生前贈与のトラブル事例4選!トラブル防止対策や解決方法も解説

生前贈与のトラブル事例4選!トラブル防止対策や解決方法も解説
この記事の監修者

佐藤 秀樹

行政書士佐藤秀樹事務所 代表。
行政書士として30年以上の経験を持ち、法人設立、相続、建設業許可などの分野に精通。
お客様の未来を、「誠意」と「情熱」でサポートします。

「生前贈与で起こりやすいトラブルは?」

生存贈与を考えているものの、なにかトラブルが起きてしまったらどうしようと不安に思っている方は多いのではないでしょうか。

生前贈与では、それぞれの状況に応じて、税務関連や相続人同士の争いなどさまざまなトラブルが発生する可能性があります。

そこで本記事では、代表的な生前贈与のトラブル事例やトラブル防止策、すでにトラブルが起きてしまった場合の解決方法などを解説していきます。

本記事を読めば、トラブルを起こすことなく生前贈与ができるでしょう。ぜひ参考にしてください。

目次

生前贈与のトラブル事例➀ 税務関連

ここでは税務関連の生前贈与トラブル事例を紹介していきます。

  • 110万円以下の贈与なのに贈与税がかかった
  • 生前贈与を繰り返した結果、税務署に定期贈与とみなされ課税された
  • 亡くなる前7年以内の贈与が相続財産とみなされ、相続税が課された
  • 相続時精算課税制度による節税を狙ったが、かえって税負担が増えてしまった
  • 税務申告を忘れてしまい延滞税・加算税が発生してしまった

それぞれ見ていきましょう。

110万円以下の贈与なのに贈与税がかかった

贈与税には「年間110万円まで非課税となる基礎控除(暦年課税)」がありますが、それを超えていないにもかかわらず課税されるケースがあります。

たとえば複数の方から贈与を受けていた場合に、合計額が110万円を超えていたり、贈与であることが書面などで証明されず、税務署に贈与として認められなかった場合などが原因です。

また、「贈与」と思っていたものが、実は借入金の返済や立替金など、課税対象外の取引と誤認されていたことが原因で、税務署が贈与ではないと判断する場合もあります。

そのような事態を避けるために、事前に以下のような対策を行いましょう。

  • 贈与契約書を作成して、贈与の事実を証明できるようにする
  • 銀行振込などで贈与の記録を明確に残す
  • 同じ年にほかの方からも贈与を受けていないかを確認し、合計額を把握する
  • 贈与の対象者ごとに記録を分けて管理する

生前贈与を繰り返した結果、税務署に定期贈与とみなされ課税された

生前贈与を何年にもわたって繰り返していると、税務署から「定期贈与」と判断される可能性があります。

定期贈与とは、たとえば「毎年100万円を10年間贈与する」といったように、一定の契約に基づいて将来的な贈与があらかじめ予定されているものです。

このような場合、毎年の贈与を別々のものとはみなさず、総額を一括で贈与したものと見なされ、その全額に対して贈与税が課税される恐れがあります。特に、毎年同じ金額・同じ時期に贈与を繰り返していると、税務署に疑われやすいです。

定期贈与とみなされないようにするために、以下のような対策を行いましょう。

  • 毎年、個別の贈与契約書を作成し、「その年ごとの贈与」であることを明確にする
  • 贈与の金額や実施時期を毎年少しずつ変えて、定期性を避ける
  • 将来的な贈与の約束は避け、その都度の意思表示を大切にする

亡くなる前7年以内の贈与が相続財産とみなされ、相続税が課された

被相続人が亡くなる前7年以内に相続人に行った贈与については、その贈与額が相続財産に加算され、相続税の課税対象となる場合があります。

これは、相続税の課税逃れを防ぐ目的で設けられているルールで、2024年の税制改正により加算対象期間が3年から7年に延長されました。

たとえ贈与額が年間110万円以内であっても、相続人への贈与であれば対象となるため、贈与税がかからなかったとしても、相続時に相続税が課される可能性があります。

このような事態にならないためにも、以下のような対策を行いましょう。

  • 贈与を始める時期を早めに設定し、長期的な計画を立てる
  • 贈与の事実を証明できるよう、契約書や振込記録をしっかり残す
  • 相続時精算課税制度の利用を検討する(ただしメリット・デメリットの把握が必要)
  • 定期的に税理士などの専門家に相談し、相続税対策を確認する

