親の財産はどうやって調べる?生前・死後別の調べ方と注意点やトラブル事例を紹介

「親の財産って、どうやって調べればいいんだろう?」
そう感じてこのページにたどり着いた方の中には、親が元気なうちに備えておきたい方もいれば、すでに親が亡くなり、急いで財産を確認しなければならない状況の方もいるかもしれません。
いずれの場合も、親の財産の全体像を正しく調べておくことは、相続トラブルや手続きの行き違いを防ぐためにとても重要です。
ただ、財産の調べ方は「生前」と「死後」とではアプローチや注意点が大きく異なります。
本記事では、親が健在の場合にどのように財産を確認し、整理しておくべきか。また、親が亡くなったあとに財産を調査する具体的な手順や注意点、そしてよくある失敗事例まで、状況別にわかりやすく解説していきます。
「今、何をすればいいのか?」を整理する手がかりとして、ぜひ最後までお読みください。
親の財産調査ベストなタイミングは?
結論、親の財産を調べるベストなタイミングは、やはり親が元気で判断力がある「生前」の段階です。
本人がしっかり受け答えできるうちに、口座情報や不動産の有無、保険契約などについて直接確認すれば、スムーズかつ正確に情報を把握できます。
これに対し、認知症が進行したあとや亡くなってからでは、調査に時間がかかったり、重要な情報を見落とすリスクが高まります。
相続トラブルや手続きの遅れを避けるためにも、できるだけ早い段階で財産の整理・確認を始めておくようにしましょう。
【生前の場合】親の財産の調べ方
親が生きている間に財産を調べる際は、以下の方法をとりましょう。
- まずは「話し合い」が基本
- 財産の種類を把握する
- 証明書や資料を集める
- エンディングノートや財産目録を作成
それぞれ詳しく解説していきます。
まずは「話し合い」が基本
親の財産を事前に把握しておくには、まず何よりも「親との話し合い」が基本です。
しかし、財産の話は非常にデリケートな内容でもあるため、切り出し方には配慮が必要です。
そのために大切なのは、信頼関係を前提に、率直かつ丁寧な姿勢で話すことです。
たとえば、「いま何かあったときに家族が困らないように、一度整理しておきたいんだ」といった、親を思いやる気持ちを伝えると、自然な形で会話が進みやすいです。決して「いくらもっているの?」などのように財産そのものへの興味を強調しないようにしましょう。
また、親が元気なうちに話すことも大切なポイントです。判断能力があるうちであれば、本人の意思を尊重しながら進めることができます。
その際、急に切り出すのではなく、テレビ番組や新聞記事で相続や終活が話題になったときなど、「うちもそろそろ準備したほうがいいかなと思って」と、第三者の話題をきっかけにすると自然に話ができるでしょう。
さらに、兄弟姉妹がいる場合は、一人で話を進めずに家族全体で情報を共有する姿勢が大切です。「誰かが勝手に調べている」といった不信感が生まれるのを避けるためにも、話し合いの場に同席してもらったり、後日共有するなどの工夫をするとよいでしょう。
財産の種類を把握する
生前のうちに親の財産を把握するうえで重要なのは、「どのような財産があるのか」を体系的に洗い出すことです。相続手続きや分割協議の際に抜け漏れがあると、トラブルの原因になりかねません。
そのため、以下のように財産の種類ごとに整理していくことが基本です。まずは、代表的な財産の区分として、「プラスの財産」と「マイナスの財産」の両方を確認しましょう。
▼プラスの財産(相続財産となるもの) ・預貯金 ・不動産 ・株式や投資信託などの有価証券 ・保険金の受取権 ・車や貴金属、骨董品などの動産貸付金 ▼マイナスの財産(負債など) ・住宅ローンやその他の借入金 ・クレジットカードの未払い分 ・保証債務(連帯保証人になっている場合など) |
このように、単に「どのくらいあるか」ではなく、「どのような性質の財産か」を分類しながら把握するのが、相続をスムーズにおこなう第一歩です。
証明書や資料を集める
