マンションの生前贈与と相続、どちらが得?手続き・リスクも徹底比較!

「親名義のマンション、将来的に自分が引き継ぐことになりそうだけれど、生前贈与と相続どちらが得?」
「子どもへマンションを譲るにはどうするのがよいのだろう?」
と疑問に思う方も少なくないでしょう。
生前贈与と相続どちらか一方が絶対的に有利ということはありません。大切な資産であるマンションを次の世代へ円満に、税制面で有利な形で引き継ぐためには、ご自身の状況に合わせて検討することが重要です。
本記事では、マンションの生前贈与と相続それぞれの基本的な仕組みや、具体的な手続きの流れについて詳しく解説します。どちらの方法がご自身のケースに適しているかを判断する材料となれば幸いです。
マンションの生前贈与と相続、それぞれの特徴とは?
マンションを家族へ引き継ぐ方法は「生前贈与」と「相続」の二つがあります。まずは、生前贈与と相続の仕組みや特徴を確認しましょう。
生前贈与とは?基本的な仕組みと特徴
生前贈与とは、財産の所有者が存命のうちに特定の方へ無償で譲ることです。生前贈与は、贈与者(あげる方)と受贈者(もらう方)の双方の合意によって成立する贈与契約の一種です。
誰にどの財産を譲るかを所有者が具体的に指定でき、譲る時期も自由に決められます。たとえば、子どもの結婚に合わせて贈与したい、自分が元気なうちに資産整理を進めておきたいといった場合には活用しやすいでしょう。
マンションの贈与時点の価額によっては、受け取った方に贈与税が課される可能性があります。贈与税については後述します。
相続とは?基本的な流れと法的なポイント
相続とは、亡くなった方の財産が、法律で定められた相続人(法定相続人)に引き継がれることです。誰が相続人になるかは民法で明確に定められています。亡くなった方に配偶者がいる場合は、配偶者は必ず相続人です。配偶者とともに、子、親、兄弟姉妹の優先順位で相続します。子がいる場合は、親や兄弟姉妹に相続権はありません。
相続する割合も民法で定められていますが(法定相続分)、亡くなった方が遺言書を作成していた場合は、遺言書の内容が法定相続分よりも優先されます。遺言でマンションを特定の人に相続させることが可能です。遺言書に書いてあれば全て相続になるのではなく、譲る相手が法定相続人以外の場合は「遺贈」の扱いになります。
遺言書がない、あるいは遺言で指定されていない財産がある場合は、相続人全員で相続財産をどのように分けるかを話し合う「遺産分割協議」が必要です。相続においても、引き継いだ遺産の総額が一定の基準(基礎控除額)を超えた場合には、相続税が課税される可能性があります。
生前贈与と相続、どちらを選ぶべきか?判断基準を解説
生前贈与と相続のどちらが得かは一概には言えません。次のようなポイントを総合的に考慮して検討するとよいでしょう。
- 贈与の場合と相続の場合の税負担がどうなるか
- 不動産の価値の上昇が見込まれるか
- マンションを譲りたい相手が住宅を保有しているか
- 将来的に相続人となる方同士の公平性をどう保つか
節税効果を狙うなら、計画的な生前贈与も有効です。一方、トラブルを避けたいなら相続の形で法定相続分に従って手続きするのも一つの選択肢です。正確に税額をシミュレーションをしたい場合は、税理士に相談することをおすすめします。
親が元気なうちに考えるべき資産移転のポイント
マンションのような価値の大きな資産の承継については、所有者の方が元気で自分の意思をはっきりと示すことができるうちに、家族で話し合いを始めることをおすすめします。認知症などにより判断能力が低下してしまうと、生前贈与の契約や遺言書の作成が困難になるためです。
まず、所有者自身がマンションを将来どのようにしたいと考えているのかを把握しましょう。特定の誰かに譲りたい、売却して現金として公平に分けたいなど、本人の意向を汲む方法や課題を整理するとよいでしょう。
たとえば、生前贈与を検討する場合、相続人となる可能性のある家族との間に不公平感が生じないように配慮が必要です。事前にほかの家族にも事情を説明し、理解を得ておくことが、将来的な相続トラブルを防ぐ上で有効です。また、贈与によって生じる税負担も、専門家のアドバイスを受けてシミュレーションしておきましょう。
事前に知っておくべき税制改正の影響
資産承継の計画において、最新の税制を把握しておくことは極めて重要です。近年の大きな変更点として生前贈与加算の期間延長があります。生前贈与加算とは、生前に行われた贈与について、一定期間内のものは相続財産に持ち戻して相続税を計算するというルールです。
従来はこの期間が亡くなる前3年以内でしたが、2024年1月1日以降に行われる贈与から段階的に延長され、最終的には亡くなる前7年以内となります。つまり、亡くなる前7年以内に行われた生前贈与は、原則として相続税の課税対象に含まれることになったのです。
この改正により、相続税対策として駆け込みで生前贈与を行うことの節税効果は、以前に比べて限定的になったと言えます。ただし、年間110万円までの基礎控除(暦年課税)や、後述する相続時精算課税制度など、依然として活用できる制度もあります。最新の税制を正確に理解し、自身の状況に合わせた対策を行うには、税務の専門家である税理士への相談も有効です。
生前贈与と相続の税金を比較!どちらが得なのか?
