建設業許可は営業所ごとに必要?支店開設前に確認すべき手続き・要件

建設業を営む中で、事業の成長戦略として営業エリアの拡大を検討する会社もあります。すでに建設業許可をもっている会社が支店を開設する場合や、複数の支店をもつ会社が新たに建設業許可を取得する場合は、建設業の営業所の扱いに注意が必要です。
本記事では、建設業における営業所の基本的な考え方から、実際に支店を出す際の具体的な手続きのポイントまでをわかりやすく解説します。「建設業許可は営業所ごとに必要なの?」と疑問に思っている方は、ぜひ最後まで読むことで、自社に必要な手続きをしっかりと理解できるでしょう。
建設業許可と営業所の基本ルール
新たに支店を開設したからといって、支店でも建設業許可が必要になるとは限りません。新しい支店が建設業法上の営業所に該当するか、建設業許可を取得している建設業種の工事をおこなうかによって必要な手続きが異なります。まずは建設業法における営業所の扱いを確認しましょう。
建設業における営業所とは?
建設業における「営業所」とは、単にオフィスがある場所というだけでなく、建設工事の請負契約を締結したり、見積もり作成や顧客との打ち合わせなど、契約に関する具体的な業務を実際におこなう場所を指します。
その場所が、会社の建設業運営にとって中心的な機能を果たしている点が重要です。たとえば、資材を保管するだけの倉庫や、社内の連絡調整だけをおこなう場所は、一般的に建設業の営業所とは認められません。
主たる営業所・従たる営業所とは?
建設業の営業所には「主たる営業所」と「従たる営業所」があります。
主たる営業所は、建設業の本拠地を指します。法人であれば本店所在地が該当するのが一般的ですが、複数の事業をおこなっている会社では、登記簿上の本店以外の場所が主たる営業所となる場合もあります。
主たる営業所には、建設業の経営全般を適切におこなうための知識と経験をもつ経営業務の管理責任者等が常勤している必要があります。加えて、営業所が許可を受けている建設業種に対応する資格や実務経験を持つ「営業所技術者」も常勤させておかなければなりません。
一方、従たる営業所は、主たる営業所以外の営業所、つまり支店のようなイメージです。従たる営業所には、営業所の代表者である「令3条の使用人」と、営業所が許可を受けている建設業種の営業所技術者が常勤している必要があります。
建設業許可は会社に対して与えられるものであるため、営業所ごとに許可を取得する必要はありません。ただし、建設業法上の「営業所」と認められる拠点では所定の要件を満たすことが求められ、場所や配置される人に変更があった場合は手続きが必要です。
営業所に該当しないケース
会社としての全ての拠点が建設業の営業所に該当するわけではありません。たとえば、単なる資材置き場や作業員詰所、一時的に設ける仮設の現場事務所、登記のみで実体を伴わない支店などは営業所にはあたりません。
建設業の営業所の要件を満たさない拠点は建設業許可とは無関係のため、設置しても手続きは必要ありません。逆に、現場対応のみをおこなうつもりで設けた拠点でも、契約の締結や受注活動を行っていれば、実質的に営業所と見なされるリスクがあります。
建設業許可をもっている会社が新たな営業拠点を設ける際は、建設業の営業所に該当するかどうかを慎重に判断する必要があります。不安がある場合は、事前に専門家へ相談すると安心です。
1つの都道府県内にのみ営業所がある場合|知事許可
建設業許可には都道府県知事許可と国土交通大臣許可の2種類があります。1つの都道府県内に主たる営業所と全ての従たる営業所がある場合には、知事許可を取得すれば足ります。
たとえば、北海道内に本社と支店を構えて建設業を営むケースでは、北海道知事の建設業許可を取得します。北海道内で新たに支店を設置する際には、営業所としての要件を満たしていれば変更届の提出が必要です。
複数の都道府県に営業所がある場合|大臣許可
複数の都道府県に営業所がある場合は、知事許可ではなく大臣許可が必要です。たとえば、北海道に本社(主たる営業所)があり、新たに宮城県に従たる営業所を設置する場合、従来の北海道知事許可では対応できません。この場合は、「許可換え新規」と呼ばれる手続きを通じて、大臣許可を取得し直す必要があります。
大臣許可の取得は、知事許可と比べて必要書類が増え、審査期間も長くなる傾向があります。余裕をもったスケジュールで計画的に準備を進めることが重要です。
【ケース別】営業所を追加する手続き
