進められています。これにより、生産性向上だけでなく賃上げ・処遇改善への波及も期待されています。
建設業法が改正された際に必要な対応
改正内容を理解しただけでは十分ではありません。企業が実際にどう行動するかが、法改正を活かせるかどうかのわかれ目です。
ここからは、労務費や資材価格、工期、ICT活用などの面で、建設業者がとるべき具体的な対応を確認していきましょう。
従業員の処遇改善への対応
改正建設業法では、従業員の処遇改善が重要な柱とされ、標準労務費の基準策定や「著しく低い労務費」の禁止が導入されました。
企業はまず、自社の見積書や契約内容が労務費を適正に反映しているかを点検する必要があります。
特に下請業者は、従来「仕事をとるため」として相場を下回る見積りを提示してきた慣行を見直すことが不可欠です。
加えて、従業員の能力評価制度を整備し、それに基づいた公正な賃金支払いをおこなう必要があります。
違反時には勧告や公表、処分リスクがあるため、労務費の根拠資料を明確化し、社内で契約・見積りルールを標準化しておくことが重要です。
資材価格高騰への対応
資材価格の高騰が常態化する中、改正法では「おそれ情報」の事前通知義務や、契約書に価格変更条項を明記する義務が導入されました。
企業は契約前に資材不足や価格上昇のリスクを把握し、統計データやメーカーの価格情報を活用して注文者に通知する体制を整備する必要があります。
また、契約書には必ず「価格変動があった場合の協議方法」を盛り込み、変更を拒否できないしくみを徹底しなければなりません。
契約後に高騰が現実化した場合には、誠実に協議を申し入れ、必要に応じて価格改定をおこなう準備も必要です。
さらに、見積もり時点から労務費や材料費を適正に反映させ、下請への負担転嫁を防止するルールを徹底すれば、資材高騰への最大の防御策となるでしょう。
働き方改革の推進
改正法では、著しく短い工期の契約禁止や、資材高騰時の工期協議ルール強化など、働き方改革を支える規定が盛り込まれました。
企業が対応すべきは、まず工期設定の妥当性を検証するしくみの導入です。
契約前の見積り段階で「適正工期チェックリスト」を作成し、必要に応じて発注者に根拠を示すことで、過度な短縮工期の押し付けを防ぐことができます。
さらに、36協定の上限規制が2024年から建設業にも全面適用されており、時間外労働の削減と休日確保は避けて通れません。
現場での働き方改革を進めるには、工程管理ソフトや勤怠管理システムを導入し、残業時間や休日取得状況を可視化する必要があります。
生産性向上とデジタル化への対応
改正法ではICTやデジタル技術を活用した施工管理の推進が盛り込まれました。
企業はまず、施工体制台帳や現場管理をデジタル化し、ペーパーレスで効率的に情報を共有できる体制を整えましょう。
たとえば、建設キャリアアップシステム(CCUS)や入退場管理システムを導入すれば、現場従業員の労務管理や技能把握が容易になり、施工体制台帳の提出義務を省略できるケースもあります。
また、ドローンや3Dスキャナを活用した出来形管理、遠隔臨場による監督体制なども推奨されており、現場負担の軽減に直結します。
さらに、中小企業はICT導入補助金を活用すればコストを抑えながら最新技術を導入可能です。
社内教育・コンプライアンス強化
法改正対応の最後に重要なのが、社内教育とコンプライアンス体制の強化です。
新ルールを理解し実務に反映するには、経営層から現場監督、事務担当者まで全員が改正内容を把握しておく必要があります。
そのため、定期的な社内研修や外部セミナー参加を通じて、労務費や契約、工期、ICT活用に関する知識を共有しましょう。
また、違反時には勧告や公表、営業停止などのリスクがあるため、社内にコンプライアンス担当を置き、契約書チェックや見積り検証をおこなうしくみを導入するのもよいでしょう。