マンションの承継方法を考える上で、税金の問題は避けて通れません。生前贈与と相続では、課税される税金の種類、計算方法、利用可能な控除や特例が大きく異なります。それぞれの税金について詳しく見ていきましょう。
生前贈与にかかる贈与税と非課税枠の活用法
マンションを生前贈与によって受け取った場合、原則として受贈者(財産をもらった方)には「贈与税」が課税される可能性があります。贈与税の計算方法には主に二つの方式、「暦年課税」と「相続時精算課税」があります。
暦年課税
暦年課税は、1年間(1月1日から12月31日まで)にひとりの人が受けた贈与の合計額から、基礎控除額である110万円を差し引いた残りの金額に対して課税される方式です。基礎控除額を超えなければ贈与税はかかりません。110万円を超えた場合の税額は、贈与額が大きくなるほど高くなり、最大55%になります。
110万円の非課税枠を利用して、毎年少しずつ贈与を行う「暦年贈与」という方法もあります。しかし、マンションのような一度に大きな価値が移転する不動産の場合、この方法だけで贈与税を非課税にすることは現実的ではありません。マンションの持分を毎年少しずつ贈与するという方法も考えられますが、登記手続きが煩雑になる点や、計画的な贈与と認められないリスクも考慮する必要があります。
相続時精算課税制度
もう一つの方式が「相続時精算課税制度」です。原則として贈与する年の1月1日時点で60歳以上の父母または祖父母から、同日時点で18歳以上の子または孫への贈与について選択できる制度です。この制度を選択するには、税務署への届出が必要です。また、一度選択すると、同じ贈与者からの贈与については暦年課税に戻すことはできません。
相続時精算課税制度を選択すると、贈与者ごとに累計で2,500万円までの贈与については特別控除が適用され、贈与する時点では贈与税がかかりません。2,500万円を超えた部分については、一律20%の税率で贈与税が課されます。将来的に価値の上昇が見込まれるマンションを、評価額が低いうちに早めに子や孫へ移転させたい場合などに有効な選択肢となるでしょう。
ただし、相続時精算課税制度を選択した贈与者から受けた贈与財産(2,500万円の特別控除を受けた部分も含む)は、将来贈与者が亡くなった際に、原則として全て相続財産に加算して相続税を計算します。つまり、贈与税の支払いを相続時まで繰り延べる、あるいは相続税で精算するという考え方です。
相続時精算課税制度の基礎控除
令和6年1月1日以降の贈与からは、前述の暦年課税の基礎控除(110万円)とは別に、相続時精算課税制度にも年110万円の基礎控除が新たに設けられました。この新設された基礎控除額以下の贈与であれば、贈与税の申告は不要なうえ、将来相続財産への加算対象にもなりません。
【相続時精算課税制度を選択している父から子へ100万円を贈与した場合】
年間110万円の基礎控除の枠に収まるので、贈与税の申告は不要です。贈与税も相続税もかかりません。
【相続時精算課税制度を選択している父から子へ300万円を贈与した場合】
まずは年間110万円の基礎控除を使います。基礎控除額の110万円分には、贈与税も相続税もかかりません。贈与した金額から基礎控除額を差し引いた残りの190万円は、相続時精算課税制度の特別控除枠2,500万円の枠に収まれば、贈与税額は0円です。贈与税が0円でも贈与税の申告が必要です。特別控除を適用した190万円分は、将来父が亡くなった際に相続財産に加算され、相続税がかかる可能性があります。
相続時にかかる相続税と基礎控除の仕組み
相続によってマンションを取得した場合、相続税がかかる可能性があります。相続税は、亡くなった人の遺産の総額が、一定の非課税枠である基礎控除額を超えた場合に、超えた部分に対して課税されます。基礎控除額は、「3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)」という計算式で算出されます。たとえば、法定相続人が配偶者と子2人の合計3人であれば、基礎控除額は3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円です。
相続財産の総額が基礎控除額以下であれば、相続税の申告も納税も必要ありません。基礎控除額を超える部分については、各相続人が実際に取得した財産の割合に応じて、税額を計算します。税率は、取得する財産額に応じて段階的に高くなります。
