みなし譲渡は原則適用外!個人間の取引で発生する「みなし贈与」のしくみ

みなし譲渡は原則適用外!個人間の取引で発生する「みなし贈与」のしくみ

みなし譲渡は、主に個人が法人へ資産を無償または市場価格より著しく低い価額で譲渡した際に、時価で譲渡したものとみなして所得税などの金額を計算する規定です。

個人間の取引には「みなし譲渡」は適用されず、代わりに「みなし贈与」という規定があります。知らずに安く資産を譲り受けると、思わぬ税負担を被るリスクがあり注意が必要です。

本記事では、みなし譲渡とみなし贈与の違いや、みなし贈与が適用されるケースと注意点を解説します。個人間の資産譲渡を適切におこなうためのポイントを把握しましょう。

目次

みなし譲渡は個人間の取引には適用されない

「みなし譲渡」と「みなし贈与」は、どちらも市場価格と取引価格が大幅に異なるケースで税の公平性を保つための規定です。「みなし譲渡」は法人に対する譲渡が主な対象であり、原則として個人から個人への譲渡には適用されません。代わりに「みなし贈与」の規定により、資産を低額で譲り受けた個人に贈与税が課税されます。まずは二つの制度の違いを理解しましょう。

みなし譲渡とは?主に法人への譲渡に適用

「みなし譲渡」は、主に法人への譲渡で適用される制度です。無償または時価より極端に低い価格で資産を譲渡した際に、時価で売却したとみなして所得税などを計算します。所得税を納めるのは譲渡した方です。

譲渡する資産の価値が買ったときよりも上がっている場合、時価で売却すると価値が上がった分が利益になるはずです。利益は譲渡所得となり、所得税が課税されます。しかし、無償または低額で財産を譲渡すると、利益が出ていないことになり、その分の税金を納めないで済んでしまいます。子の不公平をなくすのがみなし譲渡の目的です。

みなし贈与とは?個人間取引に適用

「みなし贈与」とは、文字どおり贈与があったものとみなして、贈与税が課税されるしくみです。個人から個人へ、無償または市場価格より著しく低い価額で資産が移転した場合に適用されます。

たとえば、時価5,000万円の不動産を親子間で1,000万円で譲渡した場合、差額の4,000万円が「みなし贈与」として扱われます。簡単にいうと、1,000万円分は自分でお金を出して購入した、4,000万円分はタダでもらったという扱いです。親子間だからと安く譲渡したつもりが、譲り受けた方は4,000万円の贈与を受けたものとして多額の贈与税が課されるリスクがあります。

みなし贈与は贈与税の課税逃れ防止が主な目的です。個人間の取引では、譲渡した方に譲渡所得税がかかるかどうかとは関係なく、譲り受けた方に贈与税が課税されます。親族間での資産の譲渡や名義変更をする際に特に注意を要するポイントです。

みなし贈与で発生する税金

個人から個人に資産を譲渡した場合、譲渡した方と譲り受けた方の双方に異なる種類の税金が発生する可能性があります。取引全体の税負担を事前に正確に試算することが大切です。ここでは、みなし贈与により発生する税金について解説します。

譲渡した方に課される所得税・住民税

資産を譲渡した方は、譲り受けた方から金銭などの対価を受け取ります。資産を手に入れた際の購入代金や譲渡の手続き費用の合計よりも受け取る対価が高額な場合、差額が譲渡所得となります。

譲渡所得 = 実際に受け取った譲渡価額 − (取得費 + 譲渡費用)

個人間の取引ではみなし譲渡は適用されないため、時価ではなく実際に受け取った譲渡価額との差額が課税対象の所得です。譲渡所得は所得税・住民税の対象となります。

たとえば、2,000万円で購入した不動産を1,000万円で譲渡した場合、譲渡価額1,000万円は取得費2,000万円を下回っているため、譲渡所得は発生せず課税されません。一方、取得費が500万円の不動産を1,000万円で譲渡した場合は、500万円の譲渡所得が発生し課税されます。

譲渡所得は年間の所得として給与所得や年金所得などと合算されるため、間接的に保険料などの行政サービスに影響が出る可能性があります。

譲渡所得の計算では時価は考慮されないため、安く売ったから税金はかからないだろうと考えるのは早計です。資産を取得した際の費用まで遡り、正確な税額のシミュレーションをすることをおすすめします。

