認知症による銀行口座凍結を回避!家族信託でお金の不安を解消する方法

親が認知症になったら銀行口座が使えなくなると聞いたことはありませんか?実際に、親の銀行口座が凍結されて医療費や介護費が支払えず、家族が途方に暮れてしまうケースは少なくありません。
しかし、適切な準備をしておけばリスクは未然に防げます。その有効な手段のひとつが家族信託です。
本記事では、認知症による口座凍結が引き起こす具体的な影響や、家族信託でできることを徹底的に解説します。大切なご家族の財産管理や、将来の相続への備えとして、ぜひ最後までお読みください。
認知症になると銀行口座は凍結される?知っておくべきリスクと影響
認知症による判断能力の低下は、銀行口座の取引に大きな影響を及ぼす可能性があります。口座が凍結されると、本人の医療費や介護費の支払いが滞り、家族が経済的に困窮するケースも実際に発生しています。大切な家族の生活を守るためにも、リスクを正しく理解し、適切な対策を講じましょう。
認知症で銀行口座が凍結されるしくみとタイミング
親が認知症と診断されたからといって、すぐに銀行口座が使えなくなるわけではありません。ただし、何らかのきっかけで金融機関が「本人の判断能力に問題がある」と判断すると、預金引き出し、振込、定期解約などの取引が制限される場合があります。口座が凍結され、自由にお金を動かせなくなってしまうのです。
金融機関によっては、成年後見人が選任されない限り口座が使えるようにならないケースもあり、長期的に資金が動かせない事態に陥るリスクがあります。特に、認知症の進行が早い場合は、何の準備もないまま突然口座が使えなくなる可能性が高まります。
口座凍結で困るのはどのようなこと?よくあるトラブル事例
認知症の方の銀行口座が凍結されると、財産はあるのに使えない状況になります。家族の金銭的負担が増えるケースや、相続トラブルにつながるケースもあるため注意が必要です。ここでは、実際によくある5つのトラブル事例を紹介します。
親の医療費や介護費用が引き出せない
親の医療費や介護サービスの利用料金を、親本人名義の口座から支払う家庭も多くあります。しかし、口座が凍結されてしまうと、いくら残高があってもお金を引き出せません。
結果として、家族が立て替えるしか方法がなくなり、この状況が長期にわたると家計へのダメージは甚大です。
公共料金やクレジットカードの引き落としができない
親が住んでいる家の光熱費や携帯代、保険料などが自動引き落としになっているケースでは、口座の凍結により支払いも止まってしまいます。未払いが続くと、電気・水道の供給停止やカード利用の停止、遅延損害金の発生などの不測の事態になりかねません。
本人が認知症の場合は支払いの遅れに気づくのが難しく、家族が把握した時にはすでに信用情報に傷がついている可能性もあります。また、インフラの停止は生活の安全にも関わるため要注意です。
親の年金や配当金が「絵に描いた餅」に
認知症により口座が凍結されても、公的年金や株式の配当金などの入金は基本的に停止しません。定期収入があってもお金が使えないため、口座にある財産はまるで絵に描いた餅です。
親の生活費を親自身の収入で賄っている場合や、親の収入を頼りに生活している家族がいる場合は、影響はより一層深刻になります。
不動産の売却や賃貸契約ができない
親が所有する空き家や土地を売却・賃貸したいと思っても、認知症によって判断能力がないと認定されると契約ができません。
財産を活用できない場合、必要な資金を調達できなかったり、資産価値を維持できなかったりと、家族にとって大きなロスになります。売却益で介護施設に入居する予定だった方が、資金を調達できずに計画を変更した例もあります。
相続時にトラブルの原因になる可能性
認知症で生前から口座凍結状態にあった方が亡くなった場合、口座内の預貯金を実際に引き出したり名義変更したりできるのは、原則として遺産分割協議が終わったあとです。
葬儀費用や当面の生活費、医療費などの支払いが必要な場合でも、お金を引き出すことができません。
当面の費用負担を巡って相続人同士のトラブルになることがあります。また、生前からの口座凍結を知った親族が「誰かが預金を勝手に使ったのではないか」と疑念をもち、親族間の関係が悪化するリスクもあります。
家族信託の5つのメリット