親の財産を正確に把握するためには、実際の証明書や関連書類を集めて、裏付けを取っておくと安心です。
なぜなら記憶や口頭の情報だけでは間違いがある可能性も高く、後々の相続手続きや相続税の申告に支障をきたす恐れがあるからです。そのため、下記の書類を事前に集めて確認するようにしましょう。
▼預貯金関連の書類 ・通帳やキャッシュカード 銀行名・支店名・口座番号がわかる通帳は、預金残高や取引履歴の確認に不可欠です。 ・インターネットバンキングのIDやパスワードの控え ネットバンキング口座は通帳がない場合も多いため、ログイン情報の確認が重要です。 ▼不動産関連の書類 ・登記簿謄本(登記事項証明書) 不動産の所有者や持分、抵当権の有無などが確認できます。 法務局で取得可能です。 ・固定資産税の納税通知書 不動産の所在地や評価額、所有者がわかる資料。市町村から毎年送付されます。 ・権利証(登記済証) 不動産の所有権を証明する重要書類ですが、現在は「登記識別情報通知」に切り替わっています。 ▼株式・証券類 ・取引報告書や残高報告書 証券会社ごとの資産状況や取引履歴を把握するために必要です。 ・証券口座の開設通知やログイン情報 ネット証券も含め、口座の特定と確認を行います。 ▼保険関連 ・保険証券 契約者・被保険者・受取人・保険金額が記載されており、相続対象となる保険の特定に役立ちます。 ・年間の保険料通知や明細書 継続的に支払いがある場合、郵送書類や口座引き落とし記録から特定できます。 ▼借入・債務関連 ・ローン契約書や返済計画表 借金がある場合、その存在や金額、返済状況の確認が必要です。 ・クレジットカードの明細書 毎月の請求額や残債をチェックします。 ・保証契約書 連帯保証人になっているかどうかの確認も忘れずに。 |
エンディングノートや財産目録を作成
親の財産を整理するうえで、会話だけでなく情報を書き残しておくこともとても大切です。
口頭での情報共有は忘れたり誤解が生じることもあるため、エンディングノートや財産目録を作成し、目に見える形にしておくことが安心につながります。
エンディングノートとは、本人の希望や大切な情報を家族に伝えるために書き残すノートのことです。
たとえば、以下のような情報を書き残す場合が多いです。
- 名前や生年月日、家族のこと
- 医療や介護に関する考え(延命治療の希望など)
- 葬儀やお墓についての希望
- 財産のおおまかな内容
- 契約しているサービスやパスワード
- 家族や友人へのメッセージ など
また財産目録とは、親がもっている財産の内容を一覧にまとめたもののことです。相続手続きや税金の申告をするときに必要になることも多く、準備しておくと安心でしょう。
記載する内容としては以下のような内容が一般的です。
- 銀行の口座情報や残高
- 持ち家や土地など不動産の内容
- 株や投資信託の保有状況
- 加入している生命保険の詳細
- 借金やローンの情報
など
完成したエンディングノートや財産目録は、信頼できる家族に共有するか、保管場所を明確にしてきましょう。本人しか場所を知らないと、いざというときに役立ちません。
生前に親の財産を調べる際の注意点
親の生前に財産を調べる際の注意点は、以下のとおりです。
- 本人の同意なく勝手に調べない
- 他の相続人と情報共有する
- 負債(借金)も含めて正確に把握する
- 専門家に相談するのも手
それぞれ詳しく見ていきましょう。
本人の同意なく勝手に調べない
親の財産状況を把握しておくことは、将来の相続に備えるうえで大切なことですが、本人の了解を得ずに勝手に調べるのはやめましょう。
たとえ家族であっても、通帳を見たり、不動産の登記内容を確認したりする行為は、プライバシーの侵害と受け取られる可能性があります。
親が元気で判断力もしっかりしている場合は、まず「いざというときに困らないように、今のうちに一緒に整理できたら安心だと思って」といった思いやりのある言葉を添えて、協力をお願いするのがおすすめです。