譲り受けた方に課される贈与税

資産を譲り受けた方には「みなし贈与」が適用されます。資産の時価と実際に支払った譲渡価額との差額に対して贈与税が課されます。

みなし贈与額 = 資産の時価 − 実際に支払った譲渡価額

みなし贈与額と、その年に他の方から受け取った贈与額の合計から、基礎控除額110万円を差し引いた金額が、贈与税の課税対象となります。

課税対象額 = (みなし贈与額 + その他に受けた贈与額)- 110万円

贈与税の税率は最大55%です。低額で譲り受けた場合も、時価と譲渡価額の差額が大きいと、譲り受けた方の贈与税負担が非常に重くなるリスクがあります。贈与税は時価を基準として計算されるため、客観的な資産の評価が重要です。

「著しく低い価額」とは?実務上の判断基準

みなし贈与が適用される、時価よりも「著しく低い価額」とは、実務上は時価の70%未満の価額とされています。ただし、明確に法律で定められた基準ではなく、過去の判例や税務当局の慣行から導き出された目安です。

個別の事案によっては、時価の70%以上での譲渡であってもみなし贈与と判断される可能性がないとは言えません。特に、親族間の取引の場合は、取引の目的や経緯、経済的な合理性などが総合的に判断されます。

不動産であれば、固定資産税評価額、路線価、公示価格、近隣の取引事例などを総合的に考慮した客観的な時価を明確にし、合理的な取引価格を決めることが大切です。具体的な財産の評価方法や税金のシミュレーションは、税理士への相談をおすすめします。

【ケース別】個人から個人への譲渡シミュレーション

親族間の不動産や自社株の移転では、税負担の総額が想定外に大きくなるリスクがあります。ここでは具体的な事例を通して、譲渡する方と譲り受ける方にどのような税金が発生するのかを確認しましょう。

ケース1:親から子への不動産の譲渡

親が所有する土地を子に低額で譲渡するケースです。前提条件は以下のとおりとします。

  • 取得費(親が購入したときの価格):500万円
  • 時価(客観的な市場価値):4,000万円
  • 譲渡価額(親から子へ譲渡する価格):1,000万円

譲渡した親の譲渡所得 = 譲渡価額1,000万円 – 取得費500万円 = 500万円
譲渡所得に対する税額 = 500万円 × 20.315% ≒ 101万円

親には500万円に対して譲渡所得税が課税されます。5年以上の長期間所有していた不動産の場合、税率は20.315%(所得税15.315%、住民税5%)となるため、約100万円の税負担が発生します。

みなし贈与額 = 時価4,000万円 – 譲渡価額1,000万円 = 3,000万円
贈与税額 = (3,000万円 – 110万円) × 特例税率45% – 控除額260万円 =1,040万5,000円

譲渡を受けた子は、3,000万円がみなし贈与として贈与税の課税対象となります。基礎控除110万円を差し引いた2,890万円に対して、特例税率(直系尊属からの贈与)45%が適用され、税額は1,000万円を超える高額となる見込みです。

税負担を抑えようと低額で譲渡したつもりが、結局税負担が重くなってしまっては元も子もありません。将来の相続も見据え、節税しながら資産を移転したい場合は税理士に相談すると安心です。

ケース2:経営者から後継者への自社株の低額譲渡

事業経営を引き継ぐため、経営者である親から後継者となる子へ自社の非上場株式を譲渡するケースです。前提条件は以下のとおりとします。

  • 取得費(親の購入価格):100万円
  • 時価(専門家による適正評価額):5,000万円
  • 譲渡価額(経営者から後継者へ譲渡する価格):500万円

譲渡した親の譲渡所得 = 譲渡価額500万円 – 取得費100万円 = 400万円
譲渡所得に対する税額 = 400万円 × 20.315% ≒ 81万円

親は譲渡価額と取得費の差額400万円に対して、株式譲渡所得として20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の税率で所得税が課税されます。税額は約80万円です。

みなし贈与額 = 時価5,000万円 – 譲渡価額500万円 = 4,500万円
贈与税額 = (4,500万円 – 110万円) × 特例税率50% – 控除額410万円 = 1,785万円