相続時精算課税制度による節税を狙ったが、かえって税負担が増えてしまった

相続時精算課税制度は、60歳以上の親から18歳以上の子への贈与に対して、2,500万円まで贈与税が非課税になる制度です。これだけを聞くと「一度に大きな資産を非課税で移せる、節税に有利な制度」と思われがちですが、実は注意点も多い制度です。

たとえば、親が子に1,000万円を贈与し、相続時精算課税を使って贈与税をゼロにしたとします。しかし、親が亡くなったとき、その1,000万円は「相続財産」として加算されるため、最終的に相続税がかかる可能性があります。さらに、一度この制度を使うと、それ以降は「毎年110万円まで非課税」である暦年課税の制度は使えなくなってしまいます。

つまり、「今の税金はゼロだけど、将来大きな相続税がかかるかもしれない」といった落とし穴があるのです。

こうした事態を防ぐためにも、以下のような対策を講じることが大切です。

  • 相続時精算課税制度と暦年課税制度の違いや影響をしっかり理解する
  • 長期的な相続・贈与計画を立てたうえで制度の選択を検討する
  • 制度適用後の贈与や相続に関する税負担を事前にシミュレーションする
  • 税理士などの専門家に相談して、自分の家庭にとって最適な方法を選ぶ

税務申告を忘れてしまい延滞税・加算税が発生してしまった

贈与税は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までに申告・納付する義務があります。

たとえ贈与税がかからない場合でも、申告自体が必要なケースもあり、申告漏れをすると本来の税金に加えて延滞税や無申告加算税が発生してしまいます。

たとえば、父親から300万円の現金をもらったけれど、申告せずに放置していたケースでは、基礎控除を超える190万円分に対して贈与税がかかります。これに加えて、申告していないことによるペナルティとして10%~20%の無申告加算税、さらに納期限を過ぎた日数に応じて延滞税も課されることになるのです。

本来なら数十万円程度で済んでいた税金が、申告漏れで結果的に倍以上になることもあり得ます。

こうした申告忘れによる余計な出費を避けるために、次のような対策を意識しておきましょう。

  • 贈与を受けたら、税金が発生するかどうかにかかわらず申告の必要性を確認する
  • 贈与契約書や振込記録など、贈与の証拠をしっかり整理・保管する
  • 申告期限(毎年3月15日)をカレンダーやリマインダーで管理する
  • 少しでも不安がある場合は早めに税理士に相談して確認する

生前贈与のトラブル事例➁相続人同士で揉める

ここでは相続人同士の生前贈与に関するトラブル事例を紹介していきます。

  • 長男にだけ多く贈与したことで、相続時に争いが発生
  • 長女が生前に住宅購入資金を受け取っていた
  • 生前贈与を内緒にしていた

それぞれ見ていきましょう。

長男にだけ多く贈与したことで、相続時に争いが発生

生前贈与は自由におこなうことができますが、特定の相続人に偏って贈与を行った場合、のちの相続で「不公平だ」と感じたほかの相続人との間でトラブルに発展してしまいます。

たとえば、「長男は事業を継ぐから」といった理由で長男にだけ多額の贈与をしていたところ、親の死後にほかの兄弟から「自分たちには何もなかったのに不平等だ」として、遺産分割協議がもめてしまうといったケースは実際に多く見られます。

このようなトラブルは「特別受益」として贈与分を相続財産に加算して再計算しなければならず、相続全体に複雑な影響を与えることがあります。

こうした相続トラブルを未然に防ぐために、以下のような対策を考えておくことが重要です。

  • 贈与の理由や内容を明確にし、できれば文書で残しておく
  • ほかの相続人と事前に話し合い、納得を得るよう努める
  • 遺言書を作成して、財産の分け方や贈与分の扱いを明記する
  • 贈与が「特別受益」に該当する可能性があることを理解し、相続時に説明できるよう備える
  • 必要に応じて、司法書士や弁護士などの専門家に相談する

長女が生前に住宅購入資金を受け取っていた

親が存命中に、子どもが住宅を購入する際の資金援助としてまとまった金額を贈与するのは珍しくありません。しかし、それが特定の子どもだけに対して行われた場合、ほかの兄弟姉妹との間で不公平感が生じ、相続時にトラブルの火種となることがあります。