営業所を追加する場合、全てのケースで新たな許可を取り直す必要があるわけではありません。営業所の所在地や現在受けている許可の内容によって手続きが異なります。ここでは、3つの代表的なケースの手続きを解説します。自社の状況にあてはめながら、どの手続きが該当するかを整理しましょう。
営業所の管轄が変わる場合|許可換え新規
ひとつの都道府県内に営業所を構えている会社が、別の都道府県に営業所を新設する場合は「許可換え新規」と呼ばれる手続きが必要です。複数の都道府県で建設業を営むこととなるため、新たに大臣許可を取得するのです。
たとえば、北海道内に主たる営業所があり、新たに宮城県に営業所を設ける場合、北海道知事免許では対応できません。国土交通省の北海道開発局(北海道以外の地域では各地方整備局)へ許可換え新規の申請をおこないます。
大臣許可の場合は知事許可の場合よりも審査が厳しく、審査期間が長くなるのが一般的です。大臣許可が下りると、従来の知事許可は自動的に失効します。知事許可を取り消す手続きを別途おこなう必要はありません。
許可換え新規の申請中に許可が途切れないような制度設計になっていますが、公共工事の入札などを予定している場合は、時期を調整するなど慎重なスケジューリングが必要です。
手続きを怠ったまま営業をおこなうと、建設業法違反として行政指導や処分の対象となるリスクがあります。都道府県をまたいで拠点を展開する場合は、手続きを確認しておきましょう。
管内に営業所を追加する場合|変更届
現在の許可の管内に営業所を追加する場合は、原則として変更届の提出のみで対応可能です。たとえば、北海道知事免許を受けている会社が、北海道内に新たな支店を設けるといったケースです。
大臣許可の場合は、全国どこへ新たな支店を設置しても変更届で対応できます。提出先は、主たる営業所を管轄する地方整備局または北海道開発局です。
営業所を開設してから2週間以内の提出が義務付けられており、届出を怠ると許可取り消しの対象となる場合もあるため注意が必要です。変更届のみとはいえ、新たな営業所が要件を満たしているかは厳しくチェックされるため、不安がある場合は事前に専門家に相談するとよいでしょう。
M&A・事業承継で営業所を引き継ぐ場合の注意点
建設会社のM&Aや親族間の事業承継などにより、他社の営業所を引き継ぐ場合には、単なる「営業所の追加」とは異なる注意点があります。建設業許可は法人や個人に対して与えられるものであり、営業所そのものに直接的な効力がないためです。
営業所を引き継ぐ会社が他県の知事免許しかもっていない場合、大臣許可への許可換えが必要です。営業所に配置されていた責任者や営業所技術者が退職してしまえば、要件を満たすために再度人員を配置しなければなりません。
事前に管轄の行政庁の認可を受けることで、事業承継の際に建設業許可をそのまま引き継ぐ特例もありますが、要件は厳しく申請期間も限られています。建設業許可の維持を前提としたM&Aや事業承継を計画している場合は、早期に専門家へ相談し、許可の空白期間を生じさせることなくスムーズに事業が引き継げるように準備しましょう。
営業所ごとに必要な人的要件とは|営業所技術者・令3条の使用人
建設業の営業所には、必ず配置するべき人がいます。それが「令3条の使用人」と「営業所技術者」です。営業所には必ず営業所長と、許可を受けている建設業種ごとの技術者がいるというイメージです。営業所の設置を検討するうえで、人的要件がハードルとなることが少なくありません。以下では、それぞれの役割と要件について詳しく見ていきます。
営業所には必ず営業所技術者が必要?配置基準と例外
各営業所で請け負う建設工事の業種ごとに、工事のプロフェッショナルである営業所技術者を置く必要があります。営業所技術者の主な役割は、その営業所で手掛ける建設工事の技術的な指導や監督を行い、工事の品質や安全が適切に保たれるようにすることです。法改正前は「専任技術者」、通称「専技」と呼ばれていました。
施工管理技士のような特定の国家資格をもっていること、その業種で10年以上の実務経験があること、指定学科を卒業して一定の経験を積んでいることなどの要件をクリアした人が営業所技術者となります。たとえば、とび・土工工事と解体工事をおこなう営業所では、それぞれの業種の営業所技術者が必要です。
ちなみに、2つの業種の営業所技術者を1人が兼ねることも可能です。ただし、実務経験で要件を満たそうとする場合、原則として期間の重複が認められないため、とび・土工で10年、解体で10年の合計20年の実務経験が必要となります。