さらに、内部通報制度や相談窓口を整備し、不適切な慣行を早期に是正できる体制を整えることが、企業の信頼性維持に直結します。
建設業法の改正に対応しないリスク
改正に対応しないまま従来どおりの取引を続ければ、行政処分や信頼低下、コスト増大など大きなリスクを抱えることになってしまいます。
法改正を無視してしまうとどのような不利益を招くのか、具体的に見ていきましょう。
法令違反による行政処分リスク
改正建設業法に対応せず、労務費の不適切な扱いや資材価格変動への不誠実な対応が続けば、法令違反として行政処分を受けるリスクがあります。
たとえば、「著しく低い労務費」での契約や「工期ダンピング」に該当すれば、国交省や自治体からの指導・勧告・公表の対象となり、重大な場合は営業停止処分にまで至ります。
また、建設業許可そのものが取り消される可能性もあり、経営継続に致命的な影響を与えかねません。
さらに「建設Gメン」による実地調査が強化されているため、違反行為は従来以上に発覚しやすくなっています。
発注者や取引先との信頼低下
法改正を無視した取引慣行を続けることは、発注者や取引先からの信頼を大きく損ないます。
たとえば、資材高騰の「おそれ情報」を通知せず契約を進めたり、労務費を基準以下に抑えた見積りを提出した場合、取引先は「コンプライアンス意識が低い企業」と判断します。
その結果、入札や共同事業の参加機会が制限される可能性があり、元請・下請の双方で取引縮小に直結しかねません。
さらに、公共工事ではコンプライアンス体制の有無が受注要件として重視される傾向にあり、法令違反歴があると指名停止の対象となることもあります。
信頼は一度失うと回復が難しく、長期的な受注機会の喪失につながるため、改正への的確な対応は競争力維持の必須条件です。
コスト増大と利益圧迫
改正法に対応せず資材高騰や労務費上昇に適切な価格転嫁を行わなければ、その負担は自社のコストとして跳ね返り、利益を圧迫します。
本来であれば契約条項に基づき価格変更を協議できるはずが、条項未整備や協議拒否によって泣き寝入りを強いられるケースが発生します。
また、工期短縮を無理に引き受ければ残業代や休日出勤の増加につながり、労働安全にも悪影響を及ぼします。
さらに、適正な労務費を支払わない状態が続けば、人材の流出を招き、採用や再教育に余計なコストが発生します。結果として、短期的には受注できても長期的な経営基盤が脆弱化し、企業を持続させることができなくなる可能性があります。
法改正への未対応はコスト管理面でも大きなリスクです。
訴訟・トラブルの増加
法改正に対応しないまま業務を続ければ、訴訟や紛争のリスクが高まります。
たとえば、著しく低い労務費で契約した結果、下請業者から「不当な取引」として損害賠償請求を受けるケースや、工期を無理に短縮して事故や瑕疵が発生し、施主から責任追及される事例も想定されます。
また、発注者が協議義務を怠った場合には、受注者が法的手段に訴えることもあり得ます。
こうしたトラブルは裁判費や和解金だけでなく、社会的信用失墜や受注機会喪失といった二次被害を招きます。リスク回避には、法改正を前提とした契約・運用ルール整備が不可欠です。
今後改定予定の建設業法
2025年改正に続き、今後はさらに大きな見直しが予定されています。
取引の公正化を強化するための法律名変更や禁止行為の追加など、取引慣行そのものに踏み込む改正です。ここからは、今後施行予定の内容を詳しく解説します。
法律名・用語の変更
2026年1月施行予定の改正では、「下請代金支払い遅延等防止法」が「製造委託などに係る中小受託事業者に対する代金の支払いの遅延などの防止に関する法律(中小受託取引適正化法/取適法)」に名称変更されます。
これに伴い、「下請事業者」は「中小受託事業者」、「親事業者」は「委託事業者」など、従来の上下関係を前提とした用語がより実態に即した表現に改められます。
