親の死亡保険金を兄弟で分けるには?受取人と税金問題を専門家が解説

親が亡くなった際に支払われる死亡保険金を、兄弟で分けたいと考える人も多いでしょう。しかし、死亡保険金は原則として相続財産ではなく、指定された受取人に直接支払われます。受取人が合意すれば分けることもできますが、税金の負担が発生する可能性があります。
本記事では、死亡保険金の基本的なしくみから、兄弟間で分け合う際の税務上のポイント、公平に分けるための具体的な方法まで、専門家の視点で詳しく解説します。
死亡保険金は自動的に兄弟で分けられるの?基本を理解しよう
親が亡くなった際、生命保険に加入していた場合は死亡保険金が支払われます。兄弟がいる家庭では、保険金も平等に分けるべきだと考える人も多いでしょう。しかし、死亡保険金は相続財産には含まれないため、兄弟で自動的に分けられるわけではありません。まずは保険金の基本的なしくみと遺産との違いを確認しましょう。
死亡保険金と遺産の違い:保険金は原則として遺産分割の対象外
死亡保険金は、亡くなった方が契約していた保険会社から支払われるお金です。一方、相続財産(遺産)は、亡くなった方が持っていた家や預貯金などの財産です。このふたつは、似ているようで実は大きく違います。
相続財産は相続人みんなで分け方を話し合いますが、死亡保険金は原則としてこの話し合いの対象にはなりません。なぜなら、死亡保険金は亡くなった方が「誰に渡すか」をあらかじめ決めて契約しているものだからです。保険金は契約で決められた受取人が全額受け取り、相続人が分配を求める権利はありません。
保険金受取人のしくみ:契約上の受取人が全額受け取る権利をもつ
死亡保険金の受取人は、配偶者や子ども、兄弟姉妹などの親族はもちろん、友人や知人でも構いません。受取人に指定された人が、原則として死亡保険金を全額受け取る権利を持ちます。
受取人が「相続人」の場合
生命保険契約で 受取人が特定の人ではなく「相続人」と記載されている場合は、法定相続人全員が受取人です。一般的には、法定相続分の割合 に従って分配されることが多いです。たとえば、法定相続人が長男・次男・三男の3人の場合、法定相続分どおり3分の1ずつ受け取ります。ただし、実際の分配方法は保険会社の規定によるため、契約している保険会社に確認が必要です。このケースでは、兄弟全員が保険金を受け取れるため、トラブルは生じにくいでしょう。
受取人が特定の個人の場合
受取人が特定の個人(たとえば「長男〇〇」)と指定されている場合、その指定された人が保険金を全額受け取ります。この場合、ほかの兄弟は原則として保険金を受け取ることはできません。
保険金を受け取る権利は保険契約上の権利であり、相続の権利とは異なります。そのため、ほかの相続人は法律上の相続権に基づいて保険金を請求することはできません。保険金は受取人固有の財産となり、相続財産ではないため、遺留分侵害額請求もできません。このパターンでは、不公平感からトラブルに発展する可能性があります。
受取人を指定していない場合
受取人指定を必須としない保険契約の場合、受取人が誰も指定されていない可能性があります。この場合、法定相続人が受取人となるのが一般的です。ほかの相続財産と同じように、相続人全員の協議によって分け方を決めることができます。
保険金の支払いに時間がかかったり、手続きが煩雑になったりすることがあるため、将来の相続に備えるのであれば受取人は具体的に指定しておくのが望ましいでしょう。
受取人がすでに死亡している場合
保険契約で指定された受取人が先に亡くなっていた場合、多くのケースでは受取人の法定相続人全員が保険金を受け取ります。たとえば、子どものいない夫婦の夫が妻を保険金の受取人にしており、妻が先に死亡していた場合、夫の保険金の受取人となるのは妻の法定相続人(妻の親や兄弟姉妹)です。夫の相続人である夫の親や兄弟姉妹は保険金を受け取れません。
想定外の人に保険金が渡ったり、相続人と保険金の受取人の間でトラブルが生じたりする可能性があるため、保険金の受取人に指定されている方が亡くなった場合は、なるべく早期に受取人の変更手続きを行いましょう。
特別受益に当たる可能性がある
特別受益とは、特定の相続人が亡くなった方から遺贈や贈与によって受けた利益です。死亡保険金を受け取ることは遺贈や贈与にはあたらないため、原則として特別受益とはなりません。しかし、「特段の事情」がある場合は、死亡保険金が特別受益になるという判例があります。
「特段の事情」があるとされるのは、保険金が高額、保険金の遺産総額に対する比率が大きいなど、状況を総合的に勘案して相続人間の不公平が著しいと認められる場合です。特別受益であると認められた場合、保険金の金額を相続財産の金額に加えて相続分の算定を行います。
死亡保険金が特別受益に該当するかどうかの判断は、個々のケースによって異なり、最終的には家庭裁判所での調停や審判によって決定されます。
兄弟間で死亡保険金を分け合う場合の法的問題点
親の死亡保険金を受け取った場合、公平性を考えて兄弟で分けたいと考えるケースも少なくありません。しかし、単純に保険金を受け取った兄弟からほかの兄弟に分けると贈与にあたり、贈与税の対象になる可能性があります。ここでは、兄弟で死亡保険金を分け合うときに注意したいポイントを確認しましょう。
なぜ単純に分けると贈与になる?法律上の考え方
死亡保険金は、保険契約に基づき、受取人として指定された個人の財産です。そのため、受取人がほかの兄弟に保険金を分け与える行為は、法律上「贈与」とみなされる可能性が高くなります。
たとえば、長男が死亡保険金の受取人として2,000万円を受け取った後、兄弟で公平に分けようと次男に1,000万円を渡したとします。この場合、長男から次男へ1,000万円を贈与したことになり、次男に贈与税が課税される可能性があります。贈与税の基礎控除額は年間110万円なので、110万円を超えた分に税金がかかり、思わぬ税負担が生じるリスクがあるため要注意です。
分け合うタイミングによる影響:受取前と受取後の違い
死亡保険金を兄弟間で分ける場合、分け合うのが保険金の受取前か受取後かによって法的な取り扱いが異なります。
死亡保険金の受取前に兄弟間で合意が成立した場合は、契約上の受取人を変更しましょう。たとえば、兄弟全員で均等に分けることとした場合は、保険契約の受取人を兄弟全員の名前にし、それぞれに分配される割合まで指定しておきます。兄弟それぞれが契約に基づいた割合で保険金を受け取れるので、贈与税の問題が発生しないメリットがあります。一方で、保険契約の内容変更が必要なため、被保険者の生前に手続きをおこなう必要があります。
契約で指定された受取人が死亡保険金を受け取った後で、兄弟間で分ける場合は、基本的には贈与となります。ただし、契約上の受取人は兄弟のうちのひとりであったとしても、受け取った死亡保険金を兄弟で分け合うことが親の生前から合意していた場合、「みなし共有契約書」などの証拠があれば贈与とみなされるリスクを低減することが可能です。
兄弟間で保険金を分ける際の書面の重要性
保険金を分ける約束を口頭だけでおこなうと、兄弟同士のトラブルや、税務上のトラブルに発展する可能性があります。
保険契約の受取人を変更していれば、保険会社と当事者同士で分け方について合意形成できていると言えます。一方、保険契約上の受取人がいったん保険金全額を受け取ってからほかの兄弟に分ける場合は、約束の内容を書面に残しておくことが重要です。死亡保険金は相続財産ではないため、特別受益として相続財産にもち戻して計算しない限りは、遺産分割協議の内容とはなりません。その場合は、贈与契約書を作成するのが望ましいでしょう。
【ケース別】死亡保険金に課される税金
死亡保険金を受け取った際に発生する税金は、「保険料の支払者」・「被保険者」・「保険金の受取人」 の関係によって決まります。具体的なケース別にどのような税金がかかるか見ていきましょう。
保険契約の内容によって税金の種類が違う
死亡保険金に適用される税金は、相続税・贈与税・所得税(および住民税)の3つのパターンがあります。ポイントは「誰が保険料を負担していたか」です。
契約者(保険料負担者) | 被保険者(亡くなった方) | 保険金受取人 | 適用される税金 |
---|---|---|---|
父(被相続人) | 父(被相続人) | 母・子(相続人) | 相続税 |
母(相続人) | 父(被相続人) | 子(相続人) | 贈与税(みなし贈与) |
子(相続人) | 父(被相続人) | 子(相続人) | 所得税・住民税(一時所得) |
ケース1:保険料負担者が被保険者(亡くなった親)の場合→相続税
保険料を亡くなった親自身が支払っていた場合、子が受け取る死亡保険金には相続税がかかります。先述のとおり、死亡保険金は相続財産ではありません。しかし、相続人が受け取る死亡保険金は、相続税の計算上は「みなし相続財産」として相続財産の金額に含まれるのです。
生命保険金全額が相続税の対象となるわけではなく、非課税枠(法定相続人1人につき500万円)が適用後に残った金額に課税されるしくみです。相続財産全体の金額によっては、相続税が発生しないケースもあります。
ケース2:保険料負担者が受取人自身の場合→一時所得(所得税)
保険料を受取人自身が支払っていた場合、死亡保険金は受取人の一時所得となり、所得税や住民税の対象です。このケースでは、受取人は親から何ら財産を受け取っていません。受取人自身のために自分で掛金を支払い、親の死亡を原因として保険金を受け取るだけだからです。
受け取った死亡保険金全額に課税されるのではなく、保険契約によって得た利益に課税されます。具体的な計算方法は、以下のとおりです。
一時所得 =(受け取った保険金 − 支払った保険料の総額 − 50万円)÷ 2
一時所得は給与所得などのほかの所得と合算され、所得税や住民税が計算されます。保険金の金額によっては、死亡保険金を受け取った年の所得だけが高くなり、例年よりも所得税や住民税が高くなる可能性があります。
ケース3:保険料負担者が第三者の場合→贈与税
保険料を亡くなった親や保険金の受取人以外の第三者が支払っていた 場合、死亡保険金は支払者から受取人への贈与とみなされ、贈与税の対象となります。
たとえば、父親を被保険者として母親が保険料を支払っており、子が保険金を受け取るケースでは、母親から子への贈与とみなされます。このように、直接的な財産の無償譲渡がなくても贈与と同様の経済的利益を受けているケースでは「みなし贈与」として贈与税の課税対象です。
贈与税には年間110万円の基礎控除を超える部分に課税されますが、死亡保険金は110万円を超えることがほとんどです。相続税や所得税に比べて税率が高いため、税負担が大きくなる可能性があります。
死亡保険金を兄弟で公平に分ける具体的な方法
死亡保険金は相続財産ではなく受取人固有の財産のため、特定の受取人が指定されている場合、自動的に兄弟で分けることはできません。しかし、事前に適切な対策を講じることで、トラブルを避けながら公平に分配することが可能です。ここでは、死亡保険金を公平に分ける4つの方法を紹介します。
方法1:保険契約時点で共同受取人に指定してもらう
もっともシンプルな方法は、親の保険契約の時点で死亡保険金の受取人を兄弟全員にしてもらうことです。兄弟全員が最初から保険金の受取人となり、受け取る割合まで指定できるため、実際に保険金を受け取る際に分け方で揉めるリスクはきわめて低いと言えます。
ただし、受取人が複数いると、保険会社への保険金請求手続きが複雑になり、保険金が支払われるまで時間がかかる場合がある点に注意が必要です。また、保険契約者は親なので、親が子どもたち全員に保険金を渡すつもりがなければこの方法は難しいでしょう。
方法2:複数の保険に加入し、それぞれ別の子を受取人にする
親が子どもの人数分の保険契約をもち、それぞれに受取人を設定する方法もあります。この場合も、契約時点で公平な配分ができることが明らかなので、後のトラブルにはつながりにくいでしょう。また、死亡保険金には相続税の非課税枠があり、(500万円×法定相続人の数)の金額までは相続税がかかりません。複数の保険契約をすることで、兄弟それぞれの非課税枠を最大限活用できるメリットもあります。ただし、親の年齢によっては新規契約が難しい場合や、保険料の負担が増える場合もあります。
方法3:特別受益としての調整を遺産分割協議でおこなう
もし特定の兄弟が死亡保険金を受け取った場合、 その分を特別受益として扱い、相続財産の配分を調整することが可能です。相続財産と死亡保険金を全て含めた金額で分割の計算をするため、より公平感のある分け方ができるでしょう。
ただし、この方法をとるには相続人全員の合意が必要です。特別受益にあたるかどうかで、死亡保険金を受け取った兄弟とそのほかの相続人の間で折り合いがつかないと、法的な手続きが必要になります。あくまでも兄弟間で話し合いが円滑に進んだ場合に可能な方法です。
方法4:遺言書で保険金の分配に関する希望を明記してもらう
親が遺言書を作成し、死亡保険金の分配方法についての意向を示す方法もあります。親の意思が明確になり、兄弟間のトラブルを防ぐ一定の効果は期待できるでしょう。
しかし、死亡保険金は相続財産ではないため、遺言に死亡保険金の分け方についての意向が書かれていたとしても法的拘束力がありません。保険金を受け取る権利をもつのはあくまでも保険契約上の受取人のみです。遺言を根拠に死亡保険金を兄弟で分けるには、受取人の自主的な協力が不可欠です。
まとめ:親の死亡保険金を兄弟で円満に分けるために押さえるべきポイント
親の死亡保険金を兄弟で円満に分け、なおかつ税負担を軽減するためには、親が健在のうちによく話し合って保険契約を見直し、受取人や割合を事前に決めておくのが有効な方法です。
すでに相続が発生しているケースでは、受取人となった兄弟の協力を得て話し合いで解決できるに越したことはありません。親しい兄弟間であっても、後のトラブルを防ぐため、合意の内容は遺産分割協議書や贈与契約書などの書面に残すことを強くおすすめします。
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