たとえば、長女が親から住宅購入資金を援助してもらっていたにもかかわらず、相続時にはそのことが明らかにされず、ほかの兄弟と相続財産を均等に分けた場合、「長女だけ得をしている」と不満が噴き出す…といったケースです。

このような贈与は、法律上「特別受益」として扱われる可能性があり、相続財産にその分を加算して相続分を計算し直す必要が出てくる場合があります。つまり、長女が住宅資金として生前に3,000万円を受け取っていた場合、本来の遺産にその3,000万円を加算して、相続人全体の取り分を再計算する必要があります。

「家を買ってあげただけのつもりだったのに…」といった親心が、相続時には思わぬ誤解や争いを生んでしまうこともあるため、事前に次のような対策を講じておくことが重要です。

  • 住宅資金の贈与について、金額や時期を記録として残しておく
  • 必要であれば贈与契約書を作成し、贈与の事実を明確にする
  • ほかの相続人に対して、贈与があったことを事前に共有・説明する
  • 遺言書に住宅資金の贈与を考慮した相続内容を明記しておく
  • 相続時に「特別受益」として考慮される可能性を理解しておく
  • 専門家(弁護士や税理士)に相談し、トラブル回避のための方針を立てる

生前贈与を内緒にしていた

生前に贈与を受けていたにもかかわらず、その事実をほかの相続人に伝えず、相続時まで内緒にしていた場合、のちに発覚して大きなトラブルになることがあります。

たとえば、長男が親から「大学の学費や結婚資金」の名目で数百万円の贈与を受けていたにもかかわらず、それを一切伝えていなかったとします。親が亡くなり、遺産分割の話し合いが始まった際にその贈与の事実が明らかになると、ほかの兄弟姉妹は「不公平だ」「そんなこと聞いていない」と感情的に反発し、遺産分割が難航するケースも少なくありません。

こうしたケースでは、生前贈与が「特別受益」にあたるとされれば、相続財産にその贈与分を加算してから分割します。とはいえ、証拠が不十分だと「そんな贈与はなかった」と争いになることもあり、きょうだい関係が深刻に悪化するリスクもあります。

こうした不要な争いを回避するためにも、以下のような対策を心がけましょう。

  • 贈与を受けた際には、その事実や金額を記録として残しておく(贈与契約書や通帳のコピーなど)
  • 贈与を受けたことを可能な範囲でほかの相続人に伝え、透明性を持たせる
  • 生前に贈与があった場合は、相続時に「特別受益」として扱う可能性を想定しておく
  • 親の意向がある場合は、遺言書で生前贈与の取り扱いを明記しておく
  • 贈与や相続に関する方針について、あらかじめ家族全体で話し合う機会を設ける

生前贈与のトラブル事例➂不動産・株・その他の贈与

ここでは不動産・株・その他の贈与に関するトラブル事例を見ていきましょう。

  • 贈与した不動産の固定資産税や修繕費が受贈者の負担になり、不満が生じた
  • 親から高価な宝石を贈与されたが、評価額が思った以上に高く、贈与税が発生した
  • 贈与後に株価が大幅に上がり、税務署から『贈与時の評価が低すぎる』と指摘を受けた

贈与した不動産の固定資産税や修繕費が受贈者の負担になり、不満が生じた

親が善意で子に不動産を贈与したものの、実際にはその不動産にかかる固定資産税や修繕費、管理費などのランニングコストを受け取った子が全て負担しなければならず、「もらって得したどころか、出費ばかり嵩む」といった不満につながるケースがあります。

たとえば、親が築30年のアパートを息子に贈与。「これで家賃収入を得なさい」と言ったものの、実際には老朽化による大規模修繕が必要で、数百万円単位の修理費が発生。加えて、毎年の固定資産税や空室リスクも抱えることになり、息子は負担に苦しむようになった…といったケースです。

こうした思わぬ負担による不満を防ぐために、以下の対策を行いましょう。

  • 不動産を贈与する際は、将来的な維持費・管理コストも伝え、納得のうえで贈与する
  • 固定資産税や修繕金額について、一定期間は贈与者が負担するなどの配慮を検討する
  • 贈与前に専門家に相談し、物件の修繕履歴・リスクなどを調査する
  • 賃貸物件の場合は、収支バランス(収入と支出)を試算して共有する