無断で調査を進めてしまうと、「信用されていないのでは?」といった不快感を与えかねず、家族間の関係にヒビが入ってしまうおそれもあります。特に、兄弟姉妹がいる場合は、後々の相続の場面で「一人だけが財産を調べていた」と不信感を招く原因にもなりかねません。
そのため、財産の確認はあくまでも本人の意思を尊重しながら、段階を踏んで進めていく姿勢がとても大切です。
他の相続人と情報共有する
生前に親の財産を確認する際は、他の家族、特に相続人となる兄弟姉妹とも情報を共有しておくことが大切です。一人で財産の情報を把握しようとすると、周囲に不信感を抱かせる恐れがあります。
実際、相続の場面で多いトラブルのひとつが、「財産の把握や整理を一部だけで進めていた」ことへの不満や疑念です。たとえ善意で行っていても、共有がないことで誤解が生まれ、家族間の関係がぎくしゃくしてしまうこともあります。
そのため、財産の確認を進める際は、「最近、母の通帳を一緒に見てみたんだけど…」「少しずつ整理を始めてるから、わかったことは共有していくね」といったように、相手に安心感を与える声かけを添えて情報を伝えることが大切です。
財産についての情報をオープンにしておくことで、後々の遺産分割協議でも「最初から皆で見えていた情報」といった土台があるため、スムーズな話し合いにつながりやすいです。
負債(借金)も含めて正確に把握する
親の財産を確認するときは、預金や不動産といったプラスの資産だけでなく、ローンや借入金といったマイナスの財産についても、しっかり把握しておくことが大切です。
相続では、よいものだけを引き継ぐわけではなく、借金や支払い義務のある契約も一緒に相続する可能性があるため、見落としは禁物です。
もしも、資産よりも負債が多いことがあとで判明すれば、相続人自身が返済を求められてしまうこともあり得ます。
そのため、生前のうちから親に協力してもらいながら、どこから借りているのか、どれくらいの残高があるのかを一緒に整理しておくと安心です。
たとえば以下のようなものを事前に確認しておきましょう。
- 住宅ローンの返済計画や残高の記録
- クレジットカードの明細やリボ払いの利用状況
- 消費者金融・銀行からの借入契約書
- 親が連帯保証人になっている契約書や通知書
借金や保証債務の存在は、見落とされがちですが、相続放棄や限定承認といった選択をするかどうかの判断材料にもなるため、早めに正確な情報を把握しておくことが肝心です。
専門家に相談するのも手
親の財産を整理しようと思っても、「何から始めたらいいのかわからない」「調べてはみたものの、正しいかどうか不安…」といった方は少なくありません。
特に、不動産・証券・保険・贈与など、内容が複雑になってくると、自分たちだけで進めるのは難しいこともあります。
そんなときには、相続に詳しい以下の専門家に相談してみるのもひとつの手です。
司法書士 不動産の名義確認や相続登記の手続きに強い 税理士 相続税対策や財産評価、贈与の記録などに精通 弁護士 相続人同士のトラブルや複雑な遺産分割への対応が可能 行政書士 財産目録の作成や公的手続きの書類サポートなど |
最近では、「相続無料相談」や「生前整理サポート」などを提供している窓口も増えており、初回無料のところもあるので、ハードルは高くありません。
「家族だけで調べるのは不安」「もっと正確に整理しておきたい」と感じたら、早めに専門家に相談すれば、将来の手続きがぐっとスムーズになりますし、家族間のトラブル予防にもつながります。
【亡くなったあとの場合】親の財産の調べ方
親が亡くなったあとに財産を調べる方法は、以下のとおりです。
- 手がかりになる書類やものを探す
- 預貯金を調べる
- 不動産について調べる
- 有価証券・投資信託を調べる
- 生命保険について調べる
- 年金についてしらべる
- 借金やローンについて調べる
- 財産目録を作成する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