相続税には、いくつかの重要な税額軽減の特例があります。代表的なものが配偶者の税額軽減です。これは、亡くなった人の配偶者が相続する場合、法定相続分または1億6,000万円のいずれか多い金額までは相続税がかからないという、非常に大きな軽減措置です。
また、自宅の敷地など、居住用の不動産について評価額を大幅に減額できる「小規模宅地等の特例」も重要です。自宅として利用されていたマンションの敷地権部分などが対象となり、一定の要件を満たせば、その評価額を最大で80%も減額して相続税を計算できます。この特例を適用できるかどうかで、相続税額が大きく変わります。生前贈与と比較する際の重要なポイントです。
住宅取得資金贈与の特例とは?使えるケースを解説
住宅取得等資金贈与の特例とは、親や祖父母からマイホームを新築・購入したり、増改築したりするための資金の贈与を受けた場合、一定の要件を満たせば、所定の非課税限度額まで贈与税がかからなくなる制度です。令和7年4月現在の非課税限度額は、質の高い住宅(省エネ等住宅)の場合は1,000万円、それ以外の住宅の場合は500万円です。この制度は期限があり、期限延長や改正の可能性があります。
すでに所有しているマンションそのものを生前贈与する場合には、この非課税措置を適用することはできません。この制度を活用できるのは、たとえば、子や孫が新たにマンションを購入する際に、両親や祖父母が資金の一部または全部を金銭で援助するケースです。実際には、贈与を受ける人の年齢や所得、取得する住宅の床面積や築年数(中古の場合)、入居時期など、細かな要件があります。
不動産取得税や登録免許税も考慮すべき
マンションの所有権を移転する際には、贈与税や相続税だけでなく、不動産取得税や登録免許税がかかります。これらは、生前贈与と相続で税率や課税の有無が異なるため、見落とさずに検討することが大切です。
不動産取得税は、不動産を取得した際に一度だけ課される地方税です。生前贈与でマンションを取得した場合には、原則として課税対象となります。税額は、原則として固定資産税評価額の4%ですが、住宅や土地については一定の軽減措置が設けられています。一方、相続により法定相続人がマンションを取得した場合には、この不動産取得税は原則として課税されません。この差は非常に大きいと言えます。
登録免許税は、マンションの所有権移転登記を法務局に申請する際に納付する税金です。税額は、固定資産税評価額に所定の税率を乗じて計算します。生前贈与による所有権移転の場合、税率は原則として2.0%であるのに対し、相続の場合は0.4%と、生前贈与の場合の5分の1の税率となっています。
贈与税や相続税の額だけに注目しがちですが、不動産取得税や登録免許税などの費用も含めたトータルコストで判断することが、後悔しないためのポイントと言えるでしょう。
手続きの流れを解説!スムーズに進めるためのポイント
実際にマンションを生前贈与する場合、または相続が発生した場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか。それぞれの流れと、円滑に進めるための留意点について解説します。
生前贈与の手順と注意点
【生前贈与の流れ】
- 贈与契約書の作成
- 所有権移転登記の申請(法務局)
- 贈与税の申告・納税(必要な場合)
まずは、贈与者(あげる方)と受贈者(もらう方)の間で、マンションを無償で譲渡する旨の合意をしましょう。口約束でも契約は成立しますが、後日の紛争防止や登記手続きのためにも、贈与契約書を作成することを強くおすすめします。契約書には、どの不動産を贈与するのか、いつ贈与するのかといった内容を明確に記載しましょう。同じものを2通作成し、双方が1通ずつ保管します。
次に、作成した贈与契約書など必要書類を揃えて、管轄の法務局へマンションの所有権移転登記を申請します。受贈者が贈与者以外の第三者にマンションの所有権を主張するためには、登記が必要です。
贈与税の申告が必要な場合は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間に、受贈者が税務署へ贈与税の申告書を提出し、納税します。相続時精算課税制度を選択する場合も、この期間内に選択届出書を提出する必要があります。