親から高価な宝石を贈与されたが、評価額が思った以上に高く、贈与税が発生した

宝石や美術品などの動産は、価値が明確ではないことが多く、「高そうだけど贈与税はかからないだろう」と安易に受けとると、思わぬ課税対象になることがあります。

たとえば、親から「昔買ったダイヤモンドの指輪、あなたにあげるわ」と言われて受け取った娘が、そのまま申告せずにいたところ、後に税務署から「市場価格で300万円の価値があり、贈与税の申告が必要」と指摘されたケースなどが挙げられます。受け取った側は思いがけない税金の支払いに困惑してしまうでしょう。


このような思い違いによる税負担を避けるためにも、次のような対策を心がけましょう。

  • 高額な宝石や美術品の贈与を受ける場合は、事前に専門家(鑑定士)に評価額を依頼する
  • 評価額が高い場合は、贈与税が発生する可能性があることを認識する
  • 申告漏れを防ぐために、贈与があったら速やかに税理士に相談する
  • 贈与税の支払いが困難な場合は、分割納税(延納や物納)制度の利用を検討する

贈与後に株価が大幅に上がり、税務署から『贈与時の評価が低すぎる』と指摘を受けた

株式を贈与する場合は、「贈与した日(贈与契約成立日)」の時価で評価されますが、その評価額が適切でないと、税務署から「過少申告」として指摘されることがあります。

たとえば、親が子に未上場の自社株を贈与。贈与当時の評価額を100万円と申告したが、その後、会社の業績が急上昇し、株価が数倍に。税務署の調査により「贈与時点でもっと高い評価をすべきだった」と判断され、追加の贈与税や加算税を請求されたというケースです。


こうしたトラブルに発展しないよう、以下の対策を参考にしましょう。

  • 上場株は贈与日や前後の取引価格を基準に評価し、正確に申告する
  • 未上場株の場合は、税理士や専門家に依頼して適正な評価をおこなう(会社の業績・財産・配当などを考慮)
  • 贈与契約書とともに、評価方法の根拠を明記した資料を残しておく
  • 株価変動リスクがある資産を贈与する場合は、慎重にタイミングを見極める

生前贈与のトラブル事例④特殊な状況にある受贈者

ここでは特殊な状況にある受贈者のトラブル事例を見ていきましょう。

  • 海外の相続税が日本と異なり、二重課税のリスクが発生した
  • 現金をもらったことで生活保護が受けられなくなった
  • 受贈者が贈与者よりも先に亡くなった

海外の相続税が日本と異なり、二重課税のリスクが発生した

近年、海外に資産を持つ方や、家族が海外に住んでいるケースも増えていますが、その場合に注意が必要なのが「国によって相続税のルールが異なる」といった点です。たとえば、日本で生前贈与や相続が発生した際、日本の税法にしたがって課税されたとしても、同じ資産や取引に対して海外でも課税される可能性があり、「二重課税」が発生するリスクがあります。

たとえば、日本に住む親が、アメリカ在住の子に海外口座の資産や不動産を生前贈与した場合、日本では贈与税が課税され、さらにアメリカでも現地の贈与税や相続税の対象になる可能性があります。こうなると、同じ資産に対して日本とアメリカの両方で税金を支払うといった事態になってしまいます。

こうした事例では、「海外に資産を持っている」または「海外に居住している相続人がいる」といった背景が原因になるため、国際間の税務ルールを理解し、事前に対策を講じておくことが重要です。

このようなトラブルを回避するために、以下の対策を行いましょう。

  • 日本と海外の両国における相続税・贈与税の課税ルールを確認する
  • 海外に居住する相続人がいる場合は、現地の税務制度や申告義務も事前に調査する
  • 二重課税を防ぐため、「相続税・贈与税の二重課税防止条約」が締結されている国かどうかを確認する
  • 必要に応じて、国際税務に詳しい税理士や弁護士に相談する
  • 海外資産の贈与や相続を予定している場合は、計画的に時期や方法を検討する

