外国人が保険料を滞納するとどうなる?リスクと在留資格を守るための対策

日本に中長期で滞在する外国人の方は、一定の要件を満たすと健康保険や国民年金への加入義務があります。「国民皆保険・皆年金」という日本のしくみになじみがなく、保険料がもったいないと感じる方もいるでしょう。
しかし、保険料を滞納すると在留資格の更新の際に不利になる可能性があります。本記事では、保険料を滞納するリスクと、すでに滞納している場合の対策を解説します。日本での安定した暮らしのために早期に滞納を解消し、在留資格更新に備えましょう。
外国人が保険料滞納するとどうなる?4つのリスクを解説
保険料を滞納した場合のペナルティは、外国人でも日本人でも基本的には同じです。行政サービスが受けられなくなったり、財産を差し押さえられたりするリスクがあります。外国人にとって重要なのは、保険料の納付状況が在留資格更新や永住申請で確認される点です。特に「出入国管理及び難民認定法(入管法)」に基づき、公的義務の履行状況が厳しく審査されます。ここでは、保険料を滞納するとどうなるのか、4つの視点から解説します。
医療費が一時的に全額自己負担になる
会社の社会保険ではなく、市区町村で国民健康保険に加入している場合、自分自身で保険料を納める必要があります。滞納が続くと、市区町村から「短期被保険者証」(有効期限の短い保険証)や、さらに重い措置として「被保険者資格証明書」が交付されます。
資格証明書の場合、医療機関の窓口で医療費を全額(10割)自己負担しなければなりません。後日、申請により保険適用分(7割)は払い戻されますが、一時的な経済的負担は非常に大きくなります。
保険料の負担も決して小さくはありませんが、万が一入院や手術となった場合の経済的な打撃は計り知れません。一度に数十万円、数百万円の支払いが求められる可能性もあります。
医療給付や年金が受けられなくなる
保険料を滞納したまま放置すると、高額療養費や出産育児一時金、葬祭費などの給付金が支給停止になる場合があります。大きな出費が必要な場面で公的な支援を受けられない状態になり、かえって経済的な不安が増します。
国民年金を滞納している場合、老後に年金がもらえない可能性があります。万が一の障害や事故の場合の障害年金も受給できないおそれがあります。
若い世代の方は実感が薄いかもしれませんが、日本で長く暮らす方にとっては年金制度は将来の生活保障の根幹です。滞納を解消し、生活の安定を守ることが重要です。
財産を差し押さえられる
保険料を滞納すると「督促状」や「催告書」が届きます。無視し続けると、最終的に預金口座・給与・不動産などの財産が差し押さえられます。差し押さえとは、国や市区町村が財産を強制的に取り上げ、滞納している保険料や税金などの支払いに充てる手続きです。
給与を差し押さえられる場合、勤務先に対して「給与を差し押さえます」という通知が送られ、会社にあなたが保険料を滞納していることが知られてしまいます。勤務先との信頼関係の悪化につながり、就労の継続や在留資格の維持に悪影響を及ぼしかねません。
督促は無視せず、誠実に納付する姿勢を見せることが状況改善への第一歩です。
在留資格更新・永住申請で不利になる
法律上、外国人は「公的義務を誠実に履行していること」が在留資格更新や永住申請で審査されます。つまり、保険料を期限内に納めているかどうかも重要ポイントのひとつなのです。
特に2027年以降は、デジタル庁・出入国在留管理庁の方針に基づき、税金や保険料の納付状況が出入国在留管理庁と自動的に共有される予定です。滞納を隠し通すことはできません。
永住申請の場合、過去5年間の納付状況を審査され、1回でも未納があると許可が難しくなるケースもあります。保険料の滞納は、将来の日本での暮らしを危うくすることを理解しておきましょう。
督促状が届いたら今すぐやるべきこと
督促状や催告書が届いたら放置するのはやめましょう。すぐに納めるのが難しい場合でも、まずは行政窓口に連絡して誠意ある対応をすることが重要です。
資金があれば一刻も早く納付する
資金がある場合は、できるだけ早く全額納めましょう。滞納期間が長いほど延滞金が発生し、経済的な負担は大きくなります。納付後は領収書や納付証明書を必ず保管しておきましょう。滞納してしまった場合は、支払い実績を残すことが信頼回復につながります。
納付が難しい場合は窓口で納付相談する
経済的な理由で一度に納めるのが難しい場合は、必ず市区町村の担当課や年金事務所へ相談に行きましょう。相談により分納(分割払い)が認められる場合があります。