【贈与税申告の必要書類】
- 贈与税の申告書
- 贈与契約書の写し
- 固定資産評価証明書など不動産の価値がわかる資料
- 本人確認書類
- 相続時精算課税制度を選択する場合は、選択届出書など追加書類
契約書の作成が難しい場合は、行政書士などの専門家に相談するとよいでしょう。正確な手続きのためには専門知識が必要です。贈与税の申告については税理士に、登記については司法書士に依頼すると、手続きの手間も減り安心です。
相続手続きの手順と注意点
【相続の流れ】
- 遺言書の有無の確認
- 相続人の確定
- 財産調査・財産目録の作成
- 遺産分割協議・遺産分割協議書の作成
- 所有権移転登記の申請(法務局)
- 相続税の申告・納税(必要な場合)
亡くなった方が遺言書を遺していれば遺言にしたがって遺産分割を行うため、まずは遺言書の有無を確認します。自宅などで保管されていた自筆証書遺言は家庭裁判所での検認手続きが必要です。公正証書遺言や法務局で保管されていた自筆証書遺言であれば検認不要です。
次に、相続人を確定するため、被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍謄本を含む)を収集します。相続人が確定したら、マンションや預貯金などの財産を調査し、を一覧化した「財産目録」を作成します。マンションの評価額は名寄帳や固定資産評価証明書で確認できるので、わからない場合はマンションの所在地の市区町村役場で問い合わせましょう。
遺言書がない場合や、遺言書に記載されていない財産がある場合には、相続人全員で遺産分割協議を行い、財産の分け方を決め、遺産分割協議書を作成します。その後、マンションの所有権移転登記(相続登記)を法務局に申請します。相続登記は令和6年4月1日から義務化されており、相続が発生したことを知った日から3年以内の申請が必要です。
相続税がかかる場合は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に、相続人が税務署に申告・納税する必要があります。期限を過ぎると、延滞税や加算税が発生することがあるため注意しましょう。相続の手続きは期限があるうえ、相続人全員がかかわるため、時間に余裕をもって専門家に相談するのが望ましいでしょう。
マンションの名義変更に必要な手続きとは?
マンションを相続したり、生前贈与で譲り受けたりした場合は、不動産の名義(所有者)を変える所有権移転登記をしましょう。登記することで公的に所有者であることが認められます。マンションを売却したり担保に入れたりするには、登記簿上の所有者であることが必要です。
登記申請書に必要な書類を添付し、不動産がある地域を管轄する法務局に提出します。贈与の場合と相続の場合で添付書類が異なります。
【贈与による所有権移転登記の必要書類】
- 贈与契約書
- マンションの権利証(登記済権利証または登記識別情報通知)
- 贈与者の印鑑証明書(発行後3ヶ月以内)
- 受贈者の住民票
- マンションの固定資産評価証明書
【相続による所有権移転登記の必要書類】
- 登記申請書
- マンションの権利証(登記済権利証または登記識別情報通知)
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 固定資産評価証明書
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
登記手続きは複雑で、準備する書類も多いため、司法書士に依頼するケースが多いです。
家族間でトラブルを避けるための事前準備
相続や贈与をきっかけに、家族の関係がぎくしゃくしてしまう事例は少なくありません。相続が争族とならないよう、事前の話し合いや準備が重要です。
たとえば、長男にだけ贈与をした結果、ほかの兄弟が不公平だと感じたり、何も聞いていなかったと不満を抱いたりすることがあります。家族の中にわだかまりを生まないためにも、資産の引き継ぎ方について率直に話し合うことが大切です。「自分はこう考えている」「こうした理由でこの人に渡したい」といった思いをきちんと伝えることで、納得や理解を得やすくなります。