手がかりになる書類やものを探す
親が亡くなったあとに財産を調べる際、まずは手がかりとなる書類やものを探す必要があります。
故人の自宅や遺品を丁寧に整理し、以下のような財産に関する書類や物品を探しましょう。
預金通帳・キャッシュカード 銀行口座の存在や取引履歴を確認できます。 保険証券・保険会社からの郵便物 生命保険や損害保険の契約内容を把握できます。 年金証書・年金手帳 故人が受給していた年金の種類や加入状況を確認できます。 不動産関連書類 権利証や固定資産税の納税通知書、ローン返済明細などから、不動産の所有状況がわかります。 証券会社からの郵便物 株式や投資信託などの金融資産の有無を確認できます。 クレジットカード明細書 借入やローンの存在を示す手がかりです。 パソコン・スマートフォン オンラインバンキングや電子証券取引の情報が保存されている可能性があります。 |
これらの書類や物品は、金庫や書斎の引き出し、机の中、押し入れなどに保管されていることが多いため、隅々まで確認してください。
預貯金を調べる
預金通帳やキャッシュカードが見つかったら、預貯金を調べる必要があります。
以下の手順で口座の有無や残高を確認しましょう。
- 全店照会の依頼(同一金融機関内の他支店に口座があるかを一括で調査できる)
- 残高証明書の発行(口座の残高を証明する書類を取得する)
- 取引履歴の取得(過去の入出金履歴を確認すれば、他の財産の手がかりになる場合がある)
この際、戸籍謄本や本人確認書類、法定相続情報一覧図などを用意しておくとスムーズに調査できます。
不動産について調べる
固定資産税の納税通知書や権利証など、不動産に関する書類が見つかった場合は、そこに記載されている不動産の所在地と地番を特定しましょう。
そのうえで、不動産の登記内容(所有者、抵当権の有無など)を確認するため、法務局で登記簿を取り寄せます。
その後、市区町村の役所で固定資産評価証明書を取得し、不動産の相続税評価額を確認しておきましょう。
もしローン明細がある場合は、金融機関に連絡して残債や担保の状況を確認するのを忘れないようにしてください。
有価証券・投資信託を調べる
自宅に証券会社からの郵便物があったり、金融機関の通帳などで証券が嫌との取引履歴があったりする場合は、有価証券・投資信託についても調べる必要があります。
使っている証券会社がわかれば、直接連絡して手続きを進めます。
もし故人がどの証券会社を利用していたかわからない場合は、口座情報を調査できる証券保管振替機構(ほふり)への情報開示請求を行いましょう。
情報開示請求には、開示請求書、相続人の本人確認書類、戸籍謄本などが必要なので事前に用意しておいてください。
生命保険について調べる
自宅に保険証券や保険会社からの郵便物があった場合、生命保険や年金についても調べる必要があります。
故人が利用していた保険会社が判明している場合は、その保険会社に連絡をして保険金の請求を行いましょう。
保険会社が不明な場合は、生命保険契約照会制度(故人が契約していた生命保険の有無を一括で照会できる制度)を利用しましょう。
その際、戸籍謄本や本人確認書類などが必要なので、準備しておいてください。
年金についてしらべる
故人が亡くなったあと、支給されていない年金(未支給年金)がある場合、遺族が請求できます。
故人が受給していた年金の種類や加入状況を確認するため、年金証書や年金手帳を探しましょう。
請求は以下の書類を準備して、最寄りの年金事務所や市区町村の窓口でおこなってください。
- 年金証書
- 死亡の事実を証明する書類
- 故人と請求者の関係を証明する書類
- 生計同一関係を証明する書類
- 請求者の本人確認書類
- 受取口座の通帳の写し
借金やローンについて調べる
故人の預金通帳やクレジットカードを確認した際に、定期的な引き落としがある場合、借金の返済が残っている可能性があります。
故人の借入状況を確認するために、以下の信用情報機関に情報開示請求をおこないましょう。