背景には、取引の適正化を進め、立場の弱い事業者が不利益を受けないよう保護する目的があります。名称変更は単なる形式的な変更ではなく、今後の運用方針を反映し、取引全体で公正性を確保していく姿勢を明確にするものです。
一方的な代金決定の禁止(価格据え置きへの対応)
改正取適法では、従来の「買いたたき」に加えて、新たに「協議に応じない一方的な代金決定」が禁止されます。
中小受託事業者からコスト上昇に伴う価格改定を求められた際、委託事業者が協議を拒否したり、必要な説明や情報提供を怠ったまま価格を据え置く行為は違反となります。
これにより、原材料費・労務費・エネルギーコストの高騰が価格に正しく転嫁される環境を整備し、中小企業が適正な利益を確保できるようになります。
従来は「価格引下げ」に偏った規制でしたが、今後は「価格据え置き」も含め、交渉プロセスそのものの公正性が重視されます。
手形払いなどの全面禁止
改正により、手形払いは全面的に禁止されます。
従来は手形サイトが長期化し、実際の資金回収まで数か月かかることが多く、中小受託事業者の資金繰りを圧迫していました。
今後は、60日以内の現金払いが原則となり、電子記録債権やファクタリングなども「支払い期日までに満額現金化できない場合」には使用禁止とされます。
これにより、委託事業者が受注者に資金繰り負担を押し付ける慣行を是正し、健全なキャッシュフローを確保する狙いがあります。違反した場合は「支払い遅延」として処分対象となるため、発注側は支払い手段を見直す必要があります。
適用範囲の拡大
改正取適法では、対象取引の範囲が拡大されます。
具体的には、従来の「製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託」に加え、「特定運送委託」が新たに対象となります。
これにより、荷待ちや荷役の無償強要といった物流分野での不公正取引も規制対象になります。また、従来の資本金基準に加え、「従業員数基準(製造委託などは300人、役務提供などは100人)」が導入され、実質的に大企業であっても対象に含まれるケースが増えます。
これにより、規模を理由に規制を免れる事業者を排除し、保護対象が広がります。
面的執行の強化
改正では、公正取引委員会や中小企業庁に加えて、事業所管省庁(例:国交省・経産省)の主務大臣に「指導・助言権限」が付与されます。
これにより、委託事業者による違反行為に対して、業界特性を理解した所管省庁も直接対応できるようになります。
また、相互情報提供のしくみが導入され、違反が面的に把握される体制が整えられます。さらに、「報復措置の禁止」の申告先としても所管省庁が追加され、中小受託事業者が安心して通報できる環境が確保されます。
これにより、違反の早期是正と業界全体の取引適正化が一層進むことが期待されます。
委託事業者の禁止行為の明確化・追加
改正では、委託事業者の禁止行為が明確化・追加されます。
従来の「受領拒否・支払い遅延・減額・返品・買いたたき」などに加えて、「協議に応じない一方的な代金決定」「型・治具などの無償保管の強要」「振込手数料を受注者に負担させる行為」などが違反行為として明記されました。
これにより、従来「グレーゾーン」とされていた取引慣行が明確に違法とされ、委託事業者にはより厳格な対応が求められます。
禁止行為は「合意の有無にかかわらず」違反となるため、慣例的に行われてきた行為も今後は見直し必須です。
まとめ
2025年の建設業法改正は、従業員の処遇改善、資材高騰への対応、働き方改革や生産性向上といった業界の根本的課題に切り込む内容となっています。
賃金や工期、契約内容の適正化を通じて、公正で持続可能な取引環境を整えることが狙いです。
さらに2026年には法律名や用語の変更、手形払いの全面禁止など、取引の透明性を一層強化する改正が予定されています。
こうした流れを踏まえ、各企業は法改正を単なる義務ではなく経営改善の好機ととらえ、自主的な対応を進めることが信頼と競争力の維持につながるでしょう。