また、意思をきちんと形に残しておくことも重要です。生前贈与であれば、贈与契約書に内容や背景を明記しておく、相続を考えるなら、公正証書遺言など法的に有効な遺言書を作成しておくことで、将来のトラブルを予防できます。特定の人に多くの財産を贈与または相続させる場合は、遺留分に注意しましょう。法定相続人のうち、配偶者や子には「遺留分」という最低限保証されている相続財産の取り分があります。
専門家に相談するべきタイミング
生前贈与や相続に関する手続きを適切に行うためには、法律や税務の専門知識が必要です。生前贈与と相続のどちらが適しているか判断に迷うときや、具体的な税額のシミュレーションをしたいとき、手続きの代行を依頼したいときは専門家の出番です。
遺言書の作成を考えている際にも、法的に有効な形式で、かつ自分の意思が確実に反映される内容にするために、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
遺言書・贈与契約書・遺産分割協議書などの作成は行政書士、登記手続きについては司法書士、税金の計算や申告については税理士に相談するとよいでしょう。相談内容に応じて適切な専門家を選ぶことが重要です。
生前贈与と相続、それぞれのメリット・デメリットを整理
ここまでの内容を踏まえ、マンションの生前贈与と相続について、それぞれのメリットとデメリットを改めて整理してみましょう。
生前贈与のメリット:税負担の分散や早期対策の利点
生前贈与のメリットは、自分の意思で「いつ・誰に」マンションを譲るかを確実に決められる点です。子どものライフイベントに合わせて贈与したり、自分の判断で資産整理を進めたりできます。
税金面では、相続時精算課税制度を選択すれば、一度にまとまった額の贈与について、贈与時点での税負担を抑える、あるいは将来の相続税で精算するといった選択肢も生まれます。
将来的にマンションの価値が大きく上昇することが見込まれる場合は、比較的評価額が低い時点で贈与しておくことで、将来の相続税負担が増大するリスクを回避できる可能性もあります。
生前贈与のデメリット:贈与税の負担と不公平感のリスク
一方で、生前贈与には注意すべきデメリットは、税負担の問題です。一度に高額な贈与を行うと贈与税の負担が大きくなる可能性があるほか、不動産取得税や登録免許税といったコストも、相続に比べて高額です。マンションなどの不動産の場合は贈与の金額が高額になりやすいため注意が必要です。
さらに、特定の相続人のみに生前贈与をした場合、ほかの相続人となる可能性のある方が不公平感を抱き、将来の相続時に遺留分を巡るトラブルに発展するリスクも否定できません。
相続のメリット:基礎控除の活用や相続税対策の柔軟性
相続のメリットとしては、税制面での優遇措置が挙げられます。相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という比較的大きな基礎控除額が設けられています。相続財産の総額が基礎控除額以下であれば相続税はかかりません。
配偶者が相続する場合の税額軽減や、自宅の敷地評価額を大幅に減額できる小規模宅地等の特例など、税額を大きく引き下げる効果のある特例制度もあり、上手に活用することで税額を抑えられます。また、不動産取得税が原則非課税であること、登録免許税の税率が生前贈与よりも低いことも、コスト面でのメリットと言えます。
相続のデメリット:税負担の集中や遺産分割トラブルのリスク
相続のデメリットとして懸念されるのは、相続人同士のトラブルです。特にマンションのような分割しにくい不動産の場合、誰が取得するのか、あるいは売却して金銭で分けるのか等で意見がまとまらないケースもあります。協議が難航すると、裁判所での手続きが必要となり、関係がぎくしゃくしてしまうことも考えられます。
税金面では、相続財産が相続税の基礎控除額を超える場合、全ての財産について一度に課税されるため、納税資金の準備が必要になることがあります。特に遺産の多くが不動産である場合、納税のためにその不動産を売却せざるを得なくなるケースも少なくありません。
家族の状況によって最適な選択肢は変わる
このように、生前贈与と相続には、それぞれにメリットとデメリットが存在します。どちらの方法が絶対的に優れているということはなく、まさにケースバイケースです。税金のシミュレーションはもちろん重要ですが、それだけでなく、家族の関係性、将来のライフプラン、そして資産に対する想いなど、様々な角度から検討し、家族が納得できる方法を選択することが大切です。