認知症による銀行口座の凍結を未然に防ぐ方法として、近年注目されているのが家族信託です。家族信託とは、自分の財産の管理や運用を、信頼できる家族などに託す法的なしくみです。
高齢な親が、子どもなどに財産を託すケースが典型例です。公的な成年後見制度と比べて自由度が高いのが特徴で、銀行口座の凍結を防ぐ以外にもさまざまなメリットがあります。
1.認知症による銀行口座凍結を回避できる
家族信託は、財産を託す人(委託者)、託される人(受託者)、財産から生まれる利益を受けとる人(受益者)が登場する契約です。受託者が委託者の預金や不動産などの財産を預かり、管理する権限をもちます。
親本人の判断能力が低下しても、信託契約に基づいて受託者(子など)が預金を引き出せるため、生活費や医療費などの支払いが滞る心配がありません。公的な成年後見制度と違い、家庭裁判所の監督や煩雑な報告義務がないため、日常の生活支援に即した制度と言えます。
2.家族の状況に合わせた柔軟な財産管理ができる
家族信託は、契約時に「どの財産を、誰が、どのように管理し、どう使っていくか」を自由に設計できる柔軟性が魅力です。
たとえば、父親の財産のうち預金は長男が、不動産は次男が管理するなど、複数名が受託者となって財産管理を分担できます。
遺言では難しい、長期的な家族の生活支援や事業承継にも対応できる、オーダーメイドの財産管理手段として活用されています。
3.将来の相続争いを未然に防ぎ、円満な資産承継ができる
家族信託は契約書に財産の承継先を明確に記載できるため、将来の相続トラブルを未然に防ぐ効果があります。「誰に、何を、どのように引き継がせたいか」を信託契約に盛り込むことで、遺言書と同様に相続時の指針となります。
たとえば、「親が亡くなった後は不動産を長男に、預金の一部は次男に承継させる」と具体的に定めておけば、「話が違う」「そんなはずではなかった」といった相続発生時の言い争いを防げます。
また、家族信託は当事者間の契約に基づいて履行されるため、遺言とは異なり、他の相続人からの異議申し立てが難しい点も大きな特徴です。争いの火種を抑え、家族間の不要な対立を回避するための有効と言えます。
4.高齢の親だけでなく、障がいのある子の生活も守れる
家族信託は、高齢の親の備えとしてだけでなく、子の生活を長期的に支える手段としても活用されています。
親が元気なうちに、障がいのある子の生活費や医療費、介護費用など、将来必要となる資金を信託財産として託します。
親が認知症になったり亡くなったりしても、受託者が契約に基づいて財産を管理・運用し、子の生活支援をおこなうため、安心です。
さらに、障害のある家族が亡くなった後に財産を誰に渡すかまで指定できるのも特徴です。成年後見制度では難しい部分をカバーし、親の意向を踏まえた資産承継や、積極的な資産運用も可能になります。

5.不動産の管理や売却がスムーズにおこなえる
不動産の売却や賃貸を検討していても、所有者が認知症で判断能力を失うと、契約できなくなってしまいます。
しかし、家族信託を活用しておけば、信託された不動産は受託者の判断で管理・処分できるため、財産活用のチャンスを逃しません。
たとえば、空き家となった実家を賃貸に出して家賃収入を得る、施設入居費の捻出のために売却するといった判断を受託者が単独でできるのです。
資産を動かすタイミングを逃さないことが、結果的に大きな損失回避につながります。財産を「守る」だけでなく、「活かす」ことができるのも家族信託の大きな利点です。
家族信託手続きの5つのステップ
家族信託は柔軟で便利な制度ですが、オーダーメイドでしっかり設計しないと後々トラブルの元になることもあります。 ここでは、家族信託を実際にスタートさせるまでの基本的な5つのステップを、順を追って説明します。
1. 信託の目的を明確にする
家族信託は完全オーダーメイドの契約です。適切な設計のために、まずは目的を明確にしましょう。
「認知症になった場合の生活費や医療費の支払いに備えたい」「親亡き後の遺産承継を円滑におこないたい」など本人や家族の希望をしっかり洗い出すことが重要です。
2. 信託財産・関係者(登場人物)を決める
目的が決まったら、次に「どの財産を、誰が管理し、誰のために使うのか」を具体的に決めていきます。信託で登場する主な役割は以下の3つです。
- 委託者:財産を預ける人
- 受託者:財産を預かって管理する人
- 受益者:財産の利益を受ける人
