タンス預金に贈与税は発生する?正しい相続手続きとリスク回避のポイント

タンス預金に贈与税は発生する?正しい相続手続きとリスク回避のポイント
この記事の監修者

佐藤 秀樹

行政書士佐藤秀樹事務所 代表。
行政書士として30年以上の経験を持ち、法人設立、相続、建設業許可などの分野に精通。
お客様の未来を、「誠意」と「情熱」でサポートします。

タンス預金は税務署にバレないから、税金がかからないと思っていませんか?

実は、タンス預金は贈与税や相続税の申告漏れを指摘されやすい財産です。本記事では、タンス預金のメリット・デメリットから、税務署にバレる理由、相続トラブル回避策まで詳しく解説します。正しい知識を身につけ、賢く資産を守りましょう。

目次

タンス預金とは

タンス預金とは、銀行や信用金庫などの金融機関に預けず、自宅などで現金を保管することです。現金をタンスや金庫などにしまっておくことから「タンス預金」と呼ばれます。

金融機関を介さずに手元に現金を置いておくことには、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。

タンス預金のメリット

タンス預金には金融機関を介さないことのメリットがあります。

銀行の倒産に備えられる

万が一、金融機関が破綻したら、預金保護制度により1金融機関あたり1,000万円までの元本と破綻日までの利息が保護されます。1,000万円を超える部分は、場合によっては支払われないリスクがあるのです。一方、タンス預金は金融機関の破綻のダメージを全く受けません。大規模な金融危機に備えてタンス預金で現金資産を守るという方もいます。

口座凍結の影響を受けない

自分が亡くなったときに必要となる葬儀費用や当面の生活費をタンス預金として置いておくケースもあります。死亡すると金融機関の預貯金口座が凍結され、基本的に遺産分割が終わるまでは亡くなった方の口座から現金を引き出すことはできません。しかし、タンス預金であれば、口座凍結の影響を受けずに必要なお金を自由に使えます。

資産額を知られない

銀行預金は取引履歴や残高が記録されるため、他人に資産額を知られる可能性があります。公的機関や家族に知られたくない場合はタンス預金が好まれる傾向がありますが、実はこの点が相続時のトラブルの原因にもなるのです。資産額を知られないというメリットは、実はリスクと表裏一体です。

好きな時に使える

金融機関の営業時間やATMの利用時間に関係なく、いつでも自由にお金を引き出して使うことができるのはタンス預金の良いところです。夜間や休日など金融機関が利用できない時間帯に、冠婚葬祭などで急な出費がある場合は、タンス預金が大きな助けになります。また、高齢者や銀行へのアクセスが不便な地域に住んでいる方は、自宅にある程度の現金を置いておいた方が便利な場合もあるでしょう。

タンス預金のデメリット

タンス預金は利便性が高い一方で、金融機関を利用しないことによるリスクもあります。きちんと管理できない場合、思わぬトラブルにつながる可能性があるので要注意です。

お金が増えない

銀行に預けるだけではお金が増えないと言われる昨今ですが、預貯金は多少なりとも利息がつきます。しかし、タンス預金には1円も利息がつきません。インフレが進めば実質的な価値が下がってしまう可能性もあります。長期間にわたってタンス預金をしていると、資産が増えないどころか逆に目減りしてしまうリスクもあるのです。

盗難や紛失のリスクがある

タンス預金は現金を保管するため、盗難や災害による滅失のリスクがあります。銀行預金であれば、万が一キャッシュカードを盗まれても暗証番号や本人確認のしくみがありますが、現金を直接盗まれた場合は取り戻すのが困難です。また、家族に知られずにタンス預金をしていると、本人が亡くなった後に誰にも気づかれず、そのまま失われるケースもあります。

相続トラブルになりやすい

タンス預金は金融機関の記録に残らないため、相続人がその存在を把握しにくく、遺産分割の際にトラブルの原因となることがあります。たとえば、一部の相続人がタンス預金の存在を知っていた場合、他の相続人に黙って独占することも可能です。また、タンス預金が相続財産として正しく申告されなかった場合、税務署から指摘を受けることもあります。

申告が漏れやすい

タンス預金は銀行口座の記録が残らないため、相続税や贈与税の申告時に忘れられやすい財産のひとつです。しかし、税務署は相続人の生活状況や預貯金の動きを調査し、申告漏れがないかを確認します。申告を怠ると、追徴課税の対象となることもあるため、タンス預金を管理する際は税務面も十分に考慮する必要があります。