失敗しないための判断基準と最適な選択肢の見極め方
最後に、自分の状況に合わせて後悔のない選択をするための具体的な判断基準や、専門家へ相談する際に知っておきたいポイントを紹介します。
こんなケースでは生前贈与が有利!具体例で解説
生前贈与を活用しやすいのは、たとえば「このマンションは絶対にこの子に残したい」という明確な意思がある場合です。ほかの相続人となる可能性のある親族からも一定の理解が得られているケースでは、将来の遺産分割の不安を減らすためにも生前贈与が有効な手段となるでしょう。
結婚などのタイミングで、子どもが生活の基盤を築けるよう支援したい場合には、相続を待たず、相続時精算課税制度を活用してマンションを贈与しておく選択肢もあります。
不動産の価値が今後上がりそうな場合や、賃貸していて家賃収入がある場合も生前贈与を検討する価値があります。不動産の評価額が跳ね上がる前に贈与しておくことで相続税の負担を軽くしたり、家賃収入も含めて贈与することで相続財産を減らしたり、相続税対策としても有利にはたらく可能性があります。
相続の方が適しているのはどのような場合?判断ポイント
一方で、相続の方が有利になるケースも多くあります。たとえば、遺産の総額が相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)内に収まりそうなときです。相続時にしか使えない特例を活用したいときも、相続の方がメリットが大きくなります。特に、自宅として使っているマンションであれば、小規模宅地等の特例による節税効果は大きいでしょう。
将来的にマンションの売却や賃貸によって収入を得たい場合、生前に所有権を手放すのは慎重に考えましょう。相続を選ぶと、マンションは相続が発生するまで自分のものなので、自由に活用できます。
家族の関係が良好で、将来的にもトラブルなく遺産分割できそうな状況であれば、あえて生前贈与を選ばず、将来相続人となる家族に任せるという判断も十分あり得ます。
家族間での話し合いの進め方と注意点
生前贈与と相続のどちらの方法を選択するにしても、家族間での事前の話し合いは極めて重要です。話し合いをスムーズに進めるためには、話し合いの目的を家族全員で共有することから始めるとよいでしょう。
話し合いの場では、マンションの評価額やほかの財産の状況など、判断に必要な情報をできるだけオープンにすることが、相互理解の土台となります。一方的に結論を急いだり、特定の人間の意見だけを押し通したりするのではなく、それぞれの立場や考えに耳を傾け、尊重し合う姿勢が大切です。
資産承継の話は、時として感情的になりやすい側面もありますが、できるだけ冷静な議論を心掛けることが望まれます。具体的な税額の試算結果などを資料として用いながら話し合うのも有効です。もし、家族だけでの話し合いが難しいと感じる場合には、専門家に情報提供や意見調整のサポートをしてもらうと円滑に進みやすくなるでしょう。
専門家に相談するときに確認すべきポイント
専門家に相談する際には、自分の具体的な状況(資産内容、家族構成、意向など)を正確に伝えましょう。情報が具体的であるほど、的確なアドバイスがしやすくなります。
コスト面で比較して選択したい場合は、生前贈与と相続それぞれのケースについて、税額や手続き費用を含めたトータルコストのシミュレーションを依頼しましょう。具体的な手続きの流れ、必要な期間、潜在的なリスク(税務上のリスク、将来的な紛争リスクなど)と対策についても説明とアドバイスを受けるとよいでしょう。
まとめ
マンションの生前贈与と相続、どちらが得かという問いに対する答えは、一つではありません。税金の計算結果だけではなく、手続きの煩雑さ、将来のリスク、そして家族の気持ちや将来設計を総合的に考慮して、最適な方法を選択することが大切です。
「自分の場合は、生前贈与と相続どちらが有利なのだろうか?」
「手続きの進め方や必要書類について、もっと詳しく知りたい」
「家族との話し合いを円滑に進めるためのアドバイスが欲しい」
このようなお悩みがある方は、ぜひ一度、当事務所(行政書士佐藤秀樹事務所)へご相談ください。当事務所では、あなたのお悩みを丁寧に伺い、必要に応じて司法書士や税理士などほかの専門家とも連携しながら、よりよい解決策を見つけるお手伝いをいたします。まずはお気軽にお問い合わせください。