現金をもらったことで生活保護が受けられなくなった

生活保護を受けている方が、生前贈与として親や家族から現金を受け取った場合、その現金が「収入」や「資産」として見なされ、生活保護の受給資格を失ってしまうケースがあります。

たとえば、高齢の母親が生活保護を受けている子どものためを思って、毎月5万円を振り込んでいたところ、自治体から「これは収入にあたるため、生活保護の減額または停止対象です」と指摘されてしまったケースです。
また、まとまった金額を一度に贈与したことで、「もう生活に困っていない」と判断され、生活保護の打ち切りや返還請求が行われることもあります。

このように、善意の贈与であっても、生活保護制度のルールに抵触してしまい、結果的に本人の生活を困窮させてしまう可能性があります。

こうした事態を防ぐために、以下の対策を検討しましょう。

  • 生活保護を受給している家族に現金を贈与する前に、自治体の福祉担当窓口に相談する
  • 継続的な金銭援助をおこなう場合は、「仕送り」として正しく申告し、影響を確認する
  • 一度にまとまった現金を渡すのではなく、生活状況や用途に応じて方法を検討する
  • 場合によっては、贈与ではなく必要に応じた「支払い代行」などの形をとることも検討する
  • 不安がある場合は、福祉や相続に詳しい専門家に相談する

受贈者が贈与者よりも先に亡くなった

生前贈与は、贈与者の意思で財産を他人に譲る法的な契約行為ですが、受けとる側(受贈者)が贈与者よりも先に亡くなることで、思わぬ相続や贈与税の問題が発生してしまいます

たとえば、親が子に対して現金1,000万円を生前贈与した直後、その子が不慮の事故で亡くなってしまったとします。贈与自体は成立しているため、すでに贈与税の申告が必要ですが、贈与を受けた本人は使う前に亡くなっており、その財産はそのまま子の相続財産です。これにより、子の相続人(例:配偶者や子ども)に思わぬ形で財産が引き継がれたり、納税義務が生じたりするのです。

さらに、贈与税の申告期限(贈与の翌年3月15日まで)前に受贈者が亡くなった場合でも、贈与税の申告と納税義務は「受贈者の相続人」に引き継がれます。
このように、贈与後すぐに受贈者が亡くなってしまった場合、贈与税と相続税の両方に関わる複雑な問題が起こることがあるため、注意が必要です。

こうした事態を防ぐために、以下の対策を講じておくと安心です。

  • 贈与をおこなう際には、贈与者・受贈者双方の健康状態や年齢も考慮し、時期を慎重に検討する
  • 高額な贈与をする場合は、贈与契約書を必ず作成し、贈与日と実行日を明確に記録しておく
  • 贈与税の申告前に受贈者が亡くなった場合、相続人が申告・納税義務を負うことを理解しておく
  • 必要に応じて、専門家(税理士・司法書士など)に相談して税務処理の見通しを立てる
  • 相続時に混乱が生じないよう、遺言書などで財産の流れを明確にしておく

生前贈与のトラブル防止対策6選

ここでは生前贈与のトラブル防止対策を6つ紹介していきます。

  • 贈与契約書を作成する
  • 毎年異なる金額やタイミングで贈与する
  • 信託を活用する
  • 遺言書を作成する
  • 家族会議で事前に贈与の理由を説明する
  • 行政書士や税理士に相談する

贈与契約書を作成する

生前贈与をスムーズに行い、後のトラブルを防ぐためには、贈与契約書をきちんと作成しましょう。口頭だけの約束だと、あとから「言った・言わない」の問題になったり、一方的に取り消されることがありますが、書面に残しておけば贈与の事実がはっきりし、相続時のもめごとや税務調査でもしっかりとした証拠にできます。

贈与契約書を作成する際には、次のポイントを押さえておきましょう。

  • 贈与する方(贈与者)と受けとる方(受贈者)の名前・住所
  • 何を贈与するのか(例:現金〇〇円、不動産の所在地と内容など)
  • 贈与をする日付や条件(たとえば「〇年〇月に現金を振り込む」など)
  • 双方の署名と押印

契約書は2通作成し、贈与者と受贈者がそれぞれ1通ずつ保管します。書式は特に決まっていませんが、トラブル防止のためには、必要な情報をきちんと書き込み、印鑑も忘れずに押すことが大切です。