譲渡を受けた子は、4,500万円がみなし贈与として贈与税の課税対象となります。基礎控除110万円を差し引いた4,390万円に対して、特例税率45%が適用され、税額は大変な高額になる見込みです。

受け取る財産の他に、納税資金として現金も確保しておくことを考えると、受け取る方の負担は非常に大きいと言えます。

非上場株式の評価は専門的な知識が必要であり、評価額が税務調査で否認されると追徴課税のリスクもあります。事業承継税制などの税務上の特例制度を活用することで、税負担を大幅に軽減できる場合があるため、税理士と連携して慎重に進めるべき案件です。

知らずに大損しないための個人間譲渡の3つの注意点

個人間で資産を譲渡する際、目先の税金を避けることに注目すると、将来的な税務上のトラブルや思わぬ高額な税負担を招くリスクがあります。ここでは、円滑かつ適法に資産移転をおこなうために押さえておくべき3つの注意点を解説します。

家族間でも贈与契約書は必ず作成する

親族間での資産の譲渡や贈与は、口頭での合意のみでおこなわれるケースが少なくありません。しかし、譲渡の事実や譲渡価格などを客観的に証明する資料がない場合、税務署から単なる名義貸しや意図的な贈与隠しとみなされるリスクがあります。

親子など親族間の取引であっても、正式な贈与契約書や売買契約書を必ず作成し、当事者双方が署名捺印して保管しましょう。Web上のひな形を使って自分で作成するよりも、行政書士に相談してオーダーメイドの契約書を作成してもらうと安心です。

取得費を引き継ぐリスクを理解する

子が親から資産の贈与を受けた場合、親がその資産を取得した際にかかった費用(購入代金や仲介手数料など)を、そのまま子が引き継ぎます。子が将来財産を売却する際に、自分は無償で財産を受け取っていても、親が取得した際の費用を取得費として計上できるのです。

しかし、贈与された資産について、親が過去に取得した際の費用を証明できる資料(売買契約書など)が一切残っていない場合は、取得費はゼロとみなされます。「概算取得費」の特例を活用しても、取得費とできるのは売却額の5%だけです。

また、低額で資産を譲り受けた場合も注意が必要です。たとえば、時価5,000万円の土地を1,000万円で親から譲り受けた場合、将来取得費とできるのは1,000万円だけです。第三者に5,000万円で売却した場合、取得費の1,000万円を除いた残りの4,000万円が譲渡所得となります。

低額譲渡によって仮に目先の贈与税を避けられたとしても、将来の譲渡所得税が高額になるという「税金の繰り延べ」リスクが生じます。税理士に相談してトータルで節税対策を講じることが重要です。

資産評価額の根拠を明確に残す

個人間での低額譲渡や贈与で問題となりやすいのが、時価の判断です。時価の評価が不適切であると税務署に判断された場合、意図した額よりも高い時価が認定され、みなし贈与額が増加し、追徴課税の対象となるおそれがあります。

リスクを避けるために、譲渡時点の客観的な資産評価額の根拠を明確にしておきましょう。不動産であれば、不動産鑑定士による鑑定評価書、複数の不動産業者の査定書、固定資産税評価証明書、路線価図などが有効です。

非上場株式であれば、公認会計士や税理士による株価算定報告書などが必要です。適切な専門家を活用し、透明性と合理性の高い取引をおこないましょう。

まとめ

「みなし譲渡」は、原則として個人から個人への取引には適用されません。その代わり、「みなし贈与」として譲り受けた側に贈与税が課税される可能性があります。また、贈与税のほかにも、譲渡する方に譲渡所得が発生するのも見逃せないポイントです。

目先の税金を避けるだけでなく、トータルの税負担を抑え、税務トラブルのリスクを避けるためには、専門家である税理士への相談をおすすめします。また、個人間の取引であっても行政書士などに相談して必ず契約書を作成しましょう。

当事務所(行政書士佐藤秀樹事務所)では、贈与契約書や売買契約書の作成はもちろん、将来の相続への備えについてもご相談を受け付けています。税理士や司法書士の専門領域についても、他士業と連携して対応可能です。ぜひお気軽にご相談ください。

編集者

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