親子間で信託契約を結ぶ場合は、親の財産を子に託し、親が健在なうちは親を受益者とするケースが一般的です。もし親が亡くなったら誰に財産を渡すかも決めておけます。
受託者は信頼できる人物であることが重要です。将来相続人となる予定の方が複数いる場合は、特定の方だけが財産を受け取るのではないかと不信感を生まないよう、全員で話し合いの場をもつとよいでしょう。
3. 信託契約の締結と公正証書化
信託契約の内容が固まったら、いよいよ契約書の作成です。信託契約書には、信託の目的や財産の内容、登場人物の権利・義務、財産の使い道などを明記します。
後で受託者の行動が疑われたり、他の家族とトラブルになったりしないよう、行政書士や司法書士などの専門家が関与し、公証人役場で「公正証書」として契約書を作成するケースが一般的です。
特に高齢の親が契約者となる場合、後々「判断能力に問題があった」と言われないよう、公証を通じて適正な手続きだったことを証明することが安心につながります。
4. 財産の名義変更・信託口口座の開設
契約を締結したあとは、信託財産として財産を受託者に移転する手続きが必要です。不動産であれば登記簿上の名義を受託者に変更し、預金であれば「信託口口座」を開設して資金を移すことで信託が効力をもちます。
信託口口座は、受託者個人の財産と明確に区別して管理するための信託専用の口座です。口座名義が「〇〇信託 受託者 △△(受託者の氏名)」となるため、信託された財産であることが一目瞭然です。
信託口口座は取り扱っている金融機関が限られており、開設には信託契約書の提出など、厳格な審査が必要となる場合が多いです。
5. 信託の開始・定期的な見直し
全ての準備が整えば、信託が正式に開始します。受託者は契約に基づいて財産を管理・運用し、受益者(多くの場合は親)の生活費や医療費の支払いなどに活用します。
受託者の事情が変わったり、親の状態が悪化したりした場合には、契約内容の修正や、後継受託者の選任が必要になることもあります。専門家に相談の上、定期的な見直しをおすすめします。
家族信託は一度契約すれば終わりではなく、動かしながら管理する財産制度であるという点を意識することが、トラブルを避けるポイントです。
家族信託と税金の関係
家族信託を活用する際は、税金の扱いも気になるポイントです。信託したからといって、すぐに高額な贈与税や相続税が課されるわけではありません。ただし、正しく理解しなければ予期せぬ課税のリスクがあります。ここでは、家族信託と贈与税・相続税・所得税の関係を解説します。
家族信託と贈与税
家族信託で贈与税が課税されるかどうかのポイントは、「受益権が誰に移るか」です。
たとえば、親(委託者)が子(受託者)に財産の名義を移しても、受益者が親のままであれば、実質的な権利は親にあるとみなされ、贈与税は発生しません。これは「自益信託」と呼ばれる形です。
一方で、受益者を子にした場合は「他益信託」となり、財産の経済的価値が子に移転したとみなされ、贈与税の対象になることがあります。
信託財産から利益を得るのが誰かによって課税の有無が変わるため、信託契約の設計段階で税理士に確認するのがおすすめです。

家族信託と相続税
家族信託を設定したからといって、相続税の支払い義務がなくなるわけではありません。信託のしくみを通じて管理されていた財産も、被相続人が亡くなった時点では、基本的に相続税の課税対象となります。
特に、死亡時に信託財産の受益権を誰が持っているかが重要な判断基準になります。
また、遺言代用信託といって、遺言書のように財産の承継先を指定できる家族信託では、あらかじめ定めた次の受益者に財産が承継されます。スムーズに資産を移行させながらも、相続税の節税効果を高めるには、事前の計画と税務知識が必要です。
家族信託と所得税
信託財産が生み出す収益(賃貸収入や配当など)は、誰に帰属するかによって所得税の課税対象が決まります。
たとえば、信託した不動産から家賃収入が発生する場合、自益信託であれば、その所得は親(受益者)に帰属し、親の所得税として課税されます。受益者が子である場合は、その収益は子の所得として確定申告が必要です。
信託財産が株式や投資信託などの場合も、同様の考え方で所得の帰属先が決まります。複雑に感じられるかもしれませんが、信託契約の内容に沿って明確に税務処理されるため、適切に設計すれば大きなトラブルにはなりません。
【Q&A】家族信託でよくある疑問を解決!