JICC(日本信用情報機構) 消費者金融やクレジットカード会社の情報を管理。 CIC(株式会社シー・アイ・シー) クレジット会社や信販会社の情報を管理。 KSC(全国銀行個人信用情報センター) 銀行や信用金庫などの情報を管理。 |
各機関への開示請求には、故人との関係を証明する戸籍謄本や、故人の死亡を証明する書類、請求者の本人確認書類などが必要です。
故人に借金がある場合、相続人はその借金を引き継ぐことになるため、借金を相続したくない場合は、相続放棄を検討しましょう。
相続放棄は、相続開始を知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所で手続きをおこなう必要があるため、早めに手続きしてください。
財産目録を作成する
親が亡くなったあと、遺産分割や相続税の申告を進めるためには、「財産目録」を作成して、故人の財産の全体像を明確にしておくことが大切です。これは相続人同士の認識のズレを防ぐ役割も果たします。
財産目録には、次のような情報を整理して記載します。
- 預貯金や現金(銀行名、支店、口座番号、残高など)
- 不動産(所在地、地番、面積、固定資産評価額など)
- 有価証券(株式、投資信託などの種類と評価額)
- その他の財産(車、宝石、生命保険金など)
- 借金やローン(借入先、残高など)
- 未払いの税金、公共料金、医療費など
評価額が必要な資産は、市町村や専門家に確認して正確に記載しましょう。
目録は紙に手書きでも、パソコンで作成しても構いませんが、作成日と作成者の名前を明記するのが基本です。不安な場合や相続人が複数いる場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談するのもおすすめです。
親が亡くなったあとに財産を調べる際の注意点
親が亡くなったあとに財産を調べる際は、以下の点に注意しましょう。
- 勝手に財産を処分しない
- 相続人全員で情報共有する
- 調査には期限があることを意識する
- 財産の評価額が不明なものは専門家に依頼する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
勝手に財産を処分しない
親が亡くなったあとに財産を調べる場合、財産を勝手に処分しないよう注意しましょう。
相続財産は、遺言がない限り法定相続人全員の共有財産とみなされるため、誰か一人が勝手に売却したり引き出したりするのは認められていません。
また、財産の処分行為は「単純承認」とみなされる可能性があり、借金などの負債も含めてすべてを相続したと扱われてしまいます。
遺産分割協議前に財産を動かすと、他の相続人との間でトラブルになることもあるため、まずは財産の全体像を把握し、相続人全員で話し合いをおこなうことが大切です。
相続人全員で情報共有する
親が亡くなったあと、財産を調査する際には、相続全員で情報共有するのが大切です。
相続手続きでは、被相続人の預貯金や不動産、保険、借金など、さまざまな財産の情報を正確に把握する必要があります。
これを一人の相続人だけが把握・管理していると、他の相続人が不信感を抱いたり、後々の遺産分割協議がスムーズに進まなくなったりする恐れがあります。また、情報が偏っていると、見落としてしまう財産や負債が発生する場合もあります。
公平かつ円満に相続を進めるためにも、情報の透明性を保ち、早い段階からオープンな話し合いを心がけるようにしましょう。
調査には期限があることを意識する
親が亡くなったあとに財産を調べる際は、調査に期限があることを意識する必要があります。
相続には「単純承認」「限定承認」「相続放棄」といった選択肢がありますが、これらを決めるための熟慮期間は、被相続人が亡くなったことを知ってから3か月以内と法律で定められています。
この期間内に財産の全体像を把握し、相続するか放棄するかを判断しなければなりません。
もし何も手続きをせずに放置すると、すべてを引き継ぐ単純承認とみなされ、借金などの負債まで相続する必要があります。