期限どおりには納められていないながらも、「滞納を放置していない」「誠実に対応している」と評価され、差押えや強制徴収を一時的に回避できる可能性も高まります。あなたの行動次第で「悪質な滞納者」となるか「やむを得ない事情がある人」となるかが変わるのです。
減免や猶予制度を利用する
保険料を支払うのが難しい場合には、減免や猶予制度の活用も検討しましょう。
たとえば、国民健康保険には所得が一定以下の世帯は保険料が軽減・減免される制度があります。国民年金にも同様に所得に応じた免除制度や、学生の保険料納付が免除される特例が設けられています。納付相談に行った際に、使える制度があるか確認するとよいでしょう。
保険料を滞納してしまった方の在留資格更新への備え
在留資格更新のためには保険料や税金を全て納めていることが前提です。滞納してしまった場合は、単に完納しただけでなく、その後も継続的に義務を果たしているかも審査で重視されます。ここでは、在留資格更新への備えについて解説します。
滞納を解消して完納証明書を取得する
滞納を解消したら、役所で「納付証明書」または「完納証明書」を取得しましょう。過去に滞納歴があった場合でも、現在は全額納付していることを証明する書類です。
納付から証明書に納付状況が反映されるまでに数日から数週間のタイムラグがある場合もあるため、申請までに余裕を持って納付し、証明書を取得しましょう。
更新までに継続的な期限内納付の実績を積む
完納直後にビザ申請をおこなうよりも、完納後も半年から1年ほど継続的に期限内納付を続けた後の申請が理想です。
滞納歴がある場合、過去の滞納をどのように改善したかが重要なポイントとなります。継続的な納付実績を積むことで、誠実に義務をりこうしており、経済的にも安定していると評価されやすくなるでしょう。
滞納の理由を説明する書類を作成する
過去の滞納について、やむを得ない事情があった場合は「理由書」の提出が効果的です。たとえば、突然の失業や病気、制度への理解不足などの理由を具体的に説明し、再発防止策を記載します。
理由書は単なる反省文ではなく、審査官に誠意と改善意欲を伝える重要な書類です。自分で作成するのが難しい場合は、行政書士などの在留資格申請のプロのサポートを受けるとよいでしょう。
外国人にありがちな誤解
外国人が保険料を滞納してしまう背景には、制度の理解不足があります。経済的に困窮している世帯でなくても、滞納が続いてしまうと一度に滞納を解消するのは困難な場合が多いです。制度を正しく理解し、期限内に納付しましょう。
【誤解1】すぐ帰国するから保険料を払わなくてよい
日本に住民票をおいて「日本に住んでいる人」になると、帰国する予定があっても国民健康保険・年金への加入義務が生じます。
未納のまま帰国すると滞納記録が残り、将来の再入国や在留資格申請に不利になる可能性があります。一時的だから大丈夫と考えて滞納を作らないように注意が必要です。帰国後に納付するべき保険料などがある場合も、勤務先に資金や納付書を預けるなどして滞納を避けましょう。
【誤解2】会社で社会保険に加入する場合は自分で手続きしなくてよい
会社の社会保険に加入する場合、以前に加入していた国民健康保険や国民年金の資格喪失(脱退)手続きをあなた自身が市区町村役場でおこなう必要があります。
手続きを怠ると、役所はあなたがまだ国保に加入していると誤解し、二重に保険料が請求されるというトラブルにつながります。会社の社会保険への切り替え手続きが終わったら、会社から証明書類をもらって、速やかに脱退手続きをおこないましょう。
【誤解3】学生も必ず保険料を納めなければならない
学生にも原則として国民年金の納付義務がありますが、「学生納付特例制度」を申請すれば、在学中の保険料を一時的に免除できます。ただし、特例制度は自動的に適用されるものではなく、申請が必要です。
学生でも、特例の申請をせずに保険料を納めないままでいると滞納になります。遡って特例を適用することも可能なので、早めに年金事務所または市区町村役場の国民年金窓口に相談に行きましょう。
まとめ
日本は「皆保険・皆年金」制度といって、全員が公的な保険制度や年金制度に加入することが義務付けられていいます。制度をよく知らずに保険料を滞納してしまうと、将来の在留資格更新に悪影響を及ぼしかねません。
すでに滞納して督促状が届いている場合は、すぐに役所の窓口に納付相談に行き、できるだけ早く全額納付しましょう。在留資格更新の際に滞納歴が心配な方は、行政書士などの専門家に相談して理由書などの書類を作成するのが効果的です。
当事務所(行政書士佐藤秀樹事務所)では、在留資格許可申請のご相談を受け付けています。次回の在留資格更新に不安がある方は、ぜひお早めにご相談ください。