家族信託は便利な制度ですが、しくみが複雑そう、制約がありそうといった不安の声も少なくありません。実際によくある質問に、専門家の視点からわかりやすくお答えします。
Q1.家族信託は途中でやめられますか?
信託契約は当事者の合意があれば途中で終了できます。
ただし、すでに信託財産が移転されている場合や、受益者が複数いる場合など、契約解除に一定の手続きや費用がかかるケースもあります。
途中解約の可否やリスクは、信託の内容によって異なるため、契約前に「どういう場合に終了できるのか」も設計しておくことが大切です。
信託した財産は受託者が自由に使えるようになるのですか?
いいえ。信託財産はあくまでも管理・運用のために預かるものであり、受託者が自分の利益のために自由に使えるわけではありません。
受託者には「忠実義務」や「善管注意義務」といった法的な責任が課せられており、受益者の利益を最優先に行動しなければならないとされています。
仮に受託者が信託財産を私的に使った場合、損害賠償や刑事責任を問われることもあります。信頼できる人を受託者に選ぶこと、そして必要に応じて第三者による監督(信託監督人)を設けることが、トラブル防止につながります。
家族信託を設定すれば、遺言書は不要になりますか?
場合によります。家族信託には「遺言代用信託」として、死後の財産承継先を定める機能もあります。
しかし、全ての財産を家族信託に含められるとは限らず、信託外の財産(たとえば生命保険の受取金や一部の預貯金など)に対しては、やはり遺言書が有効です。
また、家族信託では対応しきれない葬儀方法や特別な贈与については、別途遺言書で残すのが望ましいでしょう。家族信託と遺言書は、どちらか一方ではなく、併用して使い分けましょう。

家族信託以外に認知症対策はありますか?
はい。代表的なものとして「成年後見制度」や「任意後見制度」があります。
成年後見制度は家庭裁判所が後見人を選任する制度で、すでに認知症が進行してしまった方に適しています。
任意後見制度は元気なうちに後見人を決めておける制度で、比較的自由度が高いのが特徴です。
ただし、いずれも裁判所の関与があるため柔軟性に欠ける面があります。財産管理をより自由に設計したい場合には、家族信託のほうが適していることも多いのです。
家庭の状況に応じて、行政書士などの専門家に相談しながら適切な手段を選ぶことが大切です。
まとめ
認知症は誰にとっても他人事ではありません。親が判断能力を失って銀行口座が凍結されていしまうと、医療費や介護費用の支払いに困る可能性があります。
家族信託は、元気なうちに信頼できる人に財産管理を託し、将来のトラブルや相続の混乱を回避できるしくみです。成年後見制度や遺言書と上手に使い分けながら、家族にとって最善の方法を検討しましょう。
もし「私たち家族の場合はどうすればいい?」「具体的に何から始めたらいいの?」とお悩みでしたら、まずは家族信託や相続に詳しい専門家にご相談ください。初回相談を無料としている専門家も多くいます。早めの準備が、大切なご家族の安心につながります。
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