タンス預金を贈与する際の税金の基本知識

タンス預金からまとまった金額を家族に渡す場合、単に現金を手渡すだけでは済みません。ここでは、タンス預金を贈与する際に注意すべき税金のルールについて解説します。

タンス預金も贈与税の対象になる

タンス預金も、通常の銀行預金や不動産などと同じ「財産」のため、贈与を受けたら贈与税の課税対象となります。銀行口座への振込でなく現金を手渡しする場合でも、無償で財産を取得したという事実がある以上、贈与にあたります。

特に、高額な現金を一度に譲渡すると、税務署から贈与税の申告を求められる可能性が高まります。税務署は相続税の調査などを通じて資産の流れを把握しているため。、タンス預金だからといって贈与を隠し通せるわけではありません。

贈与税の基礎控除(年間110万円)の正しい理解

贈与税には年間110万円の基礎控除が設けられています。つまり、1年間に110万円までの贈与であれば、贈与税の申告や納付は不要です。この基礎控除を活用することで、贈与税をかけずに資産を移転することも可能です。

ただし、相続対策として意図的に分割して贈与したとみなされると、一括贈与と判断され、贈与税の対象となる可能性があります。毎年同じ時期に同じ金額を贈与することは避け、毎回の贈与ごとに契約書を作成するとよいでしょう。

単に親が子どもの名義で貯金をしているだけでは「名義預金」とみなされる場合があることにも注意が必要です。名義人である子ども自身が預金の存在を知らないケースや、自由に使える状況にないケースは贈与にはあたらないと解釈され、親の財産として相続税が課税されるリスクがあります。

「みなし贈与」と判断されるケース

財産をあげる側ともらう側の合意がなくても、実質的な贈与があったとみなされ、贈与税が課税されるケースがあります。たとえば、親が子どもの借金をタンス預金で代わりに弁済した場合、親が直接子どもに現金を贈与したわけではありません。しかし、子どもは借金がなくなるので、実質的に現金を受け取ったのと同程度の経済的利益を受けています。

契約書など借金の証拠となる書面を作成せずに口約束でタンス預金を貸し付けて、返済が滞ってしまった場合も同様で、お金を貸した相手に実質的にあげたのと変わりません。このようなケースは、みなし贈与として贈与税の対象となる可能性があります。当事者が贈与と認識していない場合もあるため注意が必要です。

贈与税の税率

贈与税の税率は、もらった財産の金額によって異なり、財産の金額が多いほど税率が高くなり、最大で55%にもなります。一般贈与の贈与税の税率表は以下のとおりです。

課税価格(基礎控除後)税率控除額
200万円以下10%
300万円以下15%10万円
400万円以下20%25万円
600万円以下30%65万円
1,000万円以下40%125万円
1,500万円以下45%175万円
3,000万円以下50%250万円
3,000万円超55%400万円

たとえば、タンス預金500万円を贈与した場合は以下のように税額を計算します。

(500万円 – 基礎控除額110万円)× 20% – 控除額25万円 = 53万円 

ただし、18歳以上の方が直系尊属(父母や祖父母)から贈与を受ける場合は税率が異なります。高額なタンス預金を無計画に贈与すると、せっかく贈与した財産の多くの部分を納税資金に充てなければならない事態になりかねません。

タンス預金が税務署に知られる理由

「タンス預金は税務署に知られない」というのは大間違いです。税務署はさまざまな方法で個人の資産状況を把握しており、相続や贈与の際にタンス預金の存在が明るみに出るケースも少なくありません。

預貯金口座の動きを調べられる

相続税や贈与税の申告漏れが疑われる場合、税務署は個人の預貯金口座の残高や取引履歴を調査できます。本人だけでなく相続人などの親族の口座も照会する場合があり、調査が及ぶ範囲は最大10年分です。

仮にタンス預金自体が少額ずつ積み立てたもので、本人の口座に不審な動きがなかったとしても、譲り受けた方が自分の口座に一括で入金した場合は、税務署からどのように得たお金なのか調査される可能性が高くなります。

納税者の収入や資産の情報を蓄積している

国税庁は国税総合管理(KSK)システムによって、地域や税目を越えた申告・納税などの情報を一元管理しており、個人の収入や保有資産を把握しています。長年にわたって低所得だったにもかかわらず、突然羽振りがよくなった場合は、資金の出所について説明を求められる可能性があります。

不動産購入などの大きな取引も税務署のチェック対象です。所得に比して高額な物件を購入したにもかかわらず、贈与税の申告がない場合は、資金調達の方法を確認するケースがあります。

税務調査で発覚する

相続税や贈与税の申告漏れがないか税務署が調査をおこなう場合があります。税務署の職員が直接訪問する「実地調査」だけでなく、文書や電話連絡、税務署での面接などをおこなう「簡易な接触」も含めると、税務調査が実施される割合は決して低くありません。

中でも、現預金の無申告が指摘されるケースは多く、税務調査をきっかけにタンス預金の存在が明るみに出るケースもあります。申告漏れや無申告の場合、相続税や贈与税の追徴課税を受けるだけでなく、延滞税や無申告加算税などのペナルティを課されるリスクもあるため注意が必要です。

タンス預金の相続や贈与を申告しないとどうなる?

タンス預金は、相続や贈与の際に適切に申告しなければ、税務上のペナルティを受けるおそれがあります。ここでは、申告を怠った場合に生じるリスクについて解説します。

税務上のペナルティ

タンス預金の相続や贈与を適切に申告せず、税務調査で指摘を受けた場合、本来納めるべき税額に加えてペナルティが発生します。主なペナルティとしては、納期限の翌日から納税する日までの「延滞税」、申告をしなかった場合の「無申告加算税」、申告はしたものの税額が過少だった場合の「過少申告加算税」があります。

故意に財産を隠すなど悪質な場合には「重加算税」の対象です。重加算税の負担は非常に重く、過少に申告した場合は本来納めるべき税額との差額の35%、申告を怠った場合は40%の追加課税となります。

相続税や贈与税の時効

相続税の時効は申告期限の翌日から5年、つまり被相続人が亡くなってから5年10か月です。贈与税の時効は申告期限の翌日から6年です。2025年中に受けた贈与の申告期限は2026年3月15日、時効は3月16日から起算し、6年後の2032年3月16日に時効成立となります。いずれの場合も、脱税を意図するような悪質な場合は申告期限から7年に延長されます。

7年税務署にバレなければ相続税や贈与税を払わなくて済むのでは?と考える方もいるかもしれませんが、時効を逃げ切るのは困難です。前述のとおり税務署はお金の動きを把握しており、申告から1~2年経過後に調査が入ることも珍しくありません。申告期限から期間が空くほどペナルティが重くなるため、初めから正しく申告するのがもっとも経済的という見方もできます。

相続トラブルにならないタンス預金の管理法

タンス預金を適切に管理し、相続時や贈与時にトラブルを防ぐためには、計画的な対策が必要です。以下の方法を活用することで、スムーズな資産承継が可能となります。

暦年贈与を利用して少額ずつ生前贈与する

贈与税には年間110万円の基礎控除があるため、この範囲内で毎年少額ずつ贈与することで、贈与税を回避しながら資産を移転できます。ただし、毎年同じ金額を同じ時期に贈与すると計画的な「連年贈与」とみなされ、一括贈与の扱いになるリスクがあるため、1回ごとに贈与契約書を作成するなどの工夫が必要です。

生命保険を利用する

タンス預金が高額な場合は、そのまま譲り渡すよりもタンス預金を原資として生命保険に加入するほうが税負担が減る可能性があります。生命保険の死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」までの相続税の非課税枠があり、節税効果が期待できます。受取人を指定できるため、相続人どうしのトラブルを防ぎ、円滑に資産を移転できる点もメリットです。

ただし、契約年齢などの条件によっては払い込んだ掛金よりも死亡保険金が少なくなる場合もあるため、タンス預金をどのように活用するか比較検討して決めるのがよいでしょう。

専門家に相談する

相続や贈与に関する税制は複雑であり、自己判断で対応すると思わぬ税務リスクを招く可能性があります。行政書士や税理士などの専門家に相談することで、適切な手続きを踏みながら資産を管理し、将来のトラブルを未然に防ぐことができます。特に、大きな額のタンス預金を持っている場合は、早めに専門家のアドバイスを受けることが重要です。

まとめ:タンス預金と贈与税の正しい関係理解で安心の資産管理を

タンス預金は手元に置いておけるため、金融機関に預けておくよりも使い勝手がよく安心できるという方もいます。しかし、家族も存在を知らないタンス預金が後から出てきた、相続人のひとりが独占した、こっそり贈与したつもりが税務署の調査でバレてしまったなど、トラブルの原因となるリスクもあり、取り扱いには注意が必要です。現在タンス預金をしている場合は、贈与や相続について早期に検討することをおすすめします。

行政書士佐藤秀樹事務所では、相続に強い行政書士があなたに寄り添い、一緒にお悩みを解決します。税理士や司法書士などほかの専門家とも提携しており、生前対策も万が一のことがあった場合も、手続きごとに相談先を選ぶ手間がかかりません。ひとりで悩む前に、当事務所までお気軽にご相談ください。

編集者

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