身内同士であっても、「書面にしておく」ことが、後々の安心につながります。

毎年異なる金額やタイミングで贈与する

生前贈与を活用する際、贈与税のトラブルを防ぐために意識しておきたいのが「定期贈与」と見なされないようにつとめることです。

もし、毎年同じ金額を同じ時期に贈っていると、「最初から何年にもわたって一定額を贈る約束をしていた」と判断され、定期贈与とみなされる恐れがあります。そうなると、贈与された総額に対して一括で贈与税がかかる可能性があり、結果的に大きな負担となってしまいます。

このような事態を避けるには、毎年あえて金額や贈与する時期を変える工夫が有効です。「今年は80万円を春に、翌年は100万円を秋に」といったように、一定のパターンにしないことがポイントです。

また、毎回きちんと贈与契約書を作成し、単発の贈与であることを明確にしておくと、税務署にも説明がしやすいです。

さらに、基礎控除(年間110万円)を少しだけ超える金額を贈与し、あえて贈与税の申告をしておくのも効果的です。申告を通じて「毎年独立した贈与を行っている」といった証拠を残すことができるからです。

こうした対策をとることで、生前贈与のメリットを活かしつつ、将来の相続や税務調査におけるリスクをしっかりと抑えることができます。

信託を活用する

生前贈与をめぐるトラブルを防ぐ方法のひとつとして、「家族信託」の活用が注目されています。

家族信託とは、自分の財産を信頼できる家族に託し、管理や運用を任せるしくみです。

たとえば、贈与する側が高齢で将来的に認知症など判断能力が低下した場合でも、信託契約を結んでおけば、受託者(任された家族)が代わりに財産を適切に管理できます。そのため、財産が凍結されたり、不適切に使われたりする心配が減り、生活費の支払いや必要な支出も滞りなく続けることができます。

また、信託契約の中で「誰に」「どのように財産を渡すか」をあらかじめ決めておくことで、相続時の揉めごとを防ぐことも可能です。柔軟な財産の使い方ができるのも大きなメリットです。

ただし、家族信託はしくみがやや複雑なため、契約書の作成や内容の設計は専門家(司法書士や弁護士)に相談しながら進めるのが安心です。家族間の合意をしっかりとることも忘れずに行いましょう。

遺言書を作成する

生前贈与を行った場合でも、その内容を遺言書にしっかりと記しておくことで、相続時のトラブルを防ぐことができます。誰にどの財産を渡したのか、そして残った財産をどう分けたいのかを明確にしておけば、相続人同士の誤解や不満が生じにくいです。

特に、生前贈与によって特定の方に多くの財産を渡している場合は、ほかの相続人が「不公平だ」と感じることも少なくありません。そうした場合に、遺言書の中で理由や意図を示しておくことで、納得を得やすいです。

遺言書には法的なルールがあり、正しい形式で作らなければ効力を持ちません。自筆証書遺言や公正証書遺言など、それぞれの特徴に合った方法を選び、専門家に相談しながら作成するのが安心です。

また、家族や財産の状況が変わったときには、内容を見直すことも忘れずにしましょう。

家族会議で事前に贈与の理由を説明する

生前贈与のトラブルを起こさないために、事前に家族会議を行いその理由を説明するようにしましょう。

家族内で情報の共有が不足していると、疑心暗鬼や不満が生じる可能性がありますが、家族会議で生前贈与の理由や財産管理の方策を事前に話し合い、全員が共通の認識でいることで、トラブルを防止できます。​

さらに、家族会議では、家族信託や生前贈与などの具体的な対策についても話し合うことが重要です。​

これらの方策を検討すれば、親が認知症などで判断能力が低下した場合でも、財産の適切な管理や生活費の確保が可能です。

行政書士や税理士に相談する

​生前贈与を円滑に進め、将来のトラブルを防ぐためには、行政書士や税理士といった専門家に相談するのがおすすめです。​

税理士は税務の専門家として、贈与税や相続税の適切な対策を提案し、税務申告のサポートを行います。​

一方、行政書士は贈与契約書の作成や手続きのアドバイスを通じて、法的なトラブルを未然に防ぐ役割を果たします。​これらの専門家と連携すれば、生前贈与に伴うリスクを最小限に抑え、スムーズな資産承継を実現できます。