あとから「知らなかった」では済まされないため、できるだけ早く財産の調査を進め、必要であれば専門家に相談するなど、慎重かつ迅速に対応しましょう。
財産の評価額が不明なものは専門家に依頼する
相続税の申告や遺産分割協議をおこなうには、すべての財産の正確な評価額を把握しておく必要があります。
しかし、不動産、美術品、未上場株式などは市場価格が明確でないことが多く、素人が判断するのは難しいのが実情です。
仮に評価額を誤ると、相続税の過不足や相続人間の不公平につながり、後々トラブルの火種になる可能性もあります。
こうした場合には、不動産鑑定士や税理士、弁護士など、各分野の専門家に依頼して、適正な評価を出してもらうようにしましょう。
専門家の評価に基づけば、税務署への対応や相続人間の話し合いもスムーズに進みやすくなるため、安心して手続きを進めることができます。
【親が認知症の場合】財産の調べ方
親が認知症の場合、以下の方法で財産を調べるようにしましょう。
- 話し合いをおこなう
- 法定後見制度を利用する
- 後見人が財産調査をおこなう
それぞれ解説していきます。
話し合いをおこなう
親が認知症を発症した場合でも、症状の程度によっては本人としっかりと意思疎通ができるケースがあります。
たとえば初期段階であれば、財産に関する記憶や判断力がある程度保たれていることも少なくありません。
そのため、まずは医師の診断を受け、親の判断能力がどの程度あるのかを客観的に確認するのが重要です。
医師の診断によって「意思決定が可能」と判断されれば、本人と一緒に財産の内容や管理状況について話し合い、通帳の場所や不動産の有無、保険契約などを確認しましょう。
逆に、話し合いが難しいほど症状が進行している場合は、次の段階として「法定後見制度の活用」を検討する必要があります。
法定後見制度を利用する
親が認知症を患い、判断能力が著しく低下している場合、自力での財産管理や契約行為が難しいでしょう。
このようなときに活用できるのが「法定後見制度」です。法定後見制度は、家庭裁判所に申し立てることで、本人に代わって財産管理や法律行為をおこなう「後見人」を選任してもらう制度です。
法定後見制度には、本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」といった3段階があります。
特に認知症が進行して意思決定がほとんどできない場合には、「後見」が適用されます。後見人には親族が選ばれることもありますが、中立性を保つために専門職(弁護士や司法書士など)が選ばれるケースもあります。
法定後見制度を利用すれば、親の預貯金や不動産、年金などを適正に管理・把握できるようになり、財産の調査も後見人の権限のもとで正式におこなえます。ただし、申し立てから実際に後見人が選任されるまでには数か月かかる場合があるため、早めに対応しましょう。
後見人が財産調査をおこなう
法定後見制度を利用して後見人が選任されると、その後見人には親の財産を調査・管理する法的な権限と義務が与えられます。
後見人が最初におこなう大切な仕事のひとつが、親のすべての財産を洗い出すことです。
具体的には、親の預貯金口座の確認、不動産の登記情報の取得、保険契約や年金の受給状況の把握など、多岐にわたる財産項目について調査します。また、郵便物の確認や、通帳・印鑑・契約書などの整理も含まれます。必要に応じて、金融機関や市区町村役場に照会を掛けることもあります。
後見人が調査・把握した財産は「財産目録」として家庭裁判所に提出する必要があり、そのあとも定期的に報告をおこなう義務があります。
これにより、親の財産が透明性をもって管理され、不正な利用や隠し財産の見落としなどを防ぐことができます。
【保存可能】親の財産調査用チェックリスト
チェック状態とメモは、お使いのブラウザに自動的に保存されます。
カテゴリ | 項目 | ある/なし | メモ(具体的な場所・内容など) |
---|---|---|---|
預貯金 | 通帳 (普通・定期) | ||
ネットバンキング口座 | |||
現金 | タンス預金・現金 | ||
不動産 | 土地・建物 | ||
空き家・農地 | |||
固定資産税通知書 | |||
有価証券 | 株式・投資信託 | ||
債券・REIT | |||
保険 | 生命保険・医療保険 | ||
個人年金保険 | |||
年金 | 公的年金 (国民・厚生) | ||
企業年金・共済年金 | |||
借金・負債 | 住宅ローン | ||
消費者金融・借入金 | |||
クレジットカード残債 | |||
その他資産 | 自動車 | ||
骨董品・貴金属 | |||
仮想通貨 (暗号資産) | |||
デジタル財産 | サブスク・課金サービス | ||
SNS・ブログ収益 | |||
その他 | 遺言書の有無 | ||
家族以外の共有名義 | |||
保管場所リスト |
親の財産調査で失敗・トラブルになった事例3選
ここでは親の財産調査で失敗やトラブルになった以下の事例を紹介していきます。
- 【事例➀】不動産の存在を知らずに相続放棄してしまった
- 【事例➁】ネット証券の存在を誰も知らずに放置されていた
- 【事例➂】家のどこに財産があるかわからず遺品整理が長期化
それぞれ見ていきましょう。
【事例➀】不動産の存在を知らずに相続放棄してしまった
Aさんは、父親が多額の借金を残して亡くなったと聞き、急いで家庭裁判所に相続放棄の手続きをしました。
しかし、数ヵ月後、父親名義の地方にある土地が見つかり、その評価額が数百万円にもなることが判明。すでに放棄の手続きを終えていたAさんには、それを受けとる権利はなく、後悔が残る結果となりました。
◉どうするべきだった? このような失敗を防ぐには、相続放棄の前に不動産登記簿の確認や固定資産税の書類の有無を調べるなど、慎重に財産の全体像を把握するのが重要です。 |
【事例➁】ネット証券の存在を誰も知らずに放置されていた
Bさんの父親が亡くなり、遺品整理を進めていたものの、預金や株などの財産はほとんど見つからず、不思議に思っていました。
数年後、たまたま見つけた古いパソコンにログインし、ネット証券口座の存在が発覚。そこには数百万円相当の株が眠っていました。すでに相続税の申告も終えており、対応に追われることに。
◉どうするべきだった? こうしたトラブルを防ぐためには、生前からネット証券やデジタル資産の情報をリスト化しておいてもらい、家族で共有しておくことが大切です。 |
【事例➂】家のどこに財産があるかわからず遺品整理が長期化
Cさんは母親が亡くなったあと、実家の遺品整理を一人で始めました。
しかし、通帳や現金、証券の書類などがタンスや本棚、押し入れなどバラバラに保管されており、見つけ出すのに何ヵ月もかかってしまいました。
その間に銀行口座が休眠扱いになり、手続きがより煩雑になってしまいました。さらに、相続税の申告期限(死亡から10か月以内)にも間に合わず、延滞税や加算税が発生する事態に。
◉どうするべきだった? このようなトラブルを避けるには、生前から財産の保管場所を家族と共有し、重要書類は一カ所にまとめておくことが重要です。また、早めに専門家に相談すれば、整理と手続きをスムーズに進めることができます。 |
まとめ
本記事では、親の財産を調べるタイミングや方法、注意点について、生前・死後それぞれの状況に分けて詳しく解説しています。
基本的に、財産は親が元気で判断力があるうちに話し合いをして、財産の種類や保管場所を確認し、エンディングノートや財産目録として書き残しておくことがベストです。
万が一、認知症が進行してしまった場合は、法定後見制度を利用し、後見人による財産調査が必要です。
また、親が亡くなったあとに財産を調べる際は、書類や通帳、契約書などを丁寧に探し出し、預貯金や不動産、有価証券、借金などを正確に把握するのが大切です。
もし親の財産をすべて調べられているのか不安な場合は、専門家に依頼するのもおすすめです。