営業所技術者はその営業所に常勤していることが求められます。ほかの営業所の営業所技術者との兼任は認められません。実務経験や常勤性は客観的に証明する必要があります。以前の勤務先から証明書を出してもらえないなど、書類が揃わない場合は専門家に相談するとよいでしょう。
令3条の使用人とは?営業所における役割と要件
従たる営業所、つまり支店などを設けて建設業をおこなう場合「令3条の使用人」を配置します。建設業法第3条に基づいているため、このような呼び方をされます。
令3条の使用人とは、従たる営業所で建設工事の請負契約を締結する権限を与えられた責任者を指します。ただの事務員ではなく、「この工事を当社が請け負います」と判断を下し、契約書にサインできるような実質的な意思決定権をもつ人物です。多くの場合、支店長や営業所長がこの役割を担います。営業所技術者と同様に、営業所に常勤していることが必須です。
許可申請の際は、会社から正式に契約に関する権限が委譲されていることを示す辞令などの根拠資料の提出を求められます。さらに、書類上だけでなく、実際に契約の最終的な判断をしているという実態があることが大切です。
営業所に関する手続きを怠るリスク
建設業における営業所の設置は、適切に手続きを踏めば事業拡大のチャンスです。しかし、人的要件の不備や届出漏れ、営業所の位置づけに対する誤解などから、思わぬトラブルに見舞われるケースもあります。建設業許可に関する失敗は、事業に大きな打撃を与える可能性があります。実際に起こり得るリスクを知り、未然に防ぐことが重要です。
許可を取らずに営業所を開設した場合のリスク
すでに建設業許可を取得している会社が、新たに建設業の営業所を開設したにもかかわらず必要な手続きを怠ったまま営業を続けると、以下のようなリスクが発生します。
- 行政庁による是正指導
- 営業停止処分
- 建設許可取消
- 公共工事の指名停止や失格
- 取引先や元請会社からの信用失墜
入札時や元請会社との契約時に営業所の許可状況を確認されることがあり、「届け出を忘れていました」では通用しません。
許可を受けている業種について、軽微な工事のみをおこなう営業所を新たに設置した場合も、建設業法上の営業所に該当するため、適切な手続きと人員配置が必要です。営業拠点の新設時には必ず建設業許可との関係を確認する習慣をもつことが、安全な事業拡大のカギとなります。
書類不備・要件不足で差戻しとなるリスク
建設業許可の手続きは提出書類が多く、審査基準も厳格です。営業所を追加する変更届の場合も同様で、書類に不備があったり、要件の証明が不十分だったりすると差戻しとなるリスクがあります。たとえば、以下のような辞令があります。
- 営業所技術者として申請した人物が、ほかの営業所と兼任している
- 健康保険証や住民票などで常勤性が証明できない
- 令3条の使用人の委任状が不備で、形式だけの責任者と判断された
- 営業所として届け出た場所が実態としてはただの資材置き場だった
単なる確認不足や誤解から起こることが多く、提出前のチェック体制が重要です。実態が重視されるため、書類上だけ体裁を整えるのでは不十分です。雇用契約や勤務記録などの裏付けも含め、質問されたり追加資料を求められたりした際に対応できるように準備しておく必要があります。
一度不備で却下されると、再提出のために時間がかかり、予定していた工期や入札時期に間に合わないといった事態にもつながりかねません。経験豊富な専門家に相談することで、こうしたリスクを大幅に軽減することが可能です。
まとめ
事業拡大のために複数の営業所を置く場合は、建設業法上の営業所に該当するかどうかを正しく判断し、必要な手続きを踏むことが重要です。
すでに許可をもつ会社が新たな営業所を設ける際は、変更届の提出が必要です。営業所の新設により、複数の都道府県で営業することとなる場合は「許可換え新規」として大臣許可を取り直すケースもあります。
営業所の要件を満たさなかったり、手続きを怠ったりすると、行政指導や営業停止といった厳しいリスクに直面しかねません。
建設業許可は会社の信頼の証。計画的に準備をして、確実に手続きをおこないましょう。手続きに不安がある場合は、早めに専門家に相談することをおすすめします。
当事務所(行政書士佐藤秀樹事務所)では、建設業許可に関するご相談を受け付けています。新たな拠点が営業所に該当するかわからない場合や、要件を満たすか不安な場合は、ぜひご相談ください。