生前贈与でトラブルがあったときの解決方法

ここでは生前贈与でトラブルがあったときの解決方法を4つ見ていきましょう。

  • 【税務署からの指摘】過去の贈与記録を出し税務署に説明する
  • 【相続税がかかる場合】相続税の軽減策を検討する
  • 【相続人同士のトラブル】遺産分割協議をおこなう
  • 【不動産のトラブル】不動産を売却する

【税務署からの指摘】過去の贈与記録を出し税務署に説明する

生前贈与について税務署から指摘を受けた場合は、まず過去の贈与に関する記録を提出し、きちんと説明するのが大切です。

たとえば、通帳の振込記録や贈与契約書などを準備しておくことで、贈与が事実であることを証明できます。

こうした記録が残っていないと、税務署から「実際は贈与ではなかったのでは?」と疑われ、贈与税の追徴課税を受ける可能性もあります。

特に税務署は、金融機関の取引を過去10年ほどさかのぼって調べることもあるため、贈与に関する書類や履歴は日頃からきちんと保管しておくことが重要です。

【相続税がかかる場合】相続税の軽減策を検討する

生前贈与を行った場合でも、相続時に相続税が発生してしまうことがあります。

​その際、以下の特例や控除を活用すれば、相続税の軽減が可能です。

・小規模宅地等の特例
自宅や事業に使っていた土地を相続する場合、最大330㎡まで土地の評価額が最大80%減額されます。

・配偶者の税額軽減
配偶者が相続する財産は、1億6,000万円または法定相続分まで相続税がかかりません。

・未成年者控除
未成年の相続人には、20歳になるまでの年数×10万円が相続税から差し引かれます。

・障害者控除
障害者の相続人には、85歳までの年数×10万円(特別障害者は20万円)が相続税から控除されます。

・相次相続控除
10年以内に2回以上相続があった場合、前回の相続税の一部を今回の相続税から差し引くことができます。

このような特例や控除を適切に活用すれば、相続税の負担を軽減できます。​

ただし、各制度の適用条件や手続きは複雑な場合が多いため、専門家への相談を検討しましょう。

【相続人同士のトラブル】遺産分割協議をおこなう

生前贈与が原因で相続人同士の間にトラブルが生じた場合は、「遺産分割協議」で話し合い、解決を図ることが大切です。

遺産分割協議とは、相続人全員が集まり、財産の分け方について合意を目指す話し合いのことです。

まず相続人を確定し、遺産の内容を把握したうえで、それぞれの希望を出し合いながら分配方法を決めていきます。合意が成立したら、その内容を「遺産分割協議書」として文書にまとめ、全員が署名・押印します。

もし協議がまとまらない場合は、家庭裁判所での調停や審判に進むこともあります。

また、生前贈与が一部の相続人に偏っていた場合でも、この協議の中で考慮し、公平な分割になるよう調整できます。

冷静に話し合い、必要に応じて専門家に相談し、円満な解決を目指しましょう。

【不動産のトラブル】不動産を売却する

生前贈与で不動産を受け取ったあと、維持費や管理が負担になった場合は、その不動産を売却するといった選択肢があります。

まずは名義が自分になっているかを確認し、必要であれば登記手続きを行います。

その後、不動産会社に査定を依頼し、金額に納得できれば売却活動を開始。購入希望者が現れたら契約を結び、代金の受け取りと引き渡しを行います。

売却時には譲渡所得税がかかる可能性もあるため、税金の確認や必要書類の準備をしっかり行いましょう。

複雑な手続きが多いため、不安があれば専門家に相談するのがおすすめです。

まとめ

生前贈与でよく見られるトラブルには、贈与税の申告漏れや課税ミスといった税務上の問題のほか、特定の相続人に偏った贈与による不公平感から生じる相続人同士の争いがあります。

さらに、不動産や株式など評価が難しい資産を贈与したことで発生する課税トラブルや、生活保護の受給停止、海外税制との違いによる二重課税のリスクなども代表的な問題です。

これらのトラブルを起こさないためにも、贈与契約書の作成や家族との情報共有、税務の事前確認といった防止対策を講じておくことが大切です。

それでも不安が残る場合は、トラブルを未然に防ぐためにも専門家の力を借りることを検